壊れた関係
「きゃああああ!!」
リリの絶叫が心地よかった。
そう、当然の報いだ。
弟を誑かし、ネリウムを乗っ取ろうとした愚かな下人の最後として相応しい。
サラも相当怒っているようで、瞬殺できるところをあえて手加減しているようだ。
「あ゛つ゛い゛、た゛す゛け゛て゛キ゛ョ゛ウ゛く゛ん゛」
手を伸ばしながら助けを求めるリリに怒りが込み上げた。
「お前があの子を呼ぶな!!」
オリエンの叫びと同時にサラは伸ばした手をさらに燃やした。
ほぼ表面のみ燃やしていた体と違い、手は中まで燃やしたので簡単に崩れていった。
「リリ!!」
オリエンが町中に張り巡らせた魔力の網で、何もせずにいるなら気取られる心配はなかった。
だがサラが異能を使えば弟に見つかる。
当然、それは理解していた。
なのでこの場で弟と出くわすことも理解していた。
「ああ、キョウ、私の――」
キョウはオリエンにもサラにも目もくれずリリの元へ向かった。
その行為にサラは思わず火を消した。
キョウを燃やすわけにはいかない。
当然の行為だ。
だが何よりもショックを受けたのは、姉を差し置いてこの女の元へ向かったことだ。
(姉よりも、家族よりも大事だと言うの?その女が誰よりも大切だというの?)
オリエンはショックのあまり立ち尽くしてしまった。
「キ゛ョ゛ウ゛……く゛ん゛……」
リリは辛うじて意識があるが……
「と゛こ゛……と゛こ゛に゛い゛る゛の゛……?」
「ここだ、ここに居る!」
体が燃えたリリをキョウは抱きしめた。
「キ゛ョ゛ウ゛く゛ん゛……こ゛め゛ん゛ね゛……」
「謝るのは俺の方だ」
「と゛こ゛に゛い゛る゛の゛……こ゛め゛ん゛……」
目も見えず、体の感覚も失ったリリはキョウを探しながら謝った。
「リリ、俺は……」
「キ゛ョ゛ウ゛……く゛……」
キョウを探し続けたリリはもう話さなくなった。
「……リリ……リリ……」
すすり泣くような声を出すキョウにオリエンは近づいた。
「キョウ、その女はあなたを騙していたのよ?父親と一緒に乗っ取るつもりでいたのよ」
オリエンは自身の異能で見聞きした記録をキョウに見せた。
リリと父親の会話、キョウを誑かし掌握しようと画策した計画を。
「……わかったよ、麗王に戻るよ……」
キョウはポツリと告げた。
そしてその言葉にオリエンは歓喜した。
「ええ!ええ、そうよ!あなたには相応しい場所、相応しい相手がいるのよ!」
あまりの嬉しさにガッツポーズまでしてしまった。
「おめでとうございます、お……お義姉様……」
「ええ、ええ!少しづつ慣れていけばいいわ!」
照れくさそうに笑うサラをオリエンは抱きしめた。
「……姉上……少しだけ時間をください……」
「え!?」
喜びに水を差すようにキョウが言った。
「……仮にも……子供を失ったんです……」
その言葉にハッと気づいた。
確かに気持ちはわからなくはない。
半分とはいえ、弟の血を分けた子だ。
「下賤な子とはいえあなたの子供には間違いないわ。心の整理をつけてらっしゃい」
オリエンは優しく微笑んだ。
そんな子供にも優しくするとは、心優しい弟だと思った。
そして少し時間を置いた。
その間弟は、リリとその父親を一緒に埋葬し手を合わせていた。
「騙そうとした女なのに親と一緒に葬るなんて、なんて優しいのかしら」
遠目で見守っていたオリエンはウットリとしていた。
「サラ」
「はい」
「優しいあの子のことだから、この後も心の整理が必要になるわ。
あなたがあの子を支えなさい。これはあなたが最良のパートナーであることを、
あの狐親父に見せつけるいい機会になるわ」
「はい。必ずあのお方の、いえ、キョウ様の心を癒し、支えると誓います」
サラは片膝をつき頭を下げ宣誓した。
「ええ、期待しているわ」
オリエンは確信していた。
これでネリウムは安泰。
あの弟が帰ってきたのなら何も心配はない。
野心家の狐親父も、最近力を付けてきたあの男も、弟の前では無力も同然。
「あは、あはははは。今日は気分が良いわ。サラ、この後付き合いなさい。
今後のネリウムの安泰と義妹になるあなたの未来を祝って酌み交わしましょう」
「はい!よろこんで!」
この時のオリエンはとても浮かれていた。
婚約した時よりも、子を産んだ時よりも、今この瞬間が人生の最高の時。
そう感じていた。
慢心していた。
確信していた。
疑う事すらしなかった。
だからこそ気付かなかった。
怒り。
苦しみ。
恨み。
弟の中にどす黒く大きな悪魔が住み着いた事を。
そしてその矛先が実姉、オリエンに向いていたことを。
あれから数日、弟は部屋に籠りきりになっていた。
よほどショックだったのだろう。
まだ心の整理がつかず、不安定なのだろう。
サラも献身的に支えようとしているが、弟は拒み続けた。
「申し訳ありません、私が未熟なばかりに……」
「部屋にすら入れないのだから仕方ないわ」
ここ数日、一気に忙しくなった。
いや半分は自分の責任だ。
キョウとサラの婚約を進めるためにまた、あの狐親父に頭を下げ続けている。
サラ自身も狐親父の説得、オリエンの補佐、キョウへの献身。
それに彼女の姉にも婚約の話が進んでいる。
それに奇妙な事件も起こり始めた。
「数日で二十人。やはり誰かが狙っているのでしょうね」
上級貴族を中心に行方不明者が頻発していた。
「サラも気をつけなさい、婚約前に何かあったら大変だわ」
「はい。私なら相手を燃やし尽くしますので安心してください」
「ふふっ、さすが第二位は頼もしいわね。でも無理は禁物よ」
多忙なのはオリエンから見ても明確だ。
「しばらくの間は私の補佐は後回しで構わないわ」
「で、でも……」
「あなたの今すべき仕事は、姉の婚約を幸せなものにすること、それとキョウを支える事よ」
「は、はい。ありがとうございます」
と言ってもキョウは部屋に籠りっきりなので、サラの姉の婚約を見届けるのが主になる。
(ええ、もう少し待ちましょう。あの子ならしっかりと整理をつけて戻ってくるわ)
だがオリエンはキョウの気持ちを全く理解していなかったと後悔することになる。




