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イブ

「……ウヤ!……トウヤ、起きてくれ!」


頭に響く念話に目が覚めた。


声からしてリンシェンか?


「何かあった――どわ!?」


眠気眼でカプセルベッドから出ると、目の前に大きな刃があった。


いつでも首を跳ねられるようにされ、白旗を上げることしか出来なかった。


「お目覚め」


聞き慣れぬ声だが、その声の主には見覚えがあった。


「イブ!?……どういう状況?」


見つかったということは理解出来る。


だがリンシェンが気づかないわけないし、カプセルベッドも空間系の魔法が使われている為、

大きさの割にはすごく軽く、持って逃げるのには苦労しないはずだ。


となると、考えられる原因は……


「……にゃは!」


「お前――!!」


掴みかかろうとしたが刃に止められた。だがここは最後まで言わなきゃ気が済まない。


「人に寝ろと言いながら自分が寝落ちとかあり得ないだろ!」


「にゃは……眠りにょ誘惑にゃ勝てにゃいにゃ」


普段研究で徹夜とか平然とするやつが何を言うと思ったが……


「仲間割れは……他所でやれ」


イブの言い分はご尤もだ。


「あなた達は誰?見ない顔」


嘘をついても仕方ないので正直に話す。だが……


「俺達は時空管理局ってとこで働いている人間だ」


「時空……管理局?聞いたこと無い」


抑揚のない話し方だが、こちらの話は聞いてくれるようだ。


「国の外の存在だし、この国では認知されていないようだから仕方ないよ」


「国の外?この国以外存在しない」


「ここで言う国とは惑星単位だ」


「惑星?……信じられない」


「だろうね。ならこれを見たら信じてみる気になるんじゃないか?」


「?」


トウヤは素早く手を動かしたが、イブにはそれが敵対行動に見えた。


そのため刃を押し込もうとしたが、金属が当たる音がして押し込めなかった。


よく見ると刃物を持って刃を止めていた。


「いつのまに……」


「君と同じようなことが出来るからさ」


「!?」


驚きはしたが、まだ疑っているようだ。


なのでトウヤは空いている手を上げ、腕を刃のように変化させた。


「!?そこまで!?」


同じことが出来る人間がいると想像してなかったのだろう。


そしてそれが出来る人間が目の前に二人いる。


そう思ったイブは後ろへ下がり構えた。


「にゃは、と言っても変化系だから出来る芸当でおいらは無理にゃ」


「ああ、俺も見た目を変えられるだけで、中身までは変わらない」


トウヤは腕を元に戻した。


「君のように髪の毛を本物の刃に、しかも大きくするなんて芸当は出来ないけどね」


「そしておいら達にょ目的は勧誘。イブ、お(みゃあ)と弟を仲間(にゃかま)にするため」


「その勧誘のために君の人柄を調べたり、監視していたんだ。不快な思いをさせてしまって申し訳ない」


トウヤとリンシェンは話を信じてもらうために全て偽りなく話した。


これでイブがどう思うか。それはまだ賭けの段階だ。


「仲間……はぁ……無理……はぁはぁ……無理なの……」


急にイブの呼吸が粗くなってきた。


「どうしたの?」


トウヤが心配してイブの元へ行こうとすると、イブは下がって距離をとった。


「来ないで!……はぁはぁ……諦めて帰って!!」


そう言うとイブは大急ぎでこの場を去っていった。


「どうしたにゃん?」


「何か、必死で抑えているような感じだった」


何かを恐れるような、必死に隠しているような、そんな顔だった気がする。


「追うにゃん?」


「ああ、来るなと言われたけど、事情を知らないとダメだろ?」


トウヤとリンシェンは互いに頷き合図を送り合うと、イブを追いかけた。


「って早っ!?」


すぐに追いかけたつもりだったが、かなり離れた場所にイブがいた。


「Aランク特有にょ身体能力(にょうりょく)にょ高さにゃ」


「でもそれって低ランクの国での話だろ?」


Aランクの国は基本的にCランクのメリオルより重力が強い傾向がある。


そのためそこで暮らす生物は、その重力に耐えられる体を持っている。


つまりAランクの環境で暮らす生物はCランクの環境で暮らす生物より、

産まれながら屈強な肉体を持っているため、素早く動けるのだ。


もちろんCランクの環境に行けばより素早く動ける。


だが今は環境の変化は無い。


つまりあの素早さはイブ自身の素早さということだ。


そして、イブが向かった先は……


「あのあたり、何かあったっけ?」


「んにゃ、にゃんもにゃいにゃ」


「だよな」


確か地図によれば荒野、それと少し離れた場所に森があったはずだ。


「しかし、これだけの距離を……」


「数分でおよそ十数km、魔導士としては十分にゃ」


「こんなところで何を……」


「さあ?ただ……普通にょ人間にゃあ命懸けにゃ」


リンシェンの目線の先にはイブ、そして少し離れたところに獣が見えた。


夜中とはいえ、この時間に活動する獣は存在する。


そして腹を空かせているのだろう、涎を垂らしながら唸ってイブを見ている。


危ない、と思ったが、この程度イブの方がよく知っているはずだ。


なのでトウヤとリンシェンは、その答えを知るために見守った。


そして獣の雄たけびと共に数十匹の姿が見えた。


ハイエナ?にしてはかなり大きい。


肉食の獣でイブを狙っているのは間違いない。


いざという時の為に介入する準備だけはしておいた。


だがそれは無駄に終わることを知る。


その後に起こった凄惨な出来事にトウヤとリンシェンは言葉を失い、

そこに立っていることしか出来なかった。


イブを仲間に入れる。


無理だ。


あんなのが居たら仲間が全員死んでしまう。


イブを止めないと。


イブを……止められるのか?


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