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この電脳都市に錆びついたキスを  作者: 愛上おかき


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Ch.1-4-1 死亡通知(2/2)

  ◇2327年9月20日(日)13:29


 CSFもただのバカじゃない。戦闘用ドローンが幾台も舞台に上がり、デイヴィスを少しずつ追い詰め始める。

 高速機動かつ上空から襲いかかる立体的な射線。デイヴィスも数に押され、何発かがスーツを掠めた。


 それでもデイヴィスは止まらない。無駄の一切ない重心移動、視線の配り方。銃弾を届ける優先順位。俺がこの一年間、叩き込まれてきた技術の完成形がそこにはあった。


『当たったァ!』


 降りしきる銃声の中で一際腹に響く音がつんざく。同時に歓声。包囲網の奥、廃墟屋上から、スナイパーライフルを構えた敵と、微かに立ち上る硝煙が見えた。


 デイヴィスは左の上腕部分が抉れ、薄い肌が見えている。思わず名前を叫んだが、当人は負った傷を意に返さぬようにダンスを再開した。数十人と数十台をさばきながら首を振って、次の犠牲者を探している。


「バカ野郎が」


 俺は再び狙撃を企む男を見た。距離百メートル。遠い。懐から銃を取り出す。”喷发(Pēnfā)”。確か中国語で噴火。名に恥じぬなら、ここからでも届く。


 右手で構える。雨風が強い。弱まったら狙撃手もまた撃つだろう。だからそれも織り込んで先に撃つ。

 デイヴィスの教えを反芻。「トリガーは引くな、絞れ」。再び世界がスローモーションになった。


 乾いた音が湿った空気を伝い、耳朶を叩く。射撃の衝撃で右肩の傷が開き、血が落ちた。

 俺が放った銃弾は外れた。スナイパーの手前の壁。ただ驚いた顔でスコープから目を外しこちらを見た直後に、頭が爆ぜた。


 デイヴィスを見る。デイヴィスも俺を見上げていた。苦虫を潰したような顔。手出し無用とは言ってないだろ。同時にCSFの顔がこちらを向いた。もうこうなったら俺もセッションするしかないよな?


 俺は立ち上がり、屋上の縁を走り、時には身を隠し、援護射撃を加える。撃つたびに右肩に甘い痛みと流れ出る血の勢いが強くなる。今はそれさえも興奮材料。

 俺の弾丸はほとんど当たってない。身体強化インプラントか、スマートレンズによる弾道予測か。いずれにせよ避けられている。


 ただ俺の弾丸が敵の意識を逸らすことで、デイヴィスがその隙をつき、命を刈り取っている。即興の連携。言葉なんていらない。俺たちは今、完璧に繋がっている。


 ——完全に調和していたハーモニーは唐突に乱された。


  ◇2327年9月20日(日)13:33


 重低音が雨を割る。CSFからの攻勢がなくなり、デイヴィスも俺も警戒でその手を止めた。モーゼの海割り——耳にしたことがあり、見たことはない奇跡がCSFによって再現され、一人の男が姿を現す。俺はそれを屋上から見つめた。


 ドクン、と心臓が高鳴り、口に鉄が広がる。目の前が炎の紅に染まり、あの夜を思い出す。

 転がる死体とドローンの残骸が燃える中、そいつはいた。

 

 人より頭一つでかい巨躯。二メートルは超えてる。四肢は黒光りする装甲に覆われ、明らかに普通ではない。

 いや、事実人を超えているのだろう。全身インプラントなんて、歩く戦争だ。

 兵器の右手に握られた刀は、車を両断できそうなほど巨大で、何より——紅い瞳。

 俺は、こいつを知っている。


「久しぶりだな、ジジイ」

 聞いたことのある声。その瞳に反して涼やかで、この世全てを壊すことしか興味がなさそうな無関心さ。


「ああ、そろそろだと思ったぞ⋯⋯ゴライアス。随分男前になったじゃあないか」


 ゴライアスの右手がぶれ、男の前後のアスファルトが砕ける。

 俺が放った弾丸は、血を代償に奴の刀に切り裂かれた。こちらを見もせずに。


 ようやく男が俺を見上げる。


 どこまでも紅い瞳。一体幾人の血を吸えば、ここまでの色が出せるのだろう。男は俺の顔を見、右肩を見、左手の義手を見て、笑った。

 七回鈍い金属音と破砕音が響き渡る。スライドストップした拳銃は諦めの熱を雨に慰めてもらっている。


「俺を覚えているか」


 屋上から飛び降りる。三階の高さ。デイヴィスと対峙する男の背後に着地。強化した足でもしびれが頭の天辺まで響いた。構わない。


「俺を、この腕を覚えているか」


 歩みを進める。 

 男は振り向かない。ただ笑っていることだけは分かった。

 歩みを進める。

 心が燃え、熱が左手から青い稲妻となって放射された。


 歩みを——止める。デイヴィスが左手を上げて止まれのサイン。気付けば俺は男の射程範囲ギリギリにいた。

 器用に銃を持ったまま懐からタバコを取り出し、ライターで火を付ける。殺し合いの最中、そこだけが安全地帯かのように。


 紫煙がデイヴィスの左目の眼帯を洗った。常につけている拘束具。

 無造作にそれが解かれる。ブチリと引きちぎられた眼帯は音を立てずに地面へと落ちた。


 青い瞳。どこまでも青い、俺の左腕のスパークを結晶化させた青。


 青い隻眼と紅の両目がぶつかった。色は交わることはなく、ただお互いの存在を叫んでいる。デイヴィスがくわえタバコのまま笑った。


「⋯⋯やろうか。息子よ」

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