調査に奔る俺とデジタルな死神①
山下課長
恭介の元上司。部下想いの優しい人。
妻と中学生の息子がいて、休日は家庭サービスに勤しんでいる。
ハマってること、釣り。川でも海でもいく。
気にしてること、最近息子がわからない。反抗期らしい。
探偵事務所を開業し、半年が立った。
(紗友里? お前はまだ俺を許してくれないのか?)
机の上の写真に問いかけるも、返ってはこない。
『来ますよ。なんか、いかついおっさんです』
ケイトが、困った顔で俺に言ってきた。
「いかつい?」
パソコンに表示されてる画像を見ると、なるほどね、と思って笑う。
「怖くはないさ。俺の知り合いさ」
そう言った途端、ドアを叩き、ケイトが開ける。
「いらっしゃい。山下課長···」
「よぉ。元気そうだな。君津」
ケイトは、下のカフェへ電話し、お茶を頼んでいた。
(こういう行動は素早いんだから)
そんな事を考えつつも、どうして課長が?とも思った恭介は、ソファへと山下を座らせる。
「どうしたんですか? いったい、こんなところへ?」
刑事とはいえ、探偵と繋がりを持つ者もいるが、この山下課長はそれを嫌っていた筈なのに···
「実は、お前に頼みがあってな···」
『どうぞ···』
ケイトが、ルグランの葉月ちゃんから受け取った珈琲を山下課長と俺の前に置き···
「おまっ···失礼」
自分は、ちゃっかりフルーツタルトなんかを頼んでいた。
「これだ···。下からお前んとこの評判を聞いてな」
課長は、スーツの内ポケットに手を入れると、1枚の写真をテーブルに置いた。
「この女の子を探して欲しい。名前は、観月葵、年齢は、20歳。居なくなって1ヶ月が立つ。他は、これに書いてある。時間はない。急いでくれるか?」
「はぁ」
「全てこれで賄ってくれとのことだ。頼んだぞ」
細身で厚みのある茶封筒と大判の茶封筒を置くと、課長はそれだけを言い事務所を出ていった。
『100万と行方調査? 家出?』
ケイトは、何も見ないでその封筒に何が書かれているのかはわかる。死神だから、色々な能力はあるのだろう。
「少し黙ってろ」
大判の封筒から、書類と何枚かの写真が出てきた。
「観月葵、か。東都大学の2年生ね」
『なかなか、可愛い女だな』
いつの間にか写真が、ケイトの手に···
「おい、どうした? 行くぞ」
『どこに?』
机から長い(これがムカつく)脚を出し、眠そうな顔を俺に向けた。
「こーいっ!」
ダラダラしてるケイトの首根っこを掴むと事務所の外へと引きずり出す。
『強引! だから···』
ケイトが、何かを話そうとして噤む。
「今日は、大学から行ってみるか」
腕時計をみるとまだ、午後の1時。
『もしかして、俺が?』
「お前の方が顔がいいからな」
『いちごたっぷりふわふわロールケーキ!』
(死神の癖にだいの甘党ときてる)
「わかったから···」
事務所のある桜木市から東都大学までは、車で30雰囲気程で着いた。
『さーすが、刑事は違うわ』
「元だ元! それに、移動だけならお前の方が早いだろーが」
車に鍵を掛け、大学のキャンパスへ入る。
「教育学部、はと···」
掲示板を眺める俺と、
『あっち!』
甘い匂いに誘われ違う方向を指差すケイト。
『······。』
「こっちだ」
逃げないように、手を引っ張ると近くからキャッキャッと若い声が聞こえ、俺らを指差す。
「いいから、ついてこい」
手を離し、校舎内へ入る。
「声を掛けてこい」
目の前にたむろってる教育学部の女の子数人に、ケイトを向かわし、その後を歩く恭介。
『ね、ちょーっと聞きたいんだけどいいかな?』
いかにも若者風な喋りに、一瞬女の子達はケイトを見···
「なに?」
「ケイトくんだー」
術を掛けた。
『ここ最近、観月見ないけどどうかしたか知ってる?』
「観月? あー、あの子か」
「ちょっと探してるんだけど」
その間を入り、聞き込む。
「んー、ずっと休んではいるけど···」
『どんな子?』
「どんなって···」
「それは、まぁ、ねぇ···」
(こいつは、何をやってるんだ?)
『ありがと!』
「じゃ、今度遊ぼうねー」
「じゃーねー」
「???」
ふたりの女の子に手を振って、ケイトは再び俺を見て笑った。
「どうかしたのか?」
『うん···』
笑顔で見送ったケイトの表情が、一瞬で険しくなった。
『恭介、この依頼ってこの子の親から来たのか?』
「たぶん。そうだとは思うけど···」
課長は、そこらを話す事は無かったし、だいたい行方を探す者は家族と見ていたから。
『そうか···』
ゾッとするようなケイトの横顔からは、彼がいったい何を考えているのかは伺い知れなかった。
『恭介ー。俺腹減ったー』
その場にしゃがみ込むケイトをなんとか抱き起こし、いや、引きずるように駐車場へと戻った。
「······。」
『やること速いわぁー、誰かさん』
「俺の···車···」
俺の愛車、いや、俺と紗友里の車···が、見事に前輪パンクさせられていた。
『元とはいえ刑事が、尾行されてるとはな···』
「???」
何がなんだかわからない。
『かなり裏がある女の子だよ、観月葵は···』
ケイトはそう言うと、軽くステップを踏みながら校門へと行き、頭を悩ませながらも後を追った。
山下課長が、無残な姿で還らぬ人となったのは、その2日後のことだった···
テレビのニュースを観ていたケイトすらも、無言になった。