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山は危険が一杯

こんにちは、永井です。


さあ、始まりました第1回虫取り大会。

しかし、僕らは折角の夏休みに何故山なのでしょうか?


もっと若者に人気な海とかプールとか水着とかひと夏のアバンチュールとか。



そういうのを期待していたはずなのに。


そんな妄想に耽りながら僕は山道を行く。



そもそもレアな虫って何を捕まえれば良いのだろうか。



「あっ、クワガタ」


こんな昼間にいるとは。

木の幹で気持ちよさそうに日向ぼっことは油断しているな。


僕はすぐさま網を振り下ろし、捕まえる。



かなり大きい。


僕の手の中でジタバタと足を振り回している。



とりあえず、これで1匹か。

虫籠に入れて僕は妄想の続きをしながら再び歩き出した。





















「だからさ、そもそも私は虫が触れないの」


「そんな事は知らん」


「はぁ・・・・・・永井くんに着いていくべきだったなー」



こんにちは、真田です。



私は今、前を行く少年の背を追いかけています。


彼の名前は高野将治。

シャイでツッコミ担当の男の子。



「誰がシャイじゃ、誰が」


「あ、聞こえてた?

でも、実際のところまだ凛ちゃんとすらまともに話せない恥ずかしがりくんじゃない」



「ぐっ・・・・・・反論できない」


「そんな事より早く虫捕まえてよー」



私は虫が触れない。


高野くんは虫が触れる。


という事は必然的に彼が取って来てくれれば良いという事だ。



「てか、お前ゴキブリを退治してたじゃん」


「ん?何の話?」


「・・・・・・あー、ありゃ夢の中の話だったか。悪い、忘れてくれ」



高野くんはバツが悪そうに頭を掻きながら更に深く茂みへと入って行く。


それ以上行くと危ない気がするんだけどなー。

何となくだけど。



忠告すべきだろうか?



「うおわっ!!」


突如、高野くんが逆さづりに!



鶯の身を逆に初音かな



「って事はあと2人殺されるのか」


「意味分かんないこと呟いてないで早く下ろしてくれ!!」



高野くんの右足を見ると、ロープが絡まっている。


と、言うよりはロープで縛られている?



「猟士か何かの罠かな?」


私がロープの結び目を解くと高野くんの体が勢いよく地面に落ちる。


その時、小さく何かが潰れるような音がしたのを私は聞き逃さなかった。



「高野くん大丈夫?」


「いたた・・・・・・何とか」


「いや、そうじゃなくて多分服だと思うんだけど」



「へ?」


高野くんが立ち上がる。



あー、やっぱり予想通り。



高野くんが恐る恐る視線を自分のシャツへと下げる。



そこには平べったくなったキリギリスの姿が!



無残やな兜の下のきりぎりす



あと、1つ。


「うわあああああっ!!」



高野くんが悲鳴を上げながら走り去っていく。


慌てて私もその後を追う。



だからそっちは危ないと思うのに。



高野くんはどんどん奥へと進んで行ってしまう。

全く、世話の焼ける・・・・・・。



















どうも、凛です。


他の皆と同じようにあたしも虫捕りには苦戦しております。

唯とは違い、あたしは虫を触れないほど嫌いというわけではないので比較的頑張れますが。




「ほっ」


ぴょんぴょんと先程から飛び回っていた1匹の虫をようやく捕獲。


緑色のバッタみたいな虫です。



種類は良く分からないのでとりあえず虫籠に入れる。


ふと虫籠を見れば既に7匹の大小さまざまな虫がうじゃうじゃと。


流石に私でも少しぞっとします。



そういえば北川くんはどうしているのでしょうか。


彼は小西くんと残って審判をするとの事で残っていましたが、気になります。




「そんなに愛しの彼が気になりますか~」


「えっ!?」



どこから沸いた!?


「向こうの茂みから」


「だから脳内に突っ込まないでよ!」



「そう言われましても・・・・・・。

それはそうと高野くん見なかった?」


「高野くん?

いや、見てないね」



そういう唯も高野くんと行動していたのか。


もしかして・・・・・・と、一瞬考えたが唯に限ってそれは無いだろうな。



「まだもう一つ俳句が残ってるから見逃すわけにはいかないんだけどなー」


「俳句?」



唯は得意げに頷く。


「そう。俳句。

獄門島ってミステリ読んだことない?」


「ない」


「その作品の中の殺人にそっくりな事がさっきから高野くんに起きてるんだよ」



それじゃ高野くん死んじゃうんじゃないの?


そう言いかけた瞬間だった。



あたしの体が何かに押し倒されたのは。


「え?」



あたしは慌ててあたしを押し倒した何かに目を向ける。


そこには充血した目をした高野くんがいた。


彼の右手には何かよく分からない花が握られている。

虫籠と虫網はどこかで失くしたのか持っていない。



「わーお、一つ家に遊女も寝たり萩と月、だね」


高野くんが正気に戻った。


あたしが彼の頬に条件反射で平手を打ち込んだことによって。



「・・・・・・はっ!!

ここは?山の神と精霊たちは!?」


一体、唯とはぐれていた数分間でどんな目に遭ったんだ。


「いや、流石に夢だよな・・・・・・ははっ」



そう言って笑う高野くんの口元から涎が一筋流れた。


「あれ?」



彼が自分の口元に手をやる。

そして、自分の涎に触れたと同時に目の焦点が合わなくなってしまった。


恐らく今、彼に意識はない。



唯が高野くんに目を向けたまま告げる。


まるで諦めたような表情を作りながら。


「・・・・・・行こうか、凛ちゃん」


「え・・・・・・うん」



彼はあたし達にはどうにもできない領域にまで入ってしまったのだ。


あたしも唯もそれを理解した。

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