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この電脳都市に錆びついたキスを  作者: 愛上おかき


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Ch.1-3-7 アリーヴェデルチ(2/2)

  ◇2327年9月19日(土)12:10:06


 コツコツと一人の男が前に出てきた。後ろに控える他の奴らより偉そう。全身白スーツに金色の薔薇のラペルピンをさしている。ため息をつきながら男が言った。


「よくもまあ大立ち回りをしてくれましたねぇ。おかげでタナカは逃がすわ、ソルジャーも大勢死ぬわ散々ですよぉ」

 喋り方がネチョついてる男が続ける。


「このまま手ぶらで帰るわけにはいきませんからねぇ。あなたには憂さ晴らしをさせてもらいますよぉ」


 悪寒。下も見ず、タナカを投げた窓から飛び降りる。

 数本の髪の毛が銃弾で焼かれたが、何とか地上へ着地。後ろからも撃たれるが、何とか再びビル内部へと逃げ込む。


「足を撃って捕まえなさい! 殺すんじゃありませんよぉ。生かして地獄をみせるのです!」


 再び始まる鬼ごっこ。今度はお荷物はいない。上等だ。

 先走ってきたクレイジードッグズの頭を吹き飛ばす。その後ろから湧き出るゴロツキども。俺はもう三発くれてやって、柱に身を隠した。

 突如左腿に走る灼熱。見ると太腿横のちょうど真ん中に穴が空き、黒い血がズボンに滴り落ち始めてる。


「ばあぁああか! ヴィト様! 俺が、このアルドがやりま」


 弾丸をご馳走し黙らす。アルドは死んだ。

 懐からダクトテープを取り出し、ズボンの上から傷口を巻く。

 左足に体重をかける。くそ、痛みでふらつく。


 この足で耐えられるか⋯⋯? 弾丸ももうない。

 いや、耐えるんだ——奴らが来るまで。


  ◇2327年9月19日(土)12:12:12


「しぶとかったですねぇ。ネズミにしては素晴らしい逃げ足でした」


 嫌らしい喋り方の男が俺を見下す。

 俺はやつの言葉通り、袋小路に追い詰められていた。現場の奥の隅。俺を取り囲むように十人以上の男たち。逃げ場はない。

 俺は銃を構えて男に突きつけた。男が嘲笑う。


「弾切れでしょう? この状況でもこけおどしができるとは大したものです」


 ヴィトと呼ばれた男が、取り巻きから金色に輝く拳銃を渡され、うっとりとした表情を浮かべる。趣味が悪い。


「ローマの太陽の如き輝き。この銃を見るたびに美女を前にするような昂りを覚えますねぇ。それも私と一体化するスマートリンク」

 そして俺の頭に狙いを定め——左足に再びの灼熱。


「ッ!!」


 声は出さない。男にヨガらされる趣味はない。ホモ野郎が。

 俺は唇を噛み締めながら男を睨み返した。


 お前も俺を奪うのか? そんなことが許されると思っているのか? ふざけるな!

 俺の目つきが気に入らなかったのか、男が眉をひそめながら笑った。


「声一つ上げないですか⋯⋯あなたは少し危険ですねぇ。芽は早い内に摘んでおきましょう」

 照準が俺の頭をポイントする。男の背後に影が見えた——紅い目の男。


「さようなら」

 俺は無意識に弾道線上に左腕を伸ばした。


  ◇2327年9月19日(土)12:13:01


 弾丸が左腕に触れた瞬間、音と時間が途絶えた。

 衝突音はなく、周囲の敵は誰一人動かない。

 空間だけが凍りつく。


 ただ視界の中で、弾道が金色のファイバーになり、俺の左腕とヴィトの拳銃を結んでいた。

 ファイバーは銃からヴィトへと延び、俺は奴とも一つになる。


 瞬間、流れ出る/流れ込む、俺/ヴィトの全て。

 VRのように奴の今までを追体験する。美しいアドリア海。ハーブの香り。波の音。小麦色の肌の“誰か”の笑い声。転落。”ドン・シモーネ”との血の誓い。泥。銃。仕送りの数字。


 ——違う。これは俺じゃない。

 なぜかはわからないが、奴の記憶が俺に流れ込んでいる。多分、奴もそう。

 ただ俺は俺だ。ジークだ。一度死に、紅い目の男を殺すことを誓った男だ。だから生きねば。例えどんな辛い目にあおうとも。


 俺は左腕を振り、金色のリンクを断ち切る。

 ファイバーが途絶えると、その切断面から青いスパークが奔流し、世界に音と時間を戻した。


 ——俺は、この無限のCCIは何なんだ。


  ◇2327年9月19日(土)12:13:02


 青い稲妻に思わず瞑っていた目を開けると、俺以外の全てが倒れていた。ヴィトと呼ばれた男も、それ以外の白スーツ、クレイジードッグズのゴロツキも全員。

 俺のような接続型のインプラントをつけている奴らのそれからは、白煙や火花が散り、スクラップになってしまったようだ。


 何とか右足に体重をかけて立ち上がる。目の前に転がる奴らは身じろぎ一つしない。レンズで確認すると死んではいなかった。

 さっき起こった現象のせい、だよな。


 思考の沼にハマりそうになった俺を現実に引き戻したのは、この街で最も強く、残忍で、信頼されている不快なサイレンの音だった。


『CSF第三部隊だ。契約番号”9906947XB71”、契約者名”タナカ・スズキ”の要請で出動した。契約者は両手を上げて出てこい。保護する』


 甲高い不協和音を響かせながら、大通りからCSFの軍用飛行車が近づいてくる。パトライトの赤と青の光が薄暗い工事現場を彩った。

 今更になって来やがって。タナカが連絡したのは五分以上前だぞ。

 

 俺以外に動いている人間はいない。CSFがここに来たとしても、倒れているスラムの住人を放置しては来れないだろう。ただ早くずらかったほうが良い。


 テープで足を縛り直し、上着の中の最後のアドレナリンシールを首筋に貼る。

 これでスラムの入り口までは行ける。通報されなければ、だ。


 ヴィトをまたいで袋小路を出る。ふと奴の言葉が頭に浮かんだ。

 振り返って言った。


「アリーヴェデルチ」

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