召還
ゆーっくり書くので、気長によろしくお願いします
渡真利 理巧は一人、数分前に起きた自分に起こった事と、それを引き起こしただろう儀式の後を目の前にして動けずに居た。
何時、何が起こるか分からないから、備えと準備は大切って良く言われるけど。
今さっき、毎日の様に通ってるコンビニで起こった事を予想して準備が出来ている者が居るとすれば、昔そう言う事が好きで、過去の悶絶するような黒い歴史の遺物か何かだろう。
この日も何時も通り、仕事帰りの日課みたいな物になっていたコンビニでの立ち読みで、再来週に行く旅先の名物を物色していたところ。
突然、何の前触れもなく、何か、もの凄い衝突音が聞こえたと思った途端、意識がなくなり、気が付くと異常な儀式が行われたであろう洞窟の一部をそのまま使って作られた様な、祭壇の上に一人、粗末なローブを着た集団に囲まれて立っていた。
理巧はこれ幸いにと、目の前で土下座をする様な格好で動かない集団に、此所が何処でどういう状況か聞こうとするが、直ぐに不自然な事に気が付いた。
(全員生きてる感じがしねぇ)
理巧は全身に鳥肌が立つのを感じながら、意を決して一人に近づいて確認してみるが、予想通りという結果だった。
(これ、、、全員、か)
百人近くだろうか、全員が此方を向いて同じ様な格好で息を引き取っている。
(あー、あれか、勇者召還とかそう言う奴の類いって訳か。それじゃぁ、少ししたら誰か来てって、、言う訳でも無さそうだし。結果的に成功してるけど、全員が死んでたら失敗と変わらないな。取り合えず少し漁らせて貰って、着るものとか色々集めた後、此処を出たほうが良さそうか。)
王道の召還とかなら、「おー!」とか言いつつ、王様だかそう言うの類いの人種が来て、色々説明してくれるのだろうが、明らかに全員が死んでいる状況で、それを望めない状況ならば自分から行動するしかないと、儀式ぼ犠牲者となった人達から、色々使える物を貰って行くことにした。
(女物の服が必要か、この身体、どうなっちまったんだ)
突然の事で後回しになっていたが、元々理巧は男だったのだが、どういうわけか女性寄りの両性になってしまったらしく、顔はどうか分からないが、男を誘惑するために産まれたと言っても過言ではない、魅惑的なスタイルをしている。
「ゴメン、許してくれよ」
近くに居た、比較的体格の似た女の死体に向かって一言謝罪を入れると、お世辞にも着心地が良いとは言えない服を一式貰った。
(贅沢は言えない、後は、あのオッサンが何か持ってそうだな)
意識を取り戻した後、直ぐに目をつけていた一人。
一際身なりの良い、一人だけ雰囲気の違う神官風の男を調べると、二冊の本が身体の下敷きになっているのを見つけた。
(日記と教本か?一応、使ってる言葉は違うけど、内容は理解出来るみたいで良かった。ますますファンタジックな要素が強いぞ)
二冊の本によるとこういう経緯だった。
此所で死んでいた人達は、ドゥーズ・ロ・ランという神を信仰する教団の一派で、悪神であるミーナの召還した使徒に対抗する為に、此方も使徒を召還しようとしたのだが、何かのイレギュラーが起こり、召還した使徒を迎えるために同行していた神官のオッサンも含めて、全員が生け贄になったらしい。
巻き込まれた感じが凄いと、溜め息が溢れるがしかたないだろう。何せオッサンの日記の途中で見た物が十中八九失敗の原因だろうから。
(召還する使徒を女限定にして、従属させる呪いまで追加しようとするとか、正気じゃないだろ。そのせいでこんな変な世界に呼びやがって。こちとら再来週は、この前納車されたばかりのバイクで、初のツーリングの予定だったんだぞ)
仕返しに物言わぬオッサンに一発蹴りを入れようと構えた時、それは起こった。
突然、走馬灯の様に流れる様に視点が切り替わった。
誰か、自分ではない誰かの視点から見たような景色になったかと思うと。
誰かの赤ん坊だった頃。
初めて転んで膝を怪我をした時泣いた時。
視点がコロコロと移り変わり、ある程度成長するに連れて、鏡を映る少年がいつの間にか青年になり、気が付くと寝室で複数の女を侍らせて、何処か不満そうな表情で鏡を見る、さっき蹴ろうとしたオッサンの顔がそこにあった。
(何だこれ!どうなゥデロの奴め、アイツさえ居なければ今頃まえに召還した女を俺様の物に出来ていたのに。そう言えば今度使徒召還の儀式だったな、ルデロに気が付かれる前にとっとと終わらせて、この前の>ってる、ルデロ?ポートマン?何か満たされる感じだが、不味い、ヘドロを口に詰め込まれた様な気持ちだ)
余りにも不味い味を感じたと同時に、元の、儀式のあった洞窟の視界に戻ると、口一杯に広がる不快感に吐きそうになりながら、オッサンの側から離れた。
(何だ今の?オッサンの記憶か?日記でもそうだが、ロクでもねぇ奴だった)
そこで気が付いた。
召還されてから感じていた空腹感の様な、物足りない感じが、少し改善されていることに。
(食ったのか?オッサンの記憶を?)
信じられないと思いながらも、嫌に不快感の残る口に手を当ててみると、何かを食べた様な余韻が在ることで、更に実感が強くなった。
(まさか、本当に)
さっきと同じように今度は服を貰った女性に意識を向けると同じような事が起こった。
今度は少し慣れたのか、時間の流れがゆっくりで、さっきよりも辛く(からく)、故郷の幼馴染みとの甘い初恋の味のする少女時代を過ぎると、苦く酸っぱい、塩辛い味のするポートマン神父に弄ばれる日々に苦悩し、幼馴染みを想うという記憶になったところで、精神的に耐えられなさそうだったので無理矢理元の世界に戻ってきた。
「最初はましだったな、最後が最悪だったけど」
それから暫くの間満腹感を感じるまで、片っ端から食事をするように、記憶を見て回っていくと、この世界について様々な事が分かってきた。
この世界ルーントは、勇者召還物の物語に登場する様なファンタジーに似た世界観を持つ世界で、魔法やスキル等といったゲームで定番の要素も存在している。
勿論、魔物も健在で、一歩人の管理を離れた土地に出るとスライムやゴブリン等の魔物に襲われる危険があり。ドラゴンが大空を飛ぶ姿が見れる事も在るという。
そして、この集団と同じく、神ドゥーズ・ロン・ランを信仰する者達と、女神ミーナ・ハイヘルゲンを信仰する者達とで、永きに渡って争っている状態だった。
だが、数年前に召還された女神ミーナ側の使徒、一般的に勇者と呼ばれる者の集団によって、戦況が一気に変わり、神ドゥーズ側が劣勢に陥っていたようだ。
種族も様々あり、ドゥーズ側には魔族が最も多く、亜人族、人族の順で人口ピラミッドが出来上がっており、ミーナ側はその逆と言った具合らしい。
他にも亜人族が多い国も在るが、魔族の国ローランの属国と勘違いした人族中心の国ハルフシェイムよって数十年前に壊滅的大打撃を受け、現在は種族毎に固まってひっそりと、大陸の南側を中心に隠れ住んでる状況だそうだ。
そして、最悪な情報が一つあった、今回の様な召還の儀式を行った場合。女神ミーナの神託を受け、召還された勇者の数人が毎度の如く潰しに来るから逃げろという情報が、殆ど全員の記憶の中にあった。