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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第4章:ジャーニーズエンド
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一時の別れ

⋇性的描写あり




 青い空! 白い雲! そして炎上する樹々と燃え広がる火の手! 弾ける火の粉! 

 いやぁ、爆発が予想外に強かったせいでもう完全に森林火災になってるよ。気分はキャンプファイヤーだね。燃えろ燃えろ、もっと燃えろ。


「はああぁぁぁぁっ!」

「う、うああぁぁぁぁっ!」


 そして燃え盛る森の上には、高速で飛び回りながら切り結ぶ大天使と魔将の姿。若干の疲弊があるせいかやっぱりルキフグスが押され気味だけど、そこは他の魔獣族たちが援護をして何とか成り立ってるっぽい。飛べない奴は地上から弓とか魔法で攻撃したり、飛べる奴は牽制やルキフグスの回復を頑張ったりして。

 とはいえルキフグスの援護にかまけてるせいで、消火活動に力を入れられてないのが問題だね。しかし大丈夫かなぁ、これ。もう見渡す限り火の海だよ? まあここを去る僕にはもう関係の無い話か。


「ただいまー。どうだった? 僕の戦い?」

「すっごいカッコよかったよー、ご主人様!」


 仲間たちの所に戻ると、目をキラッキラに輝かせたリアが一番にお出迎えしてくれた。僕のひりつくような戦いを目にして大興奮してるみたい。もう翼も尻尾もめっちゃ動かして落ち着きが欠片も無いよ。


「なかなかやるじゃねぇか。無限の魔力に胡坐かいた屑かと思ってたけど、惚れ直したぜ?」


 ニヤリと意味ありげに笑うのはキラ。惚れ直すどうこう以前に君、そもそも恋愛感情とか理解できるの?


「あのまま刻まれて死ねば良かったのに――うきゅっ!?」

「レーンはどう? 僕も結構頑張ってたでしょ?」


 ボソッと暗い願望を呟いたミニスのウサミミをわしっと掴みつつ、レーンにも感想を尋ねてみた。

 さすがにもうレーンとはお別れだから、餞別として良い光景を見せられたと思いたいね。リアほどとは言わないから、お目々をキラキラさせて僕に惚れ直しても良いんだよ?


「そうだね……私は君の事を少々誤解していたようだ。君は自分の事を異常者だと定義していたが、私は君のことを女性を苦しめ傷つけることに劣情を催す、性癖が酷くおかしいだけの一般的な男性だと思っていた。しかし先ほどの戦いを見て考えが変わったよ。腕を斬り飛ばされても平然としているどころか、率先して犠牲にまでする君は間違いなく異常だ」


 なんて変な期待してたら、とんでもなくドン引きした感じの表情で異常だって言われたよ。つーかお前にだけは言われたくないわ。上下に二分割されたってのに臓物撒き散らしながら死ぬまで戦った奴の方が異常だと思うよ?


「平気なわけじゃないんだよなぁ。僕だって腕落とされれば猛烈に痛いんだけど?」

「ならば、何故魔法で痛みを軽減するなり痛覚を遮断するなりしないんだい?」

「だって痛みって生きてる証拠だし、何も感じなかったらつまらないじゃん? クソ痛かったけど、おかげで僕も十分楽しめたよ」

「そうか。やはり君は異常だよ、クルス……」


 あれれ? おかしいなぁ、呆れ果てたような目でまた異常って言われたぞ。まさかドMって思われたのかな? 言っておくけど痛いのが好きってわけじゃないからね? 女の子を痛めつけるのは大好きだけどさ。


「……さて、それではそろそろお別れかな?」

「うー……カルナちゃあぁぁん……」


 燃え盛る森と空で斬り合う大天使と魔将を背景に、ついにお別れの時が始まる。リアなんか今にも泣きそうな顔して目の端に涙を溜めてたよ。

 ちなみにレーンが死ぬみたいな表現してるけど、普通に後で合流するからね? 僕のお気に入りで真の仲間を簡単に手放すわけないじゃん?


「リア、君は実に優秀な生徒だった。これからもその学習能力を活かし、様々なことを学んでいくんだよ。そうすれば君は、誰よりも賢いサキュバスになれる」

「うん……頑張るっ……!」


 レーンが頭を優しく撫でると、リアは泣きながらも満面の笑みを浮かべて答えた。

 ていうかレーンさんの顔! めっちゃ優しい顔してる! 僕にもそういう顔向けて欲しいなぁ! 


「……次会う時には、あたしの方が役に立つ女になっててやるからな。覚悟しとけよ」

「発言の意図が読めないんだが……まあ、殺人鬼の思考を読むなど精神衛生上良くなさそうだから、深く考えないようにしておくよ」


 キラは何やらケンカ腰で挑発気味な言葉を投げかけて、せっかく慈母の如き微笑みを浮かべてたレーンの表情を困惑に塗り替えた。

 たぶんショタ大天使との戦いの時全然役に立たなかったのを、まだ気にしてるんじゃないかな? 考えてみればこの国境の森でもかなり精力的に動いてくれた気がする。


「……………………」

「君は……まあ、その、何だ。生きていればきっと、良い事があるさ」

「下手な慰めなんかいらないわよ……」


 無言でいたミニスに対して、今度は哀れみや同情の類の表情を浮かべるレーン。

 おかしいなぁ、僕の奴隷なら少なくとも敵対種族の奴隷になるよりはマシな扱いのはずなのに。まるでこの世の地獄みたいに思われてない?

 僕が首を傾げる中、仲間たちへの別れの挨拶を済ませたレーンは、最後に僕の所に歩み寄ってきた。感情薄めの瞳でじっと見上げてくるのが、何か無性に可愛いですね。


「んっ……」


 思わずそっと抱きしめてみたら、意外にも特に驚いた様子もなく、むしろ可愛い声を出して身体を預けてきたよ。これは僕にも春が来たって事かな? 


「……君と離れられるというのは、胸を撫で下ろしたくなる反面どこか恐ろしい気分にもなるね。私がいないところで君が一体何をやらかすのか、考えると少々気が気でないよ」

「僕もお前と離れるのは寂しいよ。貴重なツッコミ役がいなくなるなんて、これから一体どうすれば良いのさ?」

「とりあえず尻を掴むのをやめたまえ……」


 うんうん、やっぱこのツッコミだよね。嫌がらなかったから調子に乗ってお尻を揉んでたんだけど、腕の中からジトっとした感じの目で見上げてきてるよ。可愛いなぁ、このままだとツッコミ役に突っ込みたくなっちゃうよ。


「……一時的とはいえ君たちの元を離れる私には一切関係の無いことだ。しかしどうしてもと言うなら、そこはミニスにでも期待すれば良いんじゃないかい?」

「何で私っ!?」

「うーん、まあそうするしかないかな。他はちょっとボケ入ってるから期待できないしね」

「あ?」

「リアはボケじゃないよ!?」


 一人は頭のイカれた殺人鬼、もう一人は若干天然の入った無知っ子だからねぇ。コイツらにツッコミ役を任せるのは酷ってもんでしょ。もみもみ。


「君が特大のボケだと思うんだが……あと、代わりに胸を揉めという意味ではないよ……」


 そしてやはりツッコミを入れるノリの良いレーン。しかも胸をもみもみしてるのに特に嫌がる様子も無し。顔を赤くしてジトっと睨んではきてるけど、言ってしまえばそれだけだしね。いやぁ、この慎ましやかな揉み心地が堪りませんねぇ!


「んっ……そうだ、最後に聞かせてくれないかな? 君は聖人族の国を旅して、どのような感想を抱いたんだい?」

「感想ねぇ……やっぱアレかな? みんな静かに狂ってて怖かったよ。幾ら敵種族とはいえ、いたいけな少女を馬車に繋げて引きずらせたりするのはさすがにさぁ……」

「ヒッ……!」


 今までの旅の中で一番驚いた事を口にすると、ミニスがびくりと震えて顔を青くする。どうもまだ記憶に新しい仕打ちみたいだね。

 ていうか本当に僕の奴隷の方がマシでしょ? 今なら健康な肉体(HPリジェネ&自動蘇生)だってついてくるんだし。


「アレでもまだマシな方なんだがね。何にせよ一般人ですらあの有様なんだ。早く世界が平和になって欲しいものだよ……っあ……!」


 腕の中でため息を零したかと思えば、小さくエロく喘ぐレーン。そりゃあまだ胸を揉んでるから喘ぐのも仕方ないよね。ここか? ここがいいのか? グヘヘ……。


「……あっ! あと冒険者ギルドとか行ってない!」

「まあ、それは行く必要が特に無かったからね……」


 それと思い出したのは、せっかく異世界に来たのに行くべき場所に行ってなかったこと。これはちょっとマジで忘れてたね。

 そもそも身分なら勇者とかいうものがあるし、お金なら偽造できるからレーンの言う通り行く意味が一切無かったんだよね。それに堅苦しい勇者の肩書きをさっさと捨てたかったから、出来る限りハイペースで旅を続けてたし。うーん、ちょっと勿体ない事したかなぁ……。


「……さて、そろそろ気は――っ、あっ……! す、済んだ、かな?」

「そうだね。揉み心地良くてこのままだとずっと揉んでる自信あるし、名残惜しいけどそろそろやめるよ」


 手の平にレーンの温もりが移るくらいに揉みまくって、ようやく僕は揉むのをやめた。何だかんだ言いつつずっと揉ませてくれた辺り、やっぱり滅茶苦茶優しい……優しくない?


「でも、その代わりに――」

「――んっ!?」


 ただこのままだとちょっと不完全燃焼だから、グイっとレーンの顔を上向かせてガッツリその唇を奪った。とっても寂しいお別れのキスなんだからこれくらいやっても良いよね?


「んっ、ふ……っ、う……!」


 固くレーンを抱きしめたまま、貪るように口付けて舌を絡めてたっぷり味わう。身体をびくびく震わせながら、服の胸元をぎゅっと握りしめてくる動作がめっちゃいじらしくて堪らんね。もうこのまま押し倒したくなっちゃうわ。

 でもさすがに燃え盛る森の中、激しく切り結ぶ大天使と魔将の下で行為に及ぶのはレベルが高すぎるかな……。


「ひゃああぁぁ……!」

「……あれ? そういやあたし、クルスにキスされたことってあったか?」

「うえっ、感触思い出して吐きそうになってきた……!」


 それに隣でじっとこっちを見てる奴らがいるし、アブノーマルなレベルがより高くなってるね。一番気になるのは真っ赤な顔を両手で覆いつつ、指の隙間からガン見してるリアかな……マセガキがぁ!


「――ぷはっ……はぁ……はぁ……! こ、これで、もう満足かい……?」

「うん、もうバッチリ! 今夜のおかずは決定だね!」

「はぁ……性的な触れ合いはしてくるというのに、最後までは行かないのだから本当に意味が分からないよ……」


 乱れた息を整えつつ、レーンは僕の腕の中から抜け出ていく。

 しばらくお別れだからちょっと過激な触れ合いをしちゃったけど、まあ僕らの関係上何の問題も無いよね。やっぱ初めての相手はレーンがいいかもなぁ。初めての真の仲間でもあるし。


「じゃあ、もうお別れだね。本当は首都に転移させてあげたいところなんだけど、ちゃんと足で帰ってる姿を見せておかないと変な疑い持たれそうだから無理なんだよね。代わりと言ってはなんだけど、最後にこれをプレゼントするよ」


 こんな時のために作っておいた魔道具を異空間から取り出して、レーンにポンっと手渡した。

 見た目は長方形の薄い物体。カラーは黒。実は縦に開くようになってて、中には数字の書かれたボタンとか矢印の書かれたボタンとかがある。ここまで言えばこれが何かは分かるかな?


「これは……ああ、最近君がスケッチブックに描いていた物かな?」

「そうそう。これは携帯電話って言って、分かりやすく言うとこの世界で言う何とかスフィアってやつだよ」


 そう、これは携帯電話。しかも俗に言うガラケー。

 何でこんなものを作ったのかというと、それはもちろん離れていても会話ができるようにだよ。何とかスフィアじゃ会話する度に魔力消費するっぽいしね。これは僕の無限の魔力を使って通信をするから、実質魔力の消費は無し。

 ちなみに外装こそ携帯電話だけど、中には機械どころか金属すら一欠片も入ってない。だって忠実に携帯電話を再現したとしても、この世界には基地局も衛星も無いじゃん? そんなんじゃ通信できないでしょ。

 なのでこの携帯は見てくれは普通の携帯電話、通信方法は魔法頼りのハイブリッドとなっております。作っておいて何だけど、これ何とかスフィアで良かったのでは? いや、でもイメージを深めるためにスケッチブックにお絵描きしてた時間が無駄になるし、それにカスタネットとしても使えるし……。


「コレス・スフィアだ。ふむ。ということは、これを使えば離れていても君と会話ができるのかい?」

「うん。詳しい使い方はこの取り扱い説明書を読んでね?」

「用意がいいね、君は……了解した。定時連絡は必要かな?」

「いらないよ。どうせ僕が束縛系彼氏みたいにめっちゃ連絡するし。ただ聖人族の砦が見えてきたら連絡してね。消失(バニッシュ)を解除するから」

「了解した。せめて常識的な範囲での頻度であることを願っているよ……」


 そもそも作った理由は僕がレーンと話したいからだしね。ハニエルを連れて一旦報告に戻って貰わないといけないから一時的に別れるだけで、僕の中では変わらず真の仲間だし。

 というか常識的な範囲にしてくれとか言いつつ、微妙に嬉しそうに見えるのは気のせい……?


「さて、ハニエル。命令だ。僕たちの不利益になるような情報を、どのような手段でも他者に伝えることは禁止する。そして、ここからはレーンの命令にも従え」

「……………………」


 自由に扱いやすくなるようハニエルにそう命令するけど、当人はまだ反応が無いね。光を失った目で虚空をぼうっと眺めてるよ。これやっぱり壊れちゃったのかな? こんなマグロじゃ犯してもつまらんよなぁ……。


「では、そろそろ行くよ。さらばだ、皆。また会おう」

「バイバーイ! カルナちゃん、またねー!」


 そんなわけで、ついにレーンはハニエルを連れて来た道を引き返して行った。その背中が見えなくなるまで、リアが涙ぐみながら手を振ってたのが印象的だね。

 聖人族の砦に戻るまでは消失(バニッシュ)をかけたままにするから道中に危険はないだろうけど、心の壊れた天然お花畑大天使との二人旅とか胃に穴が開きそう。合流したらうんと労ってあげなきゃね。具体的にはたっぷりと撫でて揉んであげよう。ウヘヘ。


「さ、僕たちも行こうか。いい加減火の手が広がり始めてるし――おっと?」


 そうして僕らは僕らの旅を続けようと思った矢先――ジリリリリリン! 僕のポケットから黒電話の着信音が鳴った。初めて聞く音にリアとミニスは飛び上がってたけど、僕はそれを無視して携帯を取り出す。

 一体誰だろう――なんて考える必要ないんだよね。この世界で携帯持ってんの、僕を除けば一人だけだし。


「……何か忘れもの?」

『いや、特に何もないよ。ただ機能を把握するために君に電話をかけてみただけだ。なるほど、これが通話中の状態か』

「あのさ、感動的な別れをした直後にいきなり電話かけてくる? 普通……」


 涙を禁じ得ない感動の別れを演じた後に、電話で会話するなんて詐欺も良い所でしょ。大方大好きな魔道具への好奇心が抑えられなかったんだろうね。この魔法好きは風情ってもんを分かっちゃいない。

 そのせいで僕は珍しくツッコミ役に回っちゃったよ、全く……まあ僕は男だから確かに突っ込む方だけどな!


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