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Todo es una historia―全ては一つの物語―  作者: 海麟
3章 何かの始まり 海莉side
8/15

出会いと自己防衛

 撃雷に初めて会った頃は、丁度、心が死にかけていたときだった。


 孤児院の大人たちは、もう自分たちより大きく、おつむは足りないが腕力は強くなった奴らには、自分可愛さに必要以上海莉に関わらないようにしていた。

 海莉が変わっている事もあり、当然、いじめについても見て見ぬふりをしていた。

 いじめはよくない、といっていた真面目な子も、周りから圧力をかけられて、暴走しかけた時のことや他の噂も聞いて、海莉の特異な容姿や体質を見て、人間じゃない奴だったら、危険な奴だったら、と、いつしか暴力に加わっていてさえした。


 『周りがいじめに比べ物にならないほど散々海莉に危害を加えたから暴走しかけた』

という都合の悪いことは都合よく忘れて。


 最初は、ひどくはなかった。

 単純だった海莉は、普通に接すれば、誰か一人でも一緒にいてくれる人が現れるのではとも思った。

 実際、普通に話せる人は少しはいた。

 だが、いじめが本格化すると、その人たちに少ししか話していなかった自分のことが、最大限に活用されていた。精神的にも物理的にも、ひどかった。


 話した人たちが陰湿なことをし始めたことを知ったとき、人が本気で恐ろしくなった。


 そこから壊れ始めた。


 唯一の救いは、土地神様の存在だった。

 とても優しい土地神様ばかりだった。

 土地神様は、自分の土地から長距離離れられない。

 そして、孤児院の近くや、学校へ行く道のりの辺りには狭い場所に縛られている弱い土地神様しかいない。

 その神様たちは学校までは来られないため、海莉が人間になじめないでいることを知ってはいるが、ここまでひどいいじめであることは知らない。

 その代わり、いつもはノーテンキにふざけているが、海莉に傷跡があると心配してくれる。そして困ったときは少しづつ助けてくれる。


 でも、だからこそ心配されたくなかった。

 だから、土地神様のところへ遊びに行く時は、必ず傷が完全に治っているのを確認し、服の汚れをできる限りはらってから行っていた。

 本当に、本当に、優しい神様達だから。


 そしてその優しさに、いつも、とっても救われていた。


 しかし、その優しさが追い付かないほど精神の限界が迫っていた。

 当時、自分の中で限界を感じた1人の海莉は、もう我慢の限界だ、この力で、今までの分をやり返せ、と叫んでいた。そして、その誘惑に必死でもう1人の海莉が抵抗していた。そんなことをしたら、制御できないこの怖い力にのみこまれて、今度こそ本物の化け物になる。そうしたら、誰かを意図的に傷つけたら、ただでさえこんな自分なのに、『自分に恥じないように生き、あいつらのようにならない』と、自分で決めたのに、もう絶対に後戻りできない一線を越えたらどうなるか。

 そう、歯を食いしばり、自分に言い聞かせ、耐えていた。


 本当に、本っ当に撃雷が来て救われた。


 最初は全く信用していなかった。

 助けてくれたし話しかけてもきたが、どうせ周りから吹き込まれた噂を聞いたりして時が経てば、素が出てくるか、周りからの圧力に耐えられなくなって離れるだろう。そう思い、突き放していた。

 しかし、二週間経ってもごく普通に接してくれた。二週間、というのは暴力はよくないといっていた真面目な子が変わるまでの期間だった。

 それでも警戒を解かなかった。


 害を加えられないよう友達のフリでもしているのか。それだったら一応、少数ではあるが、暴力に加わらないのもいる。しかし、だからと言って特に何もしない。巻き込まれないよう見ているだけだ。そいつらのように、普通に無視していればいい。わざわざ周りが嫌悪している海莉に話しかける理由が全く見当たらない。


 それともまたあの時のように、友達のフリをして自分を貶める材料にしたいのか。

 そう思い、自分がこれ以上壊れるのを防ぐべく警戒した。


 一ヶ月経ち、周りが撃雷への嫌がらせをさらにエスカレートさせても、海莉へ態度を変えなかった。育った環境もあり、昔からかなり人を見る目は鍛えられていたため、人を騙すような奴じゃない、それどころかなりいい奴だ、ということも、この一ヶ月で理解していた。


 理解していたが、このいい奴が話しかけてくるたび暴言を吐いた。悪態もついた。とにかく今まで以上に明確に拒絶を示した。

 なぜそんなことをしているのか自分でもよく分からなかったが。


 だが、三日と持たなかった。




「らしくないな?」


「・・・」


 唐突に言われ、口を閉ざし、じろっと睨んだ。


「おまえさ、ワリといい奴じゃん。なのにそんなこと言うの、らしくないな、って。」


 いきなり言われ、面食らった。


「はぁ?!お前あたしの何見て言ってんだ?」


「口は悪いけど、理由もなく一方的に嫌な暴言吐かないだろ、おまえ。」


「あたしのどの態度見てりゃそんな結論に繋がんだ?あれか?お前の頭はお花畑か?!」


「だっておまえ、嫌がらせ受けてもやり返さないだろ?」


「・・・雑魚に加減できねえからだ。それは。」


「つまり、傷つけたくないってことだろ?いい奴じゃん。」


「・・・証拠でもつかまれて、大人にばれたら一生どこぞのマッドサイエンティストにでも研究材料にさ

れかねねーかr」


「それに―――」


「人の話聞け!」


 海莉が青筋を浮かべたが、撃雷はどこ吹く風で続けた。


「お年寄りぐらいしか覚えていないぐらい弱くて小さい土地神様んとこ周って、差し入れしたり喋ってたりしてんじゃん。ムチャクチャ喜んでるよな、あいつら。んでもってお前も楽しそうじゃん。だからあいつら、よくちょっとづつ助けてくれてんだろ?」


「・・・?!・・・お前・・・ミえんのか?・・・」


 驚いて撃雷を見ると、ニヤッと笑った。


「おう!」



 それ以来、なんだかんだで少しづつ、つるむようになった。


 それにつれて直接暴力を振るってくるやつも、減っていった。

 加減ができなく、それ故反撃できなかったあたしの代わりに、撃雷がボコってそいつらを黙らせてくれていた、というのは、後から知った。

 他にもいろいろ助けてもらった。


 そういったこともあり、心も開けるようになった。

 だが、そんな撃雷に対しても、去年、一度本気で怒り、喧嘩し、暴走したことがあった。

 そのときは、感情に飲み込まれ、意識が飛び、気がつくと撃雷が紅くなっていた。

 浅いとはいえ、無数の切り傷で撃雷は覆われていた。

 後から聞くと、あたしがキレたとたんに小さな龍らしきものに姿が変わっていき、暴れたため、慌てて止めたらしい。

 小さい龍、といっても、物語に出てくるような龍に比べて、だ。

 撃雷に聞いたところによると、だいたい、2メートル前後はあったらしい。

 幸い、周りに誰も居ない公園だったため、大騒ぎにはならなかった。

 それでも、撃雷は、泣きながら謝ったあたしを許してくれた。

 とてもショックだった。

 なにより、撃雷を傷つけたことが。

 だが、そんな大事だったにもかかわらず、何故かその前後の記憶や喧嘩の原因を覚えていなった。

 そして、それ以来、妖怪がまとわりつくようになった。なんとなく自分がどんな種類が混ざった存在なのかを知った。


 この頃からだろうか。撃雷に不安と疑問を持っていた。


 なぜ暴走していて故意ではないとはいえ、こんな、自分を傷つけたあたしとつるんでいてくれるのか。

 皆に避けられるだけでなく、明らかに普通じゃないどころか人間ですらないあたしとつるんでいて嫌ではないだろうか。

 他の普通の人たちといた方がよかったのではないか。


 それが、信頼できる奴が一人しかいない海莉の不安だった。それは心の中のシコリとなって、いつまでもしつこく根強く残っていた。


 でも、あえてそのシコリから目をそらしていた。


 撃雷が本当に自分といたことを後悔していたら、自分から離れていったら、今度こそ自分が耐えられなくなって壊れるだろうと、心のどこかで分かっていたから。


 それが、完全に自分勝手な理由だとは、わかっていても。

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