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ケチなおっさん、転生して異世界を最弱教団で制覇しに行く。  作者: むちゃうまご飯


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12/44

ギルドマスターと昇格。

翌朝。

ノクス教団の礼拝堂には、柔らかな朝日が差し込んでいた。

以前の教団には、どこか寂しさがあった。

建物は古く、祭壇の光も弱い。

信者の数も少なく、外から見れば今にも消えてしまいそうな小さな教団だった。

しかし、神核の欠片を取り戻した今、その空気は明らかに変わっていた。

礼拝堂の中央にある祭壇からは、以前よりも強い神力が流れ出している。

壁に刻まれた古い紋様も淡く輝き、長い間眠っていた神殿が少しずつ本来の姿を取り戻していた。

教団員たちも変化を感じ取っている。

朝早くから鍛錬を行う者。

新しくなった祭壇を掃除する者。

これからの教団について話し合う者。

以前なら静まり返っていた場所に、今では人の声と活気が満ちていた。

俺は礼拝堂の隅で、自分自身の変化を確かめていた。

「……やっぱり違う。」

手を握る。

身体の奥を流れる力が、以前とは完全に違っていた。

魔力。

神力。

気。

三つの力が、それぞれ別々に存在しているのではなく、一つの流れのように身体を巡っている。

《神導拳魔師》

三つの職業を融合させた上位職。

魔法を使う魔術師。

神の力を扱う聖職者。

身体能力を極限まで高める武術家。

本来なら交わることのない三つの道を、一つにした存在。

それが今の俺だった。

この世界では、ほとんどの人間が一つの分野を極める。

魔術師なら魔力を。

剣士なら身体能力を。

聖職者なら神力を。

それぞれの才能に合わせて成長していくのが普通だ。

だからこそ、複数の力を扱える者は珍しい。

そして、それらを完全に融合させる上位職はさらに希少だった。

「今なら……。」

俺は拳へ力を込める。

以前苦戦したゴーレム。

あの時は仲間全員の力を合わせなければ勝てなかった。

だが、今なら違う。

魔力による遠距離攻撃。

神力による聖法。

気による身体強化。

状況に合わせて三つの力を使い分けられる。

「一人でも倒せる気がするな。」

そう呟いた時だった。

「アステル。」

後ろから声が聞こえた。

振り返ると、レオンが礼拝堂の入り口に立っていた。

いつものように腰には剣を下げ、真剣な表情をしている。

「ん?」

「ギルドへ行くぞ。」

突然の言葉に首を傾げる。

「何かあるのか?」

レオンは腕を組む。

「ゴーレム討伐と神代神殿の件だ。」

「あれは正式な依頼じゃなく、緊急対応だったからな。」

「報告しなきゃ報酬も貰えねぇ。」

そう言われて思い出す。

確かに、あの戦いは終わったが、冒険者としてはまだ完了していない。

ギルドへ報告し、討伐証明を提出して初めて依頼達成となる。

さらに、神代神殿で起きた出来事も報告する必要がある。

神代の遺跡。

神核の欠片。

神代騎士。

どれも普通なら一生関わることのないほど重大な情報だ。

「そうだったな。」

俺は頷いた。

すると、横から明るい声が聞こえる。

「気を付けて行ってきてね!」

ノクスだった。

以前とは違い、表情は明るく、まるで別人のようだった。

神核の欠片を取り戻したことで、本来の性格を取り戻した彼女は、教団全体の雰囲気まで変えていた。

「報告だけならそんなに時間かからないと思う。」

俺が言うと、ノクスは笑顔で頷く。

「うん!」

「でも、ちゃんと気を付けてね。」

「アステルは強くなったけど、無茶するところは変わってないから。」

「……否定できない。」

俺は苦笑する。

こうして俺とレオン、そしてフィーナ、アイリの四人はアクセル冒険者ギルドへ向かった。

街へ出ると、以前とは違う視線を感じた。

アクセルの街は小さな冒険者都市だ。

冒険者ギルドを中心に商店や宿屋が並び、多くの冒険者が生活している。

この街では、冒険者の評価は実績によって決まる。

どれだけ強い装備を持っているか。

どれだけ有名な仲間がいるか。

そんなものより、何を倒し、何を成し遂げたかが重要になる。

そして今、俺たちは少しずつ注目され始めていた。

アクセル冒険者ギルド。

朝から多くの冒険者で賑わっていた。

依頼掲示板の前で相談する者。

武器の手入れをする者。

酒場で情報交換をする者。

いつもと変わらない日常。

しかし、俺たちが中へ入った瞬間。

空気が少し変わった。

「……あれ。」

誰かが呟く。

「ノクス教団じゃないか?」

その名前を聞いた瞬間、周囲の視線が集まる。

「あの最弱教団?」

「まだ残ってたのか。」

以前なら、その言葉には馬鹿にするような響きがあった。

ノクス教団は長い間、弱小教団として知られていた。

神の力は弱い。

信者は少ない。

所属冒険者も少ない。

大きな功績もない。

だから多くの冒険者からは、存在すら忘れられかけていた。

しかし。

「でも、聞いたぞ。」

「あの新人がゴーレムを倒したって。」

「ゴーレムって、あの森の?」

「ああ。普通ならCランク以上が討伐する魔物だ。」

ざわめきが広がる。

以前とは違う。

そこにあるのは嘲笑ではなく、驚きと興味だった。

俺たちは受付へ向かう。

すると受付嬢が俺の姿を確認した瞬間、慌てて立ち上がった。

「あ、アステル様!」

「え?」

普段なら名前を呼ばれることなどほとんどない。

少し驚いていると、受付嬢は緊張した様子で続けた。

「少々お待ちください。」

「ギルドマスターがお呼びです。」

「ギルドマスター?」

聞き返すと、受付嬢は頷く。

「はい。」

「この街の冒険者ギルドを統括する最高責任者です。」

「普段はSランク以上の特別案件でもない限り、冒険者個人を呼び出すことはありません。」

その説明を聞いて、俺は思わずレオンを見る。

「……俺、何かやらかしたか?」

するとレオンは小さく笑った。

「逆だろ。」

「ゴーレムを倒して、さらに神代遺跡まで発見したんだ。」

「呼ばれない方がおかしい。」

確かにそうかもしれない。

だが、ギルドマスターという存在に呼ばれると言われると、どうしても緊張する。

冒険者ギルドにおいて、ギルドマスターはただの管理者ではない。

長年の経験を持ち、数多くの冒険者を見てきた人物。

つまり、冒険者たちを評価する側の存在だ。

受付嬢に案内され、俺たちは二階へ向かう。

階段を上るにつれて、周囲の喧騒が遠ざかっていく。

一階とは違い、二階は静かだった。

重要な依頼の管理。

高ランク冒険者との面談。

街の危機に関わる情報。

そういったものを扱う場所なのだろう。

そして、一番奥。

重厚な樫の扉には、剣と盾を組み合わせた冒険者ギルドの紋章が深く刻まれていた。

長い年月を経ても傷一つなく残っているその紋章は、この場所がただの事務所ではなく、数多くの冒険者たちの人生を見届けてきた場所であることを物語っていた。

「ギルドマスター、お連れしました。」

受付嬢が扉の前で声を掛ける。

数秒の沈黙。

そして。

「入れ。」

低く響く声が返ってきた。

その声には、不思議な重みがあった。

怒気があるわけではない。

しかし、長年戦場を経験してきた者だけが持つ、相手の本質を見抜くような圧力が込められていた。

受付嬢が扉を開く。

俺たちは一礼して部屋へ入った。

ギルドマスターの部屋は、想像していたよりも質素だった。

豪華な装飾品が並んでいるわけではない。

壁には歴代の冒険者たちが残した記録。

棚には大量の依頼書や魔物の資料。

机の上には山のような書類。

ここが、アクセルという街に存在する数多くの冒険者たちを管理している場所なのだと分かる。

執務机の向こうには、一人の壮年の男が座っていた。

白髪交じりの黒髪。

左目には大きな古傷。

鍛え抜かれた身体は、服の上からでも分かるほどだった。

冒険者を引退した老人というより、今でも戦える現役の戦士。

そんな印象を受ける。

しかし、何より目を引いたのはその瞳だった。

鋭い。

ただ見ているだけなのに、こちらの力量を測られているような感覚になる。

「初めましてだな。」

男はゆっくり立ち上がった。

「私はアクセル冒険者ギルドのギルドマスター、ヴァルドだ。」

「アステルです。」

俺も名乗る。

ヴァルドは小さく頷いた。

「名前は聞いている。」

「最近、ノクス教団へ所属した新人冒険者。」

「そして……ゴーレムを単独討伐した者。」

その言葉に、部屋の空気が少し変わる。

ギルドマスターだけではない。

周囲にいた幹部たちも俺へ視線を向けていた。

冒険者ギルドにおいて、ゴーレム討伐という功績は簡単なものではない。

ゴーレムはただ巨大で力が強いだけの魔物ではない。

通常の生物とは違い、痛みによる怯みが存在せず、疲労もしない。

さらに硬い鉱石の身体を持つため、普通の武器や魔法では有効な攻撃を与えることすら難しい。

そのため、討伐には複数の冒険者による連携が必要になる。

少なくとも低ランク冒険者が挑む相手ではない。

だからこそ、俺が倒したという報告は異常なものとして扱われていた。

「まず確認したい。」

ヴァルドは机の上に手を置く。

「今回討伐したゴーレム。」

「そして、その後に発見された神代神殿。」

「そこで現れた神代騎士。」

「本当に……ノクス教団だけで攻略したのか?」

静かな問いだった。

疑っているというより、事実確認。

長年ギルドを管理してきた者として、簡単には信じられない話なのだろう。

「はい。」

俺は頷いた。

「俺たちで戦いました。」

そして、俺は起きた出来事を説明した。

森でのゴーレムとの戦闘。

ノクス教団の仲間たちとの連携。

地下へ続く神代遺跡。

そして、そこで待ち受けていた守護者との戦い。

ただし、全てを話したわけではない。

神核の欠片。

創世神アルテミア。

ノクスが失った神の力。

そして、俺が手に入れた神代教本。

それらは簡単に話していいものではない。

世界の根幹に関わる秘密。

少なくとも、今の段階で広めるべきではないと判断した。

「神代騎士からは、強力な古代の武具を入手しました。」

そう説明する。

教本については伏せた。

ヴァルドは黙って俺の話を聞いていた。

部屋の中には、俺の声だけが響いている。

話し終えるまで、誰も口を挟まなかった。

そして。

「……信じられん。」

ヴァルドは深く息を吐いた。

「だが、嘘をついている目ではないな。」

隣にいた幹部たちも顔を見合わせる。

「レベル三十程度でゴーレムを討伐。」

「さらに神代遺跡を発見し、守護者を突破……。」

「あり得ない。」

幹部の一人が呟く。

「通常なら、Dランク冒険者として評価するところです。」

「しかし……。」

言葉が続かない。

それほど今回の功績は異常だった。

冒険者ランクは単純な強さだけで決まるものではない。

依頼達成率。

危険度への対応力。

信頼性。

そして、過去の実績。

それらを総合して判断される。

だからこそ、本来なら新人が短期間で高ランクへ上がることはほとんどない。

経験不足による判断ミス。

未知の魔物への対応。

高難度依頼での危険。

ランクが上がるほど、冒険者には責任も求められる。

しかし。

今回の俺の功績は、それらの常識を飛び越えていた。

ヴァルドは一枚の書類を机へ置いた。

「通常なら、お前はDランク止まりだ。」

「新人としては十分な評価だ。」

「だが……。」

彼は書類へ視線を落とす。

「今回の功績は規格外だ。」

「ギルド幹部全員による協議の結果。」

「アステル。」

一拍置く。

「お前を本日付で――」

「Bランク冒険者へ特別昇格とする。」

「……え?」

思わず声が漏れた。

Bランク。

その言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。

俺はつい最近までFランクだった。

そこから考えれば、異例という言葉では足りない。

FからB。

四段階もの昇格。

「ギルドマスター!」

突然、幹部の一人が立ち上がる。

「前例がありません!」

「新人冒険者をここまで飛び級させるなど……。」

ヴァルドは静かに彼を見る。

「分かっている。」

「だが、今回の功績もまた前例がない。」

「ゴーレム討伐だけなら、まだ判断は変わった。」

「しかし神代神殿だ。」

「この街で、あの場所へ到達した冒険者は今まで存在しない。」

「それを成し遂げた者を、通常の基準で評価する方が間違っている。」

部屋が静まり返る。

「もちろん、Bランクになれば危険も増える。」

「求められる責任も大きくなる。」

ヴァルドは俺を見る。

「それでも、お前なら問題ないと判断した。」

受付嬢が新しいギルドカードを持ってくる。

以前の銀色のカードとは違う。

深い蒼色。

中央には大きく刻まれた『B』の文字。

「おめでとうございます。」

俺はカードを受け取る。

その瞬間。

一階から大きなどよめきが聞こえた。

「Bランク!?」

「新人が!?」

「嘘だろ!」

「一ヶ月も経ってないはずだぞ!」

冒険者たちの声が響く。

俺たちが階段を降りると、多くの視線が集まった。

以前なら、そこにあったのは馬鹿にするような視線だった。

しかし今は違う。

驚き。

尊敬。

興味。

様々な感情が混ざっている。

すると、一人の若い冒険者が前へ出てきた。

「なぁ。」

「一つ聞いていいか?」

「お前、本当にノクス教団なのか?」

「ああ。」

俺が答えると、その冒険者は少し迷った後、口を開いた。

「俺……今、無所属なんだ。」

「もし良ければ……入れてくれないか?」

「え?」

突然の言葉に驚く。

すると、別の冒険者も続いた。

「俺もだ。」

「最近は大きな教団ばかり優遇される。」

「でも、お前たちは違うみたいだ。」

「弱いから切り捨てるんじゃなくて、一緒に強くなっている。」

さらに別の声が上がる。

「俺も入りたい。」

「私も。」

「ノクス教団って、まだ募集しているのか?」

気付けば、俺の前には十人以上の冒険者が集まっていた。

少し前まで。

ノクス教団は誰からも注目されなかった。

信者は少ない。

実績もない。

弱小教団。

最弱教団。

そう呼ばれていた。

しかし今。

その教団へ、自分から入りたいと言う者たちが現れている。

変わったのは力だけではない。

神核の欠片を取り戻したことで、ノクス教団の存在そのものが変わり始めていた。

俺は集まった冒険者たちを見ながら、小さく笑う。

「……ノクス、喜ぶだろうな。」

最弱と呼ばれた教団の復活は、まだ始まったばかりだった。


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