Ch.1-3-7 アリーヴェデルチ(1/2)
◇2327年9月19日(土)12:07:12
「走れ! 止まるな!」
怒鳴った瞬間、タナカの足元のコンクリが弾けた。
奴もさすがに悟ったらしい。悲鳴を上げながら、それでも百メートル先の目的地へ全力で駆け出す。
建設中のオフィスビル。その地上から三階までを迷路のように入り組んだ鉄骨と、半透明の養生シートが視界を遮る。それは今の俺にも敵にも好都合だ。
ここには俺の目になるようなものがない。
予測線も、死線も、出ない。
俺の目だけがレーダーだ。できるだけ遮蔽物の陰を縫って進まないと——。
二階から降りてきた白スーツのマシンガン ”ブラック・マンバ”が、後方から養生シートを突き破って、剥き出しの鉄骨に甲高い金属音を響かせた。
スマートレンズ上に俺の銃の射線を投影し、白スーツの頭を撃ち抜く。くそ、まだ上から来やがる。
「上からも来る! 何かを背にとにかく進め!」
前だ、前に進まなきゃいけない! 後ろは無視!
右側からも弾雨が降り注ぐ。俺は足場の板を一枚引っ剥がし、盾にしながらタナカと並走した。
◇2327年9月19日(土)12:08:31
残り五十メートル。
下品なクレイジードッグズの罵声と、当たったらタダでは済まない破裂音が断続的に響き渡る。
手持ちの銃弾は残り十六発。資材置き場に隠れながら、前方からの集中砲火をやり過ごす。
跳弾のせいであちこちにかすり傷ができてる。タナカもだ。だが、その目は恐怖に染まりながらも、興奮の色がにじみ出てる。
「モトクロスを思い出すよ。アドレナリンドバドバで最高にハイってやつだ!」
出会って以来、最高の笑顔を浮かべるタナカ。とうとうネジが外れたか。いい傾向だ。つられて俺も笑った。
そうだ、泣いても笑っても残り一分。なら楽しまなきゃ損ってもんだろ?
笑い合いながらルートを探す。
前、不可。今も止まない銃弾にミンチにされる。
後ろ、バカか。なんで目的地から遠ざかる。
右、なし。ビルからでると遮るものがなくて、ただの的。
左、あった。二階へと続く階段。
俺は左腕で資材の一部を掴むと、ビルの外へ放り投げた。瞬間、弾丸が投げられた資材を追い、狙いが俺達から外れる。
「階段で二階!」
俺はタナカの背中を蹴り飛ばし、左の階段に向かわせる。ちょうど半透明の養生シートがテントのように張られており、俺達の姿をほんの少し隠してくれた。あてずっぽうで威嚇射撃を何発か弾き、階段にたどり着く。
途中でタナカを抜き、二階をクリアリング。三人。手にはサブマシンガン。まだこっちを捉えてない。
三連射。一発外し、相手の左肩をぶっ飛ばしただけ。
撃たれた男は崩れ落ちながらも右手のマシンガンは離してない。まずい。
タナカを庇う位置に体を滑らす。同時に俺の右肩を銃弾が抉った。
「ジーク!!」
タナカの頭を押さえてしゃがませる。その上を数発の銃弾が通り、今日何度聞いたかわからない、鋭い金属音が鼓膜を叩いた。悪あがきかまして同じところを抉りやがってクソが!
「大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないが大丈夫だ。まともに当たってたら右腕は動かない」
俺をなんとも言えない表情で見るタナカだが、あいにく愛の告白を受けている時間はない。リロードを完了させ、言った。
「行くぞ」
◇2327年9月19日(土)12:09:11
『無許可での立ち入りは禁止されています』
「損害賠償はコストラーデ宛に頼む!」
頓珍漢なことをいってくる建設ロボを盾に、前に進む。残り二十メートル。
角度的に車がいるかどうかはまだ見えない。
HUDの右上の時刻がカウントダウンをはじめた。
右肩がずきずきと痛む。亢進状態でアドレナリンが出ていても、それを上回る苦痛。銃の名に冠された蛇の毒が回ってくるよう。
今はそれを気にしている場合じゃない。戯言を繰り返すロボを人質のごとく歩かせ、前に進んだ。
正面の通路、木材の影からゴロツキと白スーツの男が飛び出してくる。ガキンとロボが火花を散らした。後ろから躊躇なく連続で引き金を引く。赤のペンキがぶち撒かれた。
ポケットからバラの銃弾を取り出しマガジンに装填する。残弾五で打ち止めだ。
『あ痛。暴力はロボット労働管理法第九条で禁止されています』
「お前、結構丈夫じゃねえか。使えるぞ」
その時少し先を行ったタナカが叫んだ。
「見えた! ジーク! バンが走ってきてる! あれだ、ロゴがHelix系列!」
HUDの右上の時刻を見る。12:09:45。あと十メートル。二階から降りなきゃいけない。
目的地の道路までの道を塞ぐように、敵がバリケードを築いてる。強行突破は無理。どうする!?
俺の思考を邪魔するように階下から何か―—グレネードが投げられた——お前らはいつも俺に良いアイディアをくれる。
グレネードを掴むため無理やり腕を上げると、右肩の傷がさらに裂けた。
ぬるい血が袖を満たす。痛みで視界が白む。それでも投げた。ビルの外へ。
直後爆風と爆音が轟き、俺以外の視線が全員そっちを向く。
「タナカ、ロボを抱け!」
「趣味じゃ⋯⋯ってうわっ!? ま、まさか」
『私は自走式です。降ろしてください』
騒ぐ二人を担ぐ。タナカと金属ボディの重みが、肉体強化手術をそこまでしていない俺の体にのしかかる。骨が軋みを上げた。
歯を食いしばる。くそったれ。なんで俺がこんな目にあってるんだ。
脳裏に焼き付くあの紅。ぷつんと頭が鳴った。
「どれもこれも全部お前のせいだぁああ!!」
「僕のことかぁああ!?」
気合一閃。助走して二階から落ちるギリギリのところで窓から投擲。
粉塵を切り裂いて一人と一体が翔んだ。
眼下で飛翔物を見上げるアホ面が多数目に入った。
何人かは慌てて銃を乱射しているが、全部建築ロボが弾いてる。まあ何発かはタナカに当たるかもしれないが、当たらないことを祈ろう。
着地、というよりかは落下。ただタナカも最低限の身のこなしはできることはもう知っている。
無様だが何とか着地したタナカは、ちょうど滑り込んできたバンに拉致されるように乗車した。そのまま中間層の中心部へ走り出していく。
「ふざけやがって、死ね!」
「やめろバカ、ロゴが見えないのか! もう手出しはできん!」
眼下で悔しそうに白スーツがゴロツキを抑えているのが見えた。ざまあみろ。
ミッションコンプリート。デリバリーの評価も星五つだろう。
あとはお家に帰るだけ。
振り返ると、怒りの形相を浮かべている男たちが俺の目の前にいた。
さあ、どうやって帰ろうか。
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