理不尽
***
「何を、やってるの?」
目の前の出来事が、信じられなかった。
それは体育館の裏。
切られた髪、滴る水、散乱したゴミ...
うずくまっているのは同じクラスの前原さんだ。
そして前にはやばい、という顔をした佳那達。
これって、
「いじめだよね?」
「えっとー」
「ちょっと遊んでたっていうかー、」
あははーと笑っている佳那達。
前原さんは泣いていた。
様子からして、これが初めてではないようだった。
「遊び?これのどこが?」
「・・・だよねー。そ、いじめ。」
あっさり認めるのもどうかと思う。
だけど問題はそこじゃない。
「なんで?」
「だってさー、むしゃくしゃしてたんだよね。」
「むしゃくしゃするたびに、いじめてたって事?」
「そういうことになるかなー?」
きゃはは、と笑う声が耳に障る。
我慢の限界だった。
パンッ
乾いた音が体育館裏に響く。
佳那の茫然とした顔があった。
私が、佳那の頬を叩いた音だ。
茫然としていた顔は、だんだんと怒りに変わっていく。
「何すんのよ!」
「悪いことしたのは、あんただよ。」
「ッ、」
佳那は怒りの表情を浮かべたまま、友人たちと走っていった。
その姿を一瞥して、前原さんに手を差し伸べる。
「大丈夫?」
「・・・・・・・」
前原さんは何も答えない。
どうしようか、と困っていると、
人が走ってくる足音がした。
「先生!ここです!ほら!」
・・・佳那?
佳那と担任がそこには居た。
担任は怒った表情で私のもとに走ってくると、
「何でこんなことしている!」
「え・・・?」
怒鳴られた。
一瞬、何が起こったかもわからなくて、先生の脇から見える佳那の表情で全て悟った。
私がいじめたことになっているんだ、と。
「違います!!私じゃなくてッ、」
「言い訳はいらん!生徒指導室に来い!」
「ちがッ、」
頼みの前原さんは、俯いたま何も言わない。
私は必死に呼びかけた。
「前原さん!私じゃないって知ってるでしょ!?
ねえ!何か言ってよ!ねえ!!」
「・・・・・・・」
何も言わない前原さん。
絶望、だった。
先生に連れていかれながらただ、絶望を感じて、
もう、終わりだと思った。
***
「申し訳ありません。うちの子が、」
「まあ、真面目な生徒さんですし、日頃のストレスもあったんでしょうね。」
「ええ・・・」
私はもう、何も言わなかった。
言っても信じてもらえない、と分かっていたから。
いじめは悪だ。
私が現行犯逮捕されたようなもの。
いくら真面目に過ごしても、信じてもらえない。
理不尽だ。
だけど私は知っている。
理不尽だと叫んでも世の中何にも変わらない。
理不尽が過ぎていくだけ。
お義母さんの失望の視線すら、気にならなかった。