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[十二章]いざ、火の神殿へ

レオンたちは魔獣討伐のために勢いよく横穴へと入っていったが、そこにはそれらしきものは一匹もいなかった。壁には戦闘の跡が見られたものの、現在の横穴の中は静まりきっている様子であった。


「なにもいない・・・・・?」


「気をつけなよレオン。どこから来るかわかったもんじゃないからね。」


異様なまでの静けさに、レオンたちは警戒を強める。周囲を見ながら横穴の中を進んでいくと、横穴の壁に大きな穴が空いているのが見られた。レオンたちはその不自然に開けられた穴が気になった。


「レオンさん。あそこに穴がありますね。」


「ほんとだ。あそこから魔獣が出てきたのかな?」


レオンたちがその穴を調べようと近づいていった。その時、突然その穴の前に炎で形成された大蛇の姿の魔獣が3体が現れたのだ。レオンたちはすかさず下がって距離をとったが、背後にも炎の大蛇が3体現れて出口をふさがれていた。


「レオンさん!囲まれています!」


「くっ、逃げられない!?」


「レオン!まずは出口側の敵を倒すよ!」


「わかった!」


「奥の敵は私とミーナちゃんに任せてください!」


「サンキュー!それじゃレオン、行くよ!!」


ルナの助言を受けて、レオンはルナとともに出口側の敵に向かっていった。アリサとミーナは奥の敵を倒すべく魔法を唱え始めた。レオンとルナが3体の炎の魔獣に速攻で攻撃を仕掛けた。始めにルナの飛び蹴りが魔獣Aに見事にヒットした。しかし、あまりダメージがないのか、魔獣Aは大きく仰け反ったもののすぐに立て直し、尻尾でルナに足払いをしてルナを転ばせた。


「しまった!」


仰向けに倒れたルナに、魔獣Aはさらにルナに噛みつき攻撃をしようとしたが、ルナは腕を使って高く飛び上がると、くるっと回って体勢を直し、そのまま魔獣に強烈な蹴りを浴びせた。魔獣Aは大きく吹き飛ばされたが、やはりさほど効いていないのか、すぐさま起き上がってルナに向かって来た。


「こいつら、アタシの攻撃がきかないのか?」


「ルナ!こいつら打撃に強いんだ!マナを使って!」


「おう!」


先ほどから2体の魔獣を相手にしていたレオンは、すぐに魔獣の特性に気付き雷のマナを使い攻撃をしていた。レオンはすでに一体の魔獣を倒し、二体目の魔獣にもとどめを刺すところであった。そしてレオンは魔獣にとどめの一撃を放った。


「降雷剣!!」


レオンの降雷剣が魔獣に決まり、魔獣は消滅していった。その時、「パキンッ!」と何かが折れるような音が聞こえた。レオンは自身の手に持つ剣を見てみると、レオンは驚愕した。


「なっ、なにっ!!」


レオンの剣が折れていたのだ。まるで剣の半ばで砕けたように折れていた。レオンはとりあえず周囲の様子を見ると、ルナもマナを使って魔獣を倒した所だった。アリサとミーナも水の魔法で魔獣を退け、レオンとルナの元へ駆け寄ってきた。


「レオンさん!片付きましたね!」


「ああ。これであの穴を調べられるはず・・・・・。」


レオンが穴の方へ再び近づこうとすると、また先ほどと同じ火の魔獣が現れたのだ。しかもその数は先ほどの数とは比べ物にならないほどの大群だった。あまりの数にレオンたちはとても驚いた。


「うわぁ!!アリサおねえちゃん!たくさん来たよ!!」


「10、20、もっとです!奥まであんなに・・・・・!」


「よし、一旦逃げるぞ!!」


「悔しいけど、ここはレオンの言うとおりだ!」


そうしてレオンたちは一目散に出口に向かって逃げて行った。魔獣たちはレオンたちを追うようすはなく、レオンが横穴から出て行くのを見ると、魔獣たちは皆一斉に消滅していった。



慌てて横穴から出てきたレオンたちを見て、横穴の付近で待っていた4人組の男たちがすぐに駆け寄った。レオンたちは息を切らしていて疲れ切った様子だった。4人組のリーダー格の男が真っ先に話しかけた。


「おい、大丈夫か?大した怪我はねぇみたいだが・・・・・。」


「はぁ、はぁ・・・・・。は、はい、大丈夫です・・・・・。」


息を整えると、ルナが地面にドンッと座り込んで言った。


「しっかし驚いた!あんなにたくさん出るんだからさ!」


「言ったとおりだったろ?」


男の一人がルナに答えた後、レオンに目をやると、レオンがさっきから手に持っている、折れた剣に気付いた。


「おいボウズ、その剣折れてるじゃねぇか!なんでそんなもん持ってんだ?」


それを聞いて、アリサとルナ、ミーナも驚いてレオンの折れた剣に注目した。レオンも自分の剣を見つめると、皆に苦笑いで返した。すぐに心配したアリサとルナがレオンに話しかけた。


「おいレオン!どうしたんだいそれ!?」


「いったいいつから・・・・・?」


「はは、魔獣にとどめを刺したときにね。なんだか捨てられなくて。」


「うーん、とりあえず町に戻ろうよ!それからゆっくり考えよ?」


ミーナの提案を受けてレオンたちは4人組の男たちと別れ、一度ミレイが待っている宿に戻った。



レオンたちはミレイが待つ宿の一室に集まり、ミレイに神殿につながる洞窟での話をした。話を聞いたミレイは、心配そうな表情を浮かべた。


「そのようなことが、あったのですね・・・・・。」


「ああ、アタシやアリサ、ミーナは大丈夫だけど、一番問題なのがレオンだ。剣が折れちゃ戦えないよ。」


ルナがレオンの方を向いてそう話すと、レオンは大丈夫、と言うかのようにいつもの笑顔で答えた。そんなレオンの手元には、布で包まれた折れた剣があった。


「剣はまた変えればいいんだ。心配なんていらないよ。」


「でも、レオンさんのお気に入りだったんですよね・・・・・。」


「うん。」


アリサが声をかけた後、一同は黙り込んでしまった。その時、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。「どうぞ」とアリサがドアの向こうの人物に呼びかけると、入ってきたのは魔法道具店のオーナーの女性だった。その顔を見て真っ先に反応したのはミーナであった。


「あ!魔法道具屋のお姉さん!」


「フフ、こんにちは。先ほどの戦い、ご苦労様ね。」


「いえ、私たちは何もできませんでしたし。それに、レオンさんの剣が・・・・・。」


「大丈夫よ、そのために私は来たの。」


オーナーは、言葉を濁しながら言うアリサに微笑んでから、レオンに話しかけた。


「その剣の話はあの4人組の男達から聞いているわ。それで頼みがあるのだけれど・・・・・。」


「頼み?」


「ええ、その折れた剣を使って、新しい剣を作ろうと思っているの。武器工房の人たちも無償で協力すると言っているわ。」


「本当に!?」


「ふふ、驚くのも無理はないわよね。すでに2つの神殿を鎮めた旅の一行が、ここの火の神殿も鎮めようとしているという話を聞いて、武器工房の皆は貴方のために手を貸したいって言っているのだものね。」


レオン達は突然の朗報にとても驚いた。そして、この町の人が自分たちのために協力してくれるということに、とてもうれしく思った。レオンはとりあえず詳しい話を聞くことにした。


「それで、どうして僕の剣が必要なの?」


「それはあなたに最も馴染む剣を作りたいからよ。」


「最も馴染む剣、ですか?」


アリサがオーナーに聞くと、オーナーは続けて説明を始めた。


「理由は2つあって、まずその剣の持ち手。これはマナの力を通しやすい材質でできているわ。どんな属性のマナでも滞りなく剣にマナの力を込めることができるわ。そしてもう一つは、レオンくんの持つ雷のマナにあるわ。彼自身の体に宿っている雷のマナは、すべての水のマナと特に相性の良い性質を持っているの。レオンくん、あなたの雷のマナは生まれついてもったものではないのよね?」


「うん、これは、クオーリアの洞窟で見つけたんだ。そこでは水のマナがほとんどで、雷のマナなんてめったに生まれてこないんだけど・・・・・。」


「やっぱり、貴方の持っている雷のマナは、水のマナに囲まれて生まれてきたから、水のマナと相性が抜群なのよ。」


この話を聞いてミーナは驚いた。見ただけでレオンのマナの詳しいところまでわかるオーナーに感動さえした。


「凄い!見ただけで何でもわかっちゃうなんて!」


「フフ、私の経験が役に立ってよかったわ。それで、レオン君の折れた剣を使って、レオン君のマナの力を通しやすくてよく馴染む、新しい剣を作るのだけれど、いいわね?」


「もちろん!」


レオンの返答は決まっていた。レオンは布で包まれた折れた剣を、オーナーに渡した。オーナーはレオンに微笑み感謝した。


「ありがとう。明日の朝には出来上がると思うわ。それまではゆっくり休んで備えてね。」


「わかった。ありがとう!」


「よかったなレオン!これで新しい剣ができるんだな!」


「どんな剣になるんでしょうね!」


「あたしも楽しみ!」


レオンの新しい剣ができるということを、レオンだけではなくこの部屋にいた全員で喜び合った。オーナーが折れた剣を持って部屋を出ると、外はもう日が落ちる頃であった。暗くなってきた外を見て、ルナが思い出したように言った。


「そうだ!町で聞いた話なんだけどさ、夜には広場でおいしい料理の屋台がたくさん出るんだって!たぶんもう出てるはずだから、ちょっと見にいこうよ!」


「いいですね!行きましょう!」


「なんだか楽しそう!いこいこ!」


「僕も行くよ!ミレイさんは?」


「皆が行くのなら、私もいきますね!」


こうしてレオンたちは、町のおいしい料理を求めて皆で宿を出た。



宿を出てすぐ目の前の広場では、すでに多くの屋台が構えられ、独特の料理を提供していた。ミレイが言うには、アゼルでは自分の家で料理をするという習慣があまりなく、こうして屋台の料理人が作ったものを買って食べるのが習慣なのだという。すでに広場は屋台を利用する人々でにぎわっていた。レオンたちも早速様々な料理を楽しむために思い思いの場所へ向かっていった。数十分後、レオンは宿のすぐそばのベンチで座って、みんなが帰ってくるのを待ちながら先に食事を楽しんでいた。


「みんな遅いなぁ。やっぱり、おいしそうなものがたくさんあると目移りしちゃうよな。」


レオンがホタテの串焼きを食べていると、後ろから誰かが声をかけてきた。


「やぁ、おいしそうなものを食べてるな。」


「カイン!お前も来てたんだな!」


その聞き覚えのある声の主はカインだった。カインはレオンの隣に座り、2人で話を始めた。


「カイン、あの宿で姿が見えなくなった後、どこにいってたんだ?」


「ああ、ごめん。俺はまだ皆が寝ているちょうど朝日が昇ったころに宿を出たんだよ。起き書きでもしておけばよかったね。」


「でもカインが元気にやってるみたいでよかった。」


「ありがとう。ところで、腰に剣をさしていないようだけど・・・・・。」


「ああ、僕の剣は折れちゃったんだ。でも町の武器屋の人が新しいのを作ってくれることになったんだ!明日が楽しみだよ。」


「そうなのか!よかったじゃないか、新しい剣が手に入るんだな!」


「ああ!」


レオンとカインが会話を弾ませていると、広場からアリサ達が帰ってきた。アリサ達はカインに声をかけ、アリサとミーナは海藻のサラダを、ルナとミレイは肉料理を持って、レオンとカインの座るベンチに並んで腰を掛けた。


「カインさん!お久しぶりです!」


「よっ!元気にしてるみたいでアタシは安心したよ。」


「ああ、ありがとう。あの時は何も言わずに分かれちゃってごめんよ。」


「大丈夫ですよ。カインさんなら大丈夫って信じてましたから。」


「うんうん!あのガロスの鎧を貫いちゃうくらいつよいんだもんねー!」


「はは、そんなに大したことじゃないよ。ところで、そちらの人は?」


カインがミレイのことを聞くと、ミレイの代わりにアリサが紹介した。


「私の姉さんのミレイです。」


「はじめまして。カインさん。アリサ達がお世話になったようで。」


「いえいえ、お世話になったのは俺の方ですよ。皆強いですし。」


カインがミレイに挨拶を終えると、今度はレオンがカインに質問をした。


「ところで、カインはどうしてこの町に?」


「ああ、俺も新しい剣を作ってもらおうと思ってね。」


「へぇ、どんな剣なんだ?」


「火の剣さ。ここは火のマナが豊富だからね。どこよりも強い火の剣が手に入ると思ったのさ。」


カインがそう説明すると、最後にカインがレオンたちに質問をした。


「レオンたちは、これからどうするんだ?」


「明日神殿の祭壇を鎮めにいくんだ。もう神殿の場所もわかってる。」


「そうなんだ。・・・そうだ!俺も同行させてくれよ!」


カインの突然の申し出にレオンたちは驚いた。たしかにカインが仲間に加わってくれるのはありがたい、ということで、レオンたちの返答はもちろんイエスだった。


「本当か!もちろんオーケーだ!」


「そうですね!カインさんが仲間に加わってくれれば、安心できます。」


「わーい!カインにいちゃんも一緒だー!」


「アタシも賛成だよ。よろしくな、カイン!」


「みんな、ありがとう!それじゃ、俺もできる限り協力するよ!」


こうして火の神殿攻略のメンバーにカインも加わり、いっそう勢いのつくレオンたち。一同は明日に備えて、しっかり食事を済ませて、早めに眠りについた。



そして翌朝、日が昇り明るくなった頃、窓からさす日の光が目に当たりレオンは目が覚めた。窓からの景色を見ると、昼と変わらぬ黒い煙がそこらじゅうの煙突から立ちこめ、早くも工業が行われているようであった。本来ならば鉄を打つ金槌の音や機会のうなる音で朝から騒がしいはずなのだが、宿の中は全体に防音加工が施されているので、寝ている間もほとんど気にならなかった。レオン以外はまだ寝ているらしく、宿の中はとても静かだったので、レオンは宿の外に出ることにした。宿から外に出ると、アゼルの町の工業の喧騒がレオンの耳に響いた。レオンはこれではっきりと目が覚めて、両腕を真上に振り上げ、大きく背伸びをした。それから辺りを見回してみると、なにやらバーの前で2人の人物が話しているのが見えた。レオンが近くのベンチに隠れながら目を凝らしてよく見ると、その一人はカインで、もう一人は顔まで全体を黒いローブで隠した人物であった。2人の会話は、町の喧騒に妨げられレオンには聞こえなかったが、なにか言い争っているような雰囲気だけは感じ取れた。少しして、黒いローブの男はどこかへと去っていき、カインだけがその場に残った。


「なにを、話していたんだろう?」


レオンはベンチで隠れるのをやめて、カインの元へ歩み寄った。レオンに気付いたカインはレオンと軽く挨拶を交わし、すぐに話を始めた。


「おはよう、レオン。さっきの、聞いてたのか?」


「いや、全然聞こえなかったけど、なにか言い争いをしてるように見えたよ。」


レオンが答えると、カインは考え込むように少しうつむき、それからなにかを決めたようにレオンに話かけた。


「あれは、ガロスの手先だ。」


「なんだって!?」


「あいつは俺を監視している。なにか都合の悪いことが起きればすぐに抹殺できるようにな。」


「それじゃあ、カインは常に命を狙われていたのか・・・・・!」


「いや、あいつは俺をわざと俺を野放しにしている。殺そうと思えば、とっくに俺は殺されてるはずだからな。」


「な、なんで?」


「あいつは俺が強くなるのを楽しみにしているんだ。やつは強者との戦いを望んでいる。」


「そうなのか・・・・・。」


レオンは一瞬間を開けたあと、何かに気付いたかのようにカインに質問をした。


「そもそも、カインはなんでガロスに監視されてるんだ?」


「ああ、そうだよな。それは・・・・・。」


カインはそこまで言うと、目線をそらして黙ってしまった。なにか言いたくない事情でもあるのかと思い、レオンはすぐに言葉を付け足した。


「ああ、カインが言いたくないようなことなら、別に放さなくても大丈夫だよ。」


「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・・・。うん、今は言わないことにするよ。」


「うん、わかった。また気が変わったら言ってくれればいいから。」


「ありがとう、レオン。それじゃあ俺は頼んだ火の剣を取りに行くよ。」


「ああ、いってらっしゃい。」


カインはレオンの心遣いに感謝をして、自分の頼んだ剣を取りに町の中へと入っていった。



レオンが宿の前のベンチにしばらく座っていると、起きてきたルナが宿から出てきた。


「おはよう、レオン!起きるの早いんだね。」


「おはよう、ルナ。なんだか目が覚めちゃって。」


ルナはレオンの隣に座って上を見上げた。レオンも上を見上げて、波が雲のように流れているのを見た。レオンは上を見上げるたびに、自分が本当に海の中にある世界にいるという事実に、不思議な感じがして、それと同時にうれしくなった。そう思っていると、ルナがレオンに話しかけてきた。


「どうだい、この海の世界にも慣れてきたかい?」


「うん、それでもまだ不思議な感じがするよ。」


「そうかい?」


「だってさ、海の中に空気があるんだもん。僕はずっと、伝説の中の人魚たちは海中で暮らしてると思ってたんだ。」


「へぇ、そりゃおかしいや!」


ルナはレオンの話を聞いて軽く笑った。レオンも真面目に話していたが、自分の話がおかしく思えて、つられて笑い出した。ほんの少しの間2人で笑いあうと、レオンは話を続けた。


「それでさ、僕は嬉しいんだ。こんなに素敵な世界で旅ができるなんてさ。伝説の中よりもずっと綺麗なところだね!」


「へへ!ありがとうな!レオンがアタシたちのいる世界を気に入ってくれてうれしいよ!」


2人で話していると、ルナが太陽の上り具合を見て、そろそろ朝食の時間であることに気付いた。


「レオン、そろそろ朝ご飯の時間だ。行こう!」


「わかった!」


2人はベンチを立って宿へ戻っていった。



宿で朝食を取ったレオンたち5人は、宿の外に出て外の空気を吸った。ルナとミーナは、宿で出された温かい牛肉入りトマトスープや牡蛎や鯛の丸焼きなどの朝食に大満足であった。


「うーん!朝ご飯おいしかったー!」


「ああ、朝からガッツリ食えてアタシも満足だよ!」


2人が思い切り背伸びをしている後ろでは、朝からガッツリ食べたのがさすがに効いたのか、レオンとアリサとミレイが揃って腹をさすっていた。


「うーん、2人とも元気だなぁ。」


「すごいですよねぇ。私もさすがにお腹いっぱいです。」


「ふふ。この食事こそ、この町の人たちが元気でいられる秘訣なのかしらね。」


ミレイが含み笑いをして言った。なんだかんだ言いながらも、皆ここの食事を楽しんでいるようだ。皆が朝からにぎやかな広場を眺めていると、ルナが思い出したようにレオンに言った。


「レオン、もう剣が出来上がってるころだよな?みんなで取りに行くかい?」


「そうだな、たしか武器工房は、武器屋と同じ北の方だったかな?」


「はい。私が覚えているので、案内しますね。」


そうミレイが言うと、レオン達より前に出て、武器屋へと向かった。レオンたちもミレイの後についていって、10分ほどで武器屋にたどり着いた。武器屋の奥に見える工房では、朝から鉄を打つ音やかまどの炎の音が聞こえ、活気があふれている様子がうかがえた。レオンたちがその光景を見ていると、工房の奥からこちらに気付いた武器工房の男が出てきて、レオンに話しかけた。


「よぉ、あんたが魔法店のオーナーが言ってたレオンだな?」


「うん、そうだよ。こっちは僕の旅の仲間だ。」


「ああ、お前たちのことはオーナーから聞いてるよ。とっておきのができたから、こっち来てみな!」


そう言われ武器工房の男に、武器屋の一室に案内されると、その部屋のテーブルの上には大きな宝箱が置いてあった。ちょうど剣が一本入るくらいの大きさの箱を見たレオンは武器工房の男に聞いた。


「この中に、僕の剣が?」


「ああ。この箱は元々、王家に剣を貢ぐときに使われてた箱なんだが、火の神殿に向かうお前のための特別な剣だから、この中に大切に保管しておいたんだ。」


その話を聞いてアリサは驚いた。そのような箱に武器をいれてもらえるということは、この海の世界でも光栄なことなのである。


「そんなに大事な箱に武器を入れてもらって、本当に良かったのですか!?」


「おお、いいのさ!なにせこの海の世界を守るために旅をしているご一行様の武器なんだからなぁ!」


「そこまで話を聞いているなんて・・・・・。とにかく、本当にありがとうございます!」


そうアリサは言って頭を下げると、レオンたちも武器工房の男の誠意に感謝した。そして、そこまでして大切にされている剣とはどんなものなのかと、レオンはさらに期待を膨らませた。すると部屋の入り口から、魔法店のオーナーが新しい剣を見るために現れた。


「あら、皆さんおそろいで。」


「あ!オーナーさんだ!」


「ふふ、朝から元気ね。みなさんも、おはようございます。」


ミーナが真っ先に反応して、それからレオンたちも、オーナーに挨拶を交わして、本題に入ることにした。


「さぁレオン君、さっそくだけど、その箱をあなたが開けてみて。」


「わかった!」


レオンは箱の前に立ち、ゆっくりと箱に手をかけた。レオンはこれから開けるこの箱の中に、どんな剣が入っているのか、期待と緊張で胸がいっぱいになっていた。それはレオンだけではなく、この場に立つ全員がその緊張を共有していた。皆が剣の収められた箱に眼差しを向ける中、レオンはついにその箱を開け始めた。


「!!」


レオンが箱の蓋を少し開けた途端、開けられた箱と蓋の隙間から、青白くまばゆい光が溢れた。その光景はレオンだけではなく、他の全員の目にも確かに映った。少し動揺したレオンは、武器工房の男の方を向いて男に話しかけた。


「おじさん、これは・・・。」


「へへ、いいから開けてみな!」


男はレオンの反応がうれしかったのか、豪快な笑顔でレオンに箱を開けることを勧めた。レオンも男の顔を見て安心したのか、今度は緊張ではなく、新しい物への遭遇を期待するような顔で、再び箱と向き合い、隙間から光のあふれる箱を、完全に開けた。すると、箱の中から一気にまばゆい光が溢れ、光が部屋を包んだ。


「うっ!!これは!?」


「まぶしー!!」


アリサとミーナは声を上げ、その場にいた全員が不意にあふれたその光を直視して、目がくらみ身体をよろめかせた。しかし、その中でレオンだけが、その光の一番近くにいたにも関わらず、光をものともせず目を見開きその光に包まれた剣を見つめていた。


「こ、これは・・・!」


レオンが声をもらすと、やがて光は弱まり、レオン以外の皆も目をこすって目を開けた。そして皆が箱の中を見ると、そこに入っていたのは想像をはるかに凌駕するほど美しい剣であった。


「レオンさん・・・!」


「おお、レオン!!」


「うわー!すごいきれいー!!」


アリサとルナ、ミーナが声を上げてその剣を絶賛した。レオンも、その剣を見て、これまでにないくらいの感動を覚えた。


「これが、僕の新しい剣!!」


その剣は、持ち手は今までのマリシャスサーベルのものがそのまま使われており、刀身はまるで水の膜がそのまま刃の形のなったかのように青く透き通っていた。そしてその刀身はレオンがいままで扱っていたものと同じサーベルとなっており、刃のなだらかな曲線と鋭い剣先がその美しさを際立たせていた。剣の裏には鮮やかな金色の装飾がなされており、美しい刀身をさらに引き立たせていた。そしてレオンが一番驚いたのは、剣そのものに水のマナが込められているということであった。レオンには剣から伝わる水のマナがすぐにわかった。


「おじさん!この剣に水のマナが入ってる!」


本来マナは、自然物に宿ったものを機械に組み込むことはできても、人工物そのものに宿ることは決してない。それが、人工物である剣に非常に馴染んでいるのがレオンは不思議でたまらなかった。


「気付いたようだな・・・。正直、この剣にマナを馴染ませる工程が一番苦労したぜ。」


「この工程には、私も協力させてもらったわ。マナを扱う武器を作るなんて初めてだったけど、うまくいってよかったわ。」


工房の男が自慢げに言うと、魔法店のオーナーも続くように言った。この素晴らしい剣を見て興奮していたのはレオンだけではなかった。アリサとミーナとミレイも、そのマナの常識を打ち破る剣に感動していた。マナに詳しくないルナも、その剣がどうなっているのか理解できずにいたが、とにかくすごいものであるということは肌で感じ取っていた。


「へへ、なんだかわかんないけど、とにかくすごい剣なんだな!!」


「すごいなんてものじゃないよ!これは、自然物にしか宿らないマナが人の作ったものに、直に宿ってるってことなんだから!!」


ルナの言葉の後、ミーナは興奮した様子でルナに剣の素晴らしさをアピールした。ルナもそれを聞いて関心したような反応を見せた。そして、工房の男がレオンに剣を持つよう勧めた。


「レオン、そろそろこの剣を持ってみろよ。」


「わかった!」


レオンはさっそく、剣の持ち手を右手で握った。するとレオンは、とても不思議な感覚を感じた。まるでその剣を今までも使っていたと思わせるほどに、手に馴染む感じがしたのだ。それは持ち手にマリシャスサーベルのものがそのまま使われているというだけでは感じることのできない、懐かしさと新鮮さを同時に感じることができた。レオンはそのまま剣を天井にかざすと、まるで透き通る刀身のなかが波打っているような光景が見えた。剣の中の水のマナが水を生み出し、刀身を潤しているのだ。


「どうだレオン、その剣は。」


「うん、すごくいいよ!本当に手に馴染むんだ。」


工房の男に剣の調子を聞かると、レオンは明るく答えた。レオンの剣の感想に始まり、アリサやミーナ、ルナも次々に質問を繰り出した。


「手に馴染むとは、どんな感じなのですか?」


「うーん、昔の友達が帰ってきたー!って感じかなぁ?」


「ねーねー!剣の中の水のマナはどんな感じがするの?」


「本当に普通だよ。剣そのものにしっかり馴染んでるみたい。」


「そ、その剣さ、どれくらい斬れそうなんだ?」


「すごく鋭いから、軽く振ってもスパッといきそうだなぁ!」


まるで子供が新しいおもちゃを見た時のようにはしゃぐ4人を見て、ミレイも魔法店のオーナーも、武器工房の男も笑顔になった。


「おおそうだレオン、鞘は箱の蓋の裏にあるぞ。」


工房の男が思い出したように言った。レオンが蓋の裏を見ると、確かに青と金色の美しい装飾の施された剣の鞘がそこにあった。レオンはその鞘に剣を収めると、早速その剣を腰に差してみせた。新しい剣を携えたレオンの姿は、どこか今までよりも頼もしく見えた。


「へへ、どうかな?」


「とってもかっこいいです!」


「うんうん!レオンおにいちゃんかっこいい!」


「ああ!なんか、頼もしい感じがするよ!」


アリサ達3人はレオンの姿に絶賛した。その後レオンは、工房の男と魔法店のオーナーの前に立って、改めてお礼をした。


「おじさん、オーナーも、こんなにすごい剣を僕のために通ってくれてありがとう!」


「へへ、礼にはおよばねぇよ!こいつで神殿に行って、思う存分暴れてこい!」


「ふふ、こんなに素晴らしい剣をタダでもらえる貴方はとても強い幸運を持っているのね。その幸運があれば、どんな敵も恐れる必要はないわ。がんばってね。」


レオンは2人に一礼し、再びアリサ達の方へ向きなおすと、右手の握りこぶしを上に突き上げて言った。


「みんな!これの剣があればもう大丈夫だ!この勢いで神殿を鎮めに行くぞ!!」


「はい!」


「おう!!」


「おー!」


レオンの号令に呼応して、アリサとルナとミーナの3人も拳を上にあげ、揃って声を上げた。これから、レオン達が挑む火の神殿鎮静化の戦いがついに始まる。

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