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今なら

「これがあの日起きた事。あの女は知らぬ間にあの子に取り入って全てを蝕んだのよ」


貴族の感覚が解からないトウヤには恨まれて当然な気がした。


でもこれは何を大切にするかで変わることも知っている。


どちらにも肩入れしづらい話だった。


なのでトウヤは単純に疑問に思ったことをスプニールに聞いてみる。


「サラって言うのはもしかして……」


「ええ、現七剣徒(セプトレア)第一位、紅狐(べにぎつね)の君、サラバンド・ローザ様ね。

あの方はかなり下人嫌いで有名だけど、この事が原因だったのでしょうね」


「おぅふ……」


案の定、めんどくさそうな人の名前が出てきた。


「これから関わっていく人なのよ?そんなに顔に出さないの」


「関わるって……クソ親父が……」


「あら、親父って認めてるのね」


「そういうわけじゃない……」


オリエンは二人がキョウの話を楽しんでいるように感じた。


「あなた達、あの子が本当に――」


「あー、ヤバいのはよくわかりました」


トウヤはオリエンの言葉を遮った。


「そうね。完璧超人の話しか知らないから、そういう人だと思ってたけど……」


「ああ、すごく普通の人だ」


「普通!?」


オリエンはその言葉に驚いた。


そして一気に怒りが込み上げた。


「普通なわけがない!」


声を荒げて言ったが、トウヤもスプニールも少し冷ややかな目をしていることに気付いた。


「普通ですよ。確かに頭は切れるし魔法も強力だ。でもそれ以外は……なあ?」


「ええ、お母様の考えは昔ながらの貴族の考えです。現実があまり見えていないように見えます」


オリエンにとって非常識なトウヤが言うのはまだいい。


だが常識のある実の娘に言われるのにはショックだった。


「普通に人を好きになって、その人の為に頑張って、例え自分を騙しに来た人でも、

理由があるから惚れ込んだ。そしてその人の為に、やらなければやらないことをしている。

もちろん復讐なんてバカらしいけど、何も聞かずに一方的に切り捨てるよりは、

とても普通の人間らしい人だと思えますよ」


オリエンは何も言わずにスプニールを見た。


「お母様のはただの独裁です」


精神的に何かズシリときた。


「わ……私が間違っていたというの」


「わかりません。ただ、あの時、あの人の話をもう少し親身になって聞いていたら、

あの事件も起きませんでしたし、今のような状態にはならなかったと思います」


トウヤの言うことにオリエンはガクリと項垂れ、両手を地面に付き、一点を見つめていた。


スプニールは溜息を吐き、トウヤに言った。


「あなた、よくそんなことが言えるわね」


「何が?」


「そうなったから、あなたはここに居ないんじゃなくて?」


トウヤは言われて気付いた。


良かったと思える分岐点で、オリエンが思えない方を選んだからあの人が地球へ行き、

母親と出会い、トウヤが産まれた。


つまりトウヤが良かったと思える方を選んでいたら、トウヤは産まれることが無かった。


「た、確かにキツくは言えないな」


「そ、だから過去の話を選択をいつまでも気にする必要は無いわ。

大切なのは今、これからどうするか。そして何が起きるか予想することね」


過去はもう変えられない、だが未来はいくらでも変えられる。


キョウという相手を知ることで、次にどんな方法で攻めてくることが考えられるか。


どんな目的があるか考え、それに備えることが一番良い選択だ。


「うん、じゃあ次は麗王(れいおう)七剣徒(セプトレア)についてだな」


スプニールはニヤリと笑うとトウヤの方を向き、座り直した。


「いいわ、それらについては私から教えてあげる」


お願いします、と言いたいところだが、トウヤはふと疑問に思った。


「……スプニールは貴族教育をしっかり受けてるはずなのに、なぜ考え方が俺達寄りなんだ?」


その質問に驚きつつも、確かにと同意せざる得ない。


環境的にオリエンの影響を強く受け、考え方が似ていてもおかしくないはずだ。


なのに独裁者だと言えるほどオリエンの考え方に疑問符を持てる。


思い当たる節をあれこれ考えていると、ある人の顔が浮かんだ。


「お母様は叔父様に執着するあまり、娘の私にもあまり関心が無い。

だから影響は……お父様と侍女から受けていたのかしら?」


スプニールの父親は下級貴族で夫婦仲は完全に他人扱いだったようだ。


最初はキョウの子供を守らせるために積極的だったが、あの事件後、

オリエンは全て興味を失い、幼い娘を放置するほどだったらしい。


それを不憫に思った父親が引き取り育てたが、病気により早逝。


その後早逝前に頼んでいた侍女に長らく育てられたそうだ。


そのお陰で上級貴族以外の価値観を学んだらしい。


仮にスプニールがオリエンと同じだったらトウヤは既に死んでいただろう。


トウヤは顔も名前も知らないスプニールの父親と侍女に感謝した。


「……話を進めていいかしら?」


「ああ、すまない」


「現在七剣徒(セプトレア)は私と融雪季(ゆうせつき)の君が抜けて五人。

そのうち、君が知っている君影(きみかげ)の君を除くと……」


「さっき名前が出た第一位さんが、あの人の復讐の対象だろうね」


話しを聞いた限り、リリ本人を手にかけたのはサラ、

つまり第一位、紅狐(べにぎつね)の君、サラバンド・ローザだ。


ならばあの人が直接何かをすることが考えられる。


「そしてクラリスの話が事実なら、あの人は現幻(げんげん)の君って人を師匠と呼んでいたそうだよ」


「へぇ、それは初耳ね」


「つまりあの人と繋がりのある人がもう一人いるようだ。その人ってどんな人?」


「……その情報、いつ手に入れたの?」


「え?」


クラリスの話のことだろう。


初耳と言っていたので情報の信憑性を疑っているのだろう。


慎重な考えだ。


「えっと、少し前に……!?」


トウヤはミスに気付き、しまったと言いそうになった。


「少し前……少し前っていつ頃かしら?」


そう。その少し前というのが裏切ったタイミングだ。


それより前だと、クラリスはまだ麗王(れいおう)、そしてキョウの話をすると思えない。


キョウの話をするなら裏切り後だが、スプニール目線だと、裏切ってすぐに殺されている。


そしてクラリスは死んだら転生する仕組みを持っており、現在逃亡中だ。


つまり、クラリスと話す機会が無かったはず。


もちろんスプニール目線の話なので隠し事をしていなければの話だ。


その隠し事でトウヤはこの話を知った。


つまり麗王(れいおう)が追ってる人間とトウヤは話をしたととらえられる。


「え、えっと……少し前にアルカナフォートのマスター、

サブマスターさんとお茶会をした時に、その話を聞いたんだよ。

二人はクラリスとは旧知の仲らしいく、アルカナフォートの改革をその三人で

秘密裏に進めていたらしいから、身の上話をよくしてたんじゃない?」


「……へぇ」


嘘は言ってない。


確かにその二人とお茶会をしたし、その時にこれは聞いた。


嘘は言っていない。


全て言ってないだけだ。


「まあ、そういう事にしましょうか」


なんとかなったと、トウヤは胸を撫で下ろした。


「一応」


「ひっ!」


麗王(れいおう)の関係者であると言うことを忘れないでね。

でないと、あなたを殺すことになっちゃうから」


スプニールは気付いているのかいないのか判らない不敵な笑みでこちらを見ている。


「は、はい……」


自分の立場も環境も日に日に大きく変わっていく。


それを大きく自覚せねばと実感した。


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