彼らの休日彼女らの休日・前編
やあ、僕の名前は服部佐助。
特技は気配を消す事、趣味は尾行。
人は僕の事を忍者、或いは変態と呼ぶ。
まあ、どちらかと言うと変態と呼ばれる事が多い。
更に言うなればこの16年の人生で忍者と呼ばれた事はただの一度もない。
・・・・・・これ以上続けると僕の心が持ちそうに無いのでそろそろ本題に入ろうと思う。
僕は自分の欲望に正直に生きる人間だ。
だから、気になる人物がいれば上に挙げたように尾行をする。
昨日は土曜日。
遠足の翌日だ。
僕は一昨日の間にとある人物達を尾行した。
そして、そいつらの家全てを調べ上げたのだ。
これぞ変態・・・・・・じゃなくて忍者だからなせる技だ。
その人物達こそ1年の間で密かにキチガイ軍団と呼ばれている方々だ。
ちなみに僕は彼らとは違うクラスだ。
だが、僕の情報網と行動力にかかればそんな問題等、恐るに足らず。
キチガイ軍団全員の休日をばっちり録画してきてくれたわ!
そして、今日は一人でその鑑賞会だ。
・・・・・・今、友達居ないの?とか言った奴は後で表に出ろ。
では、最初はこのキチガイ軍団の中でも最もキチガイだと言われている北川の様子から見てみよう。
北川は本日3回目の電話をかけている。
「もしもし、俺だよ小西。・・・・・・いや、暇だったら遊びに行こうぜって誘おうかと。
・・・・・・うん。・・・・・・まだそこまでは決めてないけどさ、とりあえず家に来いよ!
・・・・・・場所知ってるだろ?分かった、じゃあな!」
北川はそう言って電話を切った。
そして、大きな欠伸をした。
ふふふ、撮られているとも知らずに。
「さて、小西が来るまでもう一眠りするか」
独り言とは随分と悲しい奴だな。
まあ、僕もいつもやってるけど。
つまり、僕も悲しい奴・・・・・・。
違う、僕はあんなキチガイとは違うんだ!
だって僕はあいつと違って遊ぶ友達なんか居ないからな!
北川は布団にくるまって再び寝に入った。
一番のキチガイだと聞いていたのに思っていたよりは普通だな。
ならば、僕も次の場所へ。
「逃がすか!」
僕の隠れている天井裏に投げ込まれたのは随分と切れ味の良さそうな鋏だった。
僕は悲鳴を必死に押し殺す。
まさか、ばれていたのか!?
「騙されないぞ・・・・・・レッド将軍。君のやった事は全部お見通しだ、付き合ってください!・・・・・・。
ヤマトが沈む前に早くイスカンダルに・・・・・・」
何だ、ただの寝言か。
さっきの鋏も寝ぼけて投げられたんだろう。
・・・・・・こいつ、一体どんな夢を?
では、次の場所へと向かおう。
ここは高野の家だ。
確か本名は将治。
キチガイ軍団の中でツッコミ的ポジションに当たるらしい。
僕は窓からそっと家の中を覗いた。
「兄貴ー」
品の無い声で高野は兄を呼んでいる。
兄と呼ばれた男は確か高野家の長男、英人だったはず。
「何だよ、将治。休日くらい寝させろ」
英人が不機嫌そうな顔で出てきた。
「今日、バイク借りるよ」
「あれ?お前、免許持ってたっけ?」
「え!?」
高野はかなり驚いた顔をしている。
一体、今の会話のどこに驚く部分があったんだ?
「バイクって免許いるの!?」
「いや、当たり前だろ!」
「マジかよ・・・・・・俺、今までそんなの知らずに兄貴のバイク借りてたんだけど」
「は!?嘘だろ?」
「いや、マジで。
あれって結構簡単に運転出来るし、免許なんて必要とは・・・・・・」
「ちょっと待った・・・・・・お前、いつから俺のバイク使ってた?」
「えっと・・・・・・中1、いや違った、中2の秋頃から」
「嘘だろ!!」
「だから嘘じゃないって」
「そもそもバイクの運転が簡単!?」
「うん。最初の内は少しミスったりしたけど」
「お前か!!ボディに傷付けたのは!!」
「そうそう。猪にやられてさ」
「猪!?どこまで行ったんだよ、お前」
「どっかの山奥」
「て・・・・・・天才やぁ」
何故急に関西弁!?
と、つっこみたかったが我慢した。
何故ならその役目は弟の将治が買って出てくれたからだ。
その後もどうやら彼らの漫才は続いたようだ。
ちなみに兄のツッコミは弟のそれよりも鋭かったな。
特に「当たり前だろ!」の所が凄かった。
では、次に向かおう。
僕は永井の家を見て思った。
兄弟仲良い奴多いな、と。
「兄ちゃん、早くアニメ見せてよ!」
「ああ、これが終わったらね」
永井涼の弟、祐介は兄の背中から離れようとしない。
まだ小学1年生の弟が兄に甘えたいという気持ちは分からなくもないが、それを鬱陶しがらない兄も見ていて微笑ましい。
だが、兄が見ているのは爽やかな朝のニュース番組というわけではない。
見知らぬ女性が見知らぬ男性と性交するビデオだった。
「ねえ、お兄ちゃんこれどこが面白いの?」
「祐介も男になれば分かるよ」
やめろ!!
無垢な少年にそのようないかがわしいビデオを見せるな!
と、僕は叫びそうになった。
落ち着け。
僕が隠れているのはリビングのテーブルの下だ。
ここに隠れるのは中々難しかった。
そして、彼らは勿論リビングでこのビデオを見ている。
声は勿論の事、下手をすれば衣擦れの音でも気付かれる。
大体、こいつはキチガイ軍団の中では結構まともな部類の人間だったはずじゃなかったのか!?
今までで一番駄目じゃないか!
「・・・・・・よし、終わった」
「じゃあ、早くアニメにしてよ」
「待て待て。このDVDを2階の机の引き出しの中に隠さなきゃ」
「何でいつも隠すの?」
「ばれると困るからだよ。
じゃあ、兄ちゃんは上に行くぞ」
永井の階段の登る音が聞こえた。
と、いう事はここにいるのは弟1人。
僕は秘密道具の1つパチンコ玉を取出し、フローリングの床に転がす。
「あれ?」
弟がそっちに気が向いた隙に素早く机の下から出て、玄関へ。
所要時間およそ1.3秒。
そして、音を立てないように扉を開け出て行った。
「おかしいな・・・・・・ん?何だろうこの紙。
・・・・・・『あんな大人になっちゃいけません』?どういうことだろ?
それにしてもまるで床で書いたみたいな汚い字だなー」
すいません続きます