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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「領主さまを甘やかし労う話」

作者: 結晶蜘蛛


 うち、ことソラリスは娼館の雑務要因をやってる。

 まだ年齢が低いからかべたべたになった変な布を張り替えたり、掃除をしたり、疲れた娼婦に食事を運んだりしている。

 もっと小さいころに売られて以来、これがうちの仕事なのだ。


「よーっす、ヴィオレット! 今日も元気に棒をふってるわね!」

「うむ、我が光ソラリスよ。相も変わらず愛くるしい青い瞳だ。今日もソラリスの顔を見れて、私もうれしいぞ。そしてこれは棒切れではない、カリバーン5世だ」

「カリバーン4ももうおっちゃったんでしょ、うけるー」

「むぅ、鍛錬の成果といえ鍛錬の成果と」

「あ、うち、そろそろ娼館の雑務があるからごめんねー」


 そして、路地裏で棒切れを振り回している変わり者がヴィオレット=クーデヴァンスだ。

 金色の瞳に、細かな髪質の金髪は目と同じ色。

 頭には狼の耳がぴこぴこと可愛く動いており――気高き狼だぞ、と良く吠えてる――身長の低さも相まって可愛らしい印象だ。

 獣人種というらしい。

 彼女は自称・没落した貴族の落とし種らしい。

 前によくわかんない絵――ヴィオレット曰く紋章――の入った探検を持ってきて「これぞ自分が王家の血を引いてる証である!」と自慢していたが、たぶん、どっかで手に入れた短剣をそう思い込んでいるだけと思う。

 それでも、ヴィオレットはまぶしい少女だ。

 にじみ出てくる自信がそうさせているのかな? 堂々とした態度と張りのある声がそう印象付けてくる。

 うちは娼婦のお姉さんをいろいろとみてるけど、特に人気のある娼婦さんは堂々としてる人が多いから、ヴィオレットも同じような自信を感じる。

 そのヴィオレットだけど将来は冒険者になって昇りつめてやる、と暇があれば棒を振って素振りのまねごとをしている。


「誰にも無視できない功績があれば私の言ってることが本当だと正面できるからな!」


 とは彼女の言。

 うちにはそういう夢はないから、それをまぶしく思ってるのかもしれない。

 一つだけ変わったことといえば――最近、うちは神様から奇跡を授かった。

 ひりひろと痛む頬を撫でる。

 たまたま娼婦のお姉さんの機嫌が悪くて、ひっぱたかれたためだ。

 悲しかったけど、怒ってもしょうがないからさっさと布団に入ったわけだけど、そんなとき何かまぶしい光が夢の中で広がったの。

 なにかはわからないけど、『何かすごい存在』であることはわかった。

 なんというか……ぽかぽかとした陽の日差しに照らされる感じ。

 たぶん、あったかい神様なんだと思う。

 それでびっくりして起きたら、奇跡――治癒の奇跡が使えるようになっていた。

 ひりひりと痛む頬に光ると痛みが引いて治ってしまった。

 もしかすると神様がうちに頑張ってるご褒美をくれたのかもしれない。

 秘密にしていたけど、ヴィオレットに自慢したら「いいなー! 私もそういうのほしいなー!」ってすごくうらやましがっていた。

 それから数年、ついにうちが店の娼婦として立つことになって……。

 娼婦になるか店を出ていくかで悩むこととなった。

 だって、うちは店の外で働いたことなんてないし、外のこともあんまり知らないし。

 なら、娼婦になるしかないかなーと思っていたら。


「やだ! ソラリスがほかの人のものになるなんて私は嫌だ!」

「そんなこといって……じゃあ、うちはどうすればいいのよ」

「よし、私は今から冒険者になる! ソラリスも一緒に冒険者になるんだ!」

「え、えー……!」


 そういって、うちの手を引いて、冒険者の宿にひっぱっていってしまった。

 正直、強引で驚いたけど、うれしくもあった。

 そうして、私は冒険者になったのだ。


 †


 うちの国の冒険者ギルドは国営でやってる。

 ギルドに行って初めて知ったのだけど、「無頼漢たちの管理」「魔物の討伐を初めとした兵隊向きではない業務」などをこなすためらしい。

 ヴィオレットに強引に連れられて冒険者になってから10年ほど。

 なんと、うちらは冒険者として最上位ランクまで上り詰めることができたのだった、ぶい!

 パーティーも5人に増えて、みんなで頑張っていった。

 最初は2人で地下水道の掃除を行って。

 次はゴブリン退治でパーティーが5人に増えて。

 そのゴブリン退治で罠が仕掛けられてて、あやうく全滅しかけたりして。

 冒険者のランクが上がってからは北の雪山のダンジョンを探索依頼をこなして。

 街をおそった魔物の群れに対する防衛戦に参加したり。

 街を騒がす盗賊の捜査をしたり。

 みんなで頑張って冒険をしていったの。

 何より驚いたのは、


「この短剣は……王家のもの……!」

「えっ、まじっ?」

「ほれ、見ろ。私が正しかっただろう!」

「いや、この剣は王家か盗まれたものだ……、おぬしの家系が盗んだのか?」

「違う、この短剣は私の家が王家由来だった証だ……!」


 最上級冒険者として王家から直接使命されて以来、王家とつながりができたんだけど。

 ヴィオレットが短剣について由来を語ったときに、王家から盗まれたものだった判明してひと悶着あったの。

 結局、先王の王子の一人が三男に送ったものだって日記から判明して、正式にヴィオレットが王家の血を引いていることがわかったんだけどね。

 それで、王族として復帰するか聞かれて……ヴィオレットは王族に戻る決意をしたの。

 うちはヴィオレットについていくことにしたけど、他の人たちは冒険者を続けることにして、別れることになった。



「ヴィオレット様、朝食が終わりましたら今日の予定について確認したく」

「わかっておる」

「ヴィオレット様、昼の会食のあとは錬金術師ギルドで今度の連勤役の改定についてのお話が……」

「わかっておる」

「ヴィオレット様、領内で東の治水工事の件で現場を見てもらう必要が……」

「わかっておる」

「ヴィオレット様、冒険者ギルドから記録書類の確認をお願いされてまして……」

「わかっておるといっておるではないかー!!」


 そして、うちは「エヴァーレット」の苗字をもらってヴィオレットの秘書となった。

 

「な、なんなのだ。冒険譚の締めは幸せになって終わるのではないのか……!」

「だって、冒険が終わっても仕事があるのは変わらないし」

「く、忙しすぎて冒険の日々が懐かしく思える」

「みんなは元気にやってるよ。手紙にも書いてた」


 書類の山の中でヴィオレットがうなり声をあげている。

 うちは静かに紅茶をいれて隣に置く。

 それを一気に飲み干そうとして、うちに突き出し、


「熱い! ふーふーして!」

「はーい」


 うちが冷やすこととなる。

 そうして、書類と格闘しているヴィオレットの横に紅茶を置くと、一気に見干した



「あーもう! 私は疲れた、ソラリス! 存分に私を甘やかせ!」

「もう、ヴィオレットたら……」


 うちはソファに座ると、ぽんぽんと膝をたたいた。

 ヴィオレットが躊躇なく、うちの膝に頭を預けてソファに横たわった。

 狼耳の間に手をあて、優しくなでる

 ヴィオレットの狼身がぴこぴこと揺れた。

 

「私いっつもがんばってるのに! なんでこんなに忙しいのだ!」

「そうだね、ヴィオレットはがんばってるね!」

「もうずっとソラリスと戯れてたい。ひと段落したら旅行にでも行こう。」

「温泉とか行きたいね」

「そうだ! 使用人も連れて温泉にいって豪遊するぞ! 仕事室に缶詰めなんてしてたら腐って死んでしまう!」

「よーしよし」

「ソラリス! 私のいいところを言って!」

「え、……がんばってるところかな」

「間をあけるでない!」

「理不尽! なら、今でも髪がキレイだし、カッコよさは一切変わってないよ!」

「他には!」

「たくさんの人の話をまとめれてえらい!」

「もっと!」

「ヴァイオレットがいるからクーデヴァンス領は回ってるんだよ」

「そうであろう、そうであろう! 私は偉い!」

「えらいよ、ヴァイオレット!」

「うふふ、ほめて使わすぞ、ソラリス!」

「もう、本当に限界なのね」


 私はヴァイオレットの頭をなでる。

 さらさらとした金髪が心地よい。

 上質な絹の衣みたい。

 なでられるのが心地いいのか、ヴァイオレットがうちに頭をあずけてくる。

 そうこうしているうちに寝息を立てて……。

 うーん、どうしようヴァイオレット寝ちゃったけど、まだ仕事残ってるんだけどな……。

 まぁ、でも、疲れてるみたいだから今日ぐらいは休ませてあげよう。

 私は奇跡を行使し、魔道具の明かりを落とす。

 部屋の中から光が消えて、ヴァイオレットの寝息だけが残った。

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