壊れた関係2
サラに姉の婚約を見届けさせ数日。
未だにキョウは部屋から出てこなかった。
さすがに心配になり始めたが、サラが良い知らせを持ってきた。
「キョウ様が、キョウ様と話せました!」
「本当!?」
「連絡みたいなものですが、少しだけ話せました」
「なんて言ったの?」
「今、魔法の研究をしている。まだ部屋から出られない。と」
魔法研究はキョウの日課のようなもの。
昔から様々な魔法に興味を持っては引き籠って調べ尽くす。
いつもの姿に戻りつつある。
「もう、顔ぐらい見せてくれればいいのに……」
「はい……」
「これもサラが支えてくれたおかげね」
「い、いえ、私は何も……」
「これからもあの子を支えてあげてちょうだい」
「は……はい」
普段は凛とした姿のサラもこういう時はしおらしい。
本当にあの子のことを想っているようだ。
その姿が可愛らしいと思うと同時に仕事の内容に目を通した。
「さらに十二人、なのに痕跡すら辿れないなんて……」
行方不明者頻発のあの事件が解決の糸口すら掴めていない。
被害者の合計は三桁を超え、一族諸共消えた貴族もいる。
「まったく、下は何をやっているのかしら」
「す、すみません……」
オリエンはハッとした。
サラは七剣徒第二位。
基本的には麗王を守る立場になるが、他にも教誨師を指導する立場にもなる。
つまりその下と呼んだ連中の上司に当たる。
「ごめんなさい、失言だったわ」
「いえ、事実ですので……」
教誨師の道具に一つに過去を見る道具があったはずだ。
それを駆使して消息を追っているだろうがこの始末。
もしかしてこれを知っている人間の犯行?
丁寧に痕跡を消しているから追えない?
つまり犯人は身内?
なるほど、だから、か。
貴族内の、教誨師の道具に知見がある人間は限られる。
それだけ慎重にならなければならに相手かもしれないということだ。
サラも苦労が続いている。
今度、労いに何かしよう。
そしてその時くらいはキョウを部屋から連れ出そう。
オリエンは楽しみを増やし、機嫌良く仕事を進めた。
数日後
何度かの説得にてようやく弟は部屋から出た。
研究熱心なのはいいが、昔から夢中になると、それしかやらなくなる。
戦士として驚くほど効率よく仕事を消化するのに、研究ではそうもいかないらしい。
オリエンには理解の範疇を超えているが、弟でさえそうなのだからそういうものだと思っている。
「にぃにー、にぃにー」
「やあ、スプニール、随分と大きくなったね」
キョウは笑顔で頭を撫でるとスプニールは満面の笑みで喜んだ。
「もう二歳になるのだから、大きく感じるでしょうね。そしてその子は、あなた達の子の戦士になる子よ」
オリエンの夫は下級の貴族。
気が進まない婚約で産まれた子供なのだから、普通の王の子供よりはるかに劣る。
だからこそ自分の娘は王を継げない。
いや、王を継ぐのは弟だから弟の子を守れればそれでいい。
王の血を継ぎ、優秀で、魔法の力は歴代最強にまでなった弟と、
王の直系親族であり、同じく優秀で、魔法の力は弟の時点につくサラ。
その二人の子供が優秀で最強でないわけがない。
そしてそれがネリウムを最高の地位にまで引き上げる。
それが楽しみで仕方ない。
「ま、まだ気が早いですよ……」
サラが照れながら言う。
「そうですよ、姉上。思い込みで気を早らせるのは気をつけてくださいと何度も言っているでしょう」
「ごめんなさい、でも私の目に狂いは無いわ。キョウが王達を導き、サラがそれを支える。
そしてそれは二人の子へと受け継がれ、確固たる地位となるのは間違いないわ」
「またですか。変わりませんね」
「ええ、私はあなたが幸せになれるよう、最善な道を選ぶことは変わらないわ」
キョウはやれやれと肩をすくめた。
そしてつつがなく食事会が進み、終えたことにオリエンは満足した。
そしてその頃、サラはキョウの異変に気付いた。
いや違和感と言った方が良いだろう。
キョウはサラとオリエンの話を半分聞き流しているように感じた。
いつもなら真っ直ぐこちらを見て話してくれるのに、ここで目が合った気がしない。
いや、自分が照れて真面に見れなかっただけかもしれない。
何年も前から憧れた人で、いつしかこの人を守ることを選んでいた。
多くの女から迫られ、困っていた彼を助け、守り、彼の幸せを誰よりも願った。
それと同時に隣に立ち、いつでも守れるよう魔法の技術も磨き、七剣徒第一位まで登りつめた。
そしてその地位を彼に奪われると、全て彼に奪われた気分になった。
「ああ、私はこの人の為に生きていくんだ」
そう強く確信してしまうほどに。
そして幸運なことに彼の姉から婚約の話を持ちかけられた。
五つも年上の女にと思ったが、これまでの行いが彼の姉には好印象で、
私になら構わないとまで言ってくれたことは最高の幸せだった。
だがそれと同時に不安を感じている。
私には彼の考えが理解出来ない。
いや、彼自身、私に興味を持っていない。
だから私が理解しようがしまいがどちらでもいい。
そう感じることが増えた。
彼に近づけば近づくほど、真っ暗闇になっていき何も見えなくなる気がしている。
まるで迷路に迷い込んだかのような感じ。
……これが婚前鬱というやつか?
きっとそうだ。
偉大な彼との婚約に弱気になっているだけだ。
いつも通りにしたらいい。
数多の敵を薙ぎ払った自分の力を信じること。
自分の信じた物を信じ抜くこと。
常に気を強く持ち、彼を最優先に考え、彼を支える事。
長年の想いが実ったのだ。
ここからが本当の勝負時。
これからだ。
本当の幸せがこの先に待っている。
サラは自分を自分で鼓舞し、気持ちを切り替えた。




