新しい王たち
「まずは自己紹介からとしましょうか?初めてお目にかかる方もいらっしゃるようですし」
全員の沈黙が肯定を示す。
「では我々からが順当でしょう」
そう言うと座っている男に注目が集まる。
「白酔馬、バリエガータ・アセビの後任、フィリ・アセビだ」
鼻でフッと息を吐くと顎を突き出すような姿勢で、そのまま椅子にもたれかかった。
どうも父親の地位が高いから自分も地位が高いと思っているらしい。
そのため、同じ家族内でも弟、妹、養子たちにかなり高圧的な態度をとっているらしい。
父である前任の白酔馬の君はそう嘆いていて悩んでいると話してくれた。
「次は俺様だな。融雪季改め南天狼、ニゲル・ヘレボルス。
我が姉君、オーレア・ヘレボルス、南天の後任だ。俺様のことはキングと呼ぶ――!?」
台詞の途中だろうと構わず、鉄拳制裁で姉が黙らせた。
「なにす――!?」
「余計な事は言うな」
空気が一瞬でピリリとした。
その空気を素早く感じ取った烏頭兜と紫鈴狐の後任者は青ざめた顔で下を見た。
「ちっ!だから嫌だって言ったんだ――!?」
ヘレボロス家では拳での会話が日常なようだ。
その光景に白酔馬の後継者、フィリはプッと笑っていた。
順当に行けば紫鈴狐、烏頭兜と続くだろうが、当人たちは完全に空気に飲まれている。
仕方がないのでスプニールが立ちあがる。
「私はスプニール・ネリウム。母、桃竹のオリエン・ネリウムの後任を務めさせていただきます」
スプニールは丁寧にお辞儀をした。
「でた~~!犯罪者一族のネリウムさんだ~!」
お道化るようにフィリが手を叩き騒ぎ出した。
「フィリ」
「なんだよ父上、本当のことを言ったまでだろ?」
「言って良い事と悪い事がある」
「はん、なんで僕がそんな気遣いをしなくちゃならないんだ?僕は麗王の王を
引き継いだんだ。王がクズ相手に下手に出るとか話にならないだろ?」
「おいおい、王は俺様だと理解出来ないようだな?」
「黙れ脳筋!お前と僕では格が違うんだ」
だんだん悪口の罵り合いになり始めた。
「ふふっ」
スプニールの笑い声で一気に静まった。
「なに笑ってるんだ?犯罪者家族の分際で」
フィリが威圧するようにスプニールへ詰め寄る。
「申し訳ありません。ここは高貴な方々がいらっしゃるものと思っていましたが、
まるで猿山のようで、思わず笑ってしまいました」
「んだとこのアマ!!」
フィリはスプニールの言葉に逆上し、掴みかかろうとした。
しかしそれは父によって止められた。
「ひゃっひゃっひゃっ、面白い例え話をするじゃないか。ワシは気に入ったぞ」
思わぬ老人の声に動揺が走る。
「白酔馬の、前任者が悩んでいた理由がよくわかるわい。
これは愚息と呼ばれても仕方ないのう」
「ああん?老害が何寝ぼけた事いってるんだ?」
「力も知性もおぼつかないガキが何を言っている?」
老人の周りで黒い雷がバチバチと大きな音を立てた。
「――!?」
「ここは己の知性と品位を見せながら知見を深める場だ。罵るだけなら猿でも出来る」
今度は父から身震いするような冷気に襲われる。
強く腕を握られ逃げることも出来ない。
「は、はは、王を罵ったのはこの女だろ?」
フィリは矛先をスプニールへ向けようとする。
「罵り、人を貶める程度の王など猿山で十分。人の王ならば人らしくすべきだ」
完全に分が悪いと判断したフィリは態度を翻した。
「はは、ちょっと冗談のセンスが悪かったようだ」
そう言いながらフィリは自席に戻った。
「申し訳ありませんでした、桃姫の君」
「いえ」
父親が代わりに謝るなんて、悩んでいる意味がよく解かった。
「ひゃっひゃっ、母親は大人しかったが、娘は言うことは言うようじゃな」
「お褒めの言葉として受け取らせていただきます」
実際、オリエンは目の前の娘の出来事にも一切手を出さなかった。
こっちもこっちで問題あると思うが、スプニールは黙っていた。
「んじゃあ、新人さんは最後にして、我々の番としましょうかね」
じゃべり方はフィリに近いが、こちらはまだ安心感がある。
「おい、下向いてないで話せよ」
「む、むむ、無理でひゅ…………」
青ざめた顔の口元から何かが出ていった気がした。
「お、おーい、帰ってこーい!」
「…………」
肩を掴み激しく揺らすが反応が無い。
「え、えーと……」
前任者の目がこちらを見ると、泳ぐ様に横へ流れた。
「お、俺は前任者、ヒパコ・アクニトゥム、そしてこっちが弟のナペルス・アクニトゥム。
烏頭兜を受け継ぐことになってるが、なにせ人前に出るのが苦手でね。
陰気ですぐ病に伏せっちゃうが、悪い奴じゃないし無能ってわけでもないんだ。
こんなんだが、よろしく頼むよ。な?な?」
代わりに兄が済ませてしまった。大丈夫か?
「最後はうちじゃな。ドミニク・ジギタリスの後継者、リコリス・ジギタリスだ。
最近ワシの養子になった子での、見込みがあるからこうやって勉強させている。
まだまだ未熟者だが、そこはワシに任せておけば安心じゃ。ひゃっひゃっひゃっ」
それが一番信用出来ない。
この場に居る全員が同じ考えを持った。
「全員の自己紹介が終わったところで、さっそく議題に進めたいんじゃが、
議長は前任者を考慮して、新しい白酔馬の君にやってもらおうかのう?」
野心家の紫鈴狐の君が仕切るのかと思ったが、あっさり主導権を渡してくれた。
まあ、次の議題は誰に主導権があっても問題ないもの。
欠けた七剣徒の選別だ。
今回二人抜けたので二人入れなくてはならない。
だが
「んなものよりもキョウ・ネリウムを急ぐべきでしょ」
フィリが急に話題を変えた。
「そんなものって、七剣徒の選抜は急がないといけないだろ?」
脳筋と呼ばれたが、ニゲルの方が真面な事を言っている気がする。
だがフィリは続けた。
「あの過去最強と言われたやつが、ここを落そうと暗躍してるんだろ?
それを止めなきゃならねぇのに、下人は使えねぇからむこうの準備が進んでるだろ。
その前に七剣徒でも何でも使って居場所を突き止め阻止させるのが先じゃね?」
一理ある。
今ここが狙われている。
そしてその相手は今も準備を進めている。
迎撃の準備をしようにも局はまだ手が足りていない状態だ。
ならば上から人手を送り迎撃の準備を進めるべきではある。
「確かに、そこは急ぐべきかもしれないな」
ニゲルもフィリに同意した。
思い通りにならないがしっかり核心はついてくる。
父親が悩むのも頷ける。
性格面で難ありだが、仕事は悪くない、むしろ良い方だ。
スプニールにとっても嫌な存在になりつつあった。




