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日記をつける人ってすごいと思う。

『閑散とした教室の中で1人、亀に餌を与える。

 今、この亀は俺のことをなんだと思っているだろうか。


答えは、"なんとも思っていない"だ。


 亀が注目し求めているものは俺ではなく、俺の掌から溢れる餌なのである。それ以前に心理学的に犬でさえ心を持っていないことを考慮すると、亀というのは心を持たぬただのタンパク質の塊である。

 

 つまり亀が好きだという人はタンパク質の塊が好きだと言っているのである。

 "亀には甲羅があってそれはタンパク質ではないのではないか。"

という人もいるだろう。のんのん。

 

 亀の甲羅は亀の付属品に過ぎない。つまり"おまけ"だ。だから今後は亀とその付属品が合体したフォルムが好きだと明言してほしい。


 おっと亀が……亀とその付属品が合体したフォルムが可愛くてつい論点がずれてしまった。

 

 つまり、あれだ。

 俺、今亀にも好意抱くほどに暇なんだわ。


なぁ亀よ、いや今からお前はエリザベスだ。

なぁエリザベスよ、俺ってなんなのかなぁ?


 俺がエリザベスから得られる返答はもちろん沈黙だけである。

 まぁ"君は君でしかなくそのままでもいいんだよ"などというふざけた返答をする小中学校教師よりはまだこいつの方が見込みはある。


 俺がこんな暇なのには理由がある。

 俺が所属する"愉快部"は基本的な活動を他に任せている。簡単に言うと、自分らからは何もできない部活であり、活動内容、期間共にクライアントに合わせなければならないということだ。

 それで俺はこの部活に入らされて一週間程度も暇を弄び、毎日、日が落ちるまでこの生物準備室にいるというわけだ。

 まぁ今日はいつもよりも楽なんだが。

 いつもは神崎夢亜によって俺の平穏はより破壊されそれはもうひどい有様になる。


 俺がそんなひまな頭を少し働かせるための被害妄想じみたことをしているといきなり生物準備室のドアがその本来あるべき用途を発揮した。


「ここが愉快部か?噂の」

 入ってきたのは見覚えのある白衣と長い黒髪、鋭い目つきに、大きめのメガネ。パンツスーツに包まれたおそらくしなやかな足。そして何より、本当に独身かと思うぐらいの大きな胸。

 

 我々の担任の国語教師、永田ながたひとみだ。


「倒置法使ってまでこの部活の異様さを引き立てなくてもいいんじゃないんですか」

 俺がそんな皮肉じみたことを言っても永田先生は動じることはない。まぁわかっていたから言ったんだが。


「すまない。"つい"な。それよか時咲以外はいないのか?」

 当然永田先生は皮肉で返答。さすが。

 しかも言葉の端々から"時咲なんかいてもねぇ"みたいな一般人なら心が折れるオーラをこちらに送ってくる。マジかよ、プロハンターかよ。


「いませんよ。もしかして用件はそれだけですか?俺が必要ないようならもう帰りますけど」


「いや。もうお前でいいや」


 えー、何その投げやりな感じ。俺泣いちゃう。


「何ですか?」

 俺が再度聞くと先生はもじもじしながら答える。


「実は………恋人の作り方を教えて欲しいのだ」

 先生がいつメイクし直したのか気づけないほどの早技でチークを塗り直したかのように頬を紅潮させながら言った。


 無理だろ。だってあんたもう30近いんでしょ?

 今更作り方とか聞いてもねぇ(笑)

 なんて言ったらぶっ殺されるだろうからここは言葉を選ばなくてはならないな。よし!

 

 俺は先生に惜しむことなき哀れみの目を向けて言い放った。

「とりあえずがまくんとかえるくんのお話読んでみて下さい。きっと楽になれます」


「おい!私はそこまで重症ではないぞ。お前と一緒にするんじゃない!」


「どういう意味ですか!!俺には友達もいないってことですか!?」


「そうだ!その通りだ!私は今思い出したぞ!私よりももっと下の者が存在したことにな!」

 先生はそう言うと勢いよくドアを開けて走り去って行った。こらー。廊下を走るなー。


 あの人結局何しに来たんだろう?

 そんなあまりに無機質で透明な質問を頭の中に浮かばせたのち俺は俺の生物準備室における"普通"の日常に戻るのであった。


2017年 11月13日 』



 俺は書き終えた日記を読み返し、目を閉じて、頭の中の記憶と、文字列をつなぎ合わせてみる。


――――結論――――


この部活のめっちゃめんどいわ。






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