部活決め
入学式から10日後。
この前の事件の後、例の不良たちは学校からパッタリと消えたという話を聞いた。
彼らの素行には教師やクラスメイトも迷惑していたし、願ったり叶ったりだったらしい。
北川はその話を嬉々として語っていた。
情報の出所は不明だがきっと聞かない方がいいだろう。
まあ、その話はさておき本日は部活決めの日だった。
とりあえず、僕は文化系の部活には入りたくない。
僕は中学時代、美術部に所属していた。
理由は正直言って無かった。
ただ周りが部活に入っているので僕もと便乗しただけだった。
美術部は随分とひどかった。
アニメだの同人誌だの何だの僕みたいな一般人には到底着いて行けない話題だった。
という過去から僕はどうしても文化系はオタクの巣窟というイメージが拭い去れないのだ。
偏見と言うことは重々承知しているが、やはり一度持った印象と言うのは中々薄れない。
というわけで今机に座って考え中なのである。
「永井くんは部活どうすんの~?」
呑気に僕に声をかけてくるのは隣に席に座る真田唯さん。
この人も北川に負けず劣らずかなりの変わり者だ。
それはこの10日間でよく分かった。
何というか、少し抜けているのである。
世の中ではこういうのを天然と呼ぶと高野が言っていた。
「まだ考え中」
「そかそか。それならハンドボール来なよ。楽しいよ~」
「・・・・・・確かハンド部って女子限定じゃなかったっけ?」
「あ、そうだった」
「本当に忘れてたの?」
「うん。すっかり」
「まあ、誘ってくれたのはありがとう」
「うん。どういたしまして」
真田さんはそれだけ言うとさっさと教室を出て行ってしまった。
未だ僕はこのクラスで真田さん、北川、高野の3人としか話したことが無い。
3人とも向こうから話しかけてきた。
僕に人を寄せ付ける何かがあるのだろうかと少し考えたが、結論は人じゃなくて変人を寄せ付ける何かがあるのだろうということだった。
よく考えれば真田さんとは北川や高野よりも先に喋った。
といっても向こうが消しゴムを貸してほしいという要望による事務的な会話だったけど。
真田さんもいなくなり、ふと教室を見渡してみる。
もう教室に残っている人影は少ない。
まあ、放課後なのだから当たり前なのだが。
しかし、予想通りあの馬鹿2人は残っていた。
「・・・・・・あ」
「よっしゃ月いただき!月見酒!50点」
何故か花札をしている。
ちなみに昨日はトランプでポーカーをしていた。
要するに彼らは賭博の類が好きなのだ。
しかし、どちらの勝負でも言えるのは北川にはギャンブルのセンスがないということだった。
「なあ、少しくらい手加減してくれよ」
「花札に手加減も何もないだろ!!完全にこれは運だって」
「くそ、次こそは」
北川は威勢よく花札を切っていたが、手元が狂いカードが全て床に散らばる。
「うわっ、最悪だ」
「とっとと拾えよ」
そう言って高野は北川の頭を踏みつける。
北川は一瞬、高野を睨んだがすぐに視線をカードに移す。
高野が僕に呼びかけてきた。
「なあ、まだ部活決まらねえの?」
「ごめん。待たせちゃって」
「いや、それは良いんだけど時間が無いんじゃねえの?今日は確か5時から職員会議だから早く決めないと渡しそびれるぞ」
時計に目をやれば4時43分。
確かにそろそろ決めなければまずい。
「どうしようか・・・・・・」
焦るとどれが良いのか分からなくなってくる。
サッカー部、野球部、バスケ部、テニス部、剣道部、陸上部、水泳部、空手部、パルクール部。
ん?パルクールって何だ!?
すごい気になるけど下手な部活を選んだら危ないからこれは除外だ。
それでも残りは8つある。
北川も気になったのかこちらに目を向ける。
「お前、まだ部活選んでなかったの?何なら帰宅部にしちまえよ」
「いや、それはちょっと」
流石に僕でも抵抗があった。
「なら一番単純そうなのにしろよ」
「単純・・・・・・」
ここは北川に従うことにしよう。
僕は自慢じゃないがスポーツの類はてんで駄目だ。
よって残りは陸上と水泳。
「陸上って走ればいいだけだよな」
「まあ、そうだけど」
「じゃあそれだ!!そう、君は今日から陸上部の死兆星、永井涼だ!」
「演技悪い星だな・・・・・・」
だが、確かに陸上って走れば良いだけだしな。
僕は陸上部に丸を付けた。
我ながら安直な決め方だな。
と、今更思ってみても遅いが。
こうして僕は陸上部に入ることを決めた。
「てか、北川は部活どうしたんだよ?」
「俺は剣道!高野もな!」
ああ、だからこの前竹刀を・・・・・・。