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結局姉貴には勝てない!


――――「あんた、部活新しくなったんだって?」


 茶髪を肩まで伸ばし、体にバスタオル一枚巻いただけの女が俺にいきなりそう聞いて来た。


「あぁ。なんで知ってる?てゆうか服着ろ!」


すると女はにんまりと笑って、


「別にいーじゃーん。私の無防備な体を見られるのはあんたの特権じゃない」

と俺に体をすり寄せる。


もう知らん。あんなやつ。


俺がそう心の中で唱え無視すると女は


「もーあんた、そんなんじゃ彼女の1人もできないわよー!」

 と大声で叫びながら着替えてソファに座りテレビを見はじめる。


俺とあいつは対極の存在だ。

本当に血の繋がった"姉"とは思えん。


「姉貴。俺の部活の話誰から聞いたんだ?」


姉貴はこちらを振り返りもせずに一言、

「あんたの将来のお嫁さんから」

 と言った。


あぁ…きっと夢亜だな。


と一瞬で理解する自分が悲しい!


俺はそんな絶望の表情を隠すこともなく姉貴に聞く

「それってどんなやつだった?」


すると姉貴は

「面白い名前の子だったわよ。確か…」


「夢亜。だろ?神崎夢亜」

すると姉貴は今度はこちらを向いて首を傾け、


「へぇー。じゃああんた付き合ってんだ?」

と聞いてきた。


一瞬の沈黙の後、姉貴は1人で納得したように

「そんなわけないかー」

 と言ってテレビを見つめる。


俺は少しイラッともきたが

「さすが。俺の姉貴なだけはあるな」


と俺が唯一"普通じゃない"部分である

『姉貴への尊敬』を見せた。


「でだ、姉貴。」


姉貴は首を傾けたまま俺の話を聞く。


「姉貴は"愉快部"のOBだというありえないようなお話を耳にしたと俺が言ったら驚くか?」


姉貴は全く動揺も見せない。


――――全くこの人間は手ごわすぎる。


「姉貴答えろ」

姉貴はまたにんまりと笑い、


「そんなに気になることかしら?」

という。


「もちろんだ。俺の今後の生き方に関わる!」


「あんたまだ"行き過ぎないように、活き過ぎないように生きる"なんてことやってるの?」

 姉貴が俺に明らかな愚問をぶつけてきた。


まぁ、姉貴のことだから半分以上はからかいの心で言っているんだろうが。


「当たり前だ。俺の中の不動の信条だからな」


姉貴は俺を呆れたように見つめて、


「まあいいわ。たしかにあたしは"愉快部"にいた。あんたが聞きたいことは多分、"愉快部の活動"についてでしょう?」


姉貴は俺の心を読んだように言い当てて見せた。


「話が早くて助かる」


で教えてくれ、と俺が聞く前に姉貴が一言、


「そのままよ。学校を"愉快"にすればいいのよ!」

とドヤ顔で俺の顔の3センチほど前まで一瞬で詰め寄り言い放った。


――――は?

学校を"愉快"に?

どういうことだよ!


「つまり!"愉快部"とは学校の何でも屋のこと!いろんな生徒とか先生とかの助けになるのが仕事ってわけよ!」


 姉貴の目が輝き出し、もう俺にはどうしようもないほどに姉貴がはしゃぎ出したので俺は睡眠に逃げる事にした。

 だけどその前にひとつだけ、


「おい姉貴!その話電話の相手にもしたのか?」


俺が自室のある2階への階段を登りながら姉貴に聞くと、


「あんたまだあたしのことわかってないの?」

とにんまりと笑う顔が目に浮かぶように姉貴が階段の下から言う。


――――そうだった。

俺はここをどこだと思っていたんだ。

俺以外の家族の頭がぶっ飛んでいる"時咲家"だ。


しかも話していた相手はあの"姉貴"だ。


姉貴が面白いと思う方、すなわち

夢亜に俺に話したことと全く同じもしくはもっと話を盛って話したに違いない。


きっと夢亜も姉貴のように目を輝かせていたんだろう。


これだから俺は姉貴が苦手なんだよ!


――――――――――――――――――――――――



 翌日は朝から雨が降っていて、なんか早く帰らなきゃとてもめんどくさい事に巻き込まれそうだったので、俺は足早に昇降口から帰ろうとしたが待ち伏せしていた夢亜にあっさり捕まった。



「ということでー!ここが今日から愉快部の部室でーす!」


 夢亜はいつにも増して元気なようで小さくぴょんぴょん跳ねながら俺を生物準備室に入るように促す。


「夢亜。いつ俺の家の電話番号知ったんだ?」


 俺は自分でも唐突だとわかるほどに唐突に夢亜に聞いてみた。

すると夢亜は


「夢亜は悠くんの将来お嫁さんになる人だからー。知っててとーぜんでしょ!」

と胸を張ってみせる。


「さいですか」


俺は夢亜に常識的な返答を求めたことを後悔してもう一つ夢亜に聞く、


「姉貴から聞いたか?愉快部のこと」


すると夢亜は満面の笑みで


「聞いたー!楽しそうな部活だよねー」

と目を輝かせて言う。


やっぱりか。

 あの姉貴あとで仕置きだな。


「てゆうか、悠くんのお姉さんていい人だねー?なんか優しそうだし、悠くんに似てかわいいだろうし」


 夢亜は何を期待しているのか、ワクワクオーラを体に纏わせながら俺に聞いて来た。


「そうかな?姉貴をそういう感じで見たことないからわかんね」

 と、俺は自分的にはベストな答えだったと思う返答したのだが夢亜は何か怒ったように頬を膨らませて


「そこは『夢亜の方がかわいい』って言ってほしいなー」

と小さく言った。


――――そうか!

危なかった。姉貴を女として見ていないからつい言ってしまってもおかしくないセリフだった。


そんなこと言ったら今度こそ夢亜の餌食になる。


もちろん比喩だが。


「で、姉貴はなんて言ってた?」


「えーとねー」

 夢亜はカバンから何やら紙を取り出してそれを読み上げた。


「愉快部の仕事は"学校を愉快にすること"である!その方法とは、生徒のお悩み解決場として生徒からの学校内、外の悩みを解決するに尽きる!」


 何か政治家のように夢亜は力強く読み上げる。


 姉貴め、夢亜にこうやって読むように言いやがったな。


「具体的な悩みを集める方法とかは言ってなかったのか?」


 俺が聞くと夢亜はまるで姉貴を見て来たかのように

「あとはあんたたちでがんばってね!てことでお姉さんはここまでよ!、だそうだよー」

 と言う。


思ったより夢亜の姉貴マネが似ていたせいか俺は少し夢亜の方を見て


「あのクソ姉貴め!」

と言ってしまった。


 夢亜は俺の態度にびっくりしたのか少し涙目になって


「そんなにおこんないでー。将来の夢亜のねぇになるんだからー」

 とボケなのか本気なのかわからないトーンで言う。


――――その言い方はずるいだろ。

 俺は思わず上がった体温を誤魔化すためにわざと話題を逸らす。


「悩みの集めかただが、どうするよ?オーソドックスに目安箱でも作るか?」


――――それが一番"普通"だし。


「それじゃダメだよー。もっと相談したくなるようなものにしなきゃー」

 夢亜は珍しくまじめに考えているようであっさりと俺の保守案は却下された。


「まぁ、それはまた明日みんなと考えればいいだろ」


 本当はもう帰りたい。という本音をこらえながら俺が提案すると


「そーだねー。帰ろっか」

と夢亜も帰りたかったのかあっさり同意する。


――――ん?

おかしい。

なぜこんなに夢亜が俺に従順なんだ?

 いつもなら

「えー!夢亜まだ悠くんと2人でいたいー。できれば、一生」

 とか言ってくるのに。


「悠くんー?鍵閉めちゃうよー?」


夢亜がドアの前に立って俺を呼ぶ。


――――はっ!

まさか夢亜のやつ!


「その前にひとつ聞いていいか夢亜?」

 俺がちょっと真剣なのに夢亜はなぜか顔が笑ってしまっている。


「なになに悠くんー?」


「お前傘持ってるか?」


「もってないよー」

 笑った顔のまま夢亜は答える。


「じゃあ帰りは車か?」


「ちがうよー。ついでに言うと次、悠くんが聞こうとしてる夢亜はねぇといっしょに帰るのかって質問もノーとこたえるよ!」

 夢亜はドアの前で自慢げに言う。


それで俺は全てを悟った。

「つまり俺は夢亜と相合傘して家まで送って帰んなきゃいけないってことか」


夢亜は姉貴の顔を写したようににんまりと笑い

「まさか傘のない女の子を置いてくなんて"普通じゃないこと"しないよねー?」

 と言った。


――――またこのパターンか。

なんで俺はいっつもいっつも最後になって気付くんだ


男の心の叫びは空気に振動することはなかった。


 代わりに

 ひとつ傘の下、

2人の若者のいつもよりちょっぴり大きい心音だけが雨の中に小さく響いた。

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