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裏返し  作者: 愛松森
第一章 四国旅行
1/12

旅路前

学生の敵、二学期期末テストを無事に乗り切った。今回も手ごたえがあるので、結果が楽しみである。


そして、このテストを終えて待っているのは、クリスマス、冬休み、お正月。そのことを考えると心が踊る。


真琴は、家で旅行の身支度をしていた。冬休みに光輝と一緒に四国へ旅行に行くことになったのである。それも六泊七日という長旅。今までは修学旅行の三泊四日が最長で、普段の家族旅行は二泊三日だから今回は未経験の領域に入ってくる。


今回の旅行は、光輝が光輝の祖父に招待されたものだった。旅行費は全額光輝の祖父が出して下さるそうだ。四国までは、電車と高速バスを乗り継いで行く。JR高松駅からタクシーに乗り換えて、宿泊地まで向かう。その宿泊地は、四国山地にあり自然豊かな場所にあると聞いている。事前に調べようと思ってインターネットで検索をかけてみたが、なぜか見つからなかった。少し不安だが、久しぶりに好奇心をくすぐるような気持でもある。


キャリーバックに着替えと、勉強道具、本、洗面用具などを詰める。リストアップして、洩れなく詰められているかもチャックする。準備物が整ったことを確認して、ファスナーを閉める。


旅行は、明後日の朝光輝が迎えに来てくれる予定になっている。


真琴は、一階に降りてリビングに入った。


「母さん、ちゃんと旅行の支度は整ったよ」


母は、キッチンで夕食のハンバーグを焼いていた。デミグラスソースのいい香りがする。


「本当?もう一回確かめて来なさい」


「さっきもそう言われて確かめてきたんだけど。そんなに信用無いんだったら母さんが確かめてよ」


「なんで母さんが確かめないといけないのよ」


そういいながら、母さんは焼きあがったハンバーグを皿に移す。父の分はラップをかけて冷蔵庫へ。それ以外は、カウンターに並べられた。


真琴はそれらをテーブルまで運搬する。母はご飯や他のおかず、箸をカウンターに置き、真琴がそれを運んだ。


「いただきます」


「召し上がれ」


ハンバーグを切ると中から肉汁が出てきた。付け合せのブロッコリーと人参もおいしそうだ。


「彼氏さんの腕はもう大丈夫なの?」


光輝は数週間前に腕を骨折していたのである。今は完治して、すっかり元気である。


「うん、もう治ってるよ。今は合気道の稽古なんかもやってる」


「合気道なんて珍しいものするのね」


「小学生の頃からやってて、高校入学で辞めたらしいけど、また始めるんだって」


母さんが光輝の事を話すときは、妙にテンションが上がっている。それに乗せられて自分まで、舞い上がってはいけないと思い、冷静に淡々と返すように努めている。


「迷惑だけはかけないようにしなさいよ」


「わかってる」


いつまで経っても母さんは私のことを子供扱いする。いつになったら大人扱いされるようになるのやら。


母はお得意の早食いで、夕食をあっさり食べ終えると洗い物をカウンターに戻した。後はよろしくね、と言ってリビングを出て行った。


食べるのが遅い真琴は、まだ半分ほど残っている。


食べ終えるのが遅かった人が食器をまとめて洗うというのが、村上家のルールである。それに加えて、食洗機の洗浄能力を信用していない母のせいで手荒いを強制されている。乾燥の時のみ食洗機を使うことになっている。


真琴は食べ終えると自分の食器と母の食器を手洗いした。もう慣れたことで、手際はすばらしい。洗い終えた食器を食洗機に入れる。


真琴は、自分の部屋に戻って趣味の読書をする。机の隅に置いてある本を手に取って、しおりのページを開く。


最近は新書ばかり読んでいる。受験に向けて、専門分野に対する知識を少しでも深めようと努めているのである。難しい内容ばかりでなかなか読み進まない。旅行に持っていく小説は、久しぶりのファンタジー系小説であるので楽しみにしている。


やっとのことで、新書を読み終えて伸びをした。椅子がきしむ音がする。


(えぇ、私太ったのかな)


最近は甘いものがおいしくなる季節ということもあり、特にイチゴのショートケーキやモンブランを友達と食べに行くことが多かった。外は寒くなり、あまり運動をしていないのも要因だろう。


思い立ったら行動するというのが、真琴の癖である。


洗面所に行き、体重計のスイッチを入れる。恐る恐る足を乗せる。電子画面に表示された数字を見て、固まった。


(一キロ増えてる)


体重計の電源を切り、もう一度付けて再チャレンジ。結果は変わらず、現実を数字として叩きつけられた。


(見た目はそう変わらないよね)


鏡の前に立って、確かめる。以前の自分の姿をうまく想像できず、見た目の変化はよくわからない。結局、数字としての数値だけが頭に残った。


お風呂上りに諦めきれずにもう一度計りなおす。逆に増えていて、またショックを受けた。

そんな憂鬱な気持ちのまま、部屋に戻りベッドに倒れこむ。毛布を頭までかぶりしばらく気持ちを落ち着かせる。


すっかり落ち着くと、机に座って棚に入れているアルバムを取り出す。


アルバムには光輝が撮影した写真が収められている。真琴もたまにアシスタントのような役割で撮影に参加して、その時の写真を光輝に現像してもらっていた。


どの写真を見てもその時の様子を鮮明に思い出すことが出来る。あの時交わした会話もなんとなく思い出すことも出来る。


光輝との思い出をとどめているこのアルバムを見ると、心が和む。特に、一枚目の光輝の寝顔の写真が気に入っている。あの日は、本当に楽しかったことを覚えている。


「今日もかわいい寝顔だね」


独り言をつぶやくと、部屋の電気を消して布団の中に入った。明後日の事を考えると、待ち遠しくてたまらない。布団に入ってもなかなか寝付けない。


(遠足前の小学生じゃないんだから)


緩やかに眠気の中に落ちて行った。


毎週日曜更新です。

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