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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第1章:異世界召喚
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人体実験

「――ということで、魔法についてはこんな所ですね。何か分からなかったことはありますか?」


 一通り話し終えて、ニッコリと笑いながら疑問が無いかを尋ねてくるハニエル。

 どうやら彼女の知る魔法の知識はあらかた引き出し終えたみたいだ。分かりやすい説明と実演で以て丁寧に教えてくれた彼女には、穏やかな人柄も相まってとっても好感が持てるね。まだ少ししか話していないけど、困ってる人を見過ごせないタイプの良い子だと思う。


「いいえ、特にないですよ。ありがとう、ハニエルさん――ところで、後ろのアレは何ですか?」

「えっ? 後ろですか?」


 だからきっと、魔法の実践にも付き合ってくれるよね? 何事に置いても知識だけじゃ不安が残るし、今度はその身体で僕の魔法を試させてもらうよ?


「――睡眠(スリープ)

「あ、れ……?」


 というわけで、僕はハニエルが後ろを振り向いた瞬間に魔法を行使した。対象を強制的に深い眠りに落とす魔法を。

 魔法としては他者に作用させるタイプのものだから消費魔力も馬鹿にならないらしいけど、無尽蔵の魔力を持ってる僕には関係無い。魔法は速やかに効力を発揮して、ハニエルは眩暈を起こしたようにふらついてソファーの上へ転がったよ。

 念のため瞳孔の反応を見たり、頬を引っぱたいたり、頬を舐めてみたりしてみたけど起きる気配は微塵も無い。何も知らずに幸せそうな顔でぐっすり眠ってた。

 これは安心してやりたい放題できそうですね。いっそのこと魔法の実践なんて放り投げて、エロいことしまくるか……?


「……………………………………………………………………いや、やめとこう」


 正直かなり迷いました。でも鋼の精神で以て何とか自分を律することに成功しました。また誰かが訪ねてこないとも限らないし、不埒を働いてる現場を見られたらややこしいことになりそうだからね。

 その時は目撃者を始末しちゃえば良いだけだからそこは問題ないんだけど、現場を見られることそのものが嫌だ。誰だってエロ本でお楽しみになっている所を邪魔されたら怒りや羞恥を覚えるでしょ? お楽しみは邪魔されない状況でゆっくりやりたいよ。


「ならまずはこれだな――解析(アナライズ)


 なので普通に魔法の実践を行う。使用した魔法は対象の情報を調べるための魔法。

 どんな情報かを指定しないと、人間の脳で処理できる限界を超えた情報が頭に流れ込んできそうで怖いから、とりあえずは名前と種族名、年齢と身長、あとスリーサイズを指定して使ってみた。すると――



 名前:ハニエル

 種族:大天使

 年齢:3210歳

 身長:165cm

 スリーサイズ:92/58/89



 こんな情報が頭に直接流れ込んできた。やっぱりこれは情報を指定して調べた方がいいね。指定せずに調べたら発動しないか、発動して頭が爆発するかの二択だろうし、試す気にはならない――っていうかこいつの年齢!! 三千歳もサバ読んでやがった! どこがピチピチだ、天使の癖に大嘘つきやがって!

 こんな悪い天使には余罪が無いか色々調べないといけませんね。というわけで、追加の解析(アナライズ)



 交際人数:0人

 キスをした回数:0回

 経験:無し



 おっとぉ!? レーンも大概年代物の処女だと思ったけど、こっちはそれを通り越して最早化石レベルの処女だぞ! 三千年生きてて何やってたんだ、お前! まさかレーンみたいに虐殺に明け暮れてたんじゃないだろうな!? というわけで三度解析(アナライズ)



 殺害人数:0人



 これは……面白い結果だね。つまりハニエルは三千年以上も生きてるのに、一度も敵を殺したことが無いらしい。

 でもそんなことがあり得るのかな? 年齢とこの世界の成り立ちを考えるに、たぶんコイツは女神様が最初に生み出した天使の一人。となれば当然、激しい戦争に加わったことがあるはず。

 確かに治癒魔法とか補助魔法とかを用いた後方支援に徹すれば、直接敵である魔獣族と戦う可能性は低くなる。だけど三千年だよ? それほどの年月なら絶対に直接戦闘せざるを得ない場面が少なからずあったはず。にも拘わらず殺害人数はゼロ。

 これが偶然じゃなくて、意図的なものだとするなら――解析(アナライズ)



 魔獣族への敵意:無し



 うん、確定だね。まだ他の人たちの敵対種族に対する敵意は調べてないから断言はできないけど、たぶんハニエルは非常に稀有な敵意を持っていないタイプだ。それも殺害人数がゼロ人なあたり、レーンとは違って先天的なものじゃないかな。たぶん意図的に殺しを避けてたんだと思う。

 彼女もレーンと同じく真の仲間になれる可能性があるわけだけど、この情報は今は胸の中に秘めるだけにしておこう。まだレーンとは契約をしてないから裏切られる可能性もあるしね。それに今まで一度も手を汚してないらしいハニエルが、僕の血みどろで暴力的な目的に手放しで賛同するとは思えないし。


「……いや、でも魔法使えば洗脳くらいは余裕じゃない?」


 そこでふと気が付く。真の仲間を増やすてっとり早い方法に。

 自由意思を奪って操り人形にしてしまえば完璧な仲間が出来上がるに違いない。それどころか争いを止めるように意識に擦りこむことができれば、世界平和も夢じゃない。そうだ、これが可能なら女神様の願いを簡単に叶えることができるぞ!

 だから僕は、とりあえずハニエルの意識に僕への好意を擦りこんでみようとしたんだけど――


「痛っ……何だ、これ。失敗か?」


 頭に一瞬痛みが走って、感覚的に魔法が不発に終わったのを感じた。

 試しにもう一回やってみても結果は同じ。対象が眠ってるから発動しない、ってわけじゃないと思う。実際情報を探るのには何ら問題は無かったしね。

 気になったから色々試してみた結果、これはたぶん魔法の限界だってことが分かった。理屈は分からないけど他者のイメージに直接影響を与える魔法は弾かれるんだと思う。もっと詳しくこの点を知りたいけど誰に聞けばいいのかなぁ、これ。まさかハニエルを起こして『洗脳が失敗したから理由教えて』って言うわけにもいかないし。契約の時にレーンにでも聞いてみるか。

 それより今は色々と試しておこう。せっかくだからもう少し実験に付き合ってもらうよ? グヘヘヘ……。






「ま、こんなところかな。はい、実験終わったから起きて起きてー」

「う、うーん……」


 あらかた実験を試し終えた僕は、即興で作った気付けの魔法を使ってハニエルの意識を覚醒させる。

 本当は不審に思われないよう、眠りに落ちる直前の記憶を忘れさせたかったんだよね。でもやっぱりそれも失敗に終わった。記憶も弄れなければ心も弄れず、思想も弄れない。魔法は万能かと思ったけど結構使い勝手が悪いなぁ、全く。


「あ、あれ? 一体何が……?」


 何が何だか分からないって感じの呆けた顔で、ハニエルは綺麗な緑の目を丸くしてる。

 記憶を弄れなかったせいで、彼女にとっては後ろを振り向いたら突然意識が落ちた、とかいう意味不明な状況だ。その原因として真っ先に疑われそうなのはもちろん僕。

 でも彼女は若干頭にお花畑が広がってるみたいだし、他者に対して直接魔法を作用させることは難しいって前提もあるからたぶん幾らでも誤魔化しが効くと思う。そうだと思いたい。


「気が付いたみたいですね。本当にびっくりしましたよ。突然糸が切れたように眠りに落ちたんですから。もしかして最近夜更かししていたんですか?」

「うーん、そんなことはないんですけど……疲れていたんでしょうか?」


 首を傾げるハニエル。僕を疑ってる様子はない。チョロい。

 いや、でもこいつは三千歳サバを読んでるのを悟らせなかった女だ。もしかしすると惚けた感じの性格は演技なのかもしれない。全く、どいつもこいつも油断ならないな。


「そうかもしれませんね。僕にこの世界のことを教えて下さるのはとってもありがたいですが、今日はもう休んだ方が良いと思いますよ? 自分の身体を大切になさってください」

「……そうですね。迷惑をかけるのもいけませんし、今日はもう休もうと思います。お話の途中で眠ってしまって、本当にごめんなさい……」


 非常に申し訳なさそうな顔でペコリと頭を下げてくる。

 もちろん僕は全く気にしてない。だって眠らせたのは僕だし、色々魔法の実験もさせてもらったし、ちょっとだけ胸も――おっと、これは失言だった。とにかくこっちがお礼を言いたいくらいです。


「いいえ、僕は気にしてませんよ。あっ、でもそれなら最後に一つ教えてください。今後の僕の予定はもう決まっているんですか?」

「勇者様のご予定ですか? 確か今夜は特に何もありませんよ。ただ明日は勇者様の旅に同行するお仲間を、勇者様自身に選んで頂く選抜式がありますね」

「選抜式……その選ぶ仲間というのは誰でも良いんですか? 例えば、メイドさんとか」

「め、メイドさんですか……その、戦う力が求められるのであまり推奨はできませんが、可能だとは思いますよ? ただやっぱり本人の同意が求められるんじゃないでしょうか」


 なるほど。たぶん国が用意した人員の中から選ぶ形になるんだろうな。でも別にその中に限定するわけじゃないのか。となるとレーンやハニエルを選ぶこともできそうだ。後は本人の同意だけか。

 レーンの方は問題なく同意しそうなんだが、問題はハニエルだなぁ。いっそ今ここで聞いちゃうか。


「もし僕がハニエルさんを選んだら、一緒に来てくれますか?」

「私、ですか……」


 僕の問いに難色を示すハニエル。その反応からすぐに断ってくるかと思いきや、何やら葛藤があるみたいでしばらく目を伏せて考え込んでた。

 僕のことを何も知らない彼女からすれば、僕は魔獣族を討伐するための聖人族の傀儡勇者だ。彼女は魔獣族に敵意が無いし、人を傷つけることも極端に嫌ってるのが殺害人数ゼロ人って情報からも分かる。だから魔獣族討伐の旅には協力したくないんだろうね。

 でもそれならわざわざ勇者に近づいてくるなんてありえない。たぶんこの子もレーンみたいに何かしらの期待や目的があるんだと思う。見た感じ良い子みたいだし、何とか勇者を操り人形から解放できないかとか、そういう目的かな?

 何にせよ悩んでないでさっさと決めて欲しいなぁ、とっとと休みたいし。仕方ない。ここはひとつ攻めてみるか。ちょっと気になってたから聞きたいことでもあるし。


「……ハニエルさん、あなたは知っていますか? 女神カントナータというお方を」





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