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この電脳都市に錆びついたキスを  作者: 愛上おかき


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22/26

Ch.1-3-9 総合して三点(1/2)

  ◇2327年9月20日(日)09:00


 その部屋の空気は、スラムのどこよりも澄んでいて、どこよりも淀んでる。ミヤケファミリーのオフィス、廊下の最奥。蹴飛ばしたらすぐに壊れそうな横滑りの戸を開けると、オリエンタルな光景と匂いが広がる。


 珍しい植物の香りが鼻に刺さる。目の前には高価そうな調度品。床は草編みのタイル。そしてどんなに取り繕っても隠しきれない鉄錆と血と暴力の残り香。

 ミヤケファミリーのトップは数日前と同じように部屋の真ん中に陣取ったローテーブルの奥側に座っていた。


「よう生きて帰ったのう。正直、喉に金玉突っ込まれて息詰まらせた思っちょったわ」


 いわゆる上座に鎮座するケン・ミヤケが、湯呑みを置く音が響く。 和服を着た好々爺然とした風貌。細い目は表情を読ませない。

 その背後には、東洋の景色がモノクロで断続的に変わっていくデジタルフレーム。その下にはカタナが恭しく置かれている。


 隣にはヒロコ。こちらも表情は柔らかく見えるが、マスクの下はどうなっているかは分からない。

 流石に一人で対峙するとプレッシャーがえげつない。後ろの黒服どもも含めて。


「運が良かっただけです」

 俺は短く答える。足は正座からあぐらへ。若干後ろからの視線がきつくなった気がする。まあいい。


「タナカは無事に引き渡しました」

 胸を張って答える。かすり傷は怪我に含めない。

 それを見たヒロコの口角が上がった。


「うん。確認した。コストラーデとクレイジードッグズ相手に、五体満足で⋯⋯いや、左腕は義手じゃったか。まあとにかく、一人でやり遂げたんは大したもんじゃ」


 ヒロコが袖で口元を隠し、鈴を転がすような声で言う。薄く開いたその瞳の奥の瞳孔は、獲物を値踏みする爬虫類の光を宿している。

 思わず背筋が伸びたが、俺の仕草を意に解することなく、彼女が空中に指を走らせる。俺の網膜ディスプレイに鮮やかなウィンドウがポップアップされた。


 Payment Received:50,000 Credit

 目を丸くする。契約時の倍額だ。故障か?


「色をつけちょったわ。タナカからも、えらく感謝されとったけえの。『この街は獣耳がいっぱいいるんだ!』ちゅうてな。⋯⋯あいつの性癖はさておいても、ワシらの耳目が一つ残ったちゅうんは、めでたいでな」


 ケンがタナカの真似をしながら笑う。正直似てないが愛想笑いを返した。

 俺は気になっていたことを聞いた。


「タナカは結局いまどこに?」


 ヒロコがキセルに火を点ける。


「ボン。終わったことに首突っ込むのは素人やで」


 一気に変わった空気が粘度を持ち、喉に空気が張り付いた。冷や汗が首筋を流れる。余計なことを聞いてしまったようだ。心拍数がニューロ・スラッシュのBPMにあがる。


 凍った空間を溶かしたのは庭から響いたカポン、という乾いた音。

 ヒロコが最初の貼り付けたような笑顔で言った。


「ま、ええわ。今日は何かうまいもんでも食って養生しや」

「おう。そうせいそうせい。あの偏屈ジジイにも、戻ったら顔見せに来い言うとけ。あいつ、最近死相が出とるでな」

「⋯⋯伝えておきます。ありがとうございました」


 半解凍の空間の中、俺は一礼し、踵を返す。死相。嫌な響きだ。

 背中に突き刺さる二人の視線を感じながら、黒服が開けてくれたスライドを抜け、廊下に出る。そのまま音一つなく静かに閉まった。

 廊下に出た瞬間、ぬるい空気が解凍を進め、俺は首からだけではなく、全身から冷や汗が吹き出たのを感じた。


 ——生き残った。なんでもない面会なのに、変な感想が胸に浮かぶ。

 スラムの支配者との謁見を終え、俺はHUDに映った重み、データ上の数字を確かめるように拳を握りしめた。


  ◇2327年9月20日(日)09:07


 ジークの気配が完全に消えたことを確認すると、部屋に控えていた黒服たちが続々と退出していく。部屋が二人だけになると、質量を持った空気が煙に溶け、けだるい弛緩へと変わった。


「シュウ、出てきんさい」

 声に応じるように、部屋の天井の板が一枚外れ、黒服の男が一人音もなくケンとヒロコの前に着地した。

 片膝をついて頭を垂れる姿は隙一つない。顔の下半分をいくつもの管が伸びるマスクで覆い、その目は猛禽類のそれ。見た目もさることながら、なんでもない一挙手一投足が男が”何者か”であることを証明している。


 少数精鋭のミヤケファミリーの中で唯一ケンとヒロコの直属の部下。

 諜報活動に特化したニンジャだ。


「あのボン、どう見た?」

 ヒロコが羊羹を切り分けながら問う。最高級ブランド、タツヤ。

 シュウはマスクを付けていることを微塵も感じさせない澄んだ声で告げた。


「三点」

「十点満点中か? 相変わらず辛口じゃのう」

 ケンが面白そうに鼻を鳴らす。


 シュウはスーツの内ポケットから小型のチップを取り出し、ホログラム投影装置にさした。宙に立体映像が投影される。映し出されたのは、タナカに会ってからスラムに帰還するまでの全て。最初のドンパチから、バイクチェイス、クロームダイナーでの爆食、そして建設現場での大立ち回り。


 下手な映画より臨場感に溢れたその映像は、どれもジークとタナカが常に画面中央に映り、至近距離で撮られている。唯一バイクシーンだけは主役が遠くに離れていた。


「反応速度、身体制御、根性は及第点です。七点あげてもいいでしょう」

 淡々とした賞賛。


「ですが戦略、戦術、プロフェッショナリズムはゴミです」

 これを見てくださいと、別のホログラムが浮かぶ。ジークが待ち合わせ場所のホテル・ミラージュに入るところや、タナカを引き連れて移動している場面。


「赤外線探知に対する警戒が皆無。カメレオンウェアも着ていないため、熱源丸出しどころか目視で見つけられます。『私はここです、撃ってください』と言っているようなものだ。出たとこ勝負の運で乗り越えただけでプロの仕事じゃない」


 ロボットと見間違うほど冷徹なシュウに対して、ケンとヒロコは楽しげだ。煙管の灰を落とし、茶をすすりながら言った。


「となると平均点は五点にならんか?」

「まだあります。あいつは自分の命をなんとも思ってない。よくいるジャンキーではなく、理性を持って自分の命をベットしています。中間層出身とは思えません」

 シュウが続ける。


「破滅願望と言ってもいいでしょう。捨て駒ならともかく、護衛などの行って帰ることが必須な任務には向いていません」

 それに、とシュウが言い淀む。

 ケンに顎で促され、少し苛立ちの色を滲ませながら言葉を紡いだ。


「これは個人的な減点対象なのですが、あいつが逃走に使ったバイク、私の私物でして」

 シュウが初めて見せる個人的な感情にケンとヒロコは驚きよりも楽しさが勝ったのかさらに口角を釣り上げた。


「まさかハッキングされるとは思わず⋯⋯しかもあいつ、私のプレイリストを勝手に消しやがったんです」

 緊急時にジークがハックして乗り捨てたバイク。それはシュウの愛車であり、手塩にかけてカスタムしたものだった。

 シュウの冷静な瞳が一瞬だけ血走る。


「奴の音楽センスは壊滅的に悪い。ゼロ点。総合して三点です」

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