出会いは突然に
人間と言うのは本当に面白い。
突然だが、僕こと永井涼はそう思わざるを得なかった。
高校生活1日目。
僕の目の前に現れたのはキチガイだった。
愛知県のとある私立高校。
この辺りに住む中学生の殆どがこの高校を滑り止めとして受験する。
僕も勿論、ここを受験して見事合格した。
だが、所詮は滑り止め。
僕はこんな所に行くだなんて夢にも思っていなかった。
自慢じゃないが、内申点は悪くなかった。
中学校で行われている定期テスト、実力テストの類も上位をキープしていた。
僕は自分の学力に見合うであろう県立高校を受験した。
だが、緊張の所為からか見事に滑ってしまったのだ。
合格発表の時、何度も何度も受験番号105番を探したが見つからなかった。
僕の両親はどちらも教師をしており、この結果にひどく落胆していた。
兄は有名県立高校を出て、勢いそのまま有名公立大学合格。
今は東京で働いているというのに・・・という文句は何度聞いたことだろうか。
こうして僕は滑り止めとして受けた私立高校に行くことになった。
午前8時10分。
学校には40分までに来れば良かったので少しばかり早すぎたかと思ったが、そんな事も無かった。
僕のクラスの生徒数35人中のおよそ20人が既に教室内に居た。
僕が教室に入っても誰一人として話しかけようとしない。
それは流石に高望みしすぎただろうか?
席に着いたらまず一番に教室全体を見渡した。
見知った顔は1人もいない。
まあ、当然と言えば当然だ。
一応、友人たちには僕が私立高校に行くことを報告したが、皆揃って一言目には僕に慰めの言葉をかけ、二言目には自分が県立高校に受かったことを自慢していた。
グルリと教室を見渡し、僕はふと一人の人物に目を留めた。
制服が男子の物だったので、自分と同性だということは分かった。
後姿しか見えないがそれだけで十分だった。
彼の背に貼りつけてあったのは今、小学生たちの間で人気のヒーローのシールだった。
そのシリーズは戦隊物として人気を集めており、小学3年生の弟も日曜日によく見ている。
確か・・・・・・何とかピンクのシールである。
何故彼は赤、青、黒、緑、ピンクの中のピンクをチョイスした?
しかもそのシールはかなり大きい。
彼の背中の大部分をシールで隠してしまうほどに・・・・・・。
これでようやく合点がいった。
何故クラスメイトの何人かはある一点を凝視したまま動かなかったり、苦笑していたりしたのかが。
そいつの隣に座っていた男子生徒が彼の頭を叩く。
「お前、何やってんの!?」
良い音がした。
彼は痛かったのか頭を摩りながら男子生徒に反論する。
「いや、こうした方が馬鹿っぽいだろ?」
これが僕の高校生活で初めて出来た友人でありキチガイでもある北川信吾との出会いだった。