[五章]神殿と海賊
階段を下り神殿の内部に入ったレオンたち。内部は全体を通して迷路のようになっており、一度通った道も忘れてしまいそうなほどであった。レオンたちが内部を進んでいると、突然レオンたちの前に水の球が3つ現れ、その球がオオカミの形に変化しレオンたちに襲いかかってきた。レオンとルナはこれが噴水で襲ってきたオオカミ型の水の魔物と同じものだとわかった。レオンがすぐに皆に呼びかける。
「こいつら、噴水で襲ってきたのと同じだ!気をつけろ!」
最初に水の魔物の一体が、アリサめがけて飛びかかり噛みつこうとしてきた。アリサはそれをかわしながら短剣で魔物を斬りつけ体制を立て直した。
「手ごたえがあまりないですね、効いているのか効いていないのか・・・・・。」
攻撃に手ごたえのなさを感じやや困惑するアリサに、魔物はひるむそぶりを見せず再び襲いかかってきたが、そこにレオンが助けに入り、魔物を正面から斬りつけた。魔物は噴水のときと同じように水に戻った。レオンがアリサに声をかける。
「大丈夫?」
「はい!ありがとうございます!」
一方ルナとミーナは2体の魔物を相手にまったく苦戦をしてないようであった。ルナが片方の魔物に3連続のパンチとフィニッシュに回し蹴りを喰らわせると、魔物はたちまち水に戻った。ルナの隙をついてもう片方の魔物がミーナに襲いかかる。
「ミーナ、そっち行ったよ!」
「大丈夫!そーれっ!!」
ミーナは攻撃魔法を唱えている最中だったが、その詠唱を中止して魔物に向けて思い切り杖を横に振り回し魔物を吹き飛ばした。魔物はレオンのいる方に飛んでき、その飛んできた魔物に向かってレオンが飛び込み切りを喰らわせた。そして最後の魔物も水に戻っていき、戦闘は終わった。戦闘が終わると、レオンはミーナが意外な戦い方をしたのに驚き話しかけた。
「ミーナすごいな!魔法だけじゃなかったんだ!」
「えへへ!あたしすごいもん!」
すっかり得意げになるミーナであった。引き続き神殿内を捜索していると、底が見えないほど深く、飛び越えられないほどの大きな穴が開いていて通れない道に突き当たった。穴の向こうには下りの階段があり、おそらくこの先に何かがあるのだということがわかった。レオンは困ったように皆に聞いた。
「ここ、どうしようか?」
「もしかしたら、なにかここを通るための仕掛けがあるのかもしれませんね。」
レオンたちがこの穴の向こう側を通るための手段を話し合っていると、ミーナが壁に文字が書かれているのを見つけた。
「ねぇねぇ!ここになにか書いてあるよ!」
ミーナに言われて、皆が文字の描かれている壁を見ると、そこにはこう書かれていた。
[祭壇に捧げし器を満たせ。]
これを読んだアリサはすぐにこの意味を理解し、この文章の意味をさっそくレオンたちに伝えた。
「つまり、この穴に水をいれればいいんです。」
「そうか!でもどうやって水をいれればいいんだ?」
レオンがアリサに聞くも、当然そこまでは分かるはずはなかった。そこでルナが皆に言った。
「たぶんこの穴に水を入れる仕掛けが神殿にあるんだろうさ。それを探しにいこう。」
そうしてレオンたちはその仕掛けを探すためにさらに神殿内を探索し続けた。あるところまで行くと、どこからか、水滴が落ちるような音が聞こえてきた。レオンたちはその音のする方へ向かうと、そこには足元がそこだけ水たまりになっていて、壁には中から水滴がしたたり落ちる穴と、上から下に押して作動させる形のレバーが付いた行き止まりに着いた。
「このレバーを押せばいいんだな?」
レオンはそう言ってレバーを押すと、壁の穴から水がそこそこに勢いよく出てきた。出てきた水は、レオンたちが通ってきた通路を流れていった。レオンたちがその流れを追いかけていくと、先ほどの穴があって通れなかった通路に水が満たされ、その穴から足場が現れていた。
「なるほど。水を入れたから浮かんできたのか。」
ルナが感心したように水のたまった穴を見ていると、ミーナが現れた足場を使い穴の向こう側へ行くとレオンたちをせかすように呼びかけた。
「先に進めるよ!はやくいこうよ!!」
3人はミーナに呼ばれて、足場を使い穴の上を通り先へと進んでいった。下りの階段を降りて、その先にあった扉を開けた先にあったものは、なんと広い空間に黄金の財宝が所狭しと並べられた場所だった。先ほどまで暗い道を進んでいたので、皆が黄金の輝きに目をくらましながら、その光景に驚愕し、ミーナとアリサがおもわず驚きを声に出した。
「うわーすごい!きんぴかなの!!」
「これはこの神殿に祀られている精霊様の供物でしょうか?神殿の奥深くにこんな場所があったんですね!」
目も慣れたところで、この黄金の部屋からさらに奥へ進む道を探すことにした。しかし先へ進めそうなところは見つからず、困ったレオンたちは少し休憩することにした。レオン、アリサ、ミーナは思い思いのところに座り、ルナも黄金でできた大きな壺に寄りかかって休もうとした。すると・・・・・。
「ん?・・・うわぁぁ!?」
なんと壺が壁の中へと倒れたのだ。ルナもそのまま上半身が倒れた壺に乗り上げるように倒れていった。その光景にほかの3人も驚いてルナに駆け寄った。倒れた壺のある場所を見ると、なんとさらに奥へ続く道があったのだ。どうやら大きな壺で隠されていたようだ。
「ルナさん、大丈夫ですか?」
「いたた、凝った仕掛けだねぇ。」
「みんな、これをどかせば進めそうだぞ!」
アリサとミーナでルナを起こして、レオンが倒れた壺をどかすと、ちょうど一人が入れるほどの幅の通路がそこにあった。レオンたちはその狭い通路に入り、しばらく進むと広い空間に出た。足元には全体的に水が張っており、いままでの通路とは違う神秘的な雰囲気に包まれていた。それに加え、この空間だけ水のマナが特に増幅しているようで、空気が重く感じた。
「ここ、今までとは違う感じだな・・・・・。」
レオンがそう言ってその部屋を見渡していると、正面の奥の方に何かがあるのを見つけた。それをよく見てみるとそれはレオンたちが探していた、遺跡でみたものと同じ祭壇であった。
「みんな!あれが祭壇だ!」
「わかりました。祭壇を鎮めます!」
アリサは祭壇に向かって歩き出した。アリサが祭壇の前まで来ると、異常なマナの増幅を感じたミーナがアリサに呼びかけた。
「アリサおねえちゃん!祭壇から離れて!」
「えっ・・・・・!?」
ミーナに言われた通り祭壇から急いで離れると、突然祭壇が水の柱に包まれ、空間の中央に水が集まりだし、その水が巨大なオオカミのような姿になった。しかも今までの水の魔物とは違い、さらに凶暴な姿になったのだ。大型の魔物はレオン、ルナ、ミーナの3人とアリサを隔てるように中央に現れたので、アリサは1人分断されてしまった。
「こいつが祭壇を守る守護獣か!」
レオンがそういうと、レオン、ルナ、ミーナはすかさず身構え、アリサも自身の短剣を構えた。それを見て守護獣が大きな咆哮を放ち、水の守護獣との戦闘が始まった。
最初に水の守護獣はレオンたち3人がいる方向を向いていたが、すぐさまアリサの方へ向き直しアリサに襲いかかった。守護獣は右前脚でのひっかき攻撃を放ったが、アリサはこれを難なくかわし、放たれた守護獣の右前足を短剣で攻撃した。
「これで足が止まれば・・・・・!」
しかし守護獣はひるむことなくアリサに攻撃し続けてきたので、アリサはその攻撃をかわしつつレオンたちと合流すべく少しずつレオンたちに近づいていった。レオンとルナは、守護獣がレオン側を無視している隙をついて守護獣の後ろ脚へと走っていった。守護獣の足を崩して転倒させる作戦だ。
「行くぞルナ!」
「あいつの足を狙えばいいんだね!?」
ミーナは回復魔法を唱え、いつでも味方の回復を行える準備をしていた。そしてレオンとルナは守護獣の後ろ足へ同時に攻撃を放った。しかしあまり効いていないのか、レオンとルナは守護獣の後ろ足で軽々と蹴り飛ばされてしまった。
「うわっ!!」
「くっ、こいつは厄介だよレオン!」
レオンとルナはうまく受け身を取って体制を立て直した。そこに魔法の詠唱を終えたミーナが心配してレオンとルナに状態を聞いた。
「大丈夫!?回復しようか?」
「まだ大丈夫!僕はアリサの方に行ってくる!」
そう言ってレオンはアリサのいる方向へ向かっていった。ルナも、自分もまだ大丈夫だと伝えると、ミーナは唱えた回復魔法を杖のなかに蓄え、次の魔法を唱え始めた。これは上級魔導師のみが使えると言われる「魔法ストック」という技術で、一度唱えた魔法を自身の武器などに蓄えることで、いつでもその蓄えた魔法を詠唱なしですぐに使えるようにするのだ。
「いつでも回復できるようにするからね!」
「ありがと、ミーナ!」
一方アリサは、守護獣がルナに気を取られている隙に守護獣の首元を短剣で突き刺した。これは効いたのか守護獣は苦しそうにうなりながらアリサを振り払った。受け身を取り体勢を立て直すアリサの元にレオンが合流した。
「アリサ、大丈夫か!?」
「はい!私は大丈夫です!・・・・・そうだ!レオンさんの雷のマナの力なら、あの守護獣に効果的なのでは?」
「そうか!やってみる!」
アリサに提案され、レオンは雷のマナの力を剣に込める。それに気づいた守護獣はレオンめがけて爪での攻撃をしかけるがその時、ルナが守護獣の左後ろ足めがけて強烈なキックを放った。その攻撃を受けた守護獣は大きくバランスを崩し左側に倒れこんだ。その瞬間を狙ってレオンが守護獣に雷の込められた剣での2連続切り「雷刃連斬」を放った。
「いくぞ!雷刃連斬!!」
これを首元に受けた守護獣は全身がしびれて倒れたまま動けなくなった。
「グオォォォォォ!!」
「効いてる!私が一気に決めます!!」
守護獣が大きくうなると、アリサが守護獣めがけて走り込み、守護獣の腹から股にかけてを短剣で一気に切り抜けていった。すると守護獣の斬られたところから水があふれ出し、ドロドロになって姿が崩れ始めたのだ。守護獣がその姿を維持できなくなっているのだ。身体が崩れかかってもなお立ち上がる守護獣を見て、ルナが声を上げる。
「こいつはアタシがとどめを刺す!!」
ルナは守護獣めがけて跳躍し、とどめの一撃をその顔面に喰らわせようとした。守護獣が最後のあがきと言わんばかりに右前脚を高く振り上げルナを叩き落とそうとするが、そこにミーナが先ほどから唱えていた氷の槍を放つ魔法「アイスジャベリン」が炸裂し、守護獣の右前足を切り落とした。そしてそのままルナはとどめの攻撃「炸裂拳」を守護獣に全力で放った。
「いけぇ!!炸裂拳!!」
ルナの拳から爆発が起きたような激しい音を立てルナの拳が守護獣を打ち砕いた。
「グオォォォォォォ!!」
そして守護獣は大きな叫び声をあげながら、ドロドロに溶けて元の水に戻っていった。こうしてレオンたちは水の守護獣に勝利し、祭壇の前での戦いは終わった。
戦いを終えたレオンたちは皆であつまってハイタッチを交わした。
「ありがとうございます!これで祭壇を鎮めることができますね!」
「そうだな!これ以上邪魔が入ることはなさそうだし、アリサも安心して祭壇を鎮められるな!」
レオンが嬉しそうに話すと、ミーナが心配そうに他の3人に話しかけた。
「そうだ、みんなけがは大丈夫?あたしが回復するよ?」
レオン、リサ、ルナの3人は先ほどの守護獣との戦いでずっと前線で戦っていたので、ミーナに回復を頼むことにした。ミーナは先ほどストックした回復魔法で3人を治療した。3人はすっかり元気になり、レオンはミーナにお礼をした。
「ありがとう。攻撃も回復もできるなんて、ミーナはすごいな!」
「そうですね。ミーナにはいつも助けられています!」
レオンとアリサがミーナを褒めると、ミーナは嬉しそうな顔で笑ってみせた。その後にルナがアリサをせかすように言った。
「早く祭壇を鎮めよう。ほかにもやることはあるんだしさ。」
「そうですね。では、行ってきます。」
そういってアリサは祭壇に近づいた。すると祭壇を包んでいた水の柱が消えて、祭壇に近づけるようになった。アリサは祭壇の前で祈りを捧げた。
「水霊の守り神よ、その震える魂を鎮めたまえ・・・・・。」
アリサが祈りを捧げると、先ほどまでのマナの増幅が収まり、空間の空気も軽くなった。祭壇が正常に鎮められたのだ。
「やったな!アリサ!」
レオンがそう言ってルナ、ミーナとともにアリサの元に向かい、祭壇の鎮静化の成功を喜んだ。
「みなさん、ありがとうございます!これで残りは4つです!」
アリサがそう言って、皆で喜びを分かち合った。その時。突然後ろの方で大きな爆発音が聞こえたのだ。どうやら黄金の財宝がある部屋から聞こえたもののようだ。爆発音に驚いたミーナは思わず飛び上がった。
「わぁ!なになに!?」
「とにかく行ってみよう!!」
ルナが3人に言って財宝の部屋に戻ると、なんとそこには、いかにも海賊といった装いで両腰にサーベルをかけた女と、和風ないでたちで腰に日本刀をさしたポニーテールで黒髪の女性と、魔法使いのような姿で背中に大きな杖を背負った女性の3人の女海賊とその部下たちが壁に大きな穴を開けて財宝をその大穴から持ち出していたのだ。それを見て先に細い通路を抜けたレオンが3人の女海賊に向けて声を上げた。
「おまえら!何をやってるんだ!!」
その声を聴いた3人組がレオンの方向へ振り向いて、海賊らしい姿の女が言った。
「何をしているだって?そりゃもちろんここの財宝を奪ってるのさ!」
その女海賊3人組の正体は、あの海賊3姉妹のマイ、ライ、メイであった。海賊らしい姿の女がマイ、和風ないでたちの女性がライ、魔法使いの姿の女性がメイである。
「お前たちは!」
レオンが驚いたように言ったので、ルナがレオンに3姉妹について聞いた。
「知ってるのかい!?」
「クオーリア近海では有名な海賊なんだ。まさかこいつらも海の世界に来てたなんて。」
その話を聞いたマイが片眉をつり上げてレオンたちに自分達の今までのいきさつを話をした。
「ああ、あの荒海の日にさ!突然天候が変わったと思ったらアッというまに船ごと渦潮の中さ!おかげで船は木端微塵になったうえにかわいい部下は半分に減っちまった!」
マイがレオンたちに話していると、部下がマイに近づき報告をした。
「目的の物、全部運び出しました!!」
「よし!じゃあ引き上げだよ!!」
マイが部下に伝えると、部下は一目散に大穴に入って逃げていき、マイたち海賊3姉妹も続いて大穴から出ていった。
「待て!!」
レオンがそう言って、3姉妹を追いかけていった。アリサ、ルナ、ミーナもレオンに続いて後を追った。大穴の中はなぜかしっかりした階段があったが、その理由はすぐわかった。大穴を抜けると、そこは城の中にある広い書斎と思われる場所だった。なんと大穴は書斎にある隠し通路とつながっていたのだ。レオンたちが左を見ると、海賊3姉妹が壁に開けた大穴から脱出しようとしているところであった。レオンとアリサが3姉妹を呼び止めた。
「待て!財宝を返せ!!」
「精霊様の供物を奪うなんていけません!!」
マイ、ライ、メイは呼び止められると、素直にレオンの方を振り向いた。そしてマイが呆れたようにレオンに言った。
「アンタらしつこいんだねぇ?こっちはガキの遊びに付き合ってる暇はないんだけど・・・・・。」
そこまで言って、マイはライとメイにアイコンタクトを送った。そしてマイが両腰のサーベルを抜き、続けて言った。
「悪い子には思い知らせなきゃいけないよねぇ。海賊の怖さをさ!!」
その言葉を合図にライは腰の日本刀を抜いて構え、メイは背中に杖を持った。それを見てレオンたちも武器を持って構えた。城内の大きな書斎で海賊3姉妹との戦闘が始まった。
「アンタら行くよ!!」
マイがライとメイに呼びかけて前進するると、ライがマイについていくように前進し、メイがその後ろで魔法を唱え始めた。レオンはマイとライを迎撃するべくアリサ、ルナとともにマイとライに向かっていった。ミーナはメイと同じく後ろで魔法を唱え始めた。マイとライがレオンに攻撃を仕掛けようとしたとき、メイの魔法が発動した。
「それ~、パワーフォース~!」
メイが発動した魔法は、味方全体の攻撃力を高める「パワーフォース」である。中級魔法なのだが、メイはこれを下級魔法並みの詠唱時間で発動した。急に攻撃強化状態になったマイとライにレオン、アリサ、ルナは驚いたが、一番驚いていたのはミーナだった。
「えぇ!?あんな早く魔法が使えるなんて!」
「すごく努力したんです~」
メイがにこりと笑って次の魔法を唱え始めた時、レオンはマイを、アリサとルナはライを相手にしていた。レオンは戦闘慣れしているマイに苦戦を強いられていた。
「くっ、こいつは強い!!」
「アンタ、実践慣れはしてるようだけど、動きはまるで素人だねぇ!」
「くそっ!まだだ!」
レオンは果敢にマイに攻撃を仕掛けるが、そのほとんどはかわされれてしまい、ほとんどダメージを与えることができないでいた。しかしマイの方は、うまくレオンの隙をついて確実にレオンを追い詰めていた。一方ライと2対1で戦っているアリサとルナは、数で勝っていることもあってか善戦していた。
「くっ・・・2対1とは卑怯な!!」
「余っちまうんだからしょうがないのさ!」
ライはこの状況に苦言を漏らすが、ルナは気にせず攻撃を続けた。ライはルナとアリサの攻撃をなんとかしのいでいる状況であった。ふとアリサがレオンの方に目を向けると、そこにはマイに追い詰められているレオンの姿があった。そこでアリサは、ライをルナに任せてレオンの援護へ向かうことにした。
「レオンさんが危ない!ルナさん、私はレオンさんのところへ行ってきます!」
「わかった!レオンを頼んだよ!」
アリサがレオンの元へ走り出すのを見たライはアリサを阻もうとするが、そこにルナがライに攻撃して気を引き、ルナはアリサを援護に向かわせることに成功した。実はルナも1対1で勝負がしたかったらしく、思いのほかこの状況を楽しんでいた。
「これでやっと1対1だ。腕がなるよ!」
「ここからが真剣勝負、ということだな。」
ルナが力強く腕を回し、ライも刀を持ち直すと、お互いが精神を集中させて間合いの読みあいが始まった。そして苦戦しているレオンの元に、アリサが到着した。レオンに振り下ろされるマイの剣をアリサが横から払いのけ、アリサはレオンを守るように2人の間に割って入った。その様子をあざ笑うようにマイがレオンに言い放った。
「お姫様に助けられるなんて情けない王子だねぇ!」
マイは右手の剣をくるくる回しながらレオンを挑発してみせたが、レオンは全く気にせずアリサの横に並んで剣を持ち直した。そしてアリサがマイに向かって先ほどの言葉に対して言い放った。
「私たちは助けあっているのです!助け合えばあなたたちにも負けません!」
「へぇ、まぁその気合は褒めてあげるよ。」
マイが2人を相手に向かおうとしたとき、メイが再び魔法を発動した。
「シールドフォースです~。」
今度は味方全体の防御力を高める魔法「シールドフォース」だ。マイはこれを受けてライとともに一気に攻めかかろうとした。その時、ミーナが長い詠唱を終えて魔法を発動した。
「今だ!!ライトニング!!」
それは敵全体に雷の雨を落とす上級魔法「ライトニング」だった。単純だが強力な魔法で、詠唱も上級魔法の中では最短ですむものだ。ミーナがライトニングを発動させたとき、上から海賊3姉妹に向かっていきなり雷の雨が降ってきた。マイ、ライ、メイの3人とも雷に反応できず直撃を喰らった。
「なっ、なにぃ!!?」
「うわぁぁ!これほどの魔法が!?」
「ひゃぁ~!ビリビリです~!」
突然の攻撃に、シールドフォースの恩恵を受けながらにして大打撃を喰らった海賊3姉妹をレオン、アリサ、ルナがさらに追撃する。
「ナイスミーナ!こっからアタシたちのターンだ!」
「いきましょう!一気にしかけます!」
「よし!みんないくぞ!」
始めにルナが先ほどのライトニングで体制を崩しているライに向かっていった。ライは迎え撃とうとするも、ライトニングを受けたダメージで持ち直せずにいた。そこへルナが一気に勝負をつけるべく攻撃をしかけた。
「くっ、貴様!真剣勝負はどこへ行った!」
「悪いね!なりゆきってことさ!」
ライの苦言もおかまいなしにルナが強力な2連続パンチと回し蹴りをライに仕掛けた。この攻撃を喰らったライは後ろへ飛ばされた。
「ぐあぁぁ!!っく、まだまだ・・・・・!」
「しぶといねぇ!次でケリだ!」
吹き飛ばされてもなお立ち上がりルナに切りかかるライだったが、ルナは上から振り下ろされた刀を左手のガントレットで受け止め、空いた右手でライの腹に強烈なパンチを放った。これを受けて大きな隙が生まれたライにとどめをさすべく、ルナは必殺の炸裂拳をライに放った。
「これでとどめだ!炸裂拳!!」
「う、うわぁぁっ!!」
ライは吹き飛んで思い切り壁に叩きつけられ戦闘不能となった。ルナはミーナに笑顔でグッと親指を立てた。ミーナもルナに満面の笑みで両手を振り、勝利を喜んだ。その後、ルナは次の目標であるメイに向かい走っていった。レオンとアリサも、ライトニングを受けて大きな隙ができたマイに攻撃を仕掛けた。
「アリサ、一気にいくぞ!」
「はい!コンビネーションアタックです!」
複数人で技を組み合わせて攻撃する「コンビネーションアタック」で決着をつけるべくレオンとアリサはタイミングを合わせる。
「チッ!あのガキやってくれたね!!」
マイもライトニングのダメージを負いながらもレオンに攻め続ける。しかし、ダメージのせいかマイの剣の速度が鈍っていて、レオンもその動きを見切り、確実に反撃していった。そしてマイがアリサの短剣での攻撃をかわそうとした際に大きくバランスを崩して隙が生まれた。その隙を見逃さず、レオンとアリサはマイにコンビネーションアタックを放つ。
「し、しまった!」
「いまだアリサ!決めるぞ!」
「はい!」
レオンとアリサは息を合わせて、レオンが走雷剣を放つと、アリサがその走雷剣にさらに衝撃波を重ねて威力を高めた。そしてレオンとアリサが息ぴったりで技名を叫んだ。
「双刃雷剣!!」
「うわぁぁ!なんて威力だい!」
マイは剣でガードしたが、そのあまりの威力に後ろへ吹き飛ばされていった。マイもこれ以上戦闘を行うのは危険と判断して、ライとメイに指示を出した。
「ぐっ・・・・・!ライ!メイ!退散だよ!!」
「わかりました~。フラッシュ~!」
それを聞いたメイは、ルナの攻撃を受ける直前に周囲に閃光を放つ「フラッシュ」を詠唱なしで唱え、レオンたちの目をくらました。レオンたちは驚いて目をふさいだ。
「うわっ!まぶしい!なんだこれ!?」
「レオンさん、フラッシュです!」
「くっ、逃げる気かい!」
「なにもみえないよ~!」
レオンたちの隙をついて逃げるべくメイはライの肩を担いで壁の大穴から脱出していった。ライとメイが脱出したのを確認したマイは自分も逃げるべく大穴へ向かった。
「今日のところは勘弁してやるよ!今度邪魔するとただじゃおかないからね!!」
大穴から逃げる際にレオンたちに捨て台詞を吐いて、マイもレオンたちから逃げていった。
「まっ、待て!!」
レオンが呼び止めるが、そこにはすでに海賊3姉妹の姿はなかった。
フラッシュでくらまされた目も回復し、レオンたちはとりあえず書斎を出ることにした。書斎を出て、城のロビーまで行くと、そこには両側に衛兵を置いた国王がレオンたちを待っていた。
「おお、無事だったかね!書斎でなにやら激しい音が聞こえるものだから心配していたよ。」
国王はまずレオンたちの無事を確認できたことで安心したようであった。しかし、レオンたちの表情は暗いものだった。
「国王様、申し訳ございません。祭壇の鎮静化には成功しましたが、黄金の財宝の多くを海賊に奪われてしまいました。」
アリサが申し訳なさそうに頭を下げた。しかし国王はそれほど気にも留めないような様子でレオンたちに話かけた。
「ホッホッホ、やはりあやつらの狙いは財宝だったか。なに、君たちが無事ならそれだけでよかったよ。」
「しかし、国王様の大切な財宝を奪われてしまって・・・・・。」
海賊を逃がしてしまったことに負い目を感じているアリサに、国王は諭すように言った。
「財宝は「物」だ。なくしたとしてもいくらでも取り返せる。しかしな、命は「物」ではない。だから一度失えば二度と取り返すことはできん。だからわしは君たちが無事でいてよかったと思っている。それに君たちは祭壇を鎮めてくれたのだ。それだけでも立派な功績なのだよ。これで市民も魔物におびえることなく生活できるだろう。ありがとう。君たちにはとても感謝しているよ!」
国王にたたえられ、レオンたちの顔にも笑顔が戻った。アリサも国王に精一杯の感謝をこめて再び頭を下げた。
「国王様・・・・・。ありがとうございます!!」
「ホッホッホ!皆の物!今日は彼らに夕食をごちそうしようではないか!皆で城の掃除をして、夕食を用意するのだ!」
国王の指示を聞いたメイドや衛兵が元気よく返事をすると、一斉に城の掃除を始めた。突然の国王の発言にアリサは慌てた。
「国王様!?そ、そんなお気遣いをなさらなくても!私たちは使命に従ったまでで・・・・・。」
「なに、わしは王国を救ってくれた勇者一向にお礼をさせてもらいたいのだ。」
「勇者なんて大げさだねぇ・・・・・。」
「わーい!今夜はごちそうだね!!」
国王に勇者と呼ばれ、ルナは照れた様子で言った。ミーナは相変わらずの元気な反応を見せた。レオンは慌てるアリサの肩に手を置いて、笑って話しかけた。
「アリサ、せっかくだからいただいていこう!」
「は、はい!そうですね!」
アリサもレオンに話しかけられて落ち着いたようで、国王から夕食をいただくことにした。
「よし、決まりだね。君たちはまたしばらく町を見ていくといい。夕方ごろにまた城に来るといい。」
国王に城を任せ、レオンたちは一旦町に出ることにした。