優男ですから。
……はあぁ。
隣で慧介が何回目かわからない大きなため息をつく。
こいつが俺の部屋に無理矢理転がりこんで来てから、はや30分が過ぎていた。正直いい加減帰ってほしい俺は、さっきから何度も追い出すための口実を、考えては声をかけ、考えては声をかけを繰り返しているものの。
「やめろよ、こっちまで気分重くなるだろー」
「……だぁって、」
……いつまでたってもウジウジウジウジしているため、半分呆れて、半分面倒くさくなってきていた。
いい歳した男が女々しいったらありゃしない。
事の発端は至って単純なものだった。なんでも彼女と喧嘩……ではなく、今までコンビ組んで音楽活動やってたやつとすれ違いになったとかなってないとか。しかもこれ、今日に限ったことじゃない。
俺なんか全然関係ないんだけど(つーか相手のやつ――確かヨウキ君だかっていったか――とは一切面識もないのに)、彼氏のやつ(みたいなもんだろ)となにかあるごとに俺に仲裁(?)させようとする。そして優男の俺はその度に頭を悩ませ解決の糸口を探してやっている。こいつらが今まで二人でやってこれたのは、俺という存在のおかげと言っても過言じゃない。まぁ高校で一番仲良かったからって関係ないやつ巻き込むなよって話だけど。
大学違うんだから同じ大学通ってる話通じるやつにしろよ、面倒くせぇ。……まぁそんなこと言って無理に追い出したりなんてひどいことはしねーけど。俺優しい。マジでいいカレシになれるわ。彼女作る気ないけどな!
「……毎回思うけどさ、お前らの問題なんだからお前らでちゃんと話し合って解決しろよ。俺だって毎日暇人やってるわけじゃないしさぁ」
「わかってるけどさぁ……………」
やめろ、泣きそうになるんじゃねぇ!!俺の良心が痛んじゃうから!!
……全くどうしたものか。慧介から話を聞くだけだとどうしても彼氏が悪く聞こえる。微妙に話盛ってる気もしない訳じゃないし、だからといって仮にも高校3年間同じクラスだった俺らの仲だから簡単に疑ってしまうのもどうかと思うわけで。
「でもやっぱりどう考えても葉生が悪い!」
ダンッ……って、やめろ!それ俺の机なんだからな!結構気に入ってんだからな!?
「勝手にいろいろ決めやがってたんだぜ、俺に相談も無しに!!せっかく二人で決めた約束だったのに簡単に破るなんて!ふ、二人で、ちゃんと話し合ってから決めようって、言、ってたのに、…………」
「おーおー、もうわかったって。もういいからもうわかったから、お前の言いたいことは。そろそろ落ち着け、ノイローゼになりそうだわ、俺が」
そう、俺が。
「いつまでもいじけてたってなにも解決しねーけど?」
「だから陽人のとこに来たんじゃん」
「そうじゃなくてさぁ……」
面倒くさい。女々しい。イライラする。たのむから俺を巻き込まないでくれ、俺だって提出しないといけない課題がまだ残ってんだっつの。
暫しの沈黙。
あーあ。ここまでくると俺もただのお人好しだと思えてくる。ちぇっ、何か解決する術はないのかぁ……?
もう一度状況を整理してみる。
慧介の彼氏が「二人のことは二人で話し合って決める」っていう約束破ったんだったよな。こいつはそのことでずっと拗ねてぐずぐずしてる、と。それで俺は毎度のことながら、関係ないのに巻き込まれてる。理不尽極まりねーな。
――――ん?まてよ?
「……つーかお前、お前こそある意味約束破ってね?」
「は!?なんで、どこが!!」
慧介が一瞬「へ?」って顔した後、「いやいやアリエンティー(ありえない)だろ」とでも言いたげに眉間にシワをよせて叫ぶ。
構わず俺は言葉をつなげる。
「さっきも言ったけどさ、お前らの問題はお前らで解決しろよ。二人で話し合って解決するって決めたんだろ」
「……?おう」
「……だから、なんかことあるごとに俺んとこ来るけどさ、それってなんの解決にもなってないわけよ。そこまでわかるか?」
「おう」
「なんかあったら二人で話し合うって約束なんだろ」
「……あ」
「だったら今話する相手は俺じゃない。そうだろ」
「――――っ!」
俺か丁寧に説明してやると、慧介は、がだっ、だだだだだっばだんっ!なんて物騒な音を立てて、俺の部屋を飛び出していった。荷物半分置いたまんまで。どうしろってんだよ、これ。
全く手のかかるやつだな、と思いつつ、なんかおかしくてつい笑みがこぼれた。
「ひーーろーーひーーとぉぉぉぉおおおおっ!!」
「うるっせぇぇええっ!!」
なんだよ、なんなんだよ!!あの一件(あれだよ、約束がどうのこうのってやつ)以来、しばらくの間俺のところにぱったり来なくなって「あいつら、うまくやれてっかなー慧介が来ないは来ないでなんか寂しい気もすんなー」なんてことをしみじみ考えてた今日このごろだったっていうのに!腹立つわーなんでいい感じのタイミングで来るかなー。
「葉生に彼女ができた!ムカつく!!」
「おーおーそりゃムカつくなー」
「なんだよ、俺への扱いがいつもよりどことなくテキトーだぞ?!」
「だってどうでもいい話題だったから」
「うるせぇ!自分モテるからってよゆーこきやがって!」
「そーだなー最低でもお前よりはモテてる自信あるわ(棒)」
「ムキーーッ!!」
つか恐ろしくナイスタイミングで来るお前の方がなんかムカつくっての。
まぁ結局話し相手になってやるけどな。俺ってやっぱり優男だな、こいつと違って!
「ちょっと聞いてんのかこのタラシ」
「あぁ?いくら俺が優男といえど今のは聞き捨てならんな歯ぁ食いしばれカマチョ野郎」
「なっ……暴力反対っ!!」
「誰のせいだよマヌケが」
陽人「オチ?んなもん捨てた←」
慧介「おい!」