傷
***
「心の傷を癒してくれる店、か。」
ベッドに座ってポツリと呟く。
ぼふっと後ろに倒れた。
何も無い、天井見つめて、手を翳す。
意味は無い。
掲げた腕を目の上に乗せる。
しばらくの間そのまま動かなかったけど、
勉強しなくちゃいけないからと、机に移動する。
ノートと参考書を広げた。
真っ白なノートを見ていくうちにやる気も無くなってくる。
だけど勉強しなきゃ。
母と父に怒られる。
私はシャープペンシルを持って、白いページを埋めていった。
***
「終わった…」
力が抜けたように椅子の背もたれに寄りかかる。
もう11時を回っていた。
「三時間、か。」
まずまずってとこかな。
ノートと参考書を閉じた。
「んんっ、」
ぐいっと伸びをしてから立った。
歯を磨こう、とドアノブを回し、廊下に出ようとドアを開きかけた時、
声が聞こえた。
「・・・あの子は優秀だけど、何だか好きになれないの。」
「ああ、まあ・・・」
「姉さん達が死んだせいであの子を引き取ることになって、本当は私達、子供なんて欲しくなかったのに。
しかも私たちの子じゃないのよ?
いくら頭が良くて手がかからなくたって、早く出て行ってほしいわ。」
「おい!聞こえたらどうするんだ!」
ドアノブを持つ手が震える。
もう慣れたことなのに。
そう。
私の両親はもう既にこの世にいない。
今の両親はお母さんの妹夫婦だ。
お母さんとお父さん、お兄ちゃんは事故で死んでしまい、お兄ちゃんが庇ってくれたお陰で、
私だけが助かった。
小学三年生の頃だった。
それからだ。
私が家も、学校も嫌になったのは。
妹夫婦からの隠しきれていない冷たい視線。
クラスメイトからの同情の目。
何もかも、嫌になっていた。
それが私の心の傷。