彼らの休日彼女らの休日・後編
どうも、前回に引き続いて僕こと服部佐助がお送りします。
残るはキチガイ軍団の紅一点、真田とクールガイ小西のみだ。
小西は北川の家に遊びに行くようなので、それは帰りにでも覗いて行こう。
と、言う訳で先に真田の家を覗いてみよう。
僕はそっと窓から家の中を覗く。
しかし、リビングには人影が見えない。
おかしい。
彼女は出掛けているのか?
僕は家の周りをぐるりと一周した。
真田唯どころかその家族の姿すら見られないとはどういうことなのだろうか?
家族旅行?
遠足の翌日で疲れも取れていないだろうに果たして行くものなのだろうか?
僕は少し危険だが、家の中に侵入してみることにした。
扉を開けて玄関に入る。
靴は勿論のこと持って行く。
やはり静かだ。
誰もいない?
そう思った瞬間、僕の耳に小さな話し声が聞こえた。
僕はその場に立ち止る。
しばらくして再び話し声、それに続いて笑い声まで聞こえた。
声は床下から聞こえる。
まさか・・・・・・地下?
何故地下に?
僕は床を見つめながら家じゅうを歩き回った。
1分もしない内に僕は地下への入り口を見つけた。
キッチンの床に地下倉庫の扉のような物が2つ取り付けられている。
片方の扉には普通に食品が入っていたが、もう片方は違った。
暗い闇がそこには広がっていた。
ビンゴ!
ここから下へ行けるに違いない。
僕は慎重に暗闇に足を突き出す。
僕の足の裏が地に着いた。
そのまま足を滑らせると段差になっているらしく僕の足は空を切った。
階段だ。
僕は音を立てないように、それでいて気配を消しながら下へ降りる。
降りるにつれて話し声は段々大きくはっきりとしてきた。
「・・・・・・唯ちゃん・・・・・・はどうすれば良いの?」
「あ、それはね・・・・・・ってやれば・・・・・・ってなる」
「さかもっちゃーん・・・・・・を取ってー」
「はいはい。ところで・・・・・・は何分くらい?」
「2分くらいで良いよ・・・・・・で包んでさ」
この程度の会話ではやはりいまいち何をしているか分からない。
そう、会話だけなら。
僕は地下から漂ってくる匂いを嗅いでいる。
この会話はおそらく料理についてだろう。
何人いるかは分からないが、真田とその友達数人で調理中なのだろう。
そんな推測を立て、僕は更に下へと下りていく。
すると、更に会話内容が鮮明になる。
「お、凛ちゃん綺麗に切れたね。そのインコ」
足を止めた。
・・・・・・僕の聞き間違いじゃなければ今、僕にはインコという単語が聞こえた。
料理でインコ?
インコを料理?
「うん。唯ちゃんの猫も良く出来ている」
猫!?
確かにどこかの国では猫を食べるらしいけど、この日本で猫!?
「てか、唯最初は猫は無理って言ってたじゃん」
「それは不器用な美樹には今回の料理は向かないと思ったから。
難しいじゃん?こういうのって」
「失礼な!てか、どう考えても猫とインコじゃ猫の方が簡単じゃん!!」
「それもそうかもね、あはははは!」
僕はもしかしたら聞いてはいけない会話を聞いてしまっているのではないのだろうか。
もしかしたら彼女達にはペットショップで買ってきた様々な動物達を調理して食べるという謎の習慣があるのかもしれない。
てか、絶対そうだろ。
ヤバい。
早く逃げなくちゃって時に限って僕はミスを犯す。
階段に蹴躓いてしまったのだ。
「ん?誰ー?お母さん?」
真田が確実に近づいてくる。
きっと右手に血の付いた包丁、左手に猫の首を持っているに違いない!!
そして、所詮猫とインコは前菜でメインディッシュは人間だ!!ってオチなんだ、きっと。
僕は急いで階段を駆け上がる。
追ってくるのが女だというのが幸い。
男と女じゃ体力に差がある。
僕の方が先に階段を登り切り、窓から逃げられる!
そう思っていた。
僕はこの時忘れていた。
彼女が現ハンドボール部の部員であるという事を。
彼女のハンドボールで鍛えた脚力の前に油断していた僕は一瞬で追いつかれた。
彼女に服の裾を掴まれた。
「何で逃げるのー?」
暗闇で彼女の姿は良くは見えない。
しかし、それ即ち僕の姿も彼女には良く見えてないという事だ。
僕は真田の手を振り払い、更に足を速めた。
階段を登り切ると同時にキッチンの小窓を開け、そこから出る。
少々きつかったが何とか逃げ切れた。
生きた心地がしないというのはこういう事を言うのだろう。
僕は真田家から300mは離れた場所で息を切らしながらそんな事を考えていた。
このまま帰りたい。
だが、ここまで来て帰るのは僕の美学に反する。
最後に北川の家へと向かおう。
「ねえ、唯ちゃん、どうしたの?」
「え?いや、何でもない。忍者が居たみたい」
「忍者?大変だね」
絶対、この子信じてないな。
どうも、真田です。
何となく挨拶してみました。
でも、絶対忍者だと思うんだけどなー。
何でかって聞かれると困るけど、何となく。
「それより、早く食べようよー」
食いしん坊の紗枝ちゃんはそう私に催促してくる。
・・・・・・あ、本名は坂本紗枝。
またの名をさかもっちゃん。
って何で私説明してるんだろ?
さて、紗枝ちゃんも催促してきてるしそろそろ食事の時間にしようかな。
「じゃあ、皆食べていいよー」
フナ虫の如く美樹と紗枝ちゃんはクッキーに群がり始めた。
クッキーは色々な動物の形になっている。
インコに猫にケルベロスに。
・・・・・・インコとか猫を調理した訳じゃないよ。
だったらケルベロスも捕まえてこないと駄目じゃん。
凛ちゃんは醤油とバターで作ったソースを鮭のムニエルにかけて食べている。
何でムニエルかって?
私の母親の差し入れ。
ちなみに今両親は出掛けていて上には誰もいない。
それだからさっきの人は忍者なのではないかと私は思ったのかもしれないな。
まあ、何はともあれ私もあの食事の輪に加わろう。
ふう、疲れた。
僕は再び北川家に戻ってきた。
中には既に最後のターゲット小西がいる。
「・・・・・・あれ、どうし、たんだ?」
「あー、あの鋏?
・・・・・・何であんなところに刺さってんだろ?」
やっぱり寝ぼけてたのか。
「そういえばさ、お前が来るまでずっと寝てたんだけど変な夢見たんだよ」
「変な・・・・・・夢?」
「そう。
俺は夢の中で氷を操る魔法使いだったんだけどさ」
「中、二・・・・・・病」
「ん?何て?」
「何でも、ない」
「そうか。
で、そこに現れたのが俺と同じ能力を持ったレッド将軍。
ところがこのレッド将軍、鹿児島の連続殺人事件の犯人だったらしく、アリバイトリックとかを見破った俺が『君のやったことは全部お見通しだ!』って言うんだよ」
「・・・・・・それ、で?」
「そしたら何を血迷ったか俺がそれ言った直後にラブレター渡してレッド将軍に付き合ってくださいって言うんだよ。
あ、レッド将軍は男だぞ」
「夢は人間、の・・・・・・深層心理を、表、す」
「それが?」
「北川の、深層、心理・・・・・・ホモ」
「え・・・・・・マジで?
おい、小西お前何言ってんだよ。何爆笑してんだよ」
小西が笑うとは珍しい。
僕の手に入れた情報では確か彼はクールガイのはず。
てか、僕の情報の信ぴょう性さっきから低いな。
自分であれだけ自慢げに言ってたのに。
「ぶふっ・・・・・・そ、れで?」
「あぁ・・・・・・それからレッド将軍と付き合う事になったんだけどよ。
って、また笑ってんじゃねえかお前。
んで、結婚するところまで行って最終的に宇宙戦〇ヤマトでイスカンダルに新婚旅行に行く事になったんだよ。
そしたらヤマトが沈む!!とか艦長っぽい人が言い出して宇宙に投げ出された俺とレッド将軍はエイリアンと戦う羽目になって、最後レッド将軍が『俺、この戦いが終わったら結婚する』とか言い出してさ」
「お前と、結婚、し、たんじゃ・・・・・・?」
「それを俺が問い詰めたら離婚話を出されて、腹を立てた俺がレッド将軍の腹に消〇力投げつけて良い匂いになったレッド将軍が『わが生涯に一片の悔いなし』って叫んで死んだところで目が覚めた」
「・・・・・・何だ、よ。その夢」
「俺に聞くなよ。
てか、これ全部俺の深層心理だとしたら」
「お前の、頭、の中、気持ち悪っ」
僕も小西に同意だ。
てか、本当に北川の頭の中を覗きたい。
やはりこいつらはキチガイだと言う事が良く分かった休日だった。
さて、長くなったがこれで帰ろう。
では、また会おう諸君!
今回の話は第7話の伏線回収です