忍び寄る危険
イブと移動中に事情を説明し、アダムの監視を中断した。
「まさか、こうも簡単にチャンスを作り出すとはね」
「イブ自身、王から離れたがっていたんだ。ならその方法と悩みを解決させればいい」
「だけど命懸けよ?」
「そうしたら諦めるしかない。まあ、そうならないよう手は尽くすけどね」
リヤナから見ても負けない事はさほど難しくはない。
だがこの勝利条件はイブを生かしながら行動不能にすることだ。
その勝つための方法が未だわからないままだ。
負けないが勝てない。
それがリヤナの見立てだ。
魔法だから時間をかければ魔力を消費させる方法か?
まだイブがどれだけの魔力を持っているか正確に判断出来ていないし、
相手がいつまでも同じ方法で攻撃してくるとは限らない。
相手を変えられたら?一般人が狙われたら?
その可能性がある以上、悠長な戦い方は出来ない。
それに彼女が求めているのは、素早く抑える力のように思える。
それが出来るのは、この中ではトウヤだけしかいないように思える。
(まあ、私の考えを簡単に超えていくのもトウヤらしさよね)
そう期待しながら戦闘準備を終えた。
「ここなら絶対に人が来ない場所よ」
イブに案内されてついた場所は何も無い岩場が多い山だった。
少しイヤな臭いがする。
「……もしかして火山?」
「え?ええ、そうよ……この間、噴火したばかりなんだけど……
こんなに静かだなんて……少し意外に思ってしまったの」
噴火したばかり、この山は煙のようなものも出ておらず、そうは思えない程だった。
「ま、まさかここ数日、急に冷える日が続いてるとかないか?」
リンシェンが珍しく真面な話し方で問いかける。
「ええ、去年の今頃はもっと暑かったはずよ。変な気候だとみんな言っていたわね」
それを聞いたリンシェンの顔が青ざめた気がした。
「すまないトウヤ、おいらは局に戻って調べ物をしたいから離脱する」
「は?どうした急に?」
「すまない、急がなければならない気がするんだ」
リンシェンはそう言うと返事も聞かずに離脱した。
「何なの、あいつ」
リヤナが腹を立てるのも無理はない。
「大丈夫なの?」
頭数が減ったことに不安を覚えたイブは不安そうだ。
「メインは俺とこのリヤナだし、ミイナ一人で支援する形になるけど大丈夫だよね?」
「はい~少なくても大丈夫だと見せなければいけないんですよね~?
なら逆に好都合ではないでしょうか~?」
最初から少人数だとリスクも大きい可能性が、その分見返りも大きい。
ミイナの言い分も正しい気がする。
「と言う事だ。イブが心配する必要は無いよ」
「あなた達を殺したくないから、心配はするよ」
殺しを拒む殺人兵器、そこにトウヤは希望を見ていた。
「あれ?リンシェン?トウヤ達と一緒じゃないの?」
突然帰ってきたリンシェンを不思議に思いながらもポーラは訊ねた。
「急用だ」
「!?何があったの?」
リンシェンの話し方に驚きつつも理由を確認する。
「ヤバいことが起こってる気がする。でも理由が解らない」
リンシェンは急いである部屋に向かい、勢いよく扉を開けた。
「ちょっと!?」
ポーラが止める間もなく進んで行く。
そこでは何人かが椅子に座り複雑な機械を操作していた。
そして手の空いてる何人かが不思議な物を見るようにリンシェンを見ていた。
「リンシェン?ここギルメンでも許可無く入るのは禁止よ」
この騒ぎの近くにいた女がリンシェンを止めた。
知らない顔だが、良く知った声な気がする。
なぜこの女がリンシェンの名前を呼べたか、その答えはすぐにポーラが教えてくれた。
「ごめん、ウィンリィ」
いつもポーラ達のギルドをサポートしてくれてる人だ。
直接会う機会が無かったので、今が初対面である。
「すぐに連れ出すよ。ほら、出るよ」
ポーラが代わりに謝りリンシェンを連れ出そうとする。
「至急大量の演算を行いたい。使わせてくれ」
「何に使うか知らないけど、例外は認められないわ」
チームの詳細など情報が簡単に見れる場所だ。
局のギルドメンバーを守るために、この場は本来、特定の人間しか入れない場所。
だが先の強襲で仮部屋で行われてたため、リンシェンでも簡単に入れたのだった。
「トウヤ達の命に関わるかもしれないんだ、頼む!」
重要なことに使うみたいだが……
一度使わせる例外を許すと、今後の運営に支障が出る。
だが許さなければ大惨事が起こるかもしれない。
判断に迷っていると、奥から眼鏡の女性が現れた。
「例外は認められない。だが我々の仕事はギルドメンバーを助ける事。
その仕事を放棄するわけにはいかない。ウィンリィ、あなたが代わりにやりなさい」
「フロアマスター!?良いのですか?」
「例外は無い。ただ優先順位の高い緊急クエストが発生しただけだ」
事態の緊急性を感じ、柔軟に対応してくれたようだ。
「はい!すぐに!」
「各員に告ぐ!最重要緊急クエスト発生により処理を集中させる。現スペックでは
支障が出る為、帰還出来る者は即座に帰還。人員をこの最重要緊急クエストに補填。
現在進行中のクエストもサポートを外れる許可を取れ。急いで対応せよ!」
「「了解!!」」
サポーターチーム一丸となりリンシェンの頼みに応えてくれたようだ。
「念のため、お二人には誓約書のサインをお願いします。
信頼はしていますが、これもメンバーを守るために必要な処置です」
「ありがとうございます!」
リンシェンは大きな声で感謝を述べると、深々と頭を下げた。
そして即座に演算に取り掛かる。
「リンシェン、何を調べればいいの?」
実質作業を実施するのはサポーターであるウィンリィ達なので指示を出さなければならない。
「惑星エンデの現在の活火山の様子、それと温度、それと……それと……」
「そんなの調べてどうするのよ?」
まだ理由が解らないポーラはリンシェンに問いかける。
ウィンリィも理由が解らずに言われたことだけをやっても仕方ないので同じ気持ちだ。
「おいらも初めて出会うから何を見たらいいのかわからないんだよ」
リンシェンがかなり焦っている。よほどのことだろう。
「あんたが見つけて不安を感じた出来事を教えて。そうしたらみんなで考えられるから」
情報が明確に共有されれば、各々必要な確認手順が見えてくる。
「噴火したばかりの活火山が急に休火山になった。それと急激に冷える環境になった、
去年の同じ頃はもっと暑かったと住人が話していたようなんだ」
「それっておかしい事なの?」
「おかしい!と言うか危険なはずだ!その理由を調べたいんだ」
大まか過ぎて判断がつけづらい。
活火山が休火山に、急激に冷える環境に、何が起きてるんだ?