新体制
「順調に育っているようで何よりです」
何処で嗅ぎつけたのか、白酔馬の君がスプニールの元へ来た。
「お耳が早ですね」
内心驚きつつも冷静に答えた。
「情報は鮮度が命です。それに私も彼に興味がありますからね」
そう言えば前に娘と婚約しないかと持ちかけていた。
それくらいご執心なのは構わないが、連れて行くことだけは避けてもらいたい。
「我が家も彼の動向を見守っていないと、何かがあってからでは遅すぎますからね」
「ええ、それに……」
こう簡単に会えたのも、場所が関係する。
麗王が新体制になってから初めての会合だ。
前任者が後見人で、今回は見守られているとはいえ初めての事でやや緊張していた。
そして気になることがいくつもある。
「新体制になって安心できるのが桃姫の君と南天の君だけとは、
麗王の質も落ちたものですね」
その落ちたの中に自分の息子が入っているのは、悩ましい事だろう。
「私もあまり強く言える立場ではありませんので」
「ですが人が人ですからね」
そう言われスプニールは各々の新王の事を考えた。
よく知っているのは元七剣徒第二位・融雪季の君、ニゲル・ヘレボルス。
前任の南天の君ことオーレア・ヘレボルスの実弟で、かなりの自由人だ。
政治よりも戦に強い興味があり、戦場こそ自分が最も輝ける場所だと考えている人だ。
そのため、戦闘面はスプニールよりも圧倒的に格上である。
30手前の年齢だが、婚約者はいない。むしろ戦と鍛錬が恋人と言うほどの人だ。
考え方や思考は、よく言えば実戦派、悪く言えば脳筋といえるが、
豪胆で細かいことを気にしない、裏表もない人に思える。
あと、姉には頭が上がらないようで唯一の弱点とも言っていた。
昔、姉を怒らせ半殺しにされてたあたり、本当に敵わないようだ。
この人は己が見たものと独自の価値観で判断するため、筋を通せば話の通じる人だ。
白酔馬の君が安心と言っていたのも納得だ。
次に烏頭兜の君、前任は兄で後任は弟だ。
弟は病弱で陰気だと聞いたがまだ会ったことは無い。
兄の方はひょうきんな人だったが、波風立てずがモットーであまり野心的ではない。
仕事はきっちりするが、それ以上もそれ以下もやらない感じだが、
逆にその姿勢に隠された何かを持っているように思える。
強く敵対しなければ問題無いと思うが、常に慎重に対応しなければならない存在だ。
逆に危険なのが白酔馬の君が自ら愚息というほどの人。
会ったことが無いが白酔馬の君の判断が大きく外れることは無い。
つまり愚息と言うからにはそれなりの理由がある人物だ。
何をしてくるかも解らないのも警戒すべきな所だ。
そして最も危険なのが紫鈴狐の君の所だ。
後任のリコリスと言う人物は最近養子にした娘らしい。
前任の紫鈴狐の君自身、かなりの野心家で常にトップを狙っており、
今回、白酔馬の君を降ろしたことで狙い易くなったその座を手に入れようとするはず。
そしてリコリスを傀儡にすることで実質的に自分の支配下に置こうという考えが見え見えだ。
そのリコリスと言う女も未だに素性が知れない。
「私は愚息を抑えることで手いっぱいになる可能性があります。
基本的に協力はしますが、いつでも支援出来るとは限りませんのでお気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
簡単に協力関係を確認すると、白酔馬の君は戻っていった。
(さて、面倒なことにならなければいいけど……)
麗王の事、七剣徒の事、政治の事、トウヤの事、キョウの事。
気にしなければならないことは非常に多い。
(とりあえず、自分自身でしか解決出来ない事を優先しないとね)
トウヤの事はギルドマスターであるポーラに任せてもいいと思っているし、
トウヤ自身も順調に力をつけている。
同じチームの子も癖はあるけど能力は十分。
あとはどう育てるかだ。
そして政治のことはまだ母を頼りにしていても問題はない。
いや、むしろやる気のない母のお陰で民の方の自主性が育ったし、
それにより彼らが効率よく仕事が出来るよう環境を変えていった。
むしろあれやこれやいうよりは彼らに任せてもいいと思っている。
そして白酔馬の君が協力してくれることで麗王の事は助かっている。
そしてネリウムは眷属が少ないので七剣徒の事は別に気にしなくてもいい。
むしろ紫鈴狐の君が執拗に干渉しなければ問題ないだろう。
となってくると、当面の問題はキョウの事だ。
こればかりはネリウムでどうかしなくてはならない。
「叔父様の能力の解明と対処法に注視すべきね」
ある程度の優先順位が決まったことでスプニールのやるべきことが決まった。
だが目の前のことを疎かにすることは出来ない。
「とりあえず目の前の厄介事を潰しておきましょう」
そう決めるとスプニールは会場に向かった。
座席には既に人がいた。
いかにも気分が悪そうな陰気な雰囲気が出ている。
たぶん烏頭兜の君の弟だ。
呼称も引き継がれるのでこの人も烏頭兜の君と呼ぶべきだろう。
「初めまして、烏頭兜の君」
軽く挨拶として、スプニールは声をかけた。
「ひっ!?……は、はは、はじめ――」
最後の方は聞こえなかった。
ガタガタ震える彼に、何か可哀そうな気持ちが出てきた。
そして次に現れたのは動きのぎこちない女だ。
女はスプニールともう一人しか居ない。
(こいつが……)
例の紫鈴狐の君の養女のリコリスだ。
「は、はは、はじめ――」
ついさっき同じことがあった気がするが、こちらは緊張のためだろう。
「なんだいなんだい、僕より遅いやつが居るなんて自覚がないんじゃないかな?」
次に男が現れた。
知らない男、つまりこいつが白酔馬の君の息子だ。
「王よりも早く集まるのは当然だろ。程度が知れるなぁ」
「ふん、それは俺様がキングに相応しいからさ」
最後に筋骨隆々の男が現れた。
こちらは見知った顔だ。
「俺様のことはキングと呼べ。畏怖と畏敬の念を込めてな」
「はぁ?王は僕にこそ相応しいだろ!」
「実戦のじの字も知らないひよっこがキングに相応しいだと!?面白い!
俺様を笑わせたことを褒めてやろう!はっはっはっ!」
「うわ!脳みそ筋肉で出来ているのか!?」
何だかんだ似ている気がする。
いや、実力で魅せようとするか、言いなりにしようとするかの違いか。
二人並んでいると印象がまるで正反対だ。
「……とりあえず、座っていただけなければ始まりませんよ」
「ああ、そうだな」
「お前が偉そうに指図するな」
嫌な物言いだがスプニールはスルーした。
これで新制麗王の面々が勢ぞろいした。
そして各々の後ろに前任者が立つ。
「ここは、前任で取り仕切っていた私が進めさせていただきます」
かくして、麗王の会議が始まる。




