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自称邪神VS自称勇者


「邪神クレイズ! テメェの命運もここまでだ! 俺がこの手で引導を渡してやるぜ!」


 黒と白が入り混じった、邪悪さと清廉さが同居した複雑極まるデザインの玉座の間。そこに威勢の良い啖呵と、鞘から剣を抜き放つ音が響き渡った。

 声と音の主は無駄に豪華な鎧を身に纏って、無駄に輝く剣を携えたいかにも勇者って感じの男。勇者にしてはちょっとアレな言葉遣いで暴言を吐いたこと、仲間が女の子二人しかいないこと、そして何か不良っぽい顔付きなのが減点対象だね。マイナス十点かな。


「ふっ、できるものならやってみるがいい。この美しい世界を穢す害虫風情が、神たる私を殺せるものならばな!」


 その啖呵に対して無駄に仰々しく大袈裟に応えるのは、おぞましい意匠の玉座にすごく様になる格好で腰を下ろしてる自称神。

 あっ、痛い奴だって思っちゃう? でも大丈夫。神を自称するだけあってとっても強そうで見た目も良いよ! ほら見て、神が虚空から取り出した美しい剣に写り込むその姿を! 

 先端近くが白く変わってる短い黒髪に、右が赤で左が青のオッドアイ! そして背中に広がるのは白と黒の羽が交互に重なりあって形作られた、三対六枚の邪魔そうなクソデカい翼! わー、とってもカッコいいなー!

 

「へっ、余裕でいられるのも今の内だぜ! 一号、二号! お前らは魔法で俺の援護をしろ!」

「……はい」

「……分かりました」


 その指示に応えて、二人の女の子が勇者の背後から左右に分かれて出てきた。それぞれモフモフした犬耳と猫耳が生えた、とっても可愛らしい小柄な獣人の女の子だ。食べちゃいたいくらい可愛いね。

 でも何でかな? この子たち目が死んでるし、返事に死ぬほど感情がこもってないし、今さっき番号で呼ばれてた気がするぞ? それに勇者の贅沢装備に反してかなり貧弱装備だし、よく見れば露出してる肌や顔も薄汚れてる感じだ。これはもしかして――


「……一つ聞くが、それが彼女たちの名前なのか?」

「ああ? 名前なんて高尚なもんがこんなクズ共にあるわけねぇだろ! 識別するための番号で十分だっつーの!」


 カッコいい神からの問いに勇者が返したのは、勇者にあるまじき差別発言。

 うーん、やっぱりかぁ。聞き間違いなら良かったんだけどなぁ。


「……なるほど。参考までに聞いておこう、聖人族の勇者。お前は魔獣族に対してどのような印象を持っている?」


 そして再度、イカす神からの問いが投げかけられる。

 あ、聖人族っていうのはそこの勇者みたいな普通の人間と、天使様を合わせた種族のこと。で、魔獣族っていうのがそこの女の子たちみたいな獣人と、悪魔を合わせた種族のことだよ。聖人族と魔獣族とか、心底安直なネーミングだよね。


「そんなもん決まってんだろ! 生きる価値の無い薄ぎたねぇ畜生共だ! テメェをぶっ殺して世界を救った英雄になった暁には、魔獣族のクソ共は俺様が直々に滅ぼしてやるぜ! ヒャハハハハハ!」


 そして返ってきたのはもう間違っても勇者じゃない発言。

 これが正しい勇者の姿だって言うなら、そんな風に言う人はちょっと一回人生やり直した方が良いと思う。確かに勇者って不法侵入して器物破損して窃盗するのが代名詞みたいなとこあるけど、これは幾ら何でもあんまりでしょ? 

 というわけでマイナス百点。落第です。


「うん、よく分かった。お前は不合格。もう死んでいいよ――電荷消失(チャージ・ロス)

「は? 何を――」


 神が指を鳴らすと、一瞬目を丸くした勇者は言葉の途中で塵になって消え去った。装備も何もかも丸ごとね。

 何でそうなったのかというと、魔法で肉体の電荷を消失させられたから。ほら、何力だったかは忘れたけど、分子って電気的な力でくっついてるでしょ? だからその力が無くなったら、分子としての形を保っていられないわけで……まあ、分かりやすく言うと原子に分解されて塵になるってわけ。某SFドラマの超兵器を参考にした分解魔法だね。

 原理が多少間違ってたり、知識が間違ってても特に問題は無し。この世界の魔法は万能だからね。本人ができないって思ってなければ普通にできちゃうんだよ。


「はあっ……せっかく準備を完璧に整えて待ってるっていうのに、過激派しか来ないなぁ……」


 勇者を消滅させた神――もとい僕は、ため息をついて玉座に再び腰を下ろす。

 うん、実はこの痛々しい格好して恥ずかしい演技をしてたのが僕なんだよね。でも言わせてもらおう。決して好きでこんなことやってるわけじゃない。これはこの世界の平和のために必要な事なんだよ。


「うーん、やっぱり。この魔獣族の女の子たちも、薬物と拷問で精神を崩壊させられて何でも言いなりになるお人形にされてるよ。契約魔術が使えなくなれば奴隷は作れなくなるから多少はマシになるんじゃないかと思ったのに、むしろ余計に悪化してるね、これは……」


 だって幾ら憎みあう敵種族とはいえ、可愛いケモ耳の女の子を薬物と拷問で壊して洗脳して操り人形にするようなヤベー連中が、この世界には蔓延ってるんだもん。

 もちろん聖人族だけがクソってことじゃないよ? だって魔獣族が引き連れた聖人族のお人形っていうパターンもあったからね。本当にこの世界って心底クソなんだなって、つくづく思うよ。

 あ、命令が無くなって棒立ちになってた女の子二人は、僕が優しく殺してあげたよ? 処女じゃなかったから別にいいかなって。どうせ生きてても自我がぶっ壊れてるんだし、慈悲だよ慈悲。とりあえず色々利用価値があるので、魂だけ回収しておきました。

 ん? お前も十分クソだって? 僕は芯からイカれてるから別に良いんだよ。この世界のヤバいところって、まともな一般人でもあんな風にクソってところだからね? あの勇者が特別クソってわけじゃないんだよ?


「あーあ。いい加減そろそろ本当の意味での勇者が来てくれると助かるんだけどなぁ。種族の垣根を越えて、友情やら仲間意識やら愛情に溢れて、真の世界平和を実現してくれる勇者がさぁ……」


 正直そんな奴が現れてくれるかは怪しいところだけど、現れてくれないと困る。だって僕はこの腐った世界を平和にしなきゃいけないんだから。僕の愛する女神様のために、ね。




プロローグなので今回は短め。基本的には毎回4千字あたりです。

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