外伝:トウヤ・イブキ2
「ここの料理は美味しいでしょ?ミオさん」
「え、ええ。とっても美味しかったです」
トウヤ・イブキと名乗っていたことにも驚いたが、連れてきた理由にも驚いた。
「ナギレア、今少しいいかな?」
ウェイターである女性に親しげに声をかけ、呼び寄せる。
ニコニコした笑顔でとても印象の良い女性だ。
「彼女がナギレア・カーム、僕の恋人だ」
恋人と言った。
予め話してくれたけど、そう言われる度に冷や汗が出そうになる。
「初めまして、トウヤさんの同僚のミオ・レンティーナです」
ナギレアとミオは互いに深々とお辞儀をした。
「話した通り、僕は彼女との婚約を真剣に考えている」
「……はい」
ナギレアはミオの反応を不思議そうに見ている。
当然だ。
同僚の婚約の話なのに暗そうな反応をしていれば不思議に思うだろう。
「ミオさんは僕の家族の事を知っているからわかるだろうけど、彼女を家族に会わせるとかなり厄介なことになる」
「……」
話の内容からも、ナギレアの心には何かザワザワする物があるのだろう。
当然だ。
ナギレアはイブキの家の事を知らない。
家族に紹介されていないのだ。
それなのに家族を知る同僚が目の前に現れた。
穏やかに話が聞けないのは当たり前だろう。
「そして彼女の存在が知れ渡れば、彼女の身も危なくなる」
「……はい。それは私にも想像が出来ます」
「だから……彼女を守るためにも協力してほしい」
イブキは土下座をしてミオに頼み込んだ。
この人にここまでさせるなんて……
ミオにとって、イブキの恋路は応援したいと思っている。
だがそれと同時にイブキの家が黙っていない。
むしろ積極的にナギレアを抹殺しようと動く可能性の方が高いことも理解している。
だけど、これは……
「君に全く利点が無いことは重々承知のことだ。だが頼れる相手もほとんどいない。
これは今の僕に出来る精一杯の事なんだ」
そう、ミオにとってこれは全く利点が無い、むしろ断った方が良い話だ。
「最悪、トウヤ君にもお願いすることになると思う」
「んな!?何で彼を巻き込むんですか!?そんなこと出来ません!」
「……彼も僕とナギレアの事を知ってしまったんだ」
「なぜ!?」
「本当に偶然なんだ」
友人である、あの子も巻き込まれる、そんなこと許されるわけがない。
「彼を巻き込んだら、私はあなたを軽蔑します」
「ああ、構わない。それでナギレアの身の安全が保障されるなら恨んでくれて構わないよ」
意地の悪い言い方だ。
ミオは諦めたように頭を抱え、椅子に座った。
どうしたら良いのか……
色々と頭の中がグルグル回って、考えが全くまとまらない。
だがそれを壊すようにナギレアは土下座するイブキを立ち上がらせた。
そして何かを訴える。
声が出ないので、ミオには何を言っているのか全く分からなかった。
「え!?いや、しかし……」
ナギレアは怒っているようだ。
そして腕を組み頬を膨らませながらそっぽ向いた。
「いや、ナギレア……」
イブキは何を訴えているか理解出来るようだ。
「……なんと?」
ミオも内容が気になり聞いてみる。
「……ちゃんと家族に紹介出来ないなら婚約はしません。って……」
「……」
「……」
「……ぷっ!」
ミオは思わず吹き出した。
「……?」
イブキはまだ何もわかっていないようだ。
「あはは!ナギレアさんの方がしっかり理解しているじゃないですか」
「ど、どういうことだい?」
「家族になるんですから、ちゃんと家族に紹介出来るようにしてから婚約すべきです。
今のままだと婚約に焦っているだけで、ただの我儘になっちゃいますよ?」
「で、でも……」
「最初から諦めないでください。少しでも、ほんのちょっとでもいいので障害を取り除くんです。
それは、あなたにしか出来ないことなんですから」
「し、しかし……」
「でも、も、しかし、も許しません」
イブキの発言は全て封じられた。
「ナギレアさんも、覚悟してくださいね。イブキさんは実は凄い人なんですから」
ミオの言葉にナギレアは笑顔で頷いた。
「……まったく、敵わないな」
何か吹っ切れたようにイブキは大きく溜息を吐いた。
「ご家族への説得は続けてください。それと家族以外の人を頼ってみてはいかがでしょうか?
あ、もちろん、トウヤ君は頼っちゃダメですよ、彼は私の友人でもあるんですから」
「……わかったよ」
「なら、私も協力します。お二人が、夫婦になるところを見たいですからね」
ナギレアは嬉しそうにミオの手を取り何度も頭を下げた。
「そんなに感謝しないでください。本当に難しい事ですから。
成功した時に思いっ切り喜びましょう」
笑いながら手を取り合う二人を見て、イブキは確信した。
(やはり、彼女を選んで正解だった)
思い切ってナギレアを紹介して正解だった。
そしてナギレアとミオの相性は良いようだ。
イブキは大きく息を吸い、大きく息を吐いた。
そうだ、やらなくちゃいけない。
彼女と夫婦になることは並大抵な事ではないと覚悟していたが、
どこかでそれが崩れて弱気になっていたようだ。
もう一度覚悟を決め、父を説得する方法を考えた。
今度はミオに言われた父以外の人を仲間につけて。
そう考えるとある顔が浮かんだ。
いや、今は忙しい時。
この話を持ち込むことは止めた方が良いだろう。
だが同時にある可能性が見えてきた。
偶然にも今起きている事件のお陰とも言える。
(本当にそうなるか?)
いろいろ可能性を考えるが、やはりここでもトウヤが絡んでくる。
(まさか……ね)
杞憂に終わればいいと思うと同時に、今偶然にも巻き込まれている妹の顔も思い浮かんだ。
(……アコ……)




