調査に走る俺とデジタルな死神②
イザンヌ·ジュラン·ミッシュイ
ケイトとは、双子の兄弟。ガルブ国王の忘れ形見だが、王家を継ぐのを辞め死神の世界へと飛び込んだケイトを追って、何故か悪魔の世界へと入ってしまう。
身長190cm
普段は、女の姿をしてそこらの街を歩いては、男にチヤホヤされつつ喜んではいるが、ちょっと珍しい悪魔。
悪魔としての彼は、両目が赤に変わり、目つきも口元も吊り、背中からは真っ黒な大きな翼を出す。
ハマってるのは、スパ!女の子、半額デーになると気分が高まる!
お酒も大好きで、酔ったことは一度もない。
そもそも、悪魔も死神もお酒は飲めても酔わない体質!
「本当にありがとうございました」
「いえ···」
山下元課長の葬儀で、俺は久し振りに妻君と中学生の息子さんを見た。
『どうも···』
ケイトは、その息子·樹くんに声を掛けようとするもてんで無視され続けた。
真っ青な空の下で、しめやかに葬儀は行われた。
『なぁ、あれは?』
ケイトが指差した方向には···
「なんで?」
今川組の組長·今川義家とその若頭·小池裕司がいた。
『あと、あの大きなぶなの木の後ろにひとり。気づかないふりで···』
ケイトに促され···
俺が所長なのに、こいつはいろんな能力がある死神。
そして···
『はぁーいっ!』
事務所に帰った俺等の前に、身体を強調させた真っ赤なドレスを着た女が、何故か俺の机に腰を掛けていた。
『やぁ、イザンヌ。遅かったね。どうだった?』
俺がここにいるのを忘れたかのように、この二人は恋人同士みたいに顔を寄せ合ってなにか話していた。
『恭介。お前は、この件から手を引け』
「は? なんで?」
『あ、この人がケイトの部下さん?』
「おい···」
『いやー、つい』
(じゃ、ねーだろ!)
「ケイト、この人は?」
『あぁ、こいつは···』
『どぉもぉ! 初めまして! 私、イザンヌ。ケイトのオ·ン·ナ』
『···消えろ。お前、男がだろーが! なんだよ、その格好は!』
(今頃になって、そうきた? さっき、いちゃついてなかったか?)
『いいじゃーん! お前居なくなって暇になったんだよ』
そう言った女が···
みるみる男に変わっていって、
『改めて、イザンヌです。俺は···』
差し出された名刺には、
「あく、ま?」
正真正銘、“悪魔”と書かれてあった。
わからないことだらけだ···
『─ってことだ。わかった?』
目の前には、真っ赤なスーツを着たイザンヌという悪魔、その横にはムスッとした顔のケイト。
「死んではいないんだな。観月葵は」
『死んではいないは、彼女は。ただ···』
『お前には、無理だ』
頭ごなしに無理だと決めつけられても、元刑事としては腹が立つ。
『シュガーってわかる?』
「砂糖のことか?」
ソファに並んだ二人は、無言で恭介を見、首を振った。
『こっちの感覚でいうと、麻薬かな?』
『ランクは、マリーより断然強い』
マリーという麻薬が、出回ってるのは、俺も聞いてはいた。
「こっちに?」
『あぁ』
『最初は、今川だったの。けど···』
(おい、嘘だろ···。あの子は大学生···)
『彼女が出入りするクラブに通っていたのが、今川の息子·忠之』
イザンヌが、モニターに写真を映し出した。
どうやら、この悪魔もなんらかの能力を持っているらしい。
(どこから出した、そのモニター!)
「こいつ···」
その顔に見覚えはあった。俺が前にある事件でしょっぴいたものの、相手側の両親が示談になりましたので、と言ってきた。酒の場での、強姦未遂事件···
「その今川と? 彼女が?」
『らしいわね』
『あんま見ない方がいいけど···』
ケイトは、モニターを操作して、ある映像を見せてきた。
「これは? なんか、暗いが···」
暗かった映像が、少しずつライトに照らされひとりの女の子が動いていた。
「酷い···。どうしてこんな···」
丸裸でおびえてる少女は、数人の男に乱暴に扱われていた。
嘲笑うような女の声と男の声が、モニターから流れる。その男の声こそ、今川忠之の声だった。
「ねぇ、美咲。いまから、かなり気持ちよくなるからぁ」
男に押さえられた少女に、写真と同じ顔の観月葵が近付いた。
「注射器じゃないか。じゃ、もしかして観月葵も?!」
『恐らくな···』
『発端は、今川忠之だろう』
「いやぁぁぁぁっ!!」
そんな悲鳴が画像から流れてきて、あたりが騒がしくなった。
(おかしい···。最近だ。最近なんか···)
『柿沼川全裸殺人事件···』
『少女の名は、栗栖来夢。年齢18歳だったかな?』
イザンヌは、ロッカーのある方向を見て喋っていた。
「おい、まさか?」
『いるわよ。それに、恭介さんの奥さんと赤ちゃんかな?心配そうにこっちを見てるわ』
そう言われても俺には、ロッカーしか見えない。
「奴等がいる場所とか特定出来たらな」
とにかくこの今川忠之という男は、モグラみたいな奴で、ネットワークが幅広い。
「でも、なんで課長の葬儀に今川が? 俺の車のパンクは誰が?」
考えれば考えるほど、恭介の頭は混乱していく。
「紗友里···。お前には俺が見えて、俺にはお前らが見えないなんて皮肉なもんだな···」
誰もいない俺の家。
待っているのは、もの言わぬ写真盾に収まった紗友里と産まれたばかりの栞。
コトンと何か小さな音がしたが、そこにはなにもない。
『恭介さん。私、怒ってないよ? 栞も』
「だったら、どうして?」
不思議だった···
久し振りに聞く紗友里の声に、震えが止まらない···
「ど、どこにいるんだ? 栞? パパだよ?」
『ここ』
また、小さな音が出窓から流れる。
「元気、なのか? は、腹は減ってないのか?」
死んだ人間に?とも思うが、何を言えばいいのかわからない。
『無茶しないで。お願い···』
「紗友里···」
冷たいと思う出窓に僅かだが温もりを感じた。
「栞···」
未熟児で産まれた栞は、なかなか思うように成長はしなかったが、俺や紗友里を困らせるような泣き方はしなかったと思う。
絶対にあげてやる!!!
柿沼川の殺人事件もいまだホシが上がってない。どこから、突き詰めていこうか?
恭介は、探偵から刑事だった頃の目付きに変わっていった···
『コウヅバシ』