[十三章]火の神殿
ミレイを宿に残し、いき込んで再び火の神殿につながる横穴の前へと来たレオンたちと魔法道具店のオーナー。そこでレオンたちはカインを待つ間、昨日のことを思い出し今後のことを話し合うべく、レオンは一同に話しかけた。
「新しい剣を手に入れたはいいけど、無限に湧き出る魔獣を相手にはできないな。」
「そうですね、どうしましょうか・・・・・。」
アリサもそう言って、皆で考えていると、魔法道具店のオーナーがレオンたちに提案した。
「それならば、神殿の古い入り口を使うしかないわね。」
「そんなものがあるんですか?」
ミーナがオーナーに聞くと、オーナーは横穴の右側にある小さな道を見ながら言った。
「この火の神殿は、かつては普段でもマナが不安定で、暴走しないように数十年に一度マナを安定させるために祭壇に祈りをささげる必要があったの。でもその神殿の入り口から祭壇までの道のりが過酷だったために、死人が出ることも少なくなかったわ。そこで私のおばあさまは、これ以上巫女が犠牲にならないように、水霊様に祭壇へ直結させる道を作ることのお許しを貰うために祈りをささげたの。そしてできたのが、昨日魔獣が守っていた穴なのよ。」
「そうだったのか・・・・・。」
レオンがオーナーの話を聞いてうなずくと、ちょうどそこにカインが現れた。
「レオン!遅れちゃってごめんよ!」
「カイン!僕たちも少し前に来たところさ!剣は貰えたのか?」
「もちろんさ!こいつが俺の新しい相棒さ!!」
そう言ってカインが背中に背負っていた剣を下ろして鞘から抜くと、その剣は真っ赤に輝き、離れていてもわかるほどの熱気を放った。デザイン自体はシンプルな両刃剣だが、それ故により力強さを感じるものとなっていた。
「おおっ!カインの剣もすげぇじゃんか!」
ルナが笑顔で感心しながらその剣を眺める。それを見たカインは、得意げに自身の剣について説明を始めた。
「この剣は火のマナの力を増幅させるために、貴重な炎熱石をふんだんに使って作られたんだ。それに俺の火のマナの力を合わせて、そりゃもうすごいパワーを引き出すんだぜ!」
「へぇ、すごいな!」
説明を聞きながら、それに感心して剣を見ているレオンと自分の剣を自慢げに説明するカインを、アリサとオーナーはにこやかに見ていた。
「カインさん、すごく嬉しそうに剣を自慢してますね!」
「ふふ、よっぽど新しい剣がうれしいのね。」
一通り説明を終えたカインは、思い出したようにレオンの剣について聞いた。
「そうだ、レオンも新しい剣を貰ったんだろ?見せてくれよ!」
「もちろんさ!これが僕の新しい剣さ!」
レオンも鞘から青色の剣を抜くと、カインはとても驚いた様子でその剣を凝視した。
「す、すげぇ・・・・・!こんな剣見たことないぞ!」
「ああ、これも武器屋のみんなが協力してくれたおかげだ!」
「俺の剣にも負けてねぇな!レオン、よかったな!」
「あはは、ありがとう!」
とても仲よさそうに剣のことを話すレオンとカインの姿は、戦いの前で緊張していた一同の心を和ませた。そして、ある程度話が終わったところで、オーナーは本題に入った。
「さて、みんな集まったところで、これから私が神殿の旧入口へ案内するわ。ついてきて。」
オーナーはレオンたちの前へ出て、ゆっくりと横穴の右にある下り坂へと歩みを進め、レオンたちもそれについていき、坂を下っていった。その道のりはさほど遠くはなく、レオンたちも無言のまま、神殿の旧入口へとたどり着いた。その入り口は、白い柱で立てられた石の門があり、本当に神殿の入り口と言ったような雰囲気を醸し出していた。コラル王国の神殿は城の地下階段が入り口で、フーラ王国の神殿も祠の下に入り口が隠されていたので、レオンたちは火の神殿の神殿らしさに逆に驚かされた。
「着いたわ。ここが、火の神殿の旧入口よ。」
「お、おお・・・。こりゃ神殿だな。」
「あはは~!神殿だ!」
先にルナが神殿の石門を見上げ、ミーナは神殿らしい石門に笑っていた。レオンとアリサはそんな石門を見て、改めて気合を引き締めていった。
「これからここを進むんだな。みんな、準備はいいか?」
「はい!いつでもいけますよ、レオンさん!」
「アタシも準備万端だよ、レオン!」
「レオン兄ちゃん!あたしも大丈夫!」
レオンの問いかけに、アリサ、ルナ、ミーナの3人は勢いよく答える。その後にカインも落ち着いた様子でレオンに応えた。
「俺も大丈夫だ。さぁ、早く行こうぜ。」
「ああ、それじゃみんな、行くぞ!」
「はい!」「おう!」「うん!」
レオンの号令に3人が答え、カインも軽くうなずいて答えた。
「ふふ、頑張っていってらっしゃい・・・・・。」
オーナーの見送りを受けて、レオンたちは神殿の中へと入っていった。その姿を、早朝にカインと話しをしていた黒いローブの男が岩の陰から見ていた。
レオンたちが神殿に入り、大きな階段を下っていくと、左右で輪を描くように分かれた通路が最初に見えた。どうやら壁の向こう側で繋がっているようだ。そこでレオンたちはすぐに、火の神殿の異様なまでの熱気を感じた。
「レオンさん、、ここはとても暑いですね・・・・・。」
「町の中も十分暑かったけど、ここはまた一段と暑いね。」
アリサとルナも、すでに額に汗をにじみ出てきている。レオンもこの熱気の中で、仲間を心配しながら顔色を窺った。
「たしかにここは不自然なくらい暑い。みんな、大丈夫か?」
「今は大丈夫です。でも長居しては体力を奪われますから、早く祭壇へ向かいましょう。」
アリサの言葉に一同がうなずく。右から通路の向こう側へ進もうとカインが先頭になって歩いていると、ちょうど先ほどの位置から見えないところに、風化しかけたうつぶせの白骨があった。それを見た一同は、それが何者なのかすぐにわかった。
「これは、魔法店のオーナーさんが言っていた、巫女でしょうか?」
「なるほど、この火の神殿の過酷さがよくわかるな・・・・・。」
始めに口を開いたのはアリサだった。それに続いてカインがレオンたちに警告する。
「みんな、この火の神殿、やはり他とは比べ物にならないくらい危険だ。素早く、かつ慎重に行こう。」
カインの言葉に皆が納得し、通路の向こう側にあった下りの階段を進んでいった。そこを抜けたレオンたちは、そこに広がる空間に驚愕した。そこは、枝分かれした岩がそのまま通路になっており、その真下は溶岩溜りとなっていた。
「な、なんだここは・・・・・!」
「なるほど、これが火の神殿の熱気の正体か!!みんな、落ちないように気を付けるんだ!」
レオンの驚きのあまり出た声の後に、カインが再び警告する。それを聞いて、一同は慎重に岩の道を渡り始めた。岩の道はちょうど人が2人並べるくらいの幅はあったが、壁はなく、足を滑らせれば溶岩の海へと落ちることになる。そこそこ安定した足場に反して、真下で音を鳴らす溶岩に一同の焦燥感は膨れ上がっていく。岩の道の半ばまで来たところで、アリサは不安からかレオンの腕にしがみついた。
「大丈夫か・・・・・?アリサ。」
「ご、ごめんなさい・・・・・。やっぱり、少し怖くて。」
「そうだよな、もし落ちたらなんて僕も考えたくない。でも大丈夫さ!もし落ちそうになったら、僕が引き上げてやるから!」
「レオンさん・・・・・!」
「ははは、アツいなぁ。レオンは。」
「か、からかうなよっ!」
まるで恐怖を感じさせないレオンの笑顔を見て、アリサの不安は少し消えた。それを後ろから見たカインがレオンを茶化すと、ルナとミーナも笑ってレオンを見ていた。一同の不安も和らぎ、そうして進んでいくと、岩の道の先の壁に穴が開いているのが見えた。あれが岩の道から先に続く通路だ。
「みんな、もうすぐこの道も終わりみたいだぞ。」
レオンがそう言うと、一同が安堵の表情で先へと急ぐ。穴が岩の道も終わりが見え、先に続く穴に近づき一同も安心しかけたその時、火の魔獣が前と後ろに2体ずつ、レオン達を囲むようなどこからともなく現れた。
「くっ、こんなところで・・・・・!みんな、勢い余って落ちないようにしな!」
「正面は俺とルナで行く!後ろは3人に任せるぞ!」
ルナが警告の後、先陣を切って前の火の魔獣にマナを込めた攻撃を放つ。カインはこの状況でも冷静にレオンたちに指示を出してルナの後に続いた。それを受けてレオン、アリサ、ミーナは後ろからじりじりと近づいていく2体の魔獣と相対した。まずレオンが2人の前に立ち、先制攻撃をしかけるべく突撃していく。アリサは短剣を抜きレオンの後に続き、ミーナはアクアランスの詠唱を始めた。
「こんなところで足止めを喰らっているわけにはいかない、速攻で勝負をつけるぞ!」
「はい!」
「あたしも魔法で援護するからね!!」
3人とも勢いよく魔獣に攻める姿勢を見せた。最初にレオンが剣を抜き、魔獣へと斬りかかった。すると魔獣は、通常の斬撃であるにも関わらず、叫び声を上げ大きく仰け反った。通常マナを込めた攻撃でなければダメージが通らない火の魔獣であるが、レオンの剣に込められた水のマナがレオンの攻撃に作用し、レオン自身がマナを引き出さなくても火の魔獣に大ダメージを与えることができたのだ。
「すごい!効いてるぞ!」
「レオンさん、すごいです!」
レオンとアリサが剣の威力に驚いていると、先ほど斬った魔獣がすでに体制を立て直し、レオンに飛びかかってきた。レオンはその飛び込みをバックステップでうまくかわして、地面に勢いよく落ちた魔獣の隙を突く形でアリサがレオンの前に出て、水のマナを込めた2連続の切り上げ攻撃を放った。
「ダブルスラッシュ!!」
アリサの攻撃は魔獣の顔に命中し、その魔獣はそのまま火の粉となり四散していった。その直後もう片方の火の魔獣が、技の後で隙のあるアリサに向かって飛び込んできた。それと同時にミーナの放ったアクアランスがアリサの横を通って、アリサに飛び込んできた魔獣に直撃。魔獣はそのまま地面に落ち、無防備にのたうちまわった。
「良いぞミーナ!とどめは僕が行く!!」
隙だらけの魔獣を見たレオンは、それに一気に近づいてとどめの一撃を放った。
「降雷剣!!」
レオンの降雷剣は、今までとは比べ物にならないほどの威力を発揮した。レオンの雷のマナが剣を通り、剣の中にある水のマナによって威力を高められたのだ。その一撃によって、その魔獣も火の粉となって散っていった。魔獣を全滅させて、レオンがルナとカインの方を見ると、あちらもちょうど魔獣を全滅させて一息ついているところであった。
「ルナとカインも無事みたいだな。」
「レオンの方こそ。もう少し歯ごたえが欲しいくらいだったな。」
レオンとカインがお互いの無事を確認すると、また魔獣が襲いかかってくる前に急いで横穴に入ろうと早足で向かった。そしてルナとカインが横穴に入り、続いてミーナがレオンとアリサの前に出て洞窟に入ろうとしたその時だった。突然岩の通路の裏から火の魔獣が這い上がってきて、アリサにとびかかってきたのだ。
「きゃぁ?!!」
「アリサ!!」
「あっ・・・・・!」
火の魔獣の奇襲を避けようとしたアリサは、バランスを崩し今にも倒れ込もうとしていた。倒れた先は、溶岩の沼だ。レオンは反射的に火の魔獣を無視して溶岩に落ちそうなアリサの元へ走り、その手を掴んでアリサを救出した。
「レオンさん・・・・・!」
「言っただろ?落ちそうになったら、僕が引き上げるって。」
レオンがアリサに笑いかけ、アリサを引き上げようとすると、魔獣が後ろからレオンに向かってとびかかってきた。それと同時にミーナが杖にマナを込めながら魔獣に突撃していき、杖でのフルスイングで魔獣を吹き飛ばした。吹き飛ばされた魔獣が空中で火の粉となって散ったのを見て、ミーナもアリサに笑顔を見せた。
「アリサおねえちゃん、無事でよかった!!」
「うん、本当に。すみません、レオンさん。」
「気にするなって!さ、早く先に進もう。」
申し訳なさそうに謝るアリサに気を配りながら、レオンたちは洞窟の中へと進んでいった。
洞窟に入り、その中に続く道を進んでいくレオンたち。道はやや下り坂になっており、いよいよ神殿の最深部へと近づいているという感じがミーナにはあった。
「だいぶ進んだけど、もうすぐ祭壇かな?」
「うん、奥から強い火のマナを感じるから、そうかも!」
「もうすぐか、今回はどんな守護獣が待ち構えてるんだろう?」
「きっと今までよりも強力な守護獣だよ、みんなで頑張って倒そうね!」
レオンとミーナが2人が会話を交わしていると、カインが洞窟の壁に大きく空いた穴を見つけた。その穴の中の通路には整備された階段が作られており、人の手によって開けられた穴であることがすぐにわかった。
「なんだろう、これは?」
「もしかしたら、これがあの元採掘場の中の、火の祭壇への近道なんだろうな。帰りは、これを上っていけば大丈夫なんじゃないか?」
ルナが思い出しながらそういうと、一同納得したようにその穴を見て、不安だった帰りのことも安心できるようになった。その横穴を後にし、もう少し洞窟を進んでいくと、まぶしいくらいの光が差し込む洞窟の出口が見えた。レオンたちはその出口の向こうへ走って出ると、そこには前の2つの神殿のものと同じ祭壇の間が広がっていた。祭壇の間の床は、何らか力らによって浮いており、床の真下は溶岩の沼となっていた。周囲を見渡すと、壁のいたるところから溶岩が滝のように流れ出て、溶岩の沼に流れ落ちているのが見えた。今までの神殿とは一線を画するその光景にはレオン達も驚かされた。
「こ、ここが火の神殿の祭壇か・・・・・。」
「マナの乱れも今までの祭壇とは桁違いです。もう限界が近かったのでしょう。」
火の祭壇のマナの乱れを感じ取り、祭壇がマナを維持することができなくなっていることを知ると、レオンとアリサの焦りも大きくなっていった。
「とにかく、さっさと祭壇を鎮めないとだな!」
ルナがそう言うと、アリサはうなずいて祭壇へと近づく。しかし、アリサが祭壇の目の前まで行くと、今までの祭壇と同じように、祭壇が守られるように炎の渦に呑まれ、近づけなくなった。そして、祭壇の間の中央に巨大な炎の塊が現れたかと思えば、瞬く間にそれは咆哮と共に巨大なトカゲの姿へと変身した。
「ギシヤァァァァァァァァ!!!」
「これがこの祭壇の守護獣・・・・・!!」
「す、すごいマナの力!風の守護獣を圧倒的に上回ってるよ!」
真っ先に身構えたのはレオンとミーナだった。ミーナはその守護獣の放つ膨大なマナに驚愕し、即座に水の魔法の詠唱に取り掛かった。しかし、火の守護獣は一番近くにいるレオンたちを無視して、真っ先に一番遠くにいたカインを狙った。守護獣は空中で身をひねると、尻尾の振りおろし攻撃でカインを吹き飛ばした。
「ぐわぁぁ!!」
「カイン!!」
レオンがカインに近づこうとすると、カインを閉じ込めるように炎の渦が巻き起こり、カインは動けなくなってしまった。脱出しようにも、その強いマナの力はカインでさえ振り払うことができないほどであった。
「なんだこれは!」
「まさかカインさんを一番の脅威と感じて・・・・・?」
アリサの素早い分析の後、間を置かずに守護獣は、詠唱中のミーナの方を向いて大きく口を開き、そこからすさまじい火力の火炎放射を放った。その動きは、カインの元へ向かったレオンはもちろん、アリサやルナからも一人離れたミーナを助けるには間に合わないほど素早く的確であった。
「ミーナ!!」
「大丈夫!!」
ミーナに叫ぶルナに、ミーナは答える。そして詠唱を中断し、水のマナを込めた杖を思い切り振りかざし水のマナを開放し、水の壁を形成し火炎放射を防いだ。炎と水がぶつかり合い、そこから激しく水蒸気が発生すると、水蒸気で周囲が覆われ、守護獣含め全員の視界を遮った。
「今だよ!」
「よっしゃ!!」
ミーナの合図で、ルナは水蒸気を振り払って火の守護獣めがけて飛び込み、舞い上がる水蒸気に気を取られている守護獣の顎下に火のマナの力を込めた蹴り上げを叩き込んだ。同じ火のマナでの攻撃では多きなダメージは与えられていないものの、不意に攻撃を喰らった守護獣は蹴られた勢いで大きく仰け反って、苦痛の叫び声を上げながらもがき苦しんだ。
「グシャァァァァァァ!!!」
「いくぞアリサ!」
「はい!コンビネーションアタックです!」
攻撃のチャンスと見たレオンとアリサは一気に守護獣の懐に潜り込み、会心の一撃を叩き込む体制に入った。レオンとアリサが自身の武器をクロスさせるように重ね、レオンの雷のマナとアリサの水のマナをそこに込めると、二人同時に後ろに振りかぶり、一気に守護獣に振り上げた。振り上げる際に2人のマナが大きな刃の形になり、それが守護獣の腹を切り裂き、守護獣に大ダメージを与えた。守護獣はあまりのダメージにその場で倒れ込んだ。
「決まった!!コンビネーションアタック、水雷双刃剣だ!」
「やりましたね!!」
強力な一撃が決まり、レオンとアリサは互いに喜び合う。しかし火の守護獣は倒されたわけではなく、すかさず立ち直るとレオンとアリサに鋭い尻尾での攻撃を放った。2人はそれを喰らってしまい、後ろへと飛ばされてしまった。レオンはうまく受け身を取ってすかさず持ち直すも、アリサは受け身を取れずそのまま倒れ込んでしまった。
「うっ、ぐぅ・・・・・!」
「アリサ!!」
レオンがアリサを心配してアリサの方を見るが、その直後火の守護獣へと向きなおすと、すでに守護獣は口に炎をため込み、次の攻撃を放つ体勢に入っていた。守護獣の視線はアリサに向いており、この一撃でアリサにとどめを刺すつもりだと思ったレオンは、急いでアリサの元へ向かおうとした。しかしレオンは先ほどの尻尾の攻撃で右足にダメージを負っており、その痛みから躓いて倒れてしまった。それと同時に守護獣は口から強力な火球をアリサに向けて放った。
「ぐっ、しまった!」
「レオン、大丈夫!!」
アリサの危機に駆けつけたのはルナだった。ルナはアリサの前に立つと、迫りくる火球を視界に捉え、拳に持てるだけの力を込め、直撃の瞬間を狙って火球に正拳を叩き込んだ。火球は拳の一撃を受けて、すさまじい爆音とともに爆散した。アリサはルナのおかげで、爆発の時の熱風を受けただけで済んだが、火球のダメージをまともに受けたルナは崩れるようにひざまづいた。
「ぐっ・・・・・!!」
「ルナさん!私のせいで・・・・・!」
「なぁに、これくらい大丈夫さ。さぁ、反撃するよ!ミーナ!!」
「うん!準備バッチリ!!レオンおにいちゃんも二人のところへ!」
「わかった!」
ルナは深手を負ってもなお、戦いへの勢いが衰えてはいなかった。そんなルナの合図を受けたミーナの指示でレオンはアリサとルナの傍まで来ると、ミーナは守護獣に無視されている間に詠唱していた魔法を唱えた。
「エンジェリックサークル!!!」
その魔法は、一か所に集まっていた3人の足元に天使の加護を思わせる絵の描かれた魔法陣を現し、その効果は中にいる者の体力を大きく回復させるという、最上級の回復魔法であった。レオンたち3人は魔法陣の輝きの中で傷を癒し、その体力を大幅に回復させることができ、勢いを取り戻すことができた。
「おお!傷がすごい早さで治っていく!」
「ミーナちゃん、すごいです!」
「よっしゃあ!一気にあの守護獣にとどめを刺しに行こうぜ!」
ミーナの回復魔法によって一気に体力を回復させ、士気を高める3人。一方のミーナは強力な魔法の反動で一気に疲れが溜まり、その場で座り込んでしまった。
「ふぅー・・・・・。ごめんねー、あたしすごく疲れちゃったから、後はレオンおにいちゃんたちでがんばって倒してね!」
「おう!任せろ!」
ミーナの気力の抜けたような応援にも熱く返すレオン。そしてレオン、アリサ、ルナの3人は火の守護獣との決着に挑むのだった。そんな光景を火の渦の中で見ていたカインは、一人燃え上がるような強い思いを抱いていた。
(みんな強いな。特にレオンは・・・・・。俺も、あれよりももっと強い力を手に入れることができたら・・・・・!)
一気に勝負を決めるべくレオンとルナは守護獣の足元へと進んでいく。アリサも2人の後ろに付くように後に続いて守護獣へ向かっていった。守護獣は迎撃のため足元に炎を展開し、3人を近づけさせないようにしながら小さな火球を連続して口から放ってきた。3人はそれを回避しながら前進し、展開された炎の元まで接近することができた。
「レオン!壁になってる炎をぶち破るよ!!」
「あぁ!コンビネーションアタックだ!!」
ルナがレオンに合図を送り2人が肩を並べて立つと、レオンは剣にマナの力を溜めて剣を後ろに引くように構え、ルナは右拳にマナの力を溜めその拳を後ろに引いた。それを見た守護獣が大きな火球を放つべく口に炎を溜めこんだ。守護獣が魔力を攻撃に集中させたその時、炎の壁が弱まったのを2人は見逃さずにそれぞれ剣と拳を正面に突き出し、溜めていたマナの力を一気に放った。
「「雷爆剛破!!!」」
それはまるでビームのように飛んでいき、炎の壁を突き破り、守護獣の元にまで届き守護獣に大打撃を与えた。守護獣が悲鳴を上げると同時に、炎で形成されていた身体の崩壊がはじまった。火の守護獣がついに追い詰められたのだ。
「ギャァァァァァァァァ!!!!」
「レオンさん!!あと少しです!」
「よし!このままとどめだ!!」
レオンはその守護獣の姿を見て、アリサと共に頭を垂らした守護獣の首元へと迫り、とどめの一撃を放った。
「これで・・・終わりです!!」
「うおぉぉ!!」
レオンの掛け声とともに、2人は守護獣の首元に同時に切り込み、守護獣の首を跳ね飛ばした。そして、守護獣の胴体と首はそのまま完全に崩壊し、細かい炎となってやがて消え去った。こうしてレオンたちは、火の守護獣との戦いに勝利したのだった。それと同時に、カインの自由を奪っていた炎の渦も消えた。
「か、勝った~!」
「あはは、さすがのアタシも疲れたねぇー。」
普段ならば声を上げて喜び合うレオンたちも、強敵との戦いと暑さのあまり疲れ果て座り込んでしまった。座り込んだレオンの元に開放されたカインが駆けつけ、レオンたちの活躍を労った。
「大丈夫かレオン?みんなも・・・・・。」
「うん、大丈夫!カインの方こそ、あの炎のせいで火傷してるじゃないか。」
「これくらいなんともないさ。それよりも、肝心な時に役に立てなくてごめんよ。あれくらいの炎も払えない自分の無力が憎いよ・・・・・。」
「カイン兄ちゃん、あの炎の渦はすごいマナの力を込められて作られたものだったよ!たぶん、あれを作ったことで守護獣のパワーも落ちてたから、あたしたち勝てたんじゃないかな?」
「そうか、あの炎の渦が無かったら、俺が一緒に戦っていても勝てたかどうか、ということか・・・・・。」
ミーナが落ち込むカインを励ました後、自身が感じたマナの流れから推測を述べると、レオン達は改めて、火の守護獣の圧倒的な強さを実感した。そして少しした後、レオンたちの疲れもある程度解消し、アリサは祭壇に祈りをささげるために祭壇へと歩いていった。そして、祭壇を覆っていた炎の渦が消え去ると、アリサは前の祭壇と同じように祈りをささげて、暴走するマナを鎮めたのだった。
「・・・・・みなさん、終わりました。これでこの祭壇も安泰です!」
「ようし!そうとわかれば、さっさとこんなところからオサラバしようか!アタシももう干からびそうだよ!」
祭壇が鎮められたことを確認すると、レオンたちはルナの言うとおり足早に祭壇の間から出ようとした。しかし、カインだけは祭壇から出ようとはしなかった。
「レオン、俺はここで少し祭壇を見てみたいんだ。だからレオンたちは先に外へ戻っててくれよ。」
「カイン?でもこんなところにいたらもう暑さで危ないんじゃ?」
「大丈夫、本当に少しだから。それに俺、祭壇を見るのはおろか、神殿に入るのも初めてだったから、けっこう興味があるんだ。レオンの方こそもう使途に出た方がいいんじゃないか?」
「そうだな。じゃあ先に外で待ってるよ!すぐにここからでるんだぞ?」
「ふっ、わかってるさ。」
カインの話を聞いて、レオンがアリサ達3人の後を追うように祭壇の間を出ると、カインは祭壇の前まで近づいて、祭壇に手を伸ばした。カインは火の祭壇のマナを吸収しようとしていたのだ。
「祭壇が鎮静化した今なら、無理をすることなく火のマナの力を吸収できるはずだ・・・・・。」
カインはそう考えながら手のひらに意識を集中させて、ついに祭壇から火のマナを吸収し始めたのだ。その火のマナの力は、マナの流れを読む力が人並みに弱いカイン自身にも理解できるほど、熱く激しいものであった。そして、祭壇からマナを吸収したことで、祭壇のマナがほんのわずかに乱れ出したところで見切りをつけたカインは、祭壇から手を下ろしてマナの吸収を止めた。そして祭壇から離れたカインは、今までとは比べ物にならないほどの火のマナのパワーをその身に宿したことで非常に興奮しながら喜んだ。
「これだ!!このパワーをずっと探していたんだ!!風の祠の時はマナの属性の違いから神殿にすら入れなかったが、これで俺は誰にも負けない力を手に入れたんだ!!は、ははは・・・・・あははははははは!!!」
カインは喜びのあまり大きな高笑いを上げながら祭壇の間を後にした。その高笑いは祭壇の間を出る直前まで止まることなく、出た後も興奮冷めやらぬ様子でしばらく含み笑いをしていた。