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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第5章:いのちの値段
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魔獣族の国

⋇ここから五章開始です。みんな大好き田舎村でのスローライフ回(大嘘)


「ここが魔獣族の国かぁ……」


 目の前に広がるのは美しい草原――じゃなくて、主に乾いた大地が広がる荒野。遠くの方には噴煙を上げる火山が見えると思えば、普通に緑溢れる野山とかも見える。春にしては空気も何か冷たいし、場所によっては環境が厳しそうな感じだね。身体能力が獣基準な獣人がいる国だからこそ、そんな環境でも住めるってことなのかな?

 そう、ここは魔獣族の国。国境の森で一晩を明かした僕らは、満を持してこの国に足を踏み入れたんだ。あ、砦を越えた方法は消失(バニッシュ)をかけたままジャンプして飛び越えるっていう、小細工もクソも無い方法ね。

 ちなみに僕は身体能力を強化しなきゃ砦の上まで跳べなかったのに、他の奴らは素のままで跳び上がってたんだよね。キラとミニスは当たり前みたいにもの凄い跳躍をしたし、リアは大きな翼を羽ばたかせてパタパタ飛んでったし。はっきり言って何かちょっと悔しかったよ……。

 まあそれはともかく、ケモノっ娘と悪魔っ娘がひしめく夢の国にやっと入ったんだ。今はこの感動をたっぷり味わおう。


「それで皆さん、故郷に戻ってきた感想は?」

「いや、特に何も」


 まず『無』の極地みたいな感想を返してくるのは、我らが連続殺人猫キラさん。

 固まった血液みたいな赤い髪のてっぺんに揺れるのは、もう隠す意味が無くなった可愛らしい猫耳。太もも剥き出しのショートパンツからは猫尻尾も出てるし、太腿を締めあげてる編み上げブーツもあるしで、これはもう本当にエロさも愛らしさも抜群ですよ。すっげぇ露出過多でエロい格好してる癖にコートを羽織ってるのが、何か余計に拍車をかけてるんだよね。でもそのコートの中に物騒な鉤爪仕込んでるからプラマイゼロってとこかな?


「何だか胸がムカムカしてきたぁ……」


 そして禍々しい『憎悪』を零したのは、皆大好きサキュバス――でありながら成長できなかった合法ロリサキュバス、リア。

 僕が憲兵とかのお世話にならないよう、奴隷の証である首輪とか手錠を外させたから、今のリアの見た目は正にお嬢様って感じだよ。黒が基調のゴスロリ服を幼女が着てるってだけでももうアレなのに、長い髪もまん丸なお目々も綺麗なピンク色だからね。まあその綺麗なお目々に関しては、今はちょっと地獄の底みたいな憎悪に淀んじゃってるけど……。

 そうそう、ちなみにコイツも袖に短剣を仕込んでるぞ。でもお嬢様なら自衛のための武器を隠し持っててもおかしくないよね? 本当は魔力が少なすぎて空間収納使う魔力すら勿体ないから、レーンが仕込ませたらしいんだけどさ。


「うん。聞いた僕が馬鹿だったね、これ……」


 僕以外の三人はこの国の出身だから帰郷の感想を求めたのに、返ってきたのは『無』と『憎悪』。キラは懐かしいとかそういう感情を抱くような奴じゃないし、リアに至っては故郷なんて悪い思い出しか存在しないっぽいからね。これは聞く相手を間違えましたわ。

 あ、そうだ。魔獣族の国に来たから二人の格好が微妙に変わったんだけど、実は僕の格好も変わってるよ。まあ頭から角を生やして、目の色を赤くしただけのマイナーチェンジだけどね。服装は盗賊みたいなままで、色を黒にしただけだし。『それ変えた意味ある?』って発言は認めない。


「ミニスはどう? って……おやぁ?」

「な、何よ!?」


 二人がダメだったから唯一まともな子の方を見ると、何と白髪赤目のウサギは目元に涙を溜めていらっしゃった。僕に見られてることに気付いてすぐにもふもふ白コートの袖で涙を拭ったけど、こっちを睨みつける目にはまたじんわりと涙が滲んできてる。泣きながら睨んでくるのって興奮するよなぁ。 


「まさか泣くほど喜ぶとは思ってなかったよ。可愛い所あるじゃないか?」

「は!? な、泣いてなんか――ギャッ!?」


 明らかに泣いてたのに泣いてないと言い張ったから、虚言罰則(ライズ・ペナルティ)の魔法が容赦なく電撃を食らわせた。

 一瞬で焼死体みたいな炭の塊になって倒れるミニスだけど、すぐに再生が始まって白い肌が復活していったよ。こう見ると化け物みたいだよなぁ。


「はい、嘘つきましたね。嘘を吐くと雷に打たれるってこと忘れちゃった? それで本当の所、何で泣いてるわけ?」

「げほっ……し、仕方ないじゃない。まさか、戻ってこれるなんて思わなかったから……」


 自動で蘇生も完了して、今度はちゃんと泣いてた事実を認めた。今目元に溜まってるのは苦痛による涙だろうけどさ。


「はーん。その口ぶりから察すると、徴兵で連れてかれた奴らは戻ってこられないわけか」

「そうよ。だからちょっと――じゃなくて、もの凄く嬉しくて……」


 そして故郷に戻ってきた喜びを噛みしめるように周囲を見回して、今度は感動の涙を目元に溜めてる。ころころ涙の種類が変わって忙しいね?


「良かったね。もしお前が襲ってたのが僕じゃなかったら、絶対にその場で殺されてたよ」

「その点だけは、その……感謝、しなくもないわ……おかげで、自分の国に帰ることはできたんだから……」


 本当に嬉しいらしくて、珍しく殊勝な態度を取るミニス。腕を爆発させられたり、身体を盾にされたり武器にされたりしたのに、こんな言葉を口にできるとか凄くない? 一般村娘のメンタルが強すぎる。

 でも僕の奴隷になってなかったらまず碌な未来が無かっただろうからね。一応ミニスもその辺は分かってるのかも。可愛い奴だなぁ、撫でてあげよう――あっ、汚い物を見るような目をして逃げやがったぞ。ちゃんと手は洗ってるのになぁ。


「――よし、それじゃあ早速一番近くの街とか村に繰り出そう! この辺の地理に明るい人ー!」

「街ならともかく、村は行ってねぇから分かんねぇ。ちいせぇ村とかだとあたしの正体がバレる確率が高いからな」

「リアはちょっと色々いっぱいいっぱいだったから、この辺の事は覚えてないかなー……」


 うん。またしても真の仲間二名はダメダメだった。しかもどっちも仕方ないことなのが余計にアレだね。キラは身バレしないように小さなコミュニティを避けて、リアは必須栄養素不足による体調不良を堪えて旅をしてたはずだからね。

 というか必須栄養素で思い出したけど、リアはやっぱりサキュバスを殺して得た快感でそれを補給したっぽい。この分ならしばらくは大丈夫そうかな……?


「っ……………………」

「あれ? ミニスはどうなの?」


 息を呑むような雰囲気に目を向けてみれば、ミニスは硬い表情で押し黙ってた。何やらウサミミも縮こまってるね。一体どうしたんだろう?


「……………………」

「……なるほど、そう来たか」


 僕の問いにも無言を貫くその姿に、理由が何となく理解できた。

 虚言罰則(ライズ・ペナルティ)の魔法は、本人が嘘をついたと認識したら致死量の電撃がその身を襲う魔法。これを避けるには真実を言うしかない。でも正確に言えば嘘をつかなければ反応はしない。つまり、黙っていれば反応しないわけだ。だからミニスは何も言わないんだろうね。

 そして何故わざわざ沈黙を選ぶのかというと、それはきっと絶対僕に教えたくないからで――


「どうやらこの近くにミニスの故郷があるみたいだね。それは都合が良いんじゃない?」


 たぶんそういうことに違いない。僕らみたいな狂人を村に入れたくないから、何も言わず黙ってるんだと思う。

 故郷の村には家族や友達がいるんだろうし、そいつらを守るためにお仕置き覚悟で沈黙を貫いてるんだろうね。なかなかどうして泣かせるじゃないか。


「んー? ミニスちゃん、知ってるならどうして教えてくれないの?」

「そりゃアレだよ。僕らみたいな奴らを村に入れたくないから黙ってるんだよ」

「心配すんな。お前の家族を殺したりはしねぇよ……たぶんな」

「そこは断言してやろうよ……」


 何も分かってないリアと、理解した上で不安を煽る発言をしたキラ。しかもコイツ、友達に関しては言及してないからきっと殺す気なんじゃないかなぁ? 小さなコミュニティだとバレるからとか何とか言ってなかったっけ?


「ミニス、僕らを村まで案内して欲しいな?」

「ぜ、絶対、嫌だ……!」

「強情だなぁ? どうしても嫌だって言うなら、僕が暇な時に作った拷問用の魔法でも受けてみる? 頭のてっぺんからつま先までを無数の針で貫かれた痛みを与え、なおかつ三秒ごとにそれが繰り返される鋼鉄処女(アイアン・メイデン)っていう魔法を試してみたいんだけどなぁ?」


 せっかく優しい笑顔を浮かべてお願いしたのに、返ってきたのは百パーセントの拒絶。だから今度は脅しを交えてお願いしてみた。

 幾ら気丈でも所詮は一般村娘。これならちょっとは態度を変えるかと思ったんだけど……。


「……やりたければ、やりなさいよ! 何をされたってあんたらみたいなイカれた奴ら、絶対村に連れて行かない!」

「へぇ……」


 明らかに恐怖に身体を震わせてるのに、瞳と声音には硬い決意が滲んでた。自分の身を犠牲にしてでも、僕らを村に入れたくないんだってさ。美しい自己犠牲だよねぇ?

 僕としてはこの反抗心は正直大好きなんだけど、お気に召さない奴もいたみたい。キラは舌打ちしたかと思えば、ミニスの胸倉を引っ掴んでメンチ切ってた。あ、メンチ切るっていうのは不良っぽく睨みつけることね。


「生意気な事言いやがって。テメェ、また目玉を抉り出して欲しいのか? あぁ?」

「や、やりたければ、やりなさいよ! この役立たず!」

「テメェ……上等だ。泣いて許しを乞うまでその目玉を抉り出してやる」

「っ……!」


 そして自分からメンチを切っておきながら、舌戦で負けてるキラさん。気にしてることを言われて静かにブチ切れてるよ。ちょっと沸点低すぎない?

 しかしこうなると分かっておきながら役立たずって罵ったんだろうし、ミニスのメンタルはなかなかだね。前もキラに散々目玉を抉り出されたことがあるはずなのに、まだ気丈に睨みつけてるよ。本当に一般村娘? どっかの大天使も見習って、どうぞ。


「はい、ストップ。抑えて抑えて」


 このままだとキラがマジで目玉を抉り出しかねないから、フードの部分を掴んで猫掴みで抑えた。本当はちょっと引っ張るだけだったのに、何かそのまま持ち上げる感じになっちゃったよ。印象とかで忘れがちだけど、こいつ身長百四十五しかないからなぁ。


「何だよ、クルス。クソ生意気な奴隷には罰を与えるもんだろうが?」

「僕としては生意気なのも好きだから別に怒ってないよ。ていうか罰って言っても明らかに私怨入ってるじゃん、お前」

「……コイツ、あたしのこと役立たずって言いやがった」


 猫掴みで宙ぶらりんになったまま、機嫌悪そうにミニスを睨むキラ。

 個人的には何でそんなに気にしてるのか分かんないんだよなぁ。自分の得意な殺しあいで不覚を取ったことが許せないのかな?


「大丈夫。僕はそう思ってなんかないし、国境の森では凄く頑張ってくれたじゃん。キラはしっかり役に立ってくれてるよ。よしよし」

「にゃ……」


 何となくそのまま胸に抱き寄せて優しく頭を撫でてあげると、まさしく甘えてる猫みたいに頬ずりしてきた。心なしかゴロゴロと喉を鳴らすような音も聞こえるね。お前そんなキャラだっけか?


「それに幾ら生意気で反抗的でも、ミニスは僕の奴隷だから命令すればどうしようもないしね。ミニス、お前の村はどの方向にあるのか教えろ。命令だ」

「あっ……! う、ぐううぅっ……!?」


 しっかり命令を下すと、ミニスは苦悶に顔を歪めながら指をだだっ広い荒野に向けた。その先には草原があって、わりと近くに大きめな野山があったから、たぶんその麓にでも村があるんじゃないかな?


「なるほど、あっちか。これ命令だから、歩いてどれくらいの距離かも教えて?」

「ふ、二日……く、らい……!」

「意外と近いね。よーし、それじゃあ皆、ミニスの故郷に出発だ!」

「おーっ!!」

「やめろぉっ! 行くなぁっ!」


 そんなわけで、僕らはミニスの故郷に向けて足を進めました。

 ちなみに元気に賛同の声を上げてくれたのはリアだけだったよ。最近キャラが壊れつつあるキラは僕の腕の中でゴロゴロ言うのに忙しいみたいだし、ミニスは涙目で必死に止めようとして忙しそうだからね。うーん、できればあと一人くらいノリの良い真の仲間が欲しいなぁ……。



 というわけで五章の舞台は、ウサミミ鋼メンタル奴隷ことミニスの故郷でのお話です。故郷に帰れることになってとっても嬉しがっています(帰すとは言ってない)

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