二日目 part4
悟と七葉の野の知り合いを聞きながら、真琴と光輝は荷物を一輪車に積んだ。釣竿などは、持って来た時と同じように乗せることが出来たが、クーラーボックスだけは釣った魚と水が入っていて、乗せることが出来なかった。
「これどうする?」
「とりあえず、僕が持って行くよ。でも、一輪車を真琴ひとりで持って行けないだろ」
道具を持って来たときには、物が落ちて大変だったことを思い出した。一人で、運んでいれば時間がかかることは目に見えていた。
「それなら、わいが手伝う」
さっきまで、騒いでいた七葉が声を掛けてきた。傍らの悟も同じくといった表情をしている。どうやら、仲直りできたようである。
「持って行きたいのはやまやまなんだけど、俺はちょっとこのボートの返却とか、色々としないといけないことが溜まっていうから。おさきに、失礼」
悟は、どこかへ走っていってしまった。
「それじゃあ、わいが真琴姉ちゃんと一輪車持って行くから、光輝兄ちゃんはそのクーラーボックス両方持って行ってね」
「わかった」
真琴と七葉は一輪車を押し始めた。光輝は重たいクーラーボックスを両肩に掛けてふらつきながらその後ろをついて歩いている。
時折、竿が落ちたが七葉がそれを拾って元の場所に戻した。
桟橋とロビーの中間あたりに来た時、光輝がクーラーボックスを地面に置いた。
「ちょっと、休憩しないか。想像以上に重たいんだけど」
光輝は肩を回したり、伸びをしたりしている。
「そんなことで弱気吐くなんて、光輝兄ちゃんもまだまだだね」
「第一、なんで水入れてんだよ。氷漬けにしたほうがずっと軽くて済んだと思うんんだけど」
「だって、急に氷を用意しろって言ってもホテルの人を困らせるでしょ。だって、今は冬だよ。氷なんて需要ないって」
「七葉知らないかもしれないけど、お酒にはロックって言うのがあって、氷を使う飲み物があるんだ。だから、氷は絶対にあるはずだ」
「そうなんだ・・」
七葉は、気まり悪そうな顔をしている。怒ってはいないが、何かしらのスイッチが入ったようだった。
「悟が水でも入れればいいって言ったんだからね。わいは、そこに関してはいっさい口出ししてないから」
そういって、七葉はそっぽ向いてしまった。光輝は、力尽きたように呆然と立ち尽くしていた。
「光輝、私が一つ持とうか?私、結構力持ちだから、一つぐらいなら持って行けると思うけど」
「おお、サンキュー。助かる」
光輝は、軽い方を手に取り真琴の所まで運んだ。
「まさか、光輝兄ちゃんそれを本当に真琴姉ちゃんに持たせる気じゃないよね」
「七葉ちゃん、良いんだよ。私が持ってあげたいだけだから」
「そんなんじゃダメだよ、真琴姉ちゃん。いくら光輝兄ちゃんが彼氏であっても、その前に光輝兄ちゃんは男であって、真琴姉ちゃんは女の子なんだから。女の子にそんなものを持たせようと考える男なんてろくな人いないから」
「そんな考えが、差別を生むんだろ。男が力仕事をするっていう固定観念にとらわれ過ぎてる」
負けじと光輝も反抗してみる。
「そんなもん関係ないもん。生物学的にそうなってるんだから仕方ないでしょ。もし、私が男だったとして、女の子に重い荷物を持たせるくらいなら、男止めるね。いや、人を止めてもいいよ。それぐらいの覚悟を持って、光輝兄ちゃんにも行動してほしいな」
もう、光輝は返すことさえしなかった。これ以上言っても、言いくるめられてしまうと悟ったのだろう。しぶしぶ、二つのクーラーボックスをまた肩に掛けて歩き始めた。
「さすが、光輝兄ちゃん。話が分かってるね。悟は、長々と言い返してくるから疲れるんだよね」
七葉は満足気である。足取りも軽やかである。
「七葉ちゃん、悟さんと話したことで面白かったこと何か話してくれない?すごく興味があるんだけど」
いいよ、と快く返事した七葉はしゃべるマシンガンとでも称するのがふさわしいほど話し始めた。悟の声ま
ねも織り交ぜつつ、落語をしているかのような身振り手振りをしている。
真琴は七葉の話に相槌を入れながら、コメントを言いながら聞いていた。
ロビーについて、道具を返却している時にも七葉の話は続き、返却後にはロビーのソファに座って本格的な座談会になった。
光輝は、クーラーボックスを厨房に運び入れるために二階に行った。
短くなってしまい、すみません。来週もこの程度の長さになると思います。
毎週日曜更新です。