Ch.1-4-1 死亡通知(1/2)
◇2327年9月20日(日)13:22
『警告。こちらはCSF、特別鎮圧班である。建物内の居住者に告ぐ』
拡声器のハウリング混じりの声が、雨音を切り裂いて響く。
「そっちから始めといて告ぐも何もないだろバカが」
デイヴィスに全面同意。言動がチグハグだ。逆に一声かけたのが奴らにとって最大の配慮なのかもしれない。
『デイヴィス・ナッシュ。貴様は都市転覆および殺人等複数の容疑で捕縛状が出ている。直ちに武装を解除し、両手を上げて投降せよ。繰り返す――』
「捕縛ときたか。俺も舐められたもんだな」
デイヴィスは鼻で笑うと、シケモクを床に吐き捨て、靴底で踏み消した。新たな汚れが床に加わる。ちゃんと灰皿に捨てろよ。掃除するの俺だぞ。
嫌がらせの後、デイヴィスは定位置のデスクの下にある赤い物理スイッチ、”非常用”と崩れた文字で手書きされたテープが貼られたそれに手をかけた。
「ジーク。耳を塞いで口を開けておけ。鼓膜が飛ぶぞ」
言うが速いかデイヴィスがスイッチを押し込む。俺は咄嗟に言われたポーズを取り、デスクの裏に身を投げ出す。
瞬間、店の壁が内側から弾け飛んだ。
轟音。振動。部屋そのものが爆発したかのような衝撃。壁が軋み、整然と並んでいたインプラントや装置が、棚ごとバラバラと崩れ落ちた。
内臓が揺さぶられる感覚。口の中に苦いホコリが入ってくる。顔を上げると強化ガラスはバラバラに粉砕され、部屋中を輝かせる装飾になっている。ふきざらしの部屋に、雨が入ってきた。
デイヴィスは落ち着いた様子で壁にしたデスクの陰から立ち上がり、タバコに火をつけた。外は土埃と雨のカーテン越しにパトライトの赤と青がかろうじて見えるくらい。部屋の惨状に目を見開く俺を見下ろし、デイヴィスはニヤッと笑った。
「お前には言ってなかったか。”SC(指向性爆薬)”だ。店がお釈迦になるのが欠点だが⋯⋯昼の爆薬の香りは格別だ」
あ、頭おかしいんじゃないかこいつ。
外から怒号が聞こえてくる。流石に悲鳴の数は少ない。おそらく前線の何人かが巻き込まれたのだろう。頼んでもいないのに店の外観に汚いペンキをぶちまけてくれてる。
未だ粉塵と煙が充満する部屋でデイヴィスが諭すように言った。
「CSF相手だと今のお前は足手まといだ。裏口から出て地下室にいけ」
歯軋り。頭では分かってる。左足、左手、右肩。そこらのジャンキーどもであれば問題ないが、相手は戦闘のプロフェッショナルだ。ここでゴネるほどバカじゃない。俺は手をきつく握った。
「死ぬなよ」
俺はちらりとデイヴィスの左足を見た。それに気付いた男はお決まりの鼻をならす返事。
”Amor”と”Mori”を両手に構え、歩みを進めたデイヴィスは振り返ることなく言った。
「誰に言ってやがる?」
きっとその顔は笑ってる。俺は拳銃をとり、裏口へ走った。口の中はまだ苦い。
◇2327年9月20日(日)13:25
裏口から出て地下室へ向かう——わけがない。俺は射程距離ギリギリのほんの少し離れた廃墟の屋上へ登っていく。状況に即した判断は得意だ。またの名は命令違反。ここならいざという時でも逃げられるし。
見晴らしのいい屋上についた俺は腹ばいになり、土砂降りになってきた雨に打たれながら戦場を見下ろした。地面からぬるくカビの匂いが上がってくる。
店は半壊。正面の壁が吹き飛び、内部が剥き出しになっている。壊れた当たり前に心臓が少しだけ音を立てた。
雨がかき消せない煙が立ち込める中、一人の男が店から出てくる。瓦礫の上に立つ姿は王のそれ。遠目からでも分かる仕立ての良いグレースーツに、両手に幾条もの光線が走るSMGを引っ提げている。
それを取り囲むCSFの包囲網。見る限り装備は最新鋭か、俺が見たこともないようなモノ。きっと対OGRE武装だ。半円で王を取り囲む姿は、銃口が王に向いていなければ近衛兵のようにも見えただろう。ただ今は反逆者となっている。
圧倒的数的不利。一対三十。飛行車の中や奥の見えないところにも、まだ予備兵がいるはず。一人に対してあまりに過剰な戦力。
その中でデイヴィスはあくまで自然体だった。
近衛兵のリーダーらしき者が一歩踏み出て言う。
『デイヴィス・ナッシュだな。武装解除し、両手を上げて跪け』
デイヴィスは答えず、タバコを一口吸って吸い殻を吐き捨てる。煙とともに吐き出した言葉が開始の合図だった。
「Say ”Hello” to my little friends」
言葉が聞こえた直後から、雨粒の一つ一つがゆっくりに見えた。スローモーション。きっとデイヴィスと同じ世界。
愛と死が煌めく。俺はその美しい光景にここが死地であることを忘れ、見惚れた。
右手の愛。銃身に青い光条を浮かべながら、天使がキスをばらまく。選ばれた男たちは、一切の抵抗を見せずに天上へと導かれた。
左手の死。血よりも紅い死線を浮かべる銃身が届けるのは、永遠の安らぎ。身に余るプレゼントをもらった連中は、その銃身の紅に火をくべる薪となり、崩れ落ちた。
『殺すな! 四肢を狙って無力化しろ!』
無意味な命令が男たちに下される。横殴りの雨は一方通行。CSFが構え、狙いを定めるより、先にデイヴィスがそいつの頭を撃ち抜くほうが早い。
右手と左手が独立して動いている。秒間十五発がバラまかれる愛と死は、二秒で全弾を打ち尽くした。
過半数が物言わぬ骸と化し、それ以外はかろうじて遮蔽の陰で、命の火を繋いでいる。
ただ、それは吹けば消える、か細い火。前線は崩れた。死体はいずれも頭が吹き飛んでるか、胴体に穴が空いている。
この街のトップ集団の防弾規格でも二丁の前にはレベルが足りない。
それでも後続からワラワラと援軍が湧き出る。最初と同じくらいの数。流石に一方的な射撃とはいかず、デイヴィスは煙幕に紛れ、瓦礫の影に身を潜めた。色気のない暴力が降り注ぐ中、素早くリロードを完了させる。
再び光る愛と死。
『もらったッ!』
リロードの隙を見て接近してきた三人の兵士がバイブロ=ナイフを抜き、同時に飛びかかる。コンクリートもマーガリンのようにスライスする振動刃。死角からの同時攻撃。逃げ場はない。
だが、デイヴィスは変わらない。目覚めの一服前と同じ仏頂面。次の瞬間、彼は両手から銃を手放した。宙を舞う二丁。
右側。逆手で突き出されたナイフを持つ手首を捻り、持ち主の首を皮一枚残して切り裂く。そのまま力が抜けた死体を上と左から迫ってきたナイフの盾とし、その刃をデイヴィスまで届かせない。それでも止まらない男たちを盾ごと体当たりで吹き飛ばし、落ちてきた愛と死を両手で受け止めた。
『待』
薬莢が二つ落ちる音。距離的にも聞こえるはずはないのに、確かに聞こえた。
『これがデイヴィス・ナッシュ——”死亡通知(Death Notice)”』
思わずCSFの一人がこぼし、後ずさる。それを聞いたデイヴィスが笑った——絶対強者の笑み。
「今朝のGMTCは見たか? お前ら全員、お悔やみ欄に載ってたぞ」
独壇場。雨に血とオイルと悲鳴が混ざる。築かれていくのは死体の山。もはや誰も彼に近づけない。近づこうとすらせず、遠巻きに銃弾の濁流に飲まれる。
俺は初めてと言ってもいいデイヴィスの本気を見て、興奮で体が震えた。
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