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裏返し  作者: 愛松森
第一章 四国旅行
7/12

二日目 part1

翌日、目を覚ますと天窓から朝日が差していた。時計は、午前五時三十分を指している。


真琴は、ベッドから降りると昨日風呂に入る前に眠ってしまったことを思い出した。すぐに着替えを用意して、風呂に湯を張った。


七葉のことを思い出して、少し気持ちが沈む。会いたい人に会えないということの辛さは、耐え難い。しかもその人が本当は傍にいるということを知っていればなおさらだろう。


真琴は、風呂に入って、髪を整え、光輝の部屋に内線で連絡する。


電話はあっさりつながった。


「おはよう、良く眠れた?」


「うん、眠れたよ。昨日は七葉ちゃんとお話してたの」


「そうなんだ。朝食は、ホテルのレストランなんだけど、僕が適当にパンとか取ってくるから、部屋で一緒に食べない?」


「いいよ。でも、他の皆は?」


「せっかく、二人で旅行しに来たんだから二人で食べても誰も文句は言わないと思うよ。それに、話しておかないといけないこともあるから。六時半ぐらいにそっちに行く」


「了解。それじゃあ、コーヒーの準備だけしておくね」


電話を切って、真琴はお湯を沸かし始めた。


まだ、六時半まで三十分ほどある。せっかくなので、持って来た本を読んで時間をつぶすことにした。


六時半ちょうどに光輝が、バケットにクロワッサンなどを詰めてやってきた。バケットには、数種類のパンとパックに入れられた生野菜が入れられていた。

真琴は用意していたコーヒーをテーブルに並べて、二人は座って朝食を食べ始めた。


「話しておきたいことって何?」


「まだ、真琴に言ってなかったんだけど、じいちゃんは明日の四国支部の忘年会に合わせてこっちに来るらしいからそれを頭に入れておいて」


そういわれて、まだ光輝の祖父にお目にかかっていないことを思い出した。昨日は光輝の従弟たちとの出会いがあって完全に祖父のことを忘れてしまっていた。


「分かった。それじゃあ、明日お会いできるってことだよね」


「まあぁ、じいちゃんの予定が空いてればの話だけど、たぶん開けてくれてると思うからたぶん話くらいはできると思うよ」


そう聞いてうれしかった。ずっと前から光輝から祖父の話は聞いていた。今回の旅費も祖父が出してくれているのである。そのお礼も言わなければならない。


「あともう一つ話しておきたいのは、七葉の事なんだけど。昨日話したなら、少しは本人から聞いてるかもだけど」


「うん、多少は頭に入ってるよ」


「それでもあいつは、自分一人分しか完全に把握できてない。残りの六人の事も多少は知ってるようだけど、意識も記憶も別々だから完璧といえないだろ」


「まあ、そうだけど日記を付けて意思の疎通を図ってるらしいけど」


「それは初耳だな。七葉がそう言ってたのか?」


「そうだよ」


七葉が長年一緒に過ごしてきた光輝に日記の事を話していないということを不思議に思った。だが、近しい人ほど言いにくいということもあるのだろうと思い深く考えることはしなかった。光輝もあまり気に留めていないようである。


「七葉ちゃんは、生まれた時から多重人格だったの?テレビで見たことあるんだけど、何かショックなことがあって人格が生まれるって」


「あったよ、七葉にも辛いことが。でも、今は食事中だからさ、あとで話すよ」


「うん」


食事中に話せない内容ということは、それだけで大体内容は察しがつく。


「今日の七葉は、悟に似てるから聡明で、先読みにも長けてる。それにあの口の悪さも。会ってみたらわかると思うけど、昨日の七葉とは別人格だから、注意しておいて」


「具体的に何を注意したらいいの?」


「そうだね・・・、こっちからしたら七葉は初対面の人じゃないだろ、昨日会ってるんだから。でも、今日

の七葉はまだ真琴に会ったことがないんだよ。さっき言ってた日記で、昨日の七葉が今日の七葉に伝えてくれていれば話も多少変わるだろうけど、ほとんど初対面に近いから、あまり馴れ馴れしく話しかけたら気を悪くするかも。あと、別人格の七葉について話したら、どの七葉も怒るから気を付けて」


「分かった」


光輝がここまで忠告してくることは、そうそうない。というより、注意を促されたのは初めてのことである。大抵、光輝はいつも傍にいてくれてうまくことが運ぶように場を取り繕ってくれる。


朝食を食べ終えて、片付けをした。光輝も片付けを手伝ってくれ、ほんの数分で終わった。


「それじゃあ、七葉の過去の話をしようか。気分が悪くなったら言ってくれ」


頷いて、返事する。


「七葉が幼稚園に入る少し前、七葉は父親と母親と三人でここに遊びに来てたんだ。そのころはまだ、多重人格者じゃなくて普通の人だった。ちょうどその時、僕や他の従弟たちも一緒にここに来ていて、数日一緒に過ごした。その後、七葉の一家が先に帰宅することになって、皆で見送ったのが最後に本当の七葉に会った時だった」


光輝は、フーっと息を吐いて、一呼吸吐く。


「その日の帰り道、高速道路で逆走してきた自動車と正面衝突して、母親と父親は即死だった。奇跡的に七葉だけは、助かったけど事故の衝撃で半年寝たきり。親族の大人たちは、みんな七葉の両親の葬式とかで慌てたから、僕たち子供で交代交代で毎日七葉の見舞いに行ってた。とはいってもまだ、小学校低学年から幼稚園児だった僕たちは、何もできなかったし、ただ寝ているだけのように見えた七葉に話しかけるだけだった」


光輝は無表情で、淡々と話を続ける。その無表情は、まるで自分の感情を殺している仮面のように思えた。


「それから半年後に七葉が目を覚ました。でも、その時は前の七葉じゃなかった。まるで別人だった。それが七葉が多重人格者になった時だった。脳の検査をしたり、名医に診断をしてもらったけど、治療法は愚か、原因も曖昧にしかわからなかった。七葉が目覚めてから、数日後に判明したのが、僕たちが見舞いに行っていた順番に、僕たちに似た人格が現れるってことだった。月曜日は、僕。火曜日は、楓。水曜日は、皐月。木曜日は、弥生と桜。金曜日は、じいちゃん。土曜日が、ばあちゃん。日曜日が、悟。この順番通りに、七葉の人格は変わって行った。もちろん、そっくりそのままとはいかないけど、僕たちに似た特性を持った人格を七葉は持ってる」


「それじゃあ、昨日は光輝のおばあちゃんに似た人格だったってこと?」


「そうだよ。ばあちゃんは、三年前にあの世に召されたけど、あんな感じにいつも明るくて、溌剌としてた」


にはかには信じがたい話だが、実際このことが七葉の身で起きたのだ。それを目の当たりにしていることすらも、信じられないでいた。


「そんな、暗い顔しなくてもホラーって訳じゃないし、どの七葉も七葉だし、僕は七葉のことを尊敬してるから」


「そうだね。大丈夫、心配しないで。私も七葉ちゃんの思いは知ってるから」


「それならいいんだけど、例え真琴でも七葉を偏見の目で見たら許さないから」


「珍しいね、光輝がそんなに真剣なの。分かってるよ。光輝はそういうの嫌いだもんね。私も一緒だよ。偏

見なんてするはずないでしょ」


「一応確認しただけだよ。真琴のことは信じてるから、本当は何も心配はしてないから」


そういうと、光輝はいつもの笑顔に戻った。真琴も笑い返す。


それから、昼ごはんまで二人は部屋で雑談していた。



今週は短くなってしまいました。

来週は用事が立て込んでいるので、休みます。次の更新は再来週の日曜日です。

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