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会員カードのメリットって?

 勘出先輩から臨時収入を貰った僕は、急いで金策する意欲を失っていた。元々家賃や食費なんかは仕送りで足りていたので、遊ぶための金があるといいなぁという程度だったからだ。

 あの日、5500円使って2万円貰ったので、差し引きでプラスとなっている。

 そしてあの日、結局のところパチンコという物を理解できないまま終わってしまったので心残りがあったのだ。


「今日は先輩も時間が合わないみたいだな」


 こうなると1人でパチンコ店に行くのには勇気がいった。やはり独特の雰囲気があるもんな。何か悪いことしている気になるし。

 先輩は違うと言い切ってたが、端から見たらやっぱりパチンコってギャンブルと思えて、ギャンブルは悪いことという意識が強い。


「ま、打たなくてもいいよな。あの日はあんまり見て回ってないから、何があるのか見てみよう」


 先輩に連れられて、1台の前に座らされてそれを打っただけだった。他にどんな台があるのかよく分からなかった。少し様子を見て帰ろう。

 そんな考えで僕はパチンコ店へと向かっていた。



 改めて1人でパチンコ店へと入る。まだ抵抗はあるが、別に知り合いがいるわけでもないなと開き直った。

 入口から少しの空間には景品交換カウンターと少し開けたスペース。景品なんだろう段ボールが並んでいる。


 交換カウンターとパチンコ台を隔てるパーティションを越えると、一気に様々な音が聞こえてくる。ジャラジャラというパチンコ玉が流れる音や、それに負けない音量の台の音、更には店内放送までもが鳴らされていた。


「耳をやられそうだな……」


 音の大きさに慣れそうにない。それでも台の間を歩いていく。「東京喰種」「ブルーロック」「東京リベンジャーズ」「ベルセルク」とアニメを題材とした物が結構並んでいた。

 かと思うと「北斗の拳」「花の慶次」「ルパン三世」といったかなり前のアニメや漫画の台も並んでいる。

 更には中森明菜、郷ひろみ、坂本冬美といった歌手を題材にした台もあるらしい。


「火曜サスペンス劇場? はぐれ刑事純情派? あぶない刑事?」


 実写ドラマまでもが台としてあるらしい。思ったより色々あるな。

 そして店の中で一番スペースをとっていたのは、この前打った海物語という台で、同じ様な台がずらっと何列にも渡って並んでいた。


「人気なんだろうな」


 この前会った女性によると初心者には難しい台らしい。確かに座ってる人の平均年齢は高めだ。熟練者という雰囲気がある。

 ふと台の列の端に、『4円』『1円』と書かれているのに気づいた。『1円』の方が人が多いみたいだ。


「なんだろう?」

「玉を貸し出す値段よ」

「うわっ」


 突然背後から声が聞こえて振り返ると、先日あった女性が立っていた。野球帽に黒縁メガネ、白いマスクとほとんど顔は見えないが、同一人物だろう。


「パチンコ玉1玉辺りの貸し賃が、4円、1円、0.25円など色々あるわ。この店は4円と1円だけね」

「なるほど……1円の方が人気ですか?」

「そうね。安く遊べる方がこの店では人気ね。勝ちにくいけど」

「勝ちにくいんですか?」

「回る台がどうしても少なめね」


 店の経費、1台ごとのコストは、ほとんど変わらない。1円は4円のお下がりが回されるらしいが、稼働にかかる電気代などは一緒なので、店としてはそれなりに回収しないといけない。

 そうなると4円なら10人の客で賄える費用を、1円だと40人でまかなわないといけなくなる。必然的に1円の方が勝つのが難しい台になりがち……ということらしい。


「でも人気なんですね?」

「パチンコは負けるものと悟った人が、より長く遊べる事を選ぶと低賃、安い方へと流れがちね」

「やっぱり、勝てないんですね」

「多くの人は……ね」


 客から玉の貸し賃を集めることで経営がなされる以上、どうしたって勝った客に渡す額より客から集める金額の方が多くなる。

 すなわち負ける人の方が圧倒的に多いのだ。


「負けたとしても、打つことを楽しめたら満足。そういう人も多い。ゲームセンターや遊園地なんかは払う一方でも客が集まるでしょ」

「でもパチンコって返ってくるから打つんじゃ?」

「打って当たりを引く、その行為自体も楽しめるものよ。じゃないとこんなに人はつかないわ」

「そういうものですか……」


 まだパチンコの楽しさを分かってない僕にはよく分からない話だ。


「パチンコを本気で勝っためにやるなら、まずは会員カードを作りなさい」

「会員カード?」

「あそこに募集中ってあるでしょ? 身分証があったら作れるわ」

「何のメリットが?」

「色々付帯してる機能もあるけど、一番は貯玉ができること」

「貯玉?」

「パチンコで一番損をするのは、交換する時なの」


 パチンコという遊びは、借りた玉を台で増やして景品と交換する。その中に近くで買い取って貰える特殊景品が5000円、1000円、500円といった単位で交換できる。

 しかし、パチンコ玉は4円単位なので500円に満たなければ、端数はお菓子やジュースといった物に交換される。


「欲しい物でもないのに交換しなきゃ駄目。その日のうちに交換しないと無効になるのよ」

「なるほど」

「それに交換レートもあるわ」


 1玉4円で貸し出された玉を特殊景品に交換する際、少し利子を上乗せして徴収されるそうだ。


「この店だと、100円で25玉借りられて、28玉で100円分と交換って感じね」

「1割以上減るんですか」

「中には等価という店もあるけど、そういう店でも実際は何%か余分に払わされる事もあるわね」

「でも余計に取られない店の方がいいですよね?」

「そうでもないわ」


 パチンコ店は客への貸し玉賃で経営されている。

 等価の店は、交換する際に上乗せが少ない分、勝てる人数を絞る事で経営費を稼いでいるらしい。


「ざっくり言うと、負ける人を増やして稼ぐのが等価の店。勝った人から回収するのが交換レートが低い店」

「交換レートが低い店の方が勝ちやすい?」

「他にも要因は色々あるけど、比較がそこだけなら確実に勝つ人数が多いのは、交換レートが低い店ね」

「なるほど」

「で、交換する時に損が発生するから、貯玉ができると大きいのよ」


 換金できる最低額は500円、この店だと28玉交換なので140玉から交換できる。139玉以下の分は、お菓子などに交換するしかない。

 さらに125玉と140玉の差、15玉が自動的に店に回収される。5000円分交換すると150玉、先日の先輩は5万勝ったらしいので1500玉、5000円以上を支払って交換してもらっている事になる。


「5000円あれば、甘で1回当てる事ができるわね」

「甘?」

「その辺はまた今度ね。とにかく、交換すればするほど、店に手数料を支払ってると考えなさい」

「なるほど」

「会員カードがないと毎日交換する必要があるけど、貯玉ができるなら交換しても問題ない時だけ交換すればいい」


 毎日1万円使って2万円交換して7日だと、現金7万増えて、交換に使った玉は39200玉。

 これを貯玉で遊戯し、最終日に交換すると19600玉を7万と交換しても、19600玉貯玉に残る事になる?


「それだと毎日2500玉使ってる分が計算されてないでしょ」


 7日で17500玉使ってるから、19600-17500で2100玉8400円分の差か。それでも大きいな。


「もちろん、毎日勝てる訳でもないし、勝てる額もバラバラになる。それでも貯玉でまとめて換金する方が得になるのは確かね」

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