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第二話 男女の問題(ヒント)
「あります」
わたしはそう答えると、一冊の本を取り出した。そして机に置くと、会心の笑みでさらに続ける。
「ジュディス・バトラーの『ジェンダー・トラブル』がヒントです」
門外漢なのか、柘植はきょとんとしている。それを見て、村田はわたしに言った。
「ジェンダーって最近、話題よね」
迂闊に答えると余計なヒントになりかねない。そうですね、とわたしは慎重に頷いた。
「どんな問題だっけ?」
亜矢子は空とぼけた口ぶりでわたしに尋ねた。しかし、文学部の彼女が知らないはずがない。なにせ……。
「あれ? 知らないんだ? 一般教養の英文学ってジェンダー問題から読み解いてたはずだけど」
「そこは、ほら……」
宙へ視線を漂わせながらそう言うと、大月を一瞥してしてさらに言った。
「知らない人もいるだろうし」
知っていますけど、という大月の答えを聞いて、亜矢子は大げさに舌打ちをする。もちろん本心からではないのは分かっているが、それでも悔しそうに聞こえた。