二日目 part5
真琴と七葉は二人で、ロビーのソファに座って、ジュースを飲みながら話の続きをしている。
「この前ね、悟が将棋の本を真面目に読んでる時があったの。でも、悟は本なんかほとんど読まないから、変だなって思ってちゃかしたら、本気で怒ってきて。後でその本を読んでみたら、ある高校生女流棋士の特集で、楓姉ちゃんに聞いたらその人が悟の彼女なんだって」
七葉は、笑顔でしゃべる。話すことが本当に大好きなのだと分かった。悟も嫌味なところは、あるが饒舌で
話すことを楽しんでいる。やはり、七葉の性格もしゃべり方もどことなく悟に似ていた。
「その女流棋士の名前って憶えてる?」
「それがさ・・・、覚えて無いんだよね。楓姉ちゃんに聞いたらすぐにわかるんだけど、わいはそんなこと気にも留めて無かったから」
「そっか、でも悟さん彼女さんがいるとは思わなかったな」
それを聞いて、ジュースを飲んでいた七葉が吹き出しそうになった。必死に口を押えて我慢している。口の中にあったものを腹に収めると、大声で笑い始めた。
「やっぱり、真琴姉ちゃんもそう思うんだ。わいも、楓姉ちゃんから聞いたとき、冗談かと思って大笑いした」
真琴は失礼なことを言ってしまったと思ったが、内心笑っていた。
七葉と居ると、自分がいかに笑っていなかったのか、気付かされた。笑う門には福来たる、という言葉は七
葉にぴったりだと思った。自分までのその恩恵を受けているように感じた。
「だって、あんな性格の悟が人のことを思いやるって考えられる?」
「案外、ツンデレな人なのかもしれないよ。私はまだあって二日目だけど、七葉ちゃんならわかるんじゃない?」
「そうなのかな・・・」
七葉は、残っていたジュースを飲み干すと、スタッフを呼んでお代わりを注文した。真琴も同じタイミングでホットコーヒーを注文した。
「わいは、悟とどういう関係にあるのかってまだ分かってないんだよね。真琴お姉ちゃんは、昨日のわいから色々聞いたと思うけど、わいは特殊だから。普通じゃないから、どう皆と接したらいいかまだ分からない。皆も、わいとあまり深く関わろうとしてないし・・・」
「そんなことないよ。皆、七葉ちゃんのこと大好きだから。私だって、今はまだ皆さんとあったばかりで、私こそ探り探りで接してるよ。人間関係なんて、簡単にはいかないものだから、幾ら時間をかけてもいいと思うの。焦って、変に手を出したら後々後悔するから皆も今は慎重なだけだって。そんなに落ち込まないでいいんだよ」
「そうだったんだ。わい、結構気にしてたんだよね。言ってみるもんだね、あっさり解決しちゃった。ありがとう、真琴姉ちゃん」
満面の笑みで七葉が真琴の顔を見つめる。真琴もうれしくなって、笑顔で笑い返した。
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