狂った勇者を愛した聖女の最後
お仕事の昼休み中に
「あれ!? なんか急にアイディアが出てきたぞ!? 俺めっちゃ天才なのでは!? よっしゃ書いたるぜー!!」
って書いたけど、読み返したら
「…………そんな面白くねえなコレ!」
ってなったやつ。ギャグ小説のつもりがシリアスになった謎。
栄光のレッドカーペット。
私がいるこの玉座の間に敷かれた深紅のじゅうたんは、この王国が建国されてから一度も取り替えられることなく、その鮮やかさを保っていたそうです。
そのレッドカーペットは、さらに真っ赤で、そしてドス黒く変色しています。周囲に転がっているのは、数十を超える無数の死体。さっきまで元気に動き回っていた彼ら・彼女らは、皆一様に物言わぬ骸と化しています。
奥に鎮座するのは、この王国の象徴である国王陛下がお座りになられる絢爛豪華な玉座。座っているのは、これまた絢爛豪華な服を着た骸。彼こそがこの国の第13代国王にして、史上最高の名君と謳われたルヴィナント6世でした。
あちこちに散らばる死体。今この場に立っているのは私と、それからもう1人。何を隠そう、この惨状を作り上げた張本人こそが、私の目の前で不気味に、不適に、ニヤリと笑う少年だったのです。
この世界を救った英雄でした。誰にも止められない、太刀打ちできない強大な敵に立ち向かい、圧倒的な強さでもってなぎ払う、そんなおとぎ話に出てくるような英雄でした。
半年間、共に世界各地を旅した仲間でした。報われない境遇の私を支えてくれた、常に笑顔で前向きで不安を拭い払ってくれた、私が敵に囲まれた時にはその身を傷だらけにしながら助けてくれた、私のヒーローでした。
そんな彼がおかしくなってしまったのはいつからでしょうか。あるいは、最初からだったのでしょうか。
何にせよ。王国は、私たちは彼を裏切りました。この世界のために身命を賭けて戦ってくれた彼を抹殺しようと試みたのです。
その結果がコレでした。見事なまでの返り討ち。彼を裏切った者はほとんど死に、残ったのは私1人だけとなりました。
「最期になにか、言い残すことはあるかい?」
もう生きることを諦め、抵抗せずおとなしく最期の時を待つ私の様子に気付いたのでしょう。英雄の少年は、ニヤリとした不遜な笑みに代えて、いつものように明るく柔らかく、お日さまのように優しい笑顔と声音で声をかけてくれました。
貴方を裏切った私にも、貴方はその優しい笑顔を向けてくれるのですね。その笑顔を向けられると、私の胸は張り裂けんばかりに痛くなるのです。自分の全てを捧げたくなるような愛おしさと、貴方が私に振り向いてくれない葛藤で、気が狂いそうになってしまうのです。
いえ、もう狂ってしまっていたのでしょう。愛する貴方を裏切ってしまった私には、もうこの想いを伝えることすら許されない。
伝えなければ。貴方を信じることが出来なくてごめんなさい、と。裏切ってしまい申し訳ありません、と。
そう思って開いた口から出た言葉は、思ったこととは全く違う音を紡いでしまいました。
「お慕いしています、『バルト』さま」
ああ、私はいまどんな顔をしているのでしょう。胸に秘めたまま息絶えるのだと決心したはずなのに、どうして私の体は私の心を無視してしまうのでしょう。
そして、どうして貴方はそんな驚いたような表情を浮かべているのですか。国王陛下から「この世界のために死んでくれ!」と言われた時も、私たちが貴方に武器を向けた時も飄々としていた貴方が、いまさら何を驚くのです。
そんなに大きく目を見開いて私を見ないでください。私の最期の言葉は伝えたでしょう? 他の人にしたように、私の息の根も一思いに刈り取ってください。
「俺も愛してるよ。『マリア』」
今度は、私が大きく目を見開く番でした。バルトさまは、これまで見たどの笑顔よりも暖かく柔らかい微笑みを私に向けてくれます。その笑顔を少しでも目に焼き付けようとしましたが、なぜだか涙が溢れてきて、目の前がぼやけてしまいます。それでも、雰囲気でバルトさまが困ったように笑ったのが分かりました。
最期にこの想いを伝えられて良かったと思う半面、もっと早くお伝えしていればという後悔で胸の中がごちゃ混ぜになってしまいます。
そんな私の迷いを断ち切るように、愛しい人が大きく腕を振り上げるのは、ボヤけた視界でもハッキリと見えたのでした。
Q. 勇者は日本人?
A. はい、ツルハシ教徒です