[十章]海賊の決闘
レオンたちが雑木林の一本道を進み続け、ほどなくして一つのほら穴が見えた。ここが海賊たちが潜んでいるほら穴で間違いないだろう。
「ここだな。」
「ええ、でもどうやって入りましょうか?中に見張りもいるでしょうし。」
レオンとアリサが困っていると、ルナが勢いよく前に出てきて言った。
「堂々と入ればいいんだよ!ほら、いくよ?」
「あ、ああ。わかった。」
ルナの思い切った行動に少し驚きながらも、レオンたちはほら穴に入っていった。するとすぐに見張りの女海賊が2人立っていたのが見えた。レオンたちは武器を構えようとしたが、見張りの女海賊達は素直に道を開けた。当然戦いになるだろうと思っていたレオンたちはこれに驚いた。
「えっ?僕たちを通していいのか?」
「無傷で通して来いってキャプテンからの命令でね。さっさと通りな。」
「あ、ありがとうございます・・・・・。」
レオンたちは不思議に思いながらも素直に通してもらった。しかし、こうも簡単に通してもらったため、逆にレオンたちは不安に思っていた。
「海賊たちは僕たちを通してどういうつもりなんだ?」
「これは、罠を張ってるとアタシは思うね。」
「うんうん、あたしもそうおもうけど・・・・・。」
「とにかく進まないとわかりませんね。」
レオンたちはほら穴を進んでいく。途中、多くの女海賊たちが見えたが、皆攻撃はせず、ただレオンたちの姿を眺めていたり、ひそひそ話をするだけであった。この多くの敵が見つめる中を進んでいくという異様な光景は、レオンたちも不気味に思っていた。そんな中をしばらく進むと、辺りを黄金の輝きが照らす広い空間に出た。急に明るいところに出たので、レオンたちは驚いた。
「なんだ、ここは?」
「レオンさん!あれはコラル王国の財宝です!」
黄金の輝きの正体は、コラル王国で海賊3姉妹に強奪された財宝たちであった。レオンたちがあたりを見回していると、財宝の隙間から3人、非常に見覚えのある人物が出てきた。そう、海賊3姉妹のマイ、ライ、メイである。
「やぁお前たち。財宝を頂いて以来だねぇ?」
「お前たち!!アリサのお姉さんはどこへやった!!」
「そうです!姉さんを返してください!」
レオンとアリサがミレイを返すよう求める。しかしマイはそんなレオンたちを挑発するように答える。
「おうおう、そんなに必死になって、よほど大事なお姉さんなんだねぇ?」
「当たり前だろ!!だいたい、アタシらを無傷でここまで来させた理由はなんだい?部下を戦わせてからの方がアンタらにも有利だろうに!」
ルナが怒りながらマイに問う。その問いに対し、ライが答えた。
「私たちは、お前たちがここへ来たという報告を受けて、海賊なりの決闘を申し込むべくここへ呼び出した。」
「そうなのですよ~。なので、そ~れ~!」
ライに続きメイも答えると、レオンたちに上級回復魔法をかけた。レオンたちは、先ほどの戦闘の傷も、疲れもなくなり、一番元気な状態になった。ここまでしてくるのか、とレオンたちも驚いた。
「真剣勝負のために、ここまでするのか・・・・・。」
「この魔法、あたしでも使えないすごい奴だよ。」
「こりゃアタシらも全力でいかないとねぇ。」
すっかり元気になったレオンたちを見て、海賊3姉妹はそれぞれの武器を構える。レオンたちもそれぞれの武器を構え、海賊3姉妹と対峙した。
「さ、これで文句はいわせないよ?アタシらの海賊流決闘、受けてもらおうじゃないか!!」
「望むところだ!!」
レオンたちは海賊3姉妹の決闘の申し込みを受け、周囲で女海賊たちが見守る中勝負が始まった。
まず初めにマイとライが、メイを守るように2人で前に出た。メイはすかさずマイとライにパワーフォースで攻撃力を強化した。しかも最初に戦った時よりも詠唱が短くなっており、海賊3姉妹もこの海の世界で強くなったことをレオンたちに知らしめた。ルナはライに向かって一直線に向かっていき、レオンとアリサはマイに向かって攻撃を仕掛けようとした。
「フフフ、またアタシが遊んであげるよ。王子様とお姫様?」
「くそっ!強くなったのはお前たちだけじゃないぞ!」
「そうです!私たちもこの旅で強くなったんです!」
「なら見せてもらおうじゃないか!連・走破剣!!」
マイが二刀流のサーベルで地を這う衝撃波を3連続で放ってきた。レオンとアリサはこれを避けるが、これにより分断されてしまい、その隙にマイがレオンに一気に接近し斬りかかってきた。レオンは自身の剣でマイの攻撃を防ぐが、もう一本の剣での攻撃に対応できず、左腕を斬られてしまった。
「うわっ!なんて速さの攻撃だ・・・・・!」
「どうしたね?強くなったのは威勢だけじゃないだろう?」
「くっ!まだまだ!!」
「レオンさん!私が隙を作りますからレオンさんがそこを突いてください!」
アリサがすぐに駆けつけ、マイの前に立ちはだかった。レオンは一歩下がり、様子を見守ることにした。
「あなたの相手はこの私です!」
「けなげだねぇ!けど手加減はしないよ!」
ミーナはライトニングを唱えているところだったが、レオンの怪我を見て心配そうに聞いた。
「レオンおにいちゃん、回復を!」
「大丈夫だよ!ミーナはそのまま詠唱を続けて。」
「うん、わかった!」
ミーナはそのまま詠唱を続けながら、ルナの様子を見た。ルナはライと一対一の勝負で、お互い一歩も引かない攻防を繰り広げていた。ルナもライも少しずつダメージが大きくなっていくのがわかった。
「お前、以前にも増して強くなったか。」
「へへ、アタシもパンチを何度も受けて立ってられるアンタも相当だね!」
ルナとライが再び攻撃を交えようとした時、ミーナが全体に聞こえるように叫んだ。
「ライトニング打つよ!」
それを聞いたレオン、アリサ、ルナの3人は後ろに下がり、ルナがミーナに合図を送った。
「よし!打て!!」
「ライトニング!!」
「あぶな~い!シールドフォース!!」
ルナの合図でミーナのライトニングが放たれたが、その直前メイのシールドフォースで3姉妹全員の防御力を高め、ライトニングに備えた。そしてライトニングが3姉妹に直撃したものの、以前とは違い未だに戦える様子を見せていた。
「っ~!!やっぱチビの攻撃は効くねぇ!!」
「くっ・・・・・!これも試練とあれば!」
「うう~。ビリビリです~・・・・・。」
「うそ!?あたしのライトニングをうけたのに!」
ミーナは大きく動揺したが、アリサがミーナの肩に手を置いて励ました。
「大丈夫!次で勝負をつけましょう!」
「う、うん。わかった!」
レオンとルナは再びそれぞれレオンはマイ、ルナはライの元に戻り戦闘を続行した。ミーナとアリサは、2人で魔法の詠唱を始めた。3姉妹の方は、マイもライも応戦する体制に入っており、先ほどの攻撃を受けながらも全く隙を見せず立ちはだかった。メイもすぐに次の攻撃魔法を唱え始めていた。
「これでこっちが有利になったぞ!降参するなら今のうちだ!」
「何言ってんだいボウヤ!勝負ってのはね、どちらかが倒れるまで終わらないんだよ!!」
マイを相手に果敢に攻めるレオン。一方のマイはさっきまでの積極的な攻めは影をひそめ、距離を取り防御に徹していた。ルナと戦っているライも、攻めを少なくして防御に集中しているようである。ルナはその違和感にいち早く気づいていた。
「どうした?ずいぶん奥手な戦い方だねぇ?」
「ふっ・・・・・。じきにわかる。」
ライは不敵な笑みを浮かべ、相手の隙をうかがっているようだった。ルナは気にせずに攻め続けることにしたが、その時であった。
「おねえさ~ん。魔法ストックできました~。」
「よし!アタシの合図で打つんだよ!」
メイが魔法を杖にストックした。マイの合図で放たれるそれがどんなものなのか、レオンたちには分からなかったが、それは3姉妹の逆転の手段だということは薄々とわかった。レオンとルナは相手に攻撃のチャンスを与えまいと果敢に攻め込んでいった。マイとライがその猛攻に押され始めた時、マイがメイに向かって叫んだ。
「メイっ!今だよ!」
「え~い!グランドクエイク~!!」
メイが魔法を唱えた瞬間、地面が一瞬、とても大きく揺れた。マイとライはその場で後ろに下がりながらジャンプして揺れをかわしたが、レオンたちは皆その激しい揺れに反応できずに倒れ込んでしまった。
「うわっ!!この揺れは!?」
「これはさっきの魔法だね!?レオン、大丈夫かい!?」
ルナも倒れ込みながらもレオンに呼びかけたが、レオンはそれの答える余裕もないようにマイを見続けていた。マイとライは倒れたレオンとルナに追い打ちをかけるべく攻め込んだ。
「どうだい!妹の魔法の味は!!このまま切り刻んでやるよ!連・走破斬!!」
「くそっ!立ち上がる隙を与えないつもりか!」
マイが倒れたレオンに連・走破斬を放って一気に追い詰める。レオンは倒れたまま転がりながら交わしていたが、立ち上がる隙がなく次第に追い込まれていった。ルナも倒れたままライに斬りかかられ、刀をガントレットで受け止めながら鍔迫り合いをしていた。
「フッ、根競べもいいだろう。このまま押し切ってやろう!」
「アタシらはこんなところでやられてる場合じゃないんだよ!!」
その頃アリサとミーナは、攻撃対象から外れている隙に立ち上がり、魔法の詠唱を完了させていた。
「ミーナちゃん、いつでもいけるよ!」
「わかった!それじゃレオンおにいちゃんとルナおねえちゃんを後ろに・・・・・。」
そこまで言いかけて、ふとメイの方を見ると、メイは次の攻撃魔法を詠唱しているところであった。強いマナの力から、おそらくとどめの一撃を放ってくると思ったミーナは、急いでレオンとルナを下がらせるべく呼びかけた。
「レオンおにいちゃん下がって!ルナおねえちゃんも!」
「なに!?わかった!」
「アタシは動けない!援護頼むよ!」
「はい!今すぐに!」
レオンが転がって後ろへ下がったのを確認すると、アリサは詠唱していた魔法を発動した。すると、ほら穴の中であるにもかかわらず突然雨が降ってきたのだ。これには海賊3姉妹も驚いて攻撃の手を緩めた。
「あらら~?雨降りです~。」
「ばかな!?ここは洞窟だぞ?」
「なに言ってんだい!あの小娘の魔法だよ!」
3姉妹が雨に気を取られているうちに、ルナはライの刀を振り払って、立ち上がりながら後ろへ走っていった。
「すきありっ!」
「なっ!しまった!」
ルナの後退を確認したミーナが、雨で海賊3姉妹の足元にできた水たまりに向けて雷の魔法を放った。
「今だっ!!いっけー!!」
「な!!?水びだしのいまそれを喰らったら・・・・・!!」
マイはアリサとミーナの狙いがわかったが、すでに遅かった。雷は水たまりに当たり、水を伝って電流が駆け巡り3姉妹全員を激しい電撃が襲った。ライトニング以上の攻撃力と持続的なダメージに3姉妹は大打撃を受けた。
「ぎゃああ!!!」
「わぁぁ!!ななななんて!ててて、すさまじい!ででで電力!!!」
「ひゃぁぁぁぁ~!!!」
「やった!!これがあたしたちのコンビネーションアタック・・・・・。」
「リキッドプラズマです!!」
アリサとミーナのコンビネーションが決まり、形成は逆転した。メイは激しい電撃でそのまま気絶して、マイとライも立ち上がるのもやっとな状態だった。レオンとルナは一気に決着をつけるべくマイとライに攻めかかった。
「とどめだ!海賊!!雷刃連斬!!」
「こ、このアタシがぁ!!?う、ぎゃぁぁ!!!」
レオンは立ち上がろうとするマイに雷刃連斬を放ち、黄金の財宝の中へ吹き飛ばした。ルナもライにとどめをさそうとしたとこであった。ライは気合で立ち上がり、意識がもうろうとする中、ルナに向かって刀で切り込んだ。
「く・・・・・!せめてお前だけは!!」
「そんなフラフラでアタシに向かってくる根性は見事だね。でも、これで終わりだよ!」
ライの決死のひと振りをかわし、ルナはライにとどめの一撃を放った。
「吹き飛びな!剛爆拳!!!」
「わぁぁぁぁ!!!!」
ルナの攻撃でライはそのままほら穴の壁に叩きつけられ、そのままうつぶせに倒れ込んだ。これで、海賊3姉妹全員が戦闘不能の状態となった。レオンとルナは疲れきりその場に座り込んで、アリサとミーナは抱き合ってこの勝利を喜んだ。
「か、勝ったのか?」
「ああ、アタシらの大勝利だよ!」
「やったね!ミーナちゃん!」
「うん!!あたしたちの勝ちだね!」
一方先ほどから戦いを見ていた周囲の海賊たちは、まさかの敗北に皆動揺していた。目の前で自分たちの大将が倒されてしまったのだからその衝撃は大きいだろう。
「ま、まさかキャプテンたちがやられるなんて・・・・・。」
「こ、こんなの何かの間違いだぜ!」
「こ、これは私たちはどうすれば・・・・・。」
海賊たちの声がざわざわとほら穴を埋める中を、突然大きな声が響き渡った。
「うるさいねぇ!!!なに勝手に死んだみたいなこと言ってんだい!!!」
その声の主はマイだった。マイは財宝をかき分けて飛び出してくると、ボロボロの体のまま、財宝に囲まれるように置かれたマイ専用の椅子に座り込んだ。ライとメイも女海賊たちに介抱されながら目を覚ました。マイが大きく息を吹くと、レオンたちに向かって話しかけた。
「はぁ・・・・・参ったよ。アンタらとんでもない奴らだねぇ?ここまでやられたのはいつ以来かぶりだよ。」
「へへ、そりゃどうも。」
座っているルナが答えると、マイは話を続けた。
「ああ、そうだ。小娘の姉の話だね。あいつは無事だよ、傷一つつけちゃいねぇ。」
「本当ですか!?」
「ああ、本当さ。おら野郎ども!捕まえたやつを放しておやり!!」
マイが命令すると、女海賊2人が財宝の隙間から腕を縛られたミレイを連れてきた。アリサはすかさずミレイに呼びかけた。
「姉さん!!」
「アリサ・・・・・!こんなところまで!」
女海賊がミレイの腕の縄を解き開放すると、アリサとミレイはお互いに走って近づき、抱きしめあった。
「姉さん!わたし、がんばったよ・・・・・!みんなと一緒に旅をして・・・・・!一緒に戦って・・・・・!」
「ミレイ、よく頑張ったわね。そして私のためにここまで来て・・・・・。本当にありがとうね!」
アリサはミレイの胸の中で、大粒の涙を溢れるほど流し、なきじゃくりながら喜び、ミレイもアリサを抱きながら喜びの涙を浮かべていた。レオン、ルナ、ミーナの3人は、その光景を笑顔で見守っていた。
「よかったな、アリサ!」
「ああ、これでアリサも安心して旅ができるねぇ。」
「うんうん!なんだか、あたしまで涙がでてきちゃったよ・・・・・!」
そんな光景を見ていたマイが割って入るようにレオンたちに声をかける。
「さ、感動の再会のところ悪いけど、お互いの用事が終わったところでさっさとどこへでも言ってくれよ。」
「ああ、そうするよ。」
レオンが立ち上がりながら答え、ルナとミーナと一緒にアリサとミレイのところに集まった。そしてほら穴の外へ向かって歩きだした。ふと、ミーナが立ち止まり3姉妹の方を向くと、3姉妹に向かって回復魔法をかけた。マイはミーナを睨めつけながら言った。
「なんだい、情けのつもりかい?」
「最初に回復してくれたお礼だよ!じゃあね!!」
ミーナは平然と笑いながら答えると、レオンたちの元へ走って戻っていった。
「はぁ・・・・・。なにがじゃあね、だよ。もう顔も見たくないね。」
マイはレオンたちを見送りながら呆れたようにつぶやいた。
救出したミレイとともにほら穴を出たレオンたちは、これからのことについて話し合った。
「これで、やっとひと段落ですね。みなさん、お疲れ様でした。」
「ああ、アタシもあそこまで激しい戦いになるとは思ってなかったよ。」
「そうだな。さて、僕たちはアゼルの町に向かうとして、ミレイさんはどうするんだ?」
「私も一度アゼルの町へ向かってから、村へ戻るつもりです。その間までですが、よろしくお願いします。」
「ああ!アタシらがしっかり護衛するからね!」
「ありがとうございますね。アゼルの町へは一本道ですから、すぐに行きましょう!」
ミレイがレオンたちに呼びかけて、皆でアゼルの町へと向かうべく歩みを進めた。雑木林を抜けると、ゴツゴツとした大きな岩が目立つ岩場に出た。急に景色が変わったので、レオンは皆にこの土地のことについて聞いた。
「急に岩が目立つところに出たな。」
「ええ、アゼルの町は鉱物資源が豊富で、そこから工業が盛んになったのだと思います。」
「へぇ、この岩場もここ特有のものなんだなぁ。」
アリサに教えられ、レオンは土地の性質に関心を持った。それから少し歩いていくと、遠くの方に白い煙に包まれた町が見えた。レオンたちはそれがアゼルの町だとすぐに分かった。はじめにミーナが声を上げて皆に聞いた。
「見て!あそこ!あれがアゼルの町だよね!?」
「ああ!もう目の前だな!」
レオンがそれに答えると、ルナがいてもたってもいられないといった様子でレオンたちを追い抜かして走っていった。
「なぁなぁ、アタシは待ちきれないよ!先に行くからね!」
「あっ!待ってください!私たちもすぐ行きますから!」
そう言って走っていくルナを、アリサとミーナが追いかけていった。レオンも走ろうとすると、ミレイがレオンに話しかけた。
「とてもにぎやかね。あなたが中心になってくれているのかしら?」
「・・・・・いや、みんなで並んで、助け合って歩いているんだよ。」
レオンがそう答えると、先に行ったルナたちを追いかけて走っていった。ミレイもレオンに向けて微笑み、後を追って走った。