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裏返し  作者: 愛松森
第一章 四国旅行
9/12

二日目 part3

その後も続々と山女魚は釣れていく。


悟チームの方からも、控えめの歓声が聞こえてくる。


「いよいよ、あっちのチームもつれ始めたわね。大丈夫なの七葉。またケンカ売らなくて」


皐月がちょっかいを出す。


「騒いだら魚が逃げたら嫌だから、今は止めとくよ。でも、言う時には言うから任せときや」


小学生とは思えない頼もしさである。ここぞという時には、何かを起こしてくれそうなそんな予感を刺せる。


真琴もあれから一匹を釣り上げ、絶好調であった。


我ながら初心者にしては、良くやっていると思っている。


また、悟チームで歓声が上がる。弥生が淡々と魚をクーラーボックスに入れている。続いて、桜が釣り上げて、同じように淡々とクーラーボックスに移した。


悟チームが釣れ始めると、七葉チームの手が止まり始めた。さっきまで次々に釣れていたが、また沈黙の時間に入ってしまった。


歓声を上げた回数は、悟チームが四回、七葉チームが五回と、一匹分七葉チームが勝っていると思われる。


だが、この悪い流れが続くとすぐに逆転されてしまう。


真琴は、隣に座っている楓を見た。どうやら、勝負にこだわっていない楓はお気楽にただ釣りを楽しんでいるように見える。


真琴の視線に気が付いた楓が真琴に顔を向けた。


「どうかした?」


「あと残り時間どれくらいなんでしょう」


真琴が尋ねる。


「私の腹時計によると残り、あと十五分というところだと」


背後にいた皐月が答えてくれた。


「確かに後十五分だ」


七葉は自分の腕時計で時間を確認してくれた。


それにしても、皐月の腹時計は恐ろしく正確なのである。食に通じる人は、腹時計も性格なのだろうか。


「じゃあ、このまま逃げ切れるかもしれませんね」


「そうだといいんだけど。そうはいかないのが勝負なのよね」


それだけ言葉を交わすと、四人は集中して自分の仕事に取り組み始めた。


その矢先、悟チームからまた歓声が聞こえてきた。これで同点である。だが、勝負は何匹つれ高ではなく、何グラム分つれたかであるので、まだ勝負のゆくえはわからない。


そして立て続けに悟チームから歓声が上がった。二匹分の差を付けられてしまった。


そうこうしているうちに十五分経ってしまった。勝負終了のアナウンスがかかった。


結局あれから一匹も釣れなかった。合計五匹に終わった。


元居た桟橋に戻る。両チームのクーラーボックスがボートから下ろされた。


「ええ、これより釣った魚の重さを測定します」


悟の司会で釣った魚の測定がはじめられた。


桟橋に用意されたはかりに、両者が釣った魚を乗せていく。メモリは見えないように紙で隠されている。


「それでは、結果発表です」


(あれ、悟チームの魚が五匹だけなんだけど。歓声は確か七回あったはずなのに)


悟がはかりに張られている紙を一斉にはがした。


「俺チーム、九百グラム。そして、七葉チーム一キロ二百グラム」


司会をしている悟の声のトーンはガタ落ちだった。


「わての勝ちでええよな」


七葉ががっかりしている悟に迫る。悟は黙って頷いた。


「でも、なんで七匹釣り上げたのに五匹しか計りに乗せてないんだ?もし、二匹を乗せてたらわてにも勝てただろうに」


悟の目に光が戻ったのを真琴は見逃さなかった。


「だから、お前は先の事を冷静に考えることが出来てないんだよ。俺が逃がしたのはメスで、腹に卵を持ってた。だか、それを取ってしまったらこの池にいる山女魚にとって大損害だろ。だから俺は逃がしたんだ」


ドヤっと言わんばかりの顔である。七葉はその言葉を聞いて俯いてしまった。


「わてには、先を読むことが出来んかったんか・・」


悟はその言葉を聞いて、御満悦の笑顔である。


「とでも言うと思ったか!!」


七葉は俯いた顔をあげた。その顔は満面の笑みであった。


「悟の事だから、メスの方がオスよりも圧倒的に重いことを知った時に、わてのチームがメスが何匹釣っているかを考えたんだろ。もし全部メスだった場合、五匹オス、二匹メスでは危ういかもしれない考えて、あえてメスを逃がすことで、万が一オス五匹で負けたとしてもさっき言ってた先が見えていないという口実に持ち込み負けを認めさせる算段だったんだろうけど」


七葉はまくしたてるように早口にそういう。悟は黙ってそれを聞いていた。


「でも、残念だったね先を読めていなかったのは悟の方だよ。わては、悟の事だからメスは逃がすだろうと思って、あえて自分のメスは逃がさなかった。一匹だけならそんなに生態系にも影響しないだろうから。どう、これでも何か言いがかりがあるならどうぞ」


完全な喧嘩腰である。


「そうだな、読めていなかったのは俺の方かもしれない。だが、俺は別にせこいことを考えて逃がしたんじゃねえ。生態系の事を考えてのことだ。そこんとこちゃんと覚えとけよ」


「どうとでも、ほざいてればいいよ」


「なんだと」


二人のやり取りは、しばらく続いたがその他の人はさっさとロビーの方へ歩いて行ってしまった。真琴と光輝は、その場に残り道具の返却の手伝いをした。


毎週日曜更新です。

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