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だるま

作者: 藍京

真由美は小五の女の子。

顔が丸いことから「だるま」とあだ名をつけられている。

見た目でつけられるあだ名はあまりいいものではないが、真由美は何も気にしてない。

まわりがどう騒ごうが真由美は無関心。

というのもいつもスマホでゲームに熱中。

自分が夢中になれるもの以外はお構いなし。

それは家にいても同じだった。

部屋にこもっては勉強しているものだと思い母親が入るとスマホをいじっている。

そのたびにいつも叱られていた。

それでも真由美は平然としている。

夏休み、母親の実家へお盆帰りに真由美は一緒に行くことになった。

実家の祖母は孫娘の顔を見たい。年に数回しか会えないので楽しみにしていた。

しかし、真由美は低学年までは祖母に会いたがっていたが、思春期にはいる難しい時期なのか最近はあまり口にしない。

母親が運転する車に乗ってもスマホで遊んでいた。

実家に着き、出迎える祖母。

「やあ、いらっしゃい」

喜びの祖母に一応会釈する。

和室の居間にあがり、ちゃぶ台を挟んで母親と祖母が話す。

最初は二人の会話に付き合っていた真由美だが飽きたらしく縁側に移りそこに座るとポシェットからスマホを出し遊び始めた。

「またそんなもの出して…」

母親が見つけると注意を促す。

「なんなの?」

理由がわからない祖母に母親が説明する。

「いつもあんなもので遊んでいるのよ」

「やっぱり子供は外で遊ばないとねえ」

時代とともに遊びの変化に祖母は嘆いた。

スマホをいじる真由美がふと外に目を向けると道端から同じくらいの年の少年が見ている。

真由美に気づくと逃げるように走り去っていった。

「なに?あの子?」

怪訝な顔をしていると祖母が近づく。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない」

祖母は外を見回すと遠くのほうで走っていく少年の姿を見つける。

「ああ、あの子は近所のてっちゃんと言ってな、いつもこの先の広場で遊んでるんだよ。あんたも一緒に遊んだら?」

「ええっ?いいよ」

真由美はそっぽを向いた。

「お母さん、そんな簡単に言っていいの?」

母親は見知らぬ子と遊ばせるのはどうかと不安に感じた。

「何言ってるの?そんなことばかり言うから友達と遊ぶ子がいなくなるんじゃないの」

最初は声をかけづらいものだが積極性を持たせたいと祖母は思っていた。

「ちょっと外へいってくる」

二人の会話が不快に思ったのか真由美は威勢よく立ち上がると玄関へ向かい外へ出て行った。

足音をバタバタさせ家の前の道に出る。

一瞬迷ったが小走りで祖母が言う広場がある方向へ行ってみる。

神社の境内からつながった広場。何の遊具もなく周りに木が植えられているだけ。

十数人の子供たちがなわとびやドッジボールと思い思いに遊んでいる。

真由美の目からは校庭の風景と変わらない。木にもたれてスマホを取り出した。

「あれっ?君来たんだ?」

声をかけてきたのは道端から見ていたてっちゃんという少年。

「あっ」

スマホの指が止まる。

何しにここへ来たんだろ?

真由美は一瞬の衝動に硬直した。

「どう?みんなと遊ばない?」

あまり外で遊ばない真由美は躊躇した。

楽しそうに遊ぶ子たちを羨ましそうに見るが踏み出せない。

思いを断ち切るようにその場から走り去った。

「あ…」

少年は引き止めようとしたが間に合わなかった。

走っていく真由美の背中はどこか寂しさを覚えた。

「ただいま」

「もう帰ってきたの?」

バタバタして帰ってきた真由美に母親は少し驚いた顔をして聞いた。

「ん、なんかつまんない」

座敷に上がると引き戸の柱にもたれかかるように立ってつぶやいた。

母親と祖母は顔を見合わせる。

「じゃ、そろそろ帰ろうか」

母親は申し訳なさそうに祖母に目で合図すると

「ああ、そうだね。じゃまた来て」

寂しさを紛らわせた苦笑いで祖母は応えた。

家に帰っても相変わらずスマホで遊ぶ真由美。

すると操作してないのに勝手に動くキャラクターが現れた。

「あれっ?エラーかな?」

不思議そうに見ていると画面の隅っこで金色のダルマが踊っている。

「なにこれカワイイ」

すると金色のダルマからふきだしが出て「なまえをかいて」と表示された。

「え?ここに書けばいいのね」

真由美がふきだしに名前を入れるとスマホが光りだした。

「えっ?」

光が大きくなり真由美は光の中に吸い込まれてしまった。

しばらくして光が消え真由美はうずくまった状態で現れた。

「ここどこ?」

あたりを見回すと見たことがある風景。

あの神社の境内に来ていた。

ただ、違うのは広場がなく林になっている。

「ここって…」

真由美の頭の中は混乱している。

祖母の家の近くにあった神社だが景色が違う。

自分がどこに来たのか分からなくなっていた。

すると真由美の目の前に手まりほどの大きさの金のダルマが飛び跳ねている。

「あっ、あのダルマ…」

スマホを見ると映っていたはずのダルマがいない。

金のダルマは飛び跳ねながら真由美を誘うように進んでいった。

「あ、まってよ」

真由美は金のダルマの後を追うと境内には赤いダルマたちが遊んでいる。

かごめかごめ、はないちもんめ、おにごっこ、かくれんぼ…。

形はダルマだが子供たちが動いているように昔の遊びをしていた。

「そういえばなんか見たことがある…」

本やテレビなどで見た記憶を思い起こした。

ポンポンと跳ねて二体のダルマが真由美のそばにくる。

まるで小さな子が一緒に遊ぼうと手招きしているようだ。

後をついていくと大きく揺れる大縄跳びにダルマが五体ずつ交代で跳んでいる。

その様子を見た真由美は笑みを浮かべて仲間に入った。

生き生きと夢中になる様はスマホで遊ぶ真由美にとって古きも新鮮に感じていた。

「真由美」

「はっ」

スマホを片手に母親の呼びかけに目が覚める。

「また、そんなもので…もうご飯よ」

母親が部屋から出ていく。

慌ててスマホを見ると金のダルマはいない。

「あ…夢だったのか」

人がスマホの中に入れるわけがない。

なんだか脱力感に見舞われた。

半年後。

正月は毎年お盆同様、祖母の家に行くことになっている。

いつもは気が進まない真由美だったが今年は何故か心が躍っていた。

祖母に会うのか、あの少年に会えるのか、真由美の中でははっきりとしていない。

ただ、あの金のダルマに導かれた夢が脳裏に残っていた。

「あけましておめでとうございます」

明るい挨拶に祖母は微笑んだ。

お盆とは違いスマホを出さずに祖母の話を聞く真由美に

「神社へお参りしたら」

と促すと笑顔でうなずき玄関に向かった。

「あの子、どうしたのかしら?」

我が子が明るくなったのは喜ばしい反面、微妙な変化に気づけなかった母親はボソっと呟いた。

真由美は神社の境内に来てみた。

観光地のような派手さはないが地域の住人でにぎわっていた。

数件並ぶ出店。

一番端っこのダルマの販売に足を止める。

「あ、これは」

真由美が手にしたのは手のひらサイズの金色のダルマ。

「それは幸運のダルマだよ。どうだい?」

販売のおじさんが指さす。

見れば見るほど愛おしく感じる金のダルマを買うことにした。

「よっ、きてたのか」

そばで声をかけたのはお盆で会った少年。

「あ、あなたは確かてっちゃん」

「あはは、家の人に聞いたのかな?」

そう言いながら頭をかいた。

「そういえばそのダルマ、君にそっくりだね」

「な、なによ。いきなり」

ダルマと言われても怒らない真由美だったが、この時初めて羞恥を覚えた。

「君はあの山田さんちの…」

少年は祖母の家にいたのを思い出して聞いてみた。

「私、真由美っていうの」

真由美は笑みを浮かべてうなづく。

二人はしばらく自分のことを話した。

「そうか、君も五年生なんだ…今、冬休みだよね?三が日が終わったら会館に来てよ」

「会館?」

ここの町では地区別に会館を設け、習い事や催し物など行われている。

今度、お年寄りが子どもたちに『遊び』を教える催し物があるというのだ。

「へえ、面白そうね。帰ったらおばあちゃんに聞いてみる」

「ああ、そうだね」

真由美は少年と別れ祖母の家に戻った。

「それはいいね。いってみたら?」

祖母は賛成し四日にまた来ることを約束した。

当日。祖母と一緒に真由美は会館へと着た。

入口には少年が待っていた。

「やあ、きたね」

そう言いながら真由美と祖母を案内した。

各コーナーごとにお手玉、あやとり、けん玉などが設けられている。

すると祖母はお手玉コーナーへ行き、近所の仲間に挨拶をかわす。

「あれ?おばあちゃん…」

祖母はお手玉を子どもたちに教えていたのだった。

「へえ、そうだったんだ」

真由美も子どもたちに混ざりお手玉を教わった。

投げては自分の頭に当たり周りから笑われる。

それでもみんなに溶け込む楽しさを覚えた。

「ここは昔の遊びでコミュニケーションをとってるんだ」

少年に言われてなるほどと思った。

他の遊びも初めての体験。

試みるも失敗するのは当然。

けん玉はなかなか受け皿に乗らず、やっとの思いで大皿に乗せた。

子どもたちから拍手されるが恥ずかしさもあり照れ臭かった。

それでも真由美は心底夢中になれた。

スマホしか興味がなかった真由美だが『遊び』というものの本質がわかった気がした。

「外にも行ってみようか」

「うん…あ、ちょっと待って」

祖母に外へ出ると伝え、少年と広場へ向かった。

広場は竹馬、ゴム跳び、石けり…と、これも真由美には馴染みがなかった。

「この遊びは知らないだろ?」

「うん…」

二人は広場の端を歩きながら話した。

「この町は昔の遊びをお年寄りが子どもたちに伝えることになってるんだよ」

「だからおばあちゃんも…」

「君は携帯でゲームしてたよね」

「うん」

「それって会話がないじゃないか」

確かに携帯やスマホに慣れてしまって人の顔を見て話すことはない。

ゲームで会話といえばコメントを打つだけ。

コミュニケーション不足を真由美は痛感した。

夏休みにこの広場へきたときも心のどこかに引っかかったものがあった。

「なんだか自分がやってきたことがわかる気がする。本当に楽しんでないのかなと」

そう言うと少年は口元を緩ませうなづく。

「ありがと。おばあちゃんとよく話してみる」

「ああ」

会館に戻ると近所の人と話している祖母が待っていた。

「おばあちゃん、ごめんなさい。待った?」

「いいよ」

「おばあちゃん、今日のこともっと聞きたいんだけど」

「そうかい。じゃ帰ったら話そうかね」

祖母の家へ笑談しながら帰った。

「そう。てっちゃんが言ってたのかい」

「うん」

居間で少年との会話を祖母に話した。

「昔の遊びって意味があるんだね」

「そうだよ。今は子どもたちが少なくなったからねえ」

時代の流れで『遊び』の変化に寂しさを感じていた。

「これから私たちがどう伝えればいいかなあ?」

「そうだねえ、同じ仲間がいればね」

「仲間かあ…」

真由美はしばらく黙った。

そこへ母親が迎えに来た。

「じゃ、またおばあちゃん話を聞かせてね」

「ああ、いいよ」

真由美は母親と家路に帰った。

部屋で祖母との会話を思い出しスイッチの入ってないスマホを片手で動かしていた。

「あ」

真由美はひらめいた。

検索すれば何かわかるのではとスマホのスイッチを入れ指でなぞり始める。

『昔の遊び』

『仲間募集』

検索してると『保存会』なるものを見つけた。

「これって…」

リビングに行き母親に聞いた。

「あら、ここ知ってるわよ」

「えっ?」

スマホをのぞき込む母親の返事に驚く。

保存会は真由美が住む町に近いようだ。

後日、母親はそこへ連れて行くと約束した。

数日後、母親に連れてこられたのは小さな施設。

不思議そうにキョロキョロしながら中に入ると二十人ほどの老若男女が集まっていた。

「やあ!」

真由美のそばにきたのはあの少年。

「え?ここで何してるの?」

真由美には何故少年がいるのかここが何なのかわからなかった。

ただ、遊びについて調べ、母親に連れてきてもらった以外情報がない。

「なんだ、知らずにきたのか」

バカにされたような言い方に真由美は口をへの字に曲げる。

「調べたら保存会ってあって、おかあさんに連れてきてもらったんだけど」

「そうか…ここは元々はお年寄りの憩いの場なんだけど、昔の遊びをなくさないようにみんなで話し合ってるんだよ」

「そっか…」

真由美は何かひらめいた。

「ねえ、ちょっとお願いできないかなあ?」

「なんだい?」

「この保存会をもっと広めたいと思うんだけど」

「ああ、いいねそれ」

真由美はスマホを使って公開しようと考えた。

少年や集まった人たちに話し協力を求めるとありがたいことに賛同してくれた。

お年寄りからは遊び方を聞き、子どもたちにレクチャーする様子をスマホで撮る。

ネットにある保存会のページにこれらを載せて公開してもらった。

スマホしか興味がなかった真由美は初めて役立てることに感動した。

ある日、学校へ行くとクラスメートの女の子が寄ってきて保存会のことを話してきた。

「こういうのって面白いよね」

まさか学校の子が言ってくれるとは思わなかった。

「これを広めたいと思って…」

真由美は保存会のことを話した。

「社会勉強にもなるし、いいかも知れない」

「うん」

同じ考えを持ってもらって感謝した。

ある日、母親が保存会のことを話してきた。

「何があったの?」

「何かね、町のほうで広めたいとかで話があったみたいよ」

「えっ?」

町まで動いてくれるなんて想像さえ出来なかった。

春休みに入る頃に催し物が開かれるらしい。

真由美は嬉しさのあまりボーっとしてしまった。

春休みに入り保存会の催し物に足を運んだ。

どこから来たのだろうか百人以上の人が集まっている光景を見て真由美は驚く。

お祭り騒ぎするほどではないが道具など使った遊び方のレクチャーが行われ、大人も子どもも楽しんでいた。

中には学校の子も何人か参加している。

「君のおかげだよ」

少年が話しかけてきた。

どうやら町で伝統のある遊びとして残していくことが決まったらしい。

「いや、私はただ…」

真由美は照れた。

家に帰ると部屋に飾っている金のダルマに目を入れそっと握りしめる。

「ありがとう」

自分を変えてくれたことをダルマに感謝した。

すると金のダルマが真由美を包み話しかけてきた。

「ううん、君のおかげだよ」

ダルマのいかつい顔が笑顔に変わった。






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