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友達

今回はちょっとシリアスです

入学式から1週間が過ぎた。



クラスの皆は少しずつ団結していったようだ。


僕や北川や高野のような特例もまだ少しはいるが、すぐに皆1つにまとまるのだろう。




僕もその輪に入ればいいと思うだろうが、僕にとってここは負け犬の巣窟みたいなものだ。



実際、ここに来るのは県立高校の受験を滑ったやつばっかりだ。




そんな負け犬同士で傷痕を舐めあうような友情関係を僕は作り上げたくない。




そもそも、中学時代の仲間たちと付き合い続ければいいじゃないか。



何を考える必要がある?





そんなだから僕はいつも休み時間は一人、昼飯の時も一人、帰り道も一人。



とにかく一人だ。





だが、この状況が別に嫌という訳でもないからこれで良しなんだろう。





















僕は今日この日一人で居たことを後悔することになった。




「だからよ、ここで生活する奴らは俺らに月謝払わないといけないんだよ。分かる?」



「ほら、今月分俺ら5人に一人2000円ずつで10000円な」




そう。



この私立高校は上は僕みたいな県立のトップクラスを狙える頭の良いのからこいつらみたいに風紀を乱すような頭の悪い屑まで十人十色なのである。



そして、帰りに一人で歩いているところを目をつけられて体育館裏に連れて行かれたのである。




「あんた達、悪いけど僕は早く帰りたいんだよ。どいてくれ」


僕は出来る限り力強い口調で言い放った。



だが、屑たちは下卑た声で笑っただけだった。



一しきり笑い終えた屑の内の一人は僕の頬を殴った。


僕はコンクリートの地面に倒れこむ。




「年上にそんな口調で話しちゃ駄目だろ~?僕ちゃん」



屑は笑いながら倒れこんでいる僕を蹴り続ける。



いつの間にか足が増えているような気がする。




だが、僕はこんな屑には屈したくない。


そんなことするくらいだったら抵抗してやる。



そう思っていた。




でも、浮かんできたのは諦めの道のみだった。


ここで僕の今持っている全財産を渡せばこいつらもきっと許してくれるだろうな。



そうすればもう痛いことはされないだろうな。




そんな考えが浮かぶ度に悔しくて涙が出てきた。



情けない自分に怒りまで沸いてきた。




屑たちは僕が涙を流してるのを見ると更に笑い声が大きくなった。





すると、突然僕への蹴りが止まった。



もう蹴られないのだろうか?


僕はそっと目を開け、体を起こした。





視線の先には僕のクラスメイトの北川と高野がいた。



僕を助けに来た?




普段の僕は人との関わりを拒否しているのにこんな時だけそんな都合の良い考えが浮かんだ。



屑の一人が声を発する。




「お前ら何見てんだよ」



高野がビクッと肩を震わせた。


だが、北川は薄く笑っているだけで何の反応も示さない。




「見世物じゃねえんだよ、帰れ」



「分かってますよ先輩方~。この事は誰にも言いませんって」




北川のその言葉で僕の頭の中は真っ白になった。





「俺らは偶然、ここ通っただけなんで。そんな面倒事に巻き込まれたくないですし。

どうぞどうぞ続けてください」



北川は今にも高笑いを上げそうな顔つきでそう言った。



それを聞くと屑たちは安心したようでさっきまでの不安そうな顔つきは消え、さっき僕から金をせびっていた時の締りのない笑みを見せた。



「ばいばい、永井~。また明日」



北川と高野は僕に別れの挨拶をすると走ってそこから走り去っていった。



屑たちがまた僕の方を向く。




「残念だな。お友達に裏切られてよ」


「いや、こんな奴に友達いるわけねーだろ。大方、ただのクラスメイトだろ」


「ぎゃははは、悲しすぎだろお前の人生」


「俺同情しちゃうな~、何ちって」




屑たちは僕に罵詈雑言を浴びせ始めた。


だが、僕は悲しくはない。




よく考えれば屑の一人が言ったように彼らはただのクラスメイトだ。



僕を助ける訳が無い。




やっぱり素直に金渡すかな・・・・・・。



助けも来ないだろうし。



そう思うと、何だか笑えてきた。





「うわ、こいつ笑い始めたぞ」


「きめー。Mじゃねえの?」


「成る程な、じゃあもうちょい苛めてやる?」


「いや、もう金取って帰ろうぜ。その金でゲーセン行こうぜ」




どうやら僕のことを屑たちはまた蹴るようだ。



もう蹴られ過ぎて動くのもきついな。


きっと僕が完全に動かなくなったら僕の鞄に入っている財布を見つけ出してゲーセンに行くんだろうな。



さあ、覚悟は出来た。


僕のことを蹴ってみろよ。




その時、銀製のフォークが空を飛んだ。




「あぎゃあああああっ!!」



多分、屑の一人の悲鳴だろう。



頑張って顔を横に向けてみると屑の目にさっき飛んでいたフォークが刺さっていた。





しかし、あのフォークはどこから飛んできたんだろうか。



「おい、大丈ぶへっ!!」


「何だよ、お前りゃっ!!」




その後も「ぐえっ」とか「ぎゃっ」とか屑のものと思われる悲鳴が聞こえた。




その間中僕は恐怖でずっと目を瞑っていた。









悲鳴が聞こえなくなって40秒くらい(もっと長かったかもしれない)で僕は目を開けてみた。





そこにはズタ袋を被って竹刀を持っている2人組がいた。



2人組は何か話しているようだ。




僕はそっと聞き耳を立てる。



「あー・・・・・・マジで死ぬかと思った」


「何言ってんだよ。俺の天才的頭脳による計算から導き出された完璧な作戦だ。失敗するわけがない」


「でも、こいつらどうすんだよ?」


「とりあえず服脱がして△△女子高の前の橋にでも吊るしておこうぜ」


「鬼か!!」


「そんなことないだろ。そうでもしないと俺らの事血眼になって探すぜ。

あ、その前にその件が噂になって学校来れないかもな。けけけ」


「・・・・・・やっぱ鬼じゃねえか」


「失礼な。Mr.品行方正とは俺のことだぜ?」


「そんなに性格悪い品行方正いてたまるか!」




この声は・・・・・・聞き覚えがあった。




僕は起き上がり、2人に声をかける。



「もしかしてきた」


「しーっ」



ズタ袋の1人が人差し指を口元に当てた。




僕は素直に言葉を切った。




「ここで俺らの名前出されるとこいつらに報復されかねないからな。場所変えようぜ」




その時、屑の一人が小さくうめき声を上げたのでその頭に竹刀が振り下ろされた。






















僕らは高校からの最寄駅のベンチに座った。



そこでズタ袋の2人はようやく顔を見せてくれた。



予想通り、2人の正体はクラスメイトであり一度僕を見捨てた北川と高野だった。





彼らが正体を明かすと僕は開口一番2人に尋ねた。



「何で・・・・・・一度、僕を見捨てたのに助けに来たの?」



その質問に北川は意地悪く笑い、高野は嫌そうに僕から目を背けた。


当然、答えたのは北川だった。




「いや、ああでも言わないとお前のこと助けられなかったからさ。

どう考えても2対5じゃ分が悪いだろ?おまけに相手の方が体格もデカいときた。

だから、最初の奇襲で相手の内最低でも一人に恐怖を植え付けないとまずいな~って考えたわけよ。

フォークで片目潰されりゃまともな思考が出来ないだろ?

あとは相手に動く隙を与えないように素早く近づいて武器で潰す。

俺、天才じゃね?てか天才だな」



事が終わると北川は本当によく喋る。


高野はそれに対してさっきから一言も口を利いてくれない。



「な、高野。

お前がいなかったら俺の天才的な作戦も成功しなかったんだし、感謝してるぜ」



「何が感謝してるだよ。

お前、自分でこの前あいつらに一人でいた時にカツアゲされたって言ってたじゃねえか。

体よく復讐の道具に俺と永井のこと使いやがって」



「あ!お前それは言わない約束だろ」




2人はまたいがみ合い始めた。



そんな2人を見ていると何だかおかしくなってきた。


僕もこの2人に交りたいとすら思ってきた。



だが、駄目だ。





僕は所詮、一人だ。


彼らだって僕を友達とすら思っていないんだろうな。



きっと高野の言う通り北川が復讐したかっただけなんだろう。




僕は彼らに背を向け、駅のホームへと向かって歩き出した。




「おい、どこ行くんだよ永井」



高野の声が後ろから聞こえた。


僕は振り返らずに言葉を返す。



「帰るんだよ。

あの屑どもに腹とか背中とか散々蹴られて痛いし」



「そんな釣れないこと言わず俺らと遊んでこうぜ!」




「・・・・・・え?」




高野の言葉に僕は足を止めた。



北川も同調する。




「そうだそうだ!折角なんだし、親睦会も含めてカラオケにでも行こうや」



「お前、カラオケ一昨日も行ったじゃねえか」



「いいじゃん!カラオケはいつ行ったって楽しいもんだ。

永井、行くだろ?」




彼らは僕を助けたばかりか僕とカラオケに行こうとまで言うのか。



本当に馬鹿な奴らだ。


こんな弱くて負け犬な僕を遊びに誘うなんて彼らの頭を疑うな。




「僕は・・・・・・」


















その日、僕は初めて我が家の門限(7時30分までには帰宅)を破った。

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