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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

No.-

No.36 噺買3

作者: 夜行 千尋

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第三十六弾!

今回のお題は「チャック」「槍」「王」


5/27 お題出される

6/1  プロットを完成させたものの遊びほうける

6/4  疲れ果てて爆睡の安定締切ブッチ…… ごめんなさい orz


体力の計算を失敗してすっかり寝込んだ3日の夜……

 俺の名は夢野ゆめの 魁人かいととある特殊体質の人間だ。その特殊体質のせいで色々と嫌な事や不思議な事を経験してきた。分かりやすく言うなら霊感持ちの人の感覚に近いものが俺にもある。

 が、現状目の前で起きていることは今まで体験したことより大規模で、なぜこうなっているのか理解の範疇を超えていた。というのも、こうしてゆったりと自己を落ち着かせようと頭の中で誰にとはなしに話している状態の中、俺は……


「オードルイヒ将軍い続けぇぇぇえええ!!」


 馬に乗った甲冑姿の男がそう叫びながら、盾と槍とでハリセンボンのようになっている集団へ剣を振り下ろして突撃の合図とする。それに答えるように男の背後に控える……俺の周りに居る革鎧に身を包んだ男たちが剣を抜いて吼え、一斉に目の前待ち構える集団へと突撃していく。

 広大な平野でぶつかる大きな軍団二つ。その渦中のようである。

 かくいう俺は……なんか訳が分からないが、このままここに棒立ちしていても怒られないという、誰か説明してほしい状態なわけだ。

 おそらくだが……またおかしな“噺を買った”のだろう……しかも戦争ものとかの作り話か創作か、はたまた誰かがみた夢なのか……


 俺の体質『噺買はなしかい』……誰かから聞いた話を勝手に追体験してしまうという特異体質。それは作り話だろうと嘘の話だろうと、なんなら都市伝説やこういった創作話に至るまで、俺の意志と関係なく追体験してしまう体質。その話の終わりがハッピーエンドだろうとそのまま追体験してしまう……バッドエンドや死であろうと……まぁ、なんとか今のところ死なずには済んでいるのだが。



 今回の噺はどうやら戦記物らしい。ありがたいことに、敵も味方も俺を無視し、触れたりしても存在しないかのように扱ってくる。曰く『精霊様』とかなんとかとして扱われているようだ。まぁ、ポルターガイストみたいなものらしい。どうやら、この世界においては魔法的な存在として俺は認識されており、俺の姿は視認できないらしい。しかし振れることはできるので、いざとなると姿はバレるような気もする。水とか粉とか被ったらバレそうだ。


 で、現状なのだが……今俺はとある少年兵を見守っている。結構な美少年なのだが、如何せん血の気が無く、何かと見ていると危なっかしい、そんな少年である。その少年を見守らなければならないのが、今回の『噺』の肝らしく、少年から離れるとまるで画用紙の空白部分のように、遠くには世界が“存在しない”ようなのだ。文字通り“存在していなかった”石を投げ込んでも石は白色の空間に消えていき、それどころか少年が歩くとそれを追って世界が消えていくという……なんだろう、この感覚はどこかで見覚えがある様な気がするのだが……分からない。ともあれ、少年から離れるとどうなるかわからないので、また、少年の身に何かあった場合もどうなるかわからないので、異世界っぽいところに来たにもかかわらず何処にも行けずに、また、もしかしたら巻き込まれるかもしれないこんな物騒な場所に来ざるを得なかった、という現状なのだ。実に迷惑だ。


 ところで、この少年は一体何をしているんだろう? さっき隊長みたいな人が突撃命令を出したのに、ここで剣を手に取るでもなくじっとしている……なんだ? なにを待ってるんだ?

 少年と俺の目の前では、ハリセンボンのように盾の隙間から槍を構えていた集団が展開、乱戦状態になっている。ともに先ほどまで肩を並べていた連中が目の前で鮮血を浴びながら敵を屠り、また鮮血を吹きだしながらその命を終えていく。そんな殺伐とした光景を前に、少年はただそれを眺めていた。というか、この少年も何者なのだろうか? 突撃命令を無視しているのに誰もそれを叱りに来ないし誰も彼に頓着していない。もしかして、同じような『精霊様』的な存在……かと思ったが、思い返すと街中とかで普通に通行人と会話してたような……? と考えると余計に謎である。


 と、ここで少年の顔色が変化した。その目線の先には集団の奥で、装飾された馬にまたがる大柄の、これまた装飾された鎧兜に身を包んだ髭の男が居る。その兜には赤いモヒカンのような装飾がされており、鮮やかな赤色のマントがとても特徴的だ。その傍には護衛らしき者が数人。明らかに敵将といったところなのだろう。

 それを確認した少年が目の前の集団へと走り始める。俺も少年を追ってみる。が、俺はある程度離れたところから見守ることにしようと思う……だって流れ弾とかとばっちりとかシャレにならないし。

 少年は集団のすぐ傍を通り抜け、その際、ハリセンボン集団に居た敵兵の死体を一つ引きずりながら岩陰に隠れた。そして、死体から服をはがし、自身は鎧を脱ぎ、肌着だけになった。よく見ると肌着には自陣の紋章であろうマークが、これでもかと目立つようにデカデカと飾られていた。そして、死体から引きはがした血みどろの武具と肌着をその上から纏い、今一度死体の腹を裂いてその血を布に滲みこませ、それを鎧の腹の部分に仕込む。最後に、敵味方にバレ無いように気を付けながら敵陣の方へと、負傷しても居ない足を引きずるように槍を杖代わりにして出ていく。

 なるほど、敵の負傷兵に化けたという事らしい。とこの間、着替え中などの無防備な状態だと危険だと思い、俺は必死に敵兵に足払いをし、岩から離れるように引きずったりしていた。……まぁ、その光景だけで多くの兵士がホラーものでも見たように悲鳴を上げて逃げて行ったのだが……なんかごめんよ。


 少年は、本来の味方に襲われそうになりながらも敵陣の深くに入り込み、先ほど見かけた敵将のすぐ傍まで寄っていく。


「止まれ! 撤退命令は出されていない。すぐに戻り戦え!」


 敵将の護衛である黒い甲冑姿の男が、馬に乗りながら少年の行く手に立ちはだかる。

 少年は息をわざと荒げながら、護衛に言う。外見に即したイケメンボイスと世に言う奴で少年は演技をする。


「へ、陛下に……お伝えしたき情報が……」

「ならん! 何人も通さぬが我が使命だ……さっさと戦場に戻れ」

「で、ですが……私が見た情報を……どうか……私が、私の命が尽きる前に」


 が、護衛は引きそうにない。それどころか、少年に徐々に敵意を向けてくるのが分かる。俺は咄嗟の判断で、護衛の馬の尻を思いっきり叩いた。途端に馬が暴れだし、蹴られるのでは頭を抱えてしゃがみこむ俺を他所に、護衛は暴れ馬に乗せられどこかへ走り出していった。

 少年はその隙に、更なる護衛に囲まれた敵将……というか、さっきの少年の言葉では『陛下』と言われていたという事は、なにやらただの敵将ではなさそうだ。その敵将の前に、血の滴る鎧の腹を押さえて負傷兵のように前に出る。


「へ、いか……恐ろしいことが……お伝えせねばならぬことが……!」

「なんだ貴様は! ……む? 大丈夫か? なにがあった!?」


 警戒されながらも、見事に敵陣の深くに入り込むことができたようだ。

 少年が盗んできた杖代わりの槍を強く握ったのが見えた。どうやら、このまま不意打ちを行うらしい……うまくいくのだろうか? いやそもそも、この状態、かなりまずいんじゃなかろうか? 討ち取る事が出来たとして、その後どうするつもりなのか……


「敵の中には……見えない者がおります……その被害にあいました……」

「なに? ま、まさか、本当に居るのか……!?」


 護衛の者たちの間に不安が現れる。


「うろたえるな! 見えずとも、向うが触れて来るならばこちらも触れられよう。ならば倒すこととて同じ、恐れるには足らん!」


 ん? 見えない敵、って俺のこと? あ、これ、俺の助けを求めてるのか? ……あ、だよね。

 俺は一番端にいた兵士の肩を叩き、兵士が振り返るより先に、その隣の兵士の兜を取り上げた。護衛どころか敵将にも不安の色が走り、俺が取り上げた兜を凝視する。俺はその兜を地面に置いて、サッカーボールのごとく蹴った。金属が軽快な音をたてて転げ、地面に顔を出していた岩に当たって跳ねた。

 と、その直後、少年が悲鳴を上げて、とっくに俺の手から離れた兜を指さして言った。


「お、おお、おります! そこに! 奴だ! 奴がいる!」

「う、うろたえるな! 殺せ! 殺せぇぇ!」


 直後、兜を取り囲むように剣や槍でめちゃくちゃに兜の周りを攻撃する兵士たち……蹴って良かった。今心底そう思う。

 と、こうなると後は簡単だ。


「や、やったか? もう、動かないか?」


 いやいや、そこは動かさないと。

 俺は兜を取り囲んでいる兵士たちの傍で、兜を持ち上げ、兜を元々持っていた顔面蒼白の兵士に対して投げ返した。兜の金属が兵士の同部分の鎧と当たって金属音を立てながら、兵士は兜をキャッチすることなく地面に落とし、悲鳴を上げてその場から半狂乱の元逃げ去った。その悲鳴を受けて、他の兵士たちも逃げ出し始める。……やりすぎたかな?


「ま、まま、待て! 待たぬか! 余を置いて行くでない! 待てと言うに!」


 馬を走らせようとしていたのを見て、俺はその豪華なマントを引っぱった。この時、少年も同じことを考えたようで、二人がかりで、走り出した馬から男を引きづり下ろすことができた。


「お、お前……まさか、負傷兵では……我が軍の兵士ではないな!!」

「いかにも! 我こそは精霊の加護厚き次代の英雄だ! 覚えておけ、俺の名は……!」







「おーい、魁人? かーいーとー? 起きろこの馬鹿!」


 何か軽快な音と共に、俺の額に何か痛みが走る。


「った! ……え? あれ? ん?」

「よう、もうじき目的駅だぜ。良く寝てたな、お前」

「あれ? さっきまでの戦記物は? 敵将は? あのイケメンは?」


 どうやら、寝ていたらしい。

 電車の座席に深々と座り寝ていたらしく、体のあちこちが少々痛い。そして寝ぼけた頭。電車の車内は至って平和であり、戦場の“せの字”も無い……夢、だったのだろうか?

 俺の隣では、今回一緒に遠出を決めていた男友達の秋原あきはら 遊之亮ゆうのすけが輪ゴム鉄砲の第二射を用意していた。さっき起き際に額に当てられたのはこれだったようだ。


「は? どんな夢見てたんだよ。ったく、仕方ねぇな」

「待って起きたから、ってか人に向かって撃つな、危ないから」


 まったく、と言いながら鞄からペットボトルのお茶を取り出して飲もうとする秋原の後頭部に、俺はとある物を見つけた。異様な雰囲気のそれに、俺は見覚えがある。そして同時に思い出した。なぜあんな夢を見ていたのか……

 俺は秋原に断って、トイレに立った。正しくはトイレに入り込み、電話をかけるためだ。俺が『噺買』の特異体質を持っていても無事にすんでいた理由、それは“その手の事を専門に対処する魔女”が俺の祖母だからだ。祖母の助けを過去に何度も借りてきた。おかげで色々命の危機も助けてもらい、ズボラな祖母の世話で家事も覚えて不平不満を口にすると足蹴にされたりとメリットの代わりにいろいろデメリットをこうむっているが……ともかく、この手の“あからさまにおかしな事態”には彼女の助けが一番案牌だ。

 俺は電車の揺れるトイレの中、祖母の家に電話をかけた。


「はいもしもし、どうしたんじゃ?」


 幼い声が老人口調で電話に出る。祖母だ。

 祖母はその職業の力なのかなんなのか、年齢一桁ほどの幼児姿を、俺の物心がついたころからキープしている、文字通り魔女である。合法ロリ? そんな生易しい物じゃない。あれは魔女か悪魔かズボラ大魔神だ。


「……今、わしの事をズボラ女王とか思ったじゃろ? 魁人」

「ええ!? ばあちゃん家黒電話だろ? なんで俺だってわかったの? ってか、女王とは思ってないから!」

「ほう、ズボラじゃとは思っておったのじゃな?」

「……そ、んな、ことはないよ」

「きるぞ」

「わーわー、待って、すみませんごめんなさい!」


 時折、祖母の幼い声に、なぜこんな子供にこんな謙らないといけないのかと言いたくなる時があるが……ともあれ、今は俺が見た物を祖母に相談し、祖母の助言が欲しかった。


「ばあちゃん……人って、後頭部にチャックがある場合、それって何だと思う?」

「ん? チャック……ファスナーのことじゃな? 魁人、それはのう……」




 人間ファスナーの噺――


 人間の頭がい骨は、おおよそ三枚の骨が合わさって丸い後頭部を形成している。このつなぎ目部分はお互いに噛み合わさるようになっており、さながら、洋服を閉めるためのファスナーのような外見をしている。

 おそらく、そこから生まれた発想なのだろう。


 人間の後頭部に、ファスナーが出来ていることが有る。

 そのファスナーを下ろすと、その人の頭の中が覗ける。何を考えているのか。何を空想しているのか。何を思い、何を願い、何を考えているのか、脳の中を覗き見ることができる。

 ただし、覗き込んでいる間に何らかの理由でファスナーを閉められた場合、対象の頭の中から去ることができなくなる。魂が千切れ、元の体には帰れず、覗き込まれた者も頭の中に別人が居る状態になる。


 気になっても、そのファスナーを下ろすべきではない……



「人間、何を考えているかなぞ、皆まで知ってしまうのは色々不都合が生じるもんじゃ。それに、覗いて無事で済むとは限らん……魁人、覗いておったな? 先ほどから無言で有る事を考えると……ま、人の心なんぞ、覗いても得にはならんからの」


 俺は、自分が如何に危険だったかを今思い知った。

 もし、あそこで意識が戻っていなければ、秋原の脳内に取り残されていた可能性が有った、ということなのだから。それは……どうなってしまうのか。秋原の体の中でしか生きられなくなるのか、そうなると秋原はどうなるのか、俺は死んだことになるのか、ともかく、危険だと分かった以上、秋原の後頭部のファスナーは見て見ぬことにしよう……。


「ああ、うん。見かけても無視しておくことにするよ……」

「そうじゃ。ああ、そうじゃ! 魁人、土産を頼むぞ。是非ともじゃ! チョコとあんことぬいぐるみと」

「いや、今回の遠出はテーマパークとかにはいかないから!」

「な、なんじゃとぉぉお!」




 俺はやれやれと言った具合に座席に戻った。

 秋原はなにやら携帯ゲームをしていて、俺が隣に座って画面をのぞき込むまで俺に気付かなかった。


「おお、大だったのか?」

「ちげぇって。電話してたんだよ……ん? このゲーム……」


 秋原は楽しそうに言った。


「あ、このゲームお前も知ってんの? 良いゲームだよな」

「え? ああ、うん……」


 そのゲームの主人公の顔に、俺は見覚えが有った。






あい

今回はGWで忙しかったので最初から『噺買』シリーズを持ち出すつもりでした

No.34 

http://ncode.syosetu.com/n1805cq/

No.31 

http://ncode.syosetu.com/n2926cp/


うん……

やはりこのシリーズだと無茶がきくね☆

しかし

このシリーズを連投すると「一週間でお話を完成させる練習」にならないような……世界観はすでに出来てるわけですからな……


というわけで

追いつめられた時の最終手段として用意したい

追いつめられない限り極力頼らないでいきたい……うん


まぁ

今回も追いつめられたんですけど……(現在5/4 19:24)

いや、遊び歩いてたのが原因ですけどね!(殴られる


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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