[七章]風の国
ラテの牧場を目指し進んでいくレオンたち。周囲はのどかな草原が広がっており、温厚な草食の大エビが草を食べていた。レオンたちは平和な道のりは久しぶりなので、楽しいひと時を過ごせた。そんな中、急にアリサが料理の話をレオンに振った。
「レオンさんは料理とかできるのですか?」
「料理はいつもユンが作ってくれたから、あんまり得意じゃないかな。時々昼飯に釣った魚を焼いて食べるくらいだなぁ。」
レオンが苦笑いで答えると、横からミーナが話を突っ込んできた。
「はいはーい!あたし料理得意だよ!!すごいでしょー!」
「アンタが何か作るといつも砂糖入れてくるからすごい味になるだろ。」
「えー!?甘くしたらおいしいでしょう!?」
「なんでも甘くすりゃいいってもんじゃないでしょ!」
「え~・・・・・。がっくし。」
レオンとアリサの話に割って入るミーナだったが、すぐさまルナに突っ込みをいれられてしまった。レオンはルナにも料理の話を振った。
「ルナは料理はできるのか?」
「アタシはいつでも豪快に料理するよ!以前アリサに食わせたアジのぶつ切り炒めは絶賛だったんだよ!」
「はい、絶品でした!また食べたいです。」
「へぇ、僕も食べたいな!」
「今度作ってあげるよ!」
ルナの意外な特技を知り盛り上がっていたところで、草原に立つラテの牧場が見えてきた。するとミーナがいつものように一番乗りするために牧場へ走っていった。ほかの3人もミーナについていくように走っていき、ラテの牧場へ到着した。
「あはは!また一番乗りだよ!」
レオンたちも到着し、ミーナが喜んでいると、牧場の管理人と思われる女性が牧場の中から出てきて話しかけてきた。
「ラテの牧場へようこそ!あなたたちは旅をしているのかしら?どうぞ小屋でミルクを飲んでいってください!」
管理人の女性に誘われ、レオンたちは小屋へ入り牧場でとれたミルクをいただくことにした。ミルクを飲むと、そのおいしさに皆が絶賛し、ミーナとアリサ、ルナが声を上げ、レオンも満足そうに唸った。
「おいしい~!」
「アタシもこんなにおいしいミルクは初めてのんだよ!」
「本当においしいですね!」
「ありがとうございます!うちの自慢の牛たちから絞ったミルクは特別なんですよ。」
ミルクを飲みながらも、海の世界に牛がいることに疑問を持ったレオンが女性に聞いた。
「おいしいミルクをありがとう。ところで、この海の世界になんで地上と同じ牛がいるんだ?」
「すると、あなたは陸から来られた方ですね?ここの牛たちは100年前、魔法で王国が海の中へ転移してきた際に、私の先祖様に連れられた牛の子孫なんだそうです。」
「そうだったのですか。」
アリサも興味を持って話を聞いていた。その話を聞いて、レオンは確信した。
「やっぱり海の世界の起源は海の中へ転移してきた王その国なんだ!」
「伝承は本当だったんですね!」
レオンとアリサはともに喜んだ。ルナとミーナも一つの真実を知ることができてうれしく思っていた。そこへ、女性がレオンたちに話しかけた。
「そうだ、牧場を見ていきませんか?中へは入れませんがたくさんの牛たちが見れますよ!」
「はい!みなさん、いきましょう?」
女性の誘いを受けたレオンたちは、外に出て広大な牧場を眺めた。そこにはたくさんの牛たちが穏やかに暮らしていた。
「ここの牛たちからミルクを絞ったり、私たちが食べるお肉になるんですね。私たちは、命に生かされているんですよね。」
アリサが牧場を眺めながらそう言うと、レオンが穏やかな顔で答えた。
「そうだな。僕たちが生きているのは、そういう命のおかげだ。感謝しないとな。」
「そうだな。アタシたちも感謝しなくちゃだ。ミーナも感謝するんだぞ?」
「うん!牛さーん!ありがとねー!」
ミーナが牛たちに大きな声で感謝を伝える。その光景にレオンたちに笑顔があふれた。一通り牧場を眺め終えて、ラテの牧場を出ようとするレオンたちを女性が呼び止めた。
「あ!そうだ、旅の方たちにお聞きしたいことがあるのです!」
「はい?なんでしょうか?」
「ついてきてください。」
レオンたちは女性に小屋の二階に案内された。そこにはベッドに眠る一人の男性がいた。
「このお方は?」
「私の夫です。半年以上眠り続けたままなんです。」
「半年以上も?病気なのですか?」
「原因がわからないんです。お医者様に見せてもわからないようなのです・・・・・。旅の方ならなにか知っているかもしれないと思ったのですが、なにかご存知でしょうか?」
「そうなのか・・・・・。でもアタシたちも何もわからないんだ。すまないね・・・・・。でも、アタシたちもなにかわかったらすぐアンタに教えるよ!」
「ありがとうございます!」
半年以上も眠り続けているという男性を起こす手段を探すという新たな旅の目的が増えたレオンたちは、改めてフーラ王国へ向かうべくラテの牧場を後にした。
「またねー!ミルクおいしかったからまた飲みに来るね!」
「はい!いつでも牧場に来てくださいね!」
ミーナが女性にあいさつをして、レオンたちはフーラ王国へ向かい歩みを進めた。
しばらく道を歩いていると、大きな岩がそこらじゅうにある山岳地帯に入った。その道を進んでいると、山の上の方から風が吹いてきた。海の世界では、人の手で風を起こすことはできるが、自然に風が吹くことはないはずなのだ。
「風が吹いていますね。」
「そうだな、やっぱこの先にあるフーラ王国が風を起こしてるのかな?」
アリサとルナが一言ずつ言葉を交わした。道は上り坂が多かったがとくに険しい道でもなく、ほどなくしてレオンたちはフーラ王国にたどり着いた。そこは、王国というにはとても質素で、里と呼ぶ方がふさわしいほどに小規模なものであった。多くの建物には風車がついており、王国に吹く風を最大限に利用しているようであった。
「ここが、フーラ王国なのか?」
ルナが不安そうにつぶやくと、一人の男性がレオンたちに話しかけてきた。
「そうだ、ココがフーラ王国だよ。旅の一行かい?一休みするなら出入り自由の休憩所があるよ。」
「ご親切に、ありがとうございます。」
アリサが男性に礼をして、とりあえず皆でその休憩所へ向かった。中は広々とした空間で、テーブルと椅子もいくつかあった。レオンたちはテーブルの椅子に座って、一息ついた。ふと、レオンが辺りを見回すと、休憩している人の中に、どこか見覚えのある人物を見つけた。レオンがその人物に近づいてみると、それはコラルの町へ向かう際に通った洞窟でミーナを払って洞窟を出て行った男だった。
「あっ!お前はあの時の!」
「ん?誰かと思ったら、洞窟の出口にいた君か!」
その男は黄緑色の髪のショートヘアーで、探検隊のような動きやすい服装をしていた。腰には剣をさしていて、その男も旅をしているようであった。
「これも何かの縁だな!自己紹介するよ。俺はカインっていうんだ!よろしくな!」
「僕はレオン。あっちにいる仲間も紹介するよ。」
お互いに自己紹介をした後、レオンはアリサ達も呼んで紹介した。
「へぇ、アリサにルナにミーナか!みんないい名前だな!」
「ありがとうございます!」
「アタシも名前を褒められたのは初めてだねぇ。」
「褒められたのうれしい!カインさんはいい人だね!」
「いい人、かぁ。なんだか君たちとは長い付き合いになる気がするな。よろしく頼むよ!」
カインはレオンたちに笑顔で答えた。そこでレオンがカインに、眠ったまま目覚めないという奇病のことについて質問した。
「そうだ、ずっと眠ったままになってしまう病気について、なにか知ってることないか?」
「それは不思議な病気だな。ごめんよ、俺は何も知らないや。この国の王様ならなにか知ってるんじゃないかな?」
「そうだな。じゃあ王様に聞いてみるよ。」
「俺もなにかわからないか調べてみるよ!」
「ありがとう。じゃあ僕たちは行くよ。」
レオンたちはカインと別れ、休憩所の外に出た。そしてカインに言われた通り、フーラの国王のいるという少し大きめな小屋の前に来た。小屋の前には見張りと思われる男が一人いるだけであった。
「すみません、国王様と面会をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「長との面会ですね?少々お待ちを。」
そう言って見張りの男は小屋に入り、ほどなくして小屋から出てきた。
「面会が許可されました。中へどうぞ。」
「ありがとうございます!」
面会が許可され、レオンたちは小屋の中に入っていった。中は特別豪華なわけでもなくいたって質素なもので、目立つものはレンガ造りの暖炉くらいであった。そしてそんな小屋の中にいた長い白ひげをはやした老人が、フーラの国王であった。
「よく来たのぉ。ほれ、そこにおすわりなさい。」
「はい、失礼します。」
レオンたちは、カーペットの敷かれた床に座り、国王の話を聞いた。
「そなたたちは旅のものじゃな?このような山岳の里までよくきてくれましたのぉ。」
「私たちはフーラの近くにあるといわれる神殿の祭壇を鎮めるために来ました。神殿について、なにかご存知でしょうか?」
「ほう!そなたたちがやってくれるのじゃな?実はこの里の風のマナが不安定になっておってのぉ、おそらく祭壇の暴走が影響しておるじゃろう。」
「そうだったのですか・・・・・。」
「責任重大だね、アリサおねえちゃん!」
アリサがミーナに言われ、自身の使命がより重大なものであると再確認した。そして国王は続けた。
「それだけじゃない。最近はこの暴走に乗じてガロス帝国が攻めてくることがあったのじゃ。」
「ガロス帝国?」
レオンが聞きなれない名前の国を聞いて国王に質問した。
「ガロス帝国は、他の村や国を侵略して大きくなった帝国なのじゃよ。目的のために手段を択ばない非情なやつらじゃ。」
「そうなのですか、大変ですね・・・・・。」
ルナが顔をしかめ、アリサがフーラ王国を心配する。さらに国王が続けた。
「うむ、なんとかしのいでいるものの、防衛網が破られるのも時間の問題か・・・。」
そこまで言ったところで、突然見張りの男が小屋に入り国王に伝えた。
「大変です!またガロスの兵が攻めてきました!」
「!?」
その場にいた一同が、その知らせに驚いた。見張りの男によると、その数は多く、防衛網が破られそうだということだ。
「ううむ、今度こそフーラも終わりか・・・・・!」
国王がこの危機にうつむくが、そこでレオンたちが立ち上がった。
「僕たちでそいつらを追い払おう!」
「はい!この王国を彼らの好きにはさせません!」
「へへっ!血がたぎってきたねぇ!」
「わー!たたかいだぁー!!」
レオンたちがフーラ王国のために戦うことを宣言すると、国王が顔を上げ驚いた。
「おまえさんたち!ガロスの兵はそこらの魔物とは違うのじゃぞ!それにこれはこの国の非常時、通りすがりのお前さんたちに危険なことはさせたくない・・・・・!」
「そんなことありませんよ!私たちもこの国にはたくさんお世話になると思うので、私たちもこの国を守りたいのです!」
「そういうこと!ここは僕たちにまかせて!」
そう言ってレオンたちは国王が止める隙もないまま、勢いよく小屋を出ていった。
レオンたちが上ってきた道とは違う山の向こうへ行く道に入ると、そこではすでにフーラ王国の戦士とガロス帝国のものである3体の鎧の騎士が戦っていた。すでにフーラの戦士の数人は倒されており、今にも騎士が先へ進もうとしているところであった。レオンたちはすかさずガロスの騎士たちを阻んだ。
「待て!」
「なんだ貴様らは。ガロスの騎士である我らを阻むならば容赦はせん。」
ガロスの騎士たちが手に持っている剣を構えると、レオンたちも各々の武器を構え応戦した。敵は鎧の騎士が3体。地形は多少傾斜があるものの、ほとんど戦闘には影響はなさそうである。
「僕の剣をくらえっ!」
「そんな剣ではこの鎧には効かん!」
始めにレオンが片方のガロスの騎士に切りかかった。しかし騎士の頑丈な鎧には、軽い傷程度しか与えられなかった。ガロスの騎士がレオンに剣を振り下ろすも、その動きは遅く、レオンはそれを簡単に避けてみせた。ルナも別のガロスの騎士に思い切り正拳を叩き込んだ。するとその騎士は大きく後ろへよろめいていった。しかしルナも、先ほどの攻撃で手を痛め、頑丈な鎧に驚いた。
「いたたー!ったく、けっこういいもんつけてるじゃねぇか!」
「でもその鎧のせいで動きが遅くなってますね。マナでの攻撃はどうでしょうか?」
「それなら鎧でも防げないかもな!僕が試してくる!」
アリサの助言を受けて、レオンが戦っているガロスの騎士に走雷剣を放った。
「走雷剣!!」
「しまった!避けられん・・・・・!」
騎士に走雷剣がヒットした。今度はかなりダメージを与えられているようである。レオンがアリサに親指を立ててグッドサインを出した。
「アリサ、いけるよ!」
「わかりました!ルナさん、ミーナちゃん!」
ルナとミーナがアリサの合図で攻撃を始めた。まずルナが地面を拳で叩き、レオンの走雷剣と同じ要領で炎の衝撃破を3体目のガロスの騎士に放った。
「覚悟しな!走炎拳!」
「なに!こいつもマナの力を使うか!」
走炎拳が騎士に命中し、その場で大きくよろけた。ガロスの騎士が動揺して全員の動きが止まったその隙に、ミーナが先ほどからライトニングの詠唱していて、ちょうど詠唱を終えたところでライトニングを放った。
「いっけー!ライトニング!!」
「ぐおおおぉぉ!!」
「くっ!撤退だ・・・・・!」
ライトニングを受けて一網打尽にされたガロスの騎士たちは、来た道を戻って撤退していった。
「やったー!あたしたちの勝ちだね!」
「へっ!大したことなかったね?」
「僕の剣が効かなかったときはどうしようかと思ったけどな。」
「これはみんなで勝ち取った勝利ですね!」
負傷したフーラの戦士の手当てを、後からきたフーラの戦士たちに任せ、レオンたちは皆で勝利の喜びを分かち合いながら、フーラ王国へ戻っていった。
戦いを終えてフーラ王国へと戻っていったレオンたち。それを、王国の入り口でカインが出迎えた。
「レオン!飛んで行くように王国を出ていって、何かあったのか?」
「ガロス帝国っていうところから来た騎士を僕たちで追い払ったんだ!」
「ガロスの騎士を?すごいじゃないか!俺も負けてられないな。」
そう言ってカインは足早にフーラ王国の中へと戻っていった。レオンたちも、報告のために国王のいる小屋へと向かった。小屋に入り、国王の前に座ると、アリサが先ほどの戦いの国王に報告をした。
「国王様、ガロスの騎士たちは私たちが追い払いました。負傷した兵士たちはただいま安全に救助されています。」
「ほう!本当に追い払ってくれるとは!これも水霊様のお導きか・・・・・。」
「大げさだよ。アタシたちはただ通りすがっただけなんだからさ。」
ルナが気さくに話しかける。ルナは誰に対しても態度を変えない性格だ。一呼吸おいて、アリサが国王に質問した。
「フーラもこれでしばらくは安泰でしょう。一つお聞きしますが、神殿のことについて、他になにかご存知でしょうか?」
「うむ、神殿ならこの山の中にある。わが一族は代々風の精霊を祀ってきた。しかし今、風のマナが不安定になり、風の魔獣のせいでだれも祭壇に近づけんようになってしまったのじゃ。」
「それなら僕たちで祭壇を鎮めてきます!」
「やってくれるかね!?しかし祭壇には凶悪な守護獣が・・・・・。」
「それも大丈夫ですよ。私たちはこの間も一つの祭壇を鎮めてきました。」
「ほう、それならば大丈夫じゃろう。では祭壇の鎮静化、そなたらに任せよう。」
「はい!私たちにおまかせください!」
こうして神殿へと向かうことができるようになったレオンたちは、今日は休み、明日神殿へ出発することにした。王国の宿に泊まる手続きをして、部屋に持ち物を片づけてから、レオンたちは神殿の入り口があるといわれる山頂の祈祷台へ向かった。祈祷台へはか広い階段を上った先にある。祈祷台に到着すると、常に心地よい風が吹いており、台の奥には風のマナが祀られた祠があった。
「風の吹かない海の世界で、こんなにも風が吹くなんて・・・・・。」
アリサが風に当たりながら、穏やかな表情で言った。祠のところをよく見てみると、祈祷台の影に隠れて誰かが祠の前にいるようであった。レオンたちが祠の前々来てみると、そこにいたのはカインだった。
「カイン、なにしてるんだ?」
「レオンたちか。この祠の中には、風のマナが祀られているんだ。大昔に様々な民族がこれを求めてフーラに攻め入っては、その風の力になぎ倒されていった。もしも、奪うんじゃなくて、少しだけでも分けてもらうだけでよかったら、こんな争いの歴史もなかったのにな。」
「そうですね・・・・・。分かち合う心も必要だと、私は思いますよ?」
「そうだよね。うーん、いきなりこんな話してごめん!じゃあ、またどこかで。」
カインは話を終えると、そそくさとその場を去ってしまった。レオンたちも、祠を見てみることにした。祠からは聖なる力を感じ取れた。そこにだけ強力なマナで満ちていることがよくわかる。
「フーラの民は、この力に守られていたのですね。」
「そうだね。アタシにもわかる。フーラの人たちは、これを50年間守り続けてきたんだな。」
レオンたちはフーラの持つ偉大な力に感服して、宿へと戻っていった。外はすでに日も落ちて夜になろうとしていた。宿に向かう途中、アリサは一人の男に呼び止められた。
「よぉ。祭壇を鎮めに行くご一行だろう?そこのお嬢ちゃんに用があるんだ。」
「はい、私ですか?」
「そうさ。これをくれてやろうと思ってな。」
そう言って男が出したものは、2,3枚の束になった紙であった。どうやら紙にはなにかの魔法が記されているようだ。
「これを私に?」
「お嬢ちゃんなら使いこなせるだろうし、使えれば旅がグッと楽になるはずだ。」
「ありがとうございます!」
アリサは男から紙を受け取り、レオンたちと宿へ戻った。レオンたちは早速紙に書かれた魔法を見てみた。
「アリサ、何の魔法なんだ?」
「はい、一度に複数の味方を回復させる魔法のようですね。」
「すごい!あたしにもできるかな?」
「ふふ、まずは私がやってみるね?」
アリサはミーナの頭を撫でて、魔法の書かれた紙を大切にリュックにしまった。そしてレオンたちは今日は休むことにして、それぞれ別の部屋で眠りについた。
夜、フーラの民も眠りについて、静寂の中に風の音だけが聞こえるようになった頃、祈祷台の祠の前にカインが立っていた。そして、祠の中の風のマナを見つめていた。
「俺も、この力があれば・・・・・。」
そう言ってカインが風のマナに手を伸ばした。すると、風のマナはその力でカインの手を弾き返した。
「くっ!・・・俺じゃダメなのか?」
カインは肩を落として、祠をを後にした。祈祷台へ向かう階段を下りていくと、黒いローブを纏った男が待ち構えていた。
「お前では風の力を手にすることはできなかったようだな。」
「何の用だ。俺をここで殺しに来たのか?」
「ククク、こんな美しい国でそんな野暮なことはせん。それに、私はお前の様子を見てくるよう言われただけだからな。」
「ふん、俺は必ず力を手に入れてお前らに復讐してやる。覚悟しておくんだな。」
「フ、楽しみにしておくよ。」
黒いローブの男はカインと会話をすると、そのまま去っていった。そして、カインもそのままフーラを出て行った。
そして朝になり、レオンは目覚めた。窓から朝日が差し込み、とても目覚めのいい朝だった。レオンは着替えて廊下に出ると、アリサが廊下に一つ置いてあった椅子に座り、静かに本を読んでいた。
「アリサ、おはよう。」
「あ、レオンさん。おはようございます。少し早く起きてしまったので、本を読んでいました。」
「そうなんだ。よく本を読んでるけど、本が好きなの?」
「はい!昔から、姉さんが読み聞かせてくれたりしていたので。」
「そうなんだ。僕は、あんまり本とか読まないからさ。」
「そうなんですか?」
「だから、ククルの町でアリサが伝承を読み聞かせてくれた時、とっても嬉しかった。ありがとうな!」
「はい!また聞かせてほしいときはいつでも言ってくださいね?」
「ああ。わかったよ。ところで・・・・・。」
「ふふ、あの2人ですよね?」
レオンとアリサがちらっと後ろを振り返ると、部屋のドアを少し開けて2人を覗いているルナとミーナがいた。レオンがルナとミーナを呼んだ。
「もう出てきていいよ。」
「へへ、なんだかいい雰囲気だったんで出るに出てこれなかったのさ。」
「ふふふー!レオンとアリサ仲良しだね!」
「ありがと!それじゃそろそろ行くか!」
レオンたちはそんな会話を交わして、宿の外へと出た。外は昨日と同じ心地よい風が吹いていて、穏やかな気候だった。さっそく国王の居る小屋へと入ると、すでに国王がすべての準備を終えて待っていた。
「国王様、おはようございます。」
「おお、早かったのぉ。では早速行くとしよう。」
レオンたちは国王とともに祈祷台の奥にある祠の前までやってきた。国王が祠に手をかざすと、祠がズズズッと後ろへ下がり、そして祠の下から下りの階段が現れた。
「ここが風の神殿の入り口じゃ。過去にも何人もの戦士を送り祭壇を鎮めようとしたが、皆が祭壇にたどり着くことすらできずに撤退していった。おぬしらならばきっとできると、信じておるぞ。」
「はい!必ずや祭壇を鎮めてまいります。」
こうしてレオンたちは勇んで階段を下り、神殿へと入っていった。