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裏返し  作者: 愛松森
第一章 四国旅行
4/12

初日 part3

その後は光輝が迎えに来てくれるまで、ログハウスを探索することにした。探索するといってもさほど広いわけではなく、トイレ、風呂、中二階にあるベッド、リビング、ベランダくらいのものである。


中二階には、梯子を上っていく。上に上がると、シングルベッドと読書灯と背の退く棚が置かれていた。ベッドに寝転がると、ゆっくりと体が沈みこんでいくのを感じる。ふかふかの布団である。読書灯の下に置かれている棚に、持って来た本を置いておいた。


再びリビングに降りて、次はベランダに出る。レースカーテンを開けて、大きな二枚戸の窓を開ける。ベランダには、革製のサンダルが置かれていた。それに履き替えて、ベランダの木製の柵に近づく。


視界一面、大きな写し鏡のような大きな池である。太陽の光が反射して、きらきらと輝いている。遠く対岸のあたりに、桟橋のようなものがあり、ボートが数隻止めてあるのがわずかに見える。柵に身を任せて、下を覗くと青みがかって透き通ったきれいな水。池の底まではっきりと見え、メダカほどの大きさの小魚が群れている。


自然に囲まれたこの空間は、いつもの都会の息苦しさを忘れさせてくれた。都会の刻一刻と大きく移り変わっていく風景とは違って、動くもののほとんどないこの景色を見ていると、ここの時間はゆっくり流れているのかと錯覚してしまう。それほど、この景色にほれぼれしている。冷たい空気も今は、気にならない。


目を閉じて、耳を澄ませば、風の音、鳥のさえずり、木々の葉が微かに擦れる音がする。人工の音がしない。車の音もなければ、足音もしない。


十二分に満喫してふと正気に戻ると、体が冷え切っていることに気が付いた。あわてて、部屋の中に戻る。


暖房はかかっていないので、室内も少しひんやりとしている。エアコンの電源を入れて、中二階の布団に包まる。横になって体を丸める。


五分後に来ると言っていた光輝はまだ迎えに来てくれない。逆に呼びに行こうかとも思ったが、どのログハウスなのかは聞いていなかったから、行こうにも行けない。仕方なくベッドの上でじっと待つしかない。


エアコンの羽が動く音がカタカタと響く。ほのかな日の光が天窓から照らしている。


チャイムが鳴って、光輝が入ってきた。真琴は、中二階から顔を覗かせる。


「どう、気に入った?」


「うん、サイコー」


光輝はクーラーボックスを持っていた。


「そのクーラーボックスは?」


「楓姉ちゃんに、持たされた。缶ジュース二十本だって。子供連中が飲むようなものはあまりおいてないから、自前で持って来たんだって。そろそろ昼ごはん食べに行かない?」


壁にかかった時計を見ると、もう十二時を過ぎている。それを見て、急に空腹感を覚えた。


「お好み焼きだよね」


「皐月が作ってくれるからきっとおいしいと思うよ」


「楽しみ」


真琴は梯子を下りる。必要なものだけ持って、光輝と二人でロビーのある大きな煉瓦つくりの建物へ。ロビーの自動ドアを通って、螺旋階段で二階に上がった。床はつるつるに磨かれた白い石タイルと少しごつごつした黒い石タイルでできていた。高い天井にはシャンデリアがある。


二階に上がり、突き当りの二枚扉の部屋に入った。中には既に何人かの人がいて、テーブルに座っている。全員子供で、おそらく光輝の従弟たちだろう。


「遅かったな、光輝」


一番手前にいた高校生ほどの男がこちらを振り向いて、あいさつがてら手を挙げている。光輝も手を挙げてそれに応じて、テーブルに近づく。


「お前たちが来るっていうのは、僕の予定にはなかったから。別に待たせてすまないなんてことは少しも思ってないからな」


「そんなこと言いながらも、何持ってきてくれたの?」


楓が、エプロン姿で隣の部屋から入ってきた。光輝はクーラーボックスを楓に渡し、楓がその場で蓋を開けた。従弟たちは、顔を覗かせてその中身を確認した。


「ジュースだ。やったー」


小学生と思われる少女が、歓声を上げる。


「ジュースか」


他の人はそれだけ言って、元の席に座った。


遠巻きに見ていると、事前に光輝から言われていた従弟たちの情報がそのまま当てはまってきた。まず、最初に声を掛けてきたのが悟、歓声を上げたのが七葉、ヘッドホンをしている子と、イヤホンをしている子は瓜二つで、一方が弥生でもう一方が桜だろう。


「どうせ、楓が光輝に持たせたんだろ。光輝がそんなに気が利く奴じゃないってことは皆しってるからな」


悟が吐き捨てるように言う。


「そうなの光輝兄ちゃん?」


七葉が、光輝に迫る。


「大体、僕がここにこれを持って来たのは別に自分の手柄にしようと思ったわけじゃなくて、ただたんに、楓姉ちゃんに持って行けって言われたからで・・」


「私はそんなこと言ってないからね」


楓は知らないふりをする。光輝はお手上げ状態のように見える。


楓がクーラーボックスを隣の部屋に持っていこうとしたとき、目配せで真琴に合図した。隣の部屋に通じる扉を開けて欲しいのだと、承知した真琴は楓の隣をついていく。


扉を開けるとその先はキッチンだった。四人ほどが同時に調理しても余裕があるほどの大きなキチン。扉を開けた瞬間に、お好み焼きのおいしそうな香りがした。一人で調理している人がいるが、この人が皐月だろうと思った。


「真琴さん、ありがとう。助かった」


「いえいえ」


楓は大きな業務用の冷蔵庫に持って来たジュースを入れていく。真琴もそれを手伝った。


「あなたが、光輝の彼女さんなの?」


振り向くと、皐月が顔をこちらに向けながら調理していた。


その顔に見覚えがあるような気がして、真琴はしばらくじっと皐月の目を見ていた。


「何かついてる?」


皐月は、腕で自分の顔を拭う。


「もしかして、雨宮皐月さんですか」


雨宮皐月は、自身の料理雑誌を持っているミシュラン二つ星の料亭の副板前長として広く知られている。最近はそのビジュアルの良さも買われて、TV出演している。高校生女子の間では、たまに話題にでる。光輝の従弟は全員が山瀬だとおもっていたので、気が付くのが遅れた。


「そうだけど、私のこと知ってくれてるんだ。うれしいな」


「皐月はそんなに有名なの?」


楓はそんなに気にしていないようだが、真琴は有名人を目の前にしてテンションが上がった。


「私の高校の女子ならたぶん全員知ってると思いますよ」


「困ったな、そんなに知名度上がっちゃたら、外に遊びに行けなくなるかも」


皐月は、しゃべりながらも手は休むことなく動いている。


「私の事知ってるようだけど、一応自己紹介しておこうと思いまーす。作業しながらになるけど、勘弁。雨宮皐月、高校一年、十六歳、性別女。現在独身、彼氏なし。幼稚園年少から包丁を握り、中学生の時に府の料理大会で優勝。父の料亭の副板前長を務める、天才高校生と評価されていますが、実の所勉強はてんでダメで校内ワースト五位。料理以外に取り柄のないただの平凡な高校生。ということぐらいかな。あと、一番好きな料理は味噌汁。嫌いなのは、甘いもの」


一息おいて、皐月は焼きあがったお好み焼きを鉄板から皿に移していく。


「今度はあなたの番ね」


「村上真琴、高校二年、十七歳。特技と言えるようなことは何一つないけど、女子の割には力持ちかな。最近は光輝の影響で写真に興味を持ち始めて、アシスタントとして光輝について回ってる。いろいろとあって、校内では割と有名人。先生にも目を付けられてて、少し肩身の狭い思いをしてるけど、周りの友達がすごくいい子でその人たちに支えられてる。基本、一人では何もできない頼りない人」


焼きあがってますますお好み焼きの良い香りが広がる。


「そんな風には見えないけど。そうだ、真琴姉ちゃんこれを光輝たちのところに運んでくれる?楓姉ちゃんも」


「わかった。マヨネーズとお好みソースはお好みでいいんだよね」


「どうせ、私がちょうどよくかけてても、悟にお好み焼きはソースとマヨネーズをかけることが醍醐味なんだ、っていわれるでしょ。嫌味言われるのもうこりごりだから」


了解、と楓は言うと真琴の一緒に並べられたお好み焼きを持って光輝たちのいる部屋に行く。光輝たちは、机に座ってトランプをしていた。


「ほら、もうできたからさっさと片付けなさい。冷めるとおいしくないから」


楓が言うと、すぐに手を止めて、食べ終わったら再戦だ、次は勝つから、勝てればいいね、などとお互いに言い合いながらも、片付けをする。


片付いた後に、お好み焼きを配った。


「ソースとマヨネーズはここに置いておくから、好きにかけてな。真琴さんも一緒に食べたらいいよ。朝から長旅で疲れているだろうし、お腹いっぱい食べてね」


「ありがとうございます」


真琴は光輝の横の席に座る。正面には、七葉。七葉の隣に弥生と桜、光輝の横に悟が座っている。


「お姉ちゃんが、光輝お兄ちゃんの彼女さん?」


正面に座っている七葉が話しかけてくれた。


「そうだよ」


こんなに幼い子と話したのは久しぶりなので、出来る限り優しく振る舞う。


「七葉、真琴姉ちゃんって呼んであげて」


横から光輝が割り込んできた。


「真琴さん、初めまして山瀬悟です。よろしく」


「こちらこそ、よろしくおねがいします」


斜め前に座っている弥生と桜は黙って、先にお好み焼きを食べ始めていた。各々ソースをかけて、食べ始める。


「おい、光輝。なんでマヨネーズ、ハーフじゃないんだよ」


「どっち買おうかってまよったんだけど、こっちの方が安かったから」


「出たよ、男なら迷った時は黙って両方買ってくるんじゃないのか。一方だけ買うなんて、あいえない。俺がもしそんなことしたら、迷わず死を選ぶね。ここの窓から飛び降りてもいいぞ」


真琴は思はずふいてしまった。「死を選ぶ」というフレーズがツボにはまった。


「笑ってくれる人がいてよかったね、悟兄ちゃん」


「ごめんなさい、つい、面白くて」


笑いながも謝罪の言葉は言っておく。


「一応、これ俺の持ちネタだから」


「悟は、死を選ぶっていうフレーズが好きで、何か文句をいう時にはいつも言うんだよ。最初の頃はみんなでわざと怒らせて、そのフレーズをわざと言わせてみんなで大笑いしてたんだけど、さすがにもう飽きたから、最近はみんな無視してたかな」


悟は文句を言いつつも、満足気な顔でマヨネーズを豪快にかける。七葉もソースをかけて、かぶりつていた。


「真琴さんは、俺と同い年だよね」


悟が今度はソースを豪華にかけながら話しかけてきた。


マヨネーズの上からソースをかけている人を初めて見た、と口から出そうになったがなんとか思いとどまった。


「そうですけど」


「将来の夢とかってもう決めた?」


「漠然とですけど、一応は」


「何になりたいの?」


「再生エネルギーの研究とか、社会に直接還元できるような研究をする研究者になりたいなっておもてますけど、なかなか具体的な内容が決まらないんですよね。悟さんは、プロ棋士としこれからも活動されるんですよね」


「いや、俺は高校卒業したら将棋を止めて、考古学を専攻しようかって考えてる。目の前にいる人の考えを先読みすることに飽きたから、次は昔の人の考えを読み解いてやろうかなって思って。大抵人の行動や言動にはその人の意図があるから、それを読み取るのって楽しいと思わない?この場合、先読みというか、後読みっていう方が正しいのかな。その後読みをしてみたいなって思ってる」


真琴は、ソースとマヨネーズをかけて一口食べた。いままで口にしたことが無いほどのうまみが口全体に広がる。口に入れて、優しく溶けていく。おいしい。お好み焼きのソースの味を上回る、生地のポテンシャルを感じる。


「すごいですね。棋士を止めるのは、少しもったいないような気もするけど、立派な夢だと思いますよ」


「こんなこと言ったら、親には諭されたし、楓にも鼻で笑われましたけど」


その後も、七葉や悟、光輝と話しながら食べ進めた。あまりにもおいしかったので、たまらずおかわりしてしまった。最後まで弥生と桜と話をすることはできなかったが、他の人たちとは話をすることができ充実した昼ごはんとなった。


なかなか展開が進まず、私自身、初日に何part使うんだよ、と思ってますが、時期に展開を早めていこうと思います。

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